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94.ガルガマル?

 一方。

 南レリーアでは、和哉が離脱した後、ますます巨大鋼鉄巨人の攻撃が激化していた。

 神官と魔術師達が物理防御魔法を掛け続けどうにか凌いでいるが、外郭壁はあちこち破壊され、穴が空いている。

 3体のうち、先頭で郭璧を破壊していた1体は、各冒険者パーティーと傭兵騎士団の攻撃で、やっと動きを止めた。

 だが、まだ2体が暴れている。

 さらに巨人の破壊した穴から小物のモンスターが続々と入り込み、冒険者達と傭兵騎士団はそれらを狩るのに奮闘していた。


「ジンっ!!」


 外郭壁の、まだ壊されていない一角から、エルウィンディアの背に乗ったジンに声を掛けて来たのは、グレイレッド王弟殿下付きの傭兵騎士となったルースである。


「そのデカブツ、いつまで暴れさせとく積もりだっ!? さっさと片付けろって、カズヤに言えっ!!」


「カズヤは出張中」


 普段と変わらぬ調子で答えたジンに、ルースは、「何だってっ!?」と目を剥いた。


「この大事な時にっ、戦場から逃げ出すったあ、いい度胸だあの小僧っ!!」


 ちっ、と舌を打って、ルースは外郭壁の上から降りる。

 その背を、ジンが呼び止めた。


「冒険者と傭兵騎士で、なるべく鋼鉄巨人から小物のモンスターを離しておいて」


「……何を、する気だ?」ルースが振り向いた。


「これから大きな技を掛ける。周囲に冒険者達が居たら危険だし。小物が多いと大物を確実に仕留められない」


 ジンの言い分に、ルースは少し眉を顰めたが、分かった、というふうに、黙って腕をガッツポーズの形に挙げた。

 ルースが外郭壁から離れるのを見送って、ジンは、エルウィンディアと平行して飛ぶブランシュに騎乗したガートルード卿に言った。


「2体同時にブランシュの《吹雪》で凍らせられますか?」


「……やれない事も無いが。ただ、あの巨体だ、掛かってもすぐに溶けてしまう可能性が高いが」


「それで構いません。——要は、あいつの耐久性を少しでも削ることだから」


『ねえ』と、エルウィンディアが訊いて来た。


『炎を浴びせるんじゃあなくって、冷凍して、あいつらって少しは劣化する?』


「鉱物は急激な温度の変化に弱い。その後で炎の魔法を掛ければ、劣化は更に進む」


『てことは、ブランシュが凍らせた後であたしが炎のブレスを浴びせればいいわけ?』


「ふむ。なるほど」とガートルード卿。


 だが、ジンは否定した。


「違う。ブランシュの《吹雪》の後にすぐにカタリナに炎の魔法を連発してもらう。エルウィンディアは、風と水のドラゴンでしょう。雷の精霊を召還出来るはず」


『あ、そっち?』エルウィンディアの優美な長い首が、くるりと自分の背へ向けられた。


『あたしが雷精霊を召還すると、飛んでもなく来るけど、いい?』


 ジンは即座に頷く。エルウィンディアは『んじゃ、オッケー』と楽しそうに言った。


「じゃあ、手順は、ブランシュにまず奴らを凍らせてもらって、次にあたしが炎の魔法でヤツらを高温にする。で、最後にエルウィンディアに雷をぶっつけてもらう。——で、いいのかえ?」


「それでお願い」確認したカタリナに、ジンが返した。


「ではまず、私だな」


 ガートルード卿は、ブランシュに命じて鋼鉄巨人の真正面まで急降下する。

 突然目の前に下りて来た大きな敵に、鋼鉄巨人2体は自動的に寄って来た。

 ある程度間合いが詰まったところで、ブランシュが《吹雪》のブレスを放った。

 2体の鋼鉄巨人は同時に凍り付く、が予想通り、すぐに氷が割れて動き出した。

 

 見越していたガートルード卿は、ブレスが終わるや、ブランシュを離脱させていたため、巨人のばかでかい戦斧の餌食にはならなかった。

 巨人が動き出したのを見て、カタリナが炎の魔法を放った。

 10発のファイヤー・ボムが次々と炸裂。2体の巨人の動きを止める。

 黒鉄の地肌が、氷と猛烈な炎の爆裂によってやや灰色がかって来る。


 カタリナのファイヤー・ボムが盛大に爆発している最中に、エルウィンディアが雷の精霊を召還した。

 本人の申告通り、瞬く間に夥しい雷の精霊が上空に集まり、濃い黒雲を作る。

 カタリナのボムが終わるか終わらないかのタイミングで、太く切り立った閃光が、数10本、鋼鉄巨人に突き刺さった。


 鉄製のゴーレムは雷にめっぽう弱い。

 関節の繋ぎ目や頭と首の間から、炎と稲妻によって焼かれた煙が微かだが上がる。

 動きも鈍くなった。


「レベル15300。……これならいける」


 ジンはエルウィンディアに自分を外郭壁に降ろしてくれと頼む。


『大丈夫っ!? ヤツらの真正面になっちゃうよっ!?』


 心配するドラゴンの少女に、神官戦士の少女は「大丈夫」と、まるで人形のように無表情で頷いた。


 外郭壁に降ろしてもらうと、ジンは仲間や周囲の人々に聞こえるほど大きな声で言った。


「これから大技を使うっ!! 放つのは初めてなので、鞭が何処へ行くか分からない。みんな、なるべくこの場から、離れてっ!!」


 小物のモンスターを倒していた傭兵達も、警告に慌てて外郭壁から離れるのを横目で見届け、ジンは神聖魔法の詠唱に入った。


『この世界を統べる神、その神の最上級の御使いにして最強の御使い、月天使よ、我に御身の御力を貸し与えたまえ——』


 ジンは、両腕を前へ伸ばすと、巻いていたミスリル合金鞭を全て解いた。

 

『——月輪斬(ムーンループ・キル)


 ジンの身体が白く光り出す。同時に、解いた鞭が、くるくると大きな輪を描き始める。

 ジンの光は鞭に伝わり、鞭は先端まで白く輝く。

 輪の動きはどんどんと速くなっていった。


 遅い動きではあるが、確実に戦斧を振り上げジンの立っている外郭壁を、今にも打ち壊そうとしていた鋼鉄巨人2体に対し、鞭が高速回転をしながら伸びて行く。

 さながら、ドリルのような動きで先端が鋼鉄巨人の胴の中央に食い込んだ。


 ギュルギュルッ、という、金属同士が擦れて切り裂き合う音が大きく響く。


 硬い鋼鉄巨人の胴体が、ジンの鞭の動きを鈍らせる。魔力を更に注がなければ鞭が食い込んだまま引き摺られてしまう。

 ジンは、己のありったけの(まりょく)を振り絞り、鋼鉄巨人の身体を引き裂いていく。

 鋼鉄のゴーレムを睨付ける黄銅(ブラス)の瞳が、僅かに細められる。

 ミスリル鞭と鋼鉄巨人の身体から、火花と、灰色の煙が上がり始める。


「ご免っ!!」


 それまでエルウィンディアの背に乗って、味方の攻撃を見守っていたコハルが、唐突に飛び降りた。


『なっ!? なにしてんのおっ!?』


 エルウィンディアはコハルを救おうと急降下する。

 と、カタリナが「いいからっ!! やらせておやりなっ!!」とドラゴンの少女を制した。


 でも、とエルウィンディアが言い掛けた時。

 コハルが左の1体の頭上に下りた。素早く何かを貼り付けると、回転するジンの鞭を器用に避けながら、もう1体の頭へと飛び移った。

 右側の鋼鉄巨人の頭上にも何かを貼り付け、コハルは飛び降りる。はるか下の暗闇の地面に、身体を転がすようにして着地した。


 コハルが地面に着くや否や。

 鋼鉄巨人の頭上で激しい爆発が起こった。

 先にコハルが貼った左の頭部が、激しい音と共に爆ぜる。続いて、右側の巨人の頭も吹っ飛んだ。

 もうもうたる煙を、エルウィンディアが翼で払う。

 現れた鋼鉄巨人は、2体とも頭部の半分以上がめちゃめちゃに破壊されていた。


 程なく。

 ジンの鞭の回転が一段と速くなった。

 金属を削るけたたましい音が徐々に高音域へと移行していき、最後はびいんっ、という、弾ける音がして止まった。

 鋼鉄巨人は既に動きを止めていた。

 頭を壊され、無惨な体になった巨大ゴーレムは、次の瞬間、2体同時にその場に崩れた。 

 轟音を立てて、地に潰れるように崩れた鋼鉄巨人の胴体には、ジンがミスリル鞭で削った大穴が空いていた。


「凄ーいっ!!」


 人間型に戻ったエルウィンディアが、地面にめり込むように倒れている鋼鉄巨人に近付く。

 魔法生命体の鋼鉄巨人に痛みは無い。

 身体の真ん中に大穴を空けられてもなお前進しようと、戦斧を地に突き立てて立ち上がろうともがいている。


「まだ動いてるっ!!」


 エルウィンディアの指摘に、ジンは、「関節部分を、壊して」と言った。


 大技を使って魔力の大半を出し切ったジンは、外郭壁の上で、肩で息をしていた。

 そんな状態でも、気丈にもう一度ミスリル鞭を振ろうとするのを、コハルが止める。


「無茶ですっ。ジンさまは、ひとまずここでお待ち下さいっ」


「でも、まだ、ヤツは動く——」


「大丈夫です。エルウィンディアさまとガートルード卿が、ご指示通り鋼鉄巨人の関節部分の破壊を始めました」


 コハルの言った通り、剣豪のガートルード卿と竜の少女は、方や見事な太刀筋と、対照的に人ではないバカ力で、あっという間に2体の鋼鉄巨人の動きを止めた。


「片付いたなっ!!」


 ルースが、外郭壁の隙間からひょこっと現れた。


「そっちはどーなんだわさ?」コハルと共にジンの側に居たカタリナが、下方に顔を出した傭兵騎士に訊いた。


「外郭壁より中へ入って来たヤツらは、あたしらで粗方片付けた。外へ逃げてったモンスターまでは手が回らなかったけどね」


「じゃ、まだ、全部済んじゃいないんだー」エルウィンディアがぷうっ、と頬を膨らませる。


「数が多過ぎる」とジン。


「取り敢えず、これで朝までモンスターが攻め返して来なければいい」


「そうさね。これ以上は、こっちももたないんだわさ」カタリナがやれやれ、と首を振る。

「カズヤ達が、こいつらを動かしていたらしい魔族を始末してくれれば、多分、モンスターの攻撃が止まる筈だ」


 ガートルード卿が、剣を鞘に納めながら、斬った鋼鉄巨人を振り返った。


「……動かないとこみると、カズヤが、ガ……、ガマガエル? じゃない、ガルガマル、だっけ? そいつを倒してくれたんじゃない?」


 明かり球の下で、鋼鉄巨人の巨大な指先を足でつついているエルウィンディアに、ジンが静かに訂正した。


「ガルガロン」


 見る間に、竜の少女は真っ赤になる。


「しっ……、知ってるわよっ。わざと間違えたのっ!!」


 負けん気でジンに言い返したエルウィンデイァに、ジンを除いた女性陣皆が苦笑した。


「とにかく、連係プレーで方がついてよかったな」


 ガートルード卿の感想に、笑っていた女性陣に加え、ジンもエルウィンディアも頷いた。

遅くなりました〜〜

やっとこさ94話目、上がりました。

でもまだ、ガマとの戦いが続く・・・(汗)


え〜〜

止まっていました他の作品もちょびちょび書き出しておりまして。

そのせいで、またカメがナメクジかスライムの速度の更新になるやもしれませんが(汗)

なるべく頑張りますので、どうかお待ち下さいましm(__)m

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