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92.カエル

 凄まじい爆裂音と同時に、祠を形成していた岩が破片となり和哉達を襲う。

 クラリスが詠唱無しで全員に物理防御魔法を掛けた。

 細かな石まで弾く魔法の膜があるのに、それでも反射的に腕で頭を覆ってしまう。


 ばらばらと石が落下する音に混じり、やや高めの男の声が闇に響いた。


「また私に殺されに来たか。恐れを知らぬ馬鹿な人間共よ」


 大仰なメリハリをつけた、芝居掛かった言い回しに、ロバートがぶっ、と吹き出した。


「かっ……、顔は見えねえけど、何処の三文劇場の俳優(アクター)だよ?」


 物理防御魔法が切れる。と、オーガストが火精(ピュラリス)に火を吐くよう命じた。

 火精は、小さな火炎を4、5個吐き出す。

 稲妻によって破壊された祠が、赤い火の球によって闇に浮かび上がった。


 完全に崩壊した祠の中央に、ガルガロンと思われる男が浮いていた。


 浮いていた、とは、文字通り、瓦礫に乗っかっているのではなく、僅かに砕けた石の群れから靴裏は離れているのだ。

 ガルガロンの姿が見えた途端、ロバートは今度こそ大爆笑した。


「おっ……、おまっ、シェークスピアかよっ!!」


 確かに、と和哉も思った。

 緋色の膝丈のコートに、ピラピラレースをふんだんに付けた白のブラウス、コートと同色の膝丈ズボンに白タイツ。おまけに靴は、革制で結構な高さのヒールである。

 極めつけは、銀髪のクルクルパーマのカツラだ。

 ものの見事な、中世ヨーロッパのお貴族様スタイルである。


 クラリスが言った通り、中々の美男子ではあるのだが、この格好は一体どうしたものだろう。


 ロバートほど大笑いはしていないものの、完全に顔が笑っているデュエルが、「その格好、確か旧シードル国の貴族の衣装、だよな?」


「……亜人が知っていて、人間が知らぬとは、何とも情けない話だ。美的感覚を大いに疑うな」


 鼻を鳴らしたガルガロンに、大賢者が一言。


「時代遅れじゃて。今はそんなゴテゴテした服を着てる者はおらん」


「何たる事だ!! この美が今は廃れているというのかっ!?」


 噛み付きそうな勢いで、ガルガロンが怒鳴る。


「見ればおまえ達の装いは、甚だみすぼらしくて私の美的感覚にはほど遠い。現世は、そのような輩ばかりなのか!?」


「戦闘用の鎧にピラピラくっつけるアホが何処に居るよ?」笑いが収まらないまま、ロバートが突っ込む。


「どうでもいいけど」オーガストが声を張り上げた。


「俺ら、こいつを封印し直しに来たんだろーが。なに一緒にコント続けてんだよ」


「たっ、確かに」


 火竜の、氷点下に冷め切った声音の忠告に、和哉もクラリスもデュエルもロバートも、揃ってこくこくと首を振った。


「ほう? 私を封印し直す、だと?」浮いたままの銀髪カツラ魔族は、クルクルパーマの長い毛をふさあっ、とわざとらしく搔き上げた。


 魔物の動作に、瞬間、和哉は目の前に花びらが舞ったような錯覚を覚える。

 が、錯覚はすぐに消えた。


「ふん。やはりレディでなければ、私の魅力には惑わされないか」

 

 今のが魅了(チャーム)の魔法だったのか、と、和哉は半ば感心し、半ば掛かってしまった自分を情けなく思う。


「それはそうと」ガルガロンは一変して、悪辣な魔族の本性を剥き出しにした嗤いを、美貌に貼り付ける。


「封印具が無いのに、どうやって私を封じようというのだ?」


「封印具って、なんすか?」和哉はクラリスを見る。


「魔族を封じておくための、魔法具じゃ。大概は、その魔族の苦手とするものを象るか、そのものを直接魔法具にして封じた上か周囲に配置する」


「カエルの天敵っつったら、なんだっけ?」


 ロバートの呟きに、オーガストが「蛇」と答えた。

 

 オーガストの言葉に、和哉ははっとした。

 ジャララバ達死人使いがロー族の砦跡への道に埋めていたグリーンドラゴンの亡骸は、もしかしたらガルガロンの封印具だったのではないのか?


 ——竜も、蛇に似てるっちゃあそうだもんな。


 ということは、今、ガルガロンが一番怖い相手は、オーガストということになる。

 和哉は、カマを掛けてみる。


「上位魔族っていう割に、ちっとも仕掛けて来ないとこみると、ほんとは俺らが怖いんだろう? 封印具なんて無くったって、おまえを倒せるヤツが、俺らの中に居るから」


 途端。ガルガロンはガマガエルそのもののと言ってもいいような、下卑た笑い声を上げた。


「おまえ達を、私が怖がるって? 何をどう考えたらそんなバカげた話になるのかな?」


 仰け反って笑う魔族に、和哉は内心で「当たりだ」と呟いた。


「……怖くないっていうんなら、下りて来いっ!! でないと、こっちから行くぞっ!!」


「どうぞ。威勢のいい坊や」


 和哉はアマノハバキリを抜いた。

 青く光る刀身を見て、ガルガロンの表情が変わる。


「それは……っ!! オオミジマの『神器』ではないかっ!! どうしておまえのような子供がっ!?」


「これでも17だっつのっ。俺は『神器』の主なんだよっ」


「……くそっ」


 和哉が青眼に構えると、アマノハバキリの光が一層強くなる。切っ先から、ガルガロン目掛けて光が走る。

 寸前、魔族は本体に戻って真竜(リアディウス)の魔力を回避した。


 それまでの美男子とは打って変わった醜いイボだらけの巨大な茶色い魔物が、和哉達の頭上を、大ジャンプで超えた。

 アマノハバキリの閃光は、ガルガロンが居た場所に当たる。すると、上を覆っていた闇が消えた。

 どうやら、慌てて本体に戻ったため、術の効果が途切れたようだ。


『成体にもなっていない竜一匹なら、どうということはないと思っていたが』


 和哉達に向き直ったガルガロンが、口惜しげに吐き捨てる。


『真竜が居るのでは厄介だ。——こうなったら、おまえ達を一挙に屠ってくれるっ』


 本気になった上位魔族が、おぞましい雄叫びを上げる。

 モンスターの咆哮には、人間の覇気を萎縮させる魔力があるが、生憎、和哉達は揃ってレベルが高いため、誰もビビらない。

 予想していてたのか、ガルガロンは咆哮しながら喉袋を膨らませていた。


「いかんっ!! 毒を吐くぞっ!!」


 巨大ガマガエルが、上を向き、盛大に毒を吐き出す。

 間欠泉の如く、幾度も高く噴射する毒液を、ロバート、デュエル、クラリスが退避する。

 3人が居た場所は、地面がドロドロに解けている。


「うえーっ、アブないヤツっ」ロバートが、額の汗を手の甲で拭う。


「冗談じゃねえなっ」デュエルも真顔で言った。

 

 仲間が上位魔族の猛毒に驚いている中、レベルが上がったせいか、ほとんどの毒は効かなくなった和哉は、平然とアマノハバキリを下げたまま、毒の雨を浴びつつガルガロンに走り寄った。


『貴様っ!? 毒が効かぬのかっ!?』


「生憎と。俺も毒持ちなんで」平然と答えながら、和哉は、明らかに驚愕に一瞬動作の遅れたガルガロンの巨大な右前足を斬り付ける。


『グエエエェ!!』


 本来は水を司る神竜の巨大な力が、大ガマカエルの足を、紙でも切るように容易く切断する。

 そこへ、オーガストが急降下して来た。


『このまま燃やすか? それとも、喰ってしまっていいか?』


「食べちまっていいんじゃない?」真竜の意を受けていた和哉は、オーガストに軽く返した。


 赤い竜は、金色の縦虹彩を一瞬細めると、鋭い足の鉤爪で、ガルガロンの胴体を掴んだ。

『グエッ!! おのれ——!!』


 ガルガロンは、斬られて動かない右前足を庇うようにしながら、後肢で思い切り地を蹴った。

 敵の決死の反撃に、オーガストの鉤爪が外れる。

 ガルガロンは人型に戻ると、オーガストに向けて毒を噴射した。

 オーガストは寸でで上昇し、毒を避ける。

 和哉は、ガルガロンがオーガストに気を取られている隙に、《両生類の大ジャンプ》で間合いを一気に詰めた。


「な……っ!?」いきなり顔前に接近して来た和哉に、クルクルパーマカツラの上位魔族は縦虹彩の濁った赤目を大きく見開く。


「これはっ、やりたくなかったんだけどさっ」


 恐らく、ドラゴンの強靭な鉤爪すら振り解く力を持つ魔物なら、ひと太刀で殺すのは無理だろう。

 見れば、人型に戻ったことで、和哉が斬り落とした右前足——右腕も、既に元通りに再生している。

 と、すれば。


「俺が、《たべ》る!!」


 和哉は、自分と宣人だけが使える絶対的チートアビリティを、進んで使用するのを宣言した。


 ——ガマガエルなんか、ほんとは喰いたかないけどっ。


 それ以外、今はガルガロンを捕まえる方法が無い。

 驚愕の呪縛から解けた魔物が飛び退ろうと動くのと同時に、和哉はアマノハバキリを一閃、横に薙いだ。

 ガルガロンの美麗な頭部と胴体が、見事に首の付け根から切り放される。


「すげえぞっ!!」デュエルが歓喜の声を上げる。


「首と胴がさよならしちまったら、いくら上位魔族でもジ・エンドだろうがっ」


 ロバートも、勝ったと拳を上げる。

 だが、敵の実力を甘く見ないクラリスは、和哉に「早くせいっ!!」と怒鳴った。


「分かってるっ」と返し、和哉は、まず胴体のほうから《たべ》た。


 気持ち悪いのを我慢して死体を片手で持ち上げ、斬った首の部分に口をつける。

 モンスター独特の、黒い血の猛烈な生臭さを堪え、一気に吸い込んだ。 

 ずるん、と、和哉の身体の中に死体が収まる。


 吐き気と悪寒を堪えるため、口を手で押さえた直後。


「なんだっ!?」


「げっ!! 頭のほうから胴体が生え始めてるぜっ」


 ロバートとデュエルが、同時に声を裏返して叫んだ。

 やはり、ガルガロンは一部分でも身体が残っていれば、再生する強靭な魔物なのだ。

 それだけ、魔力が高いという証でもある。


「カズヤっ!! 間に合わんぞいっ!!」クラリスの怒声を受け、和哉がガルガロンの頭部を振り返った時。


 上から下りて来たオーガストが、竜体の大きな口を開けて、ばくん、とガルガロンを飲み込んだ。

 身体が生えかけていたガルガロンは、『グウエェェェ!!』という、聞くに堪えない悲鳴を上げて、ドラゴンに咀嚼され果てた。


「助かった。サンキュ、オーガスト」和哉は額の汗を革の篭手で拭いつつ、オーガストに礼を言った。


 当のオーガストは。


『……不味い』


 苦い漢方薬でも飲んだような顔をしている火竜の一言に、同じ思いをした和哉以外の仲

間達が笑い転げた。

えと、カエルの魔族です。

一応、強いので毒吐きます。

でも、和哉には効きません。

和哉、《たべ》ちゃいました。←うええっ

で……?

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