表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/114

91.リガル海の祠

 クラリスは、白大鷲を南レリーアから南東へと旋回させた。

 デュエルとロバートを乗せたオーガストが、鷲に付いて来る。


「何処へ行くんっすか!?」和哉はフードを被り直した大賢者に訊いた。


「リガル海じゃ。海というても、海岸近くに出来た、汽水湖じゃが。その真ん中に結構な大きさの島があっての、島の中心に、ガルガロンが封印されておった祠があるんじゃ」


「ガルガロンが封印されたのって、いつ頃なんすか?」


「魔族との戦争の頃というから、500年前の筈なんじゃが……。完全に封じられているのかどうか。もし、シードル国が滅びたのに本当にヤツが関与しておるのならば、とっくに封印は解かれておることになる」


 それはそうだ。

 シードル国が、操っていた亜人に反旗を翻されたのは、今から100年前、という話だ。

 イトール国王の魔族の封印解放は、500年と少し前。


「ん? でも、もし100年前に封印が解かれていたんなら、なんで今まで何もしなかったんすかね?」


 シードル国を滅ぼしたのがガルガロンならば、その強大な魔力でダルトレッドやサーベイヤも壊滅させられてもおかしくなかっただろう。


「わからん」とクラリス。


「じゃが、わしが思うに、誰かが一度封印を解き、また封印し直した、という可能性もある。そんな真似が出来るのは、旅の賢者くらいじゃと踏んでおるがの」


「じゃ、旅の賢者がダルトレッド国を救うために、ガルガロンの封印を一度解いて、亜人を魔物使いから解放して、用が済んだらまた封印したってことすか?」


 急に、上空の風が強まった。

 大鷲は、下降気流に持って行かれないように、上手く翼を捻る。

 慣れた体で大鷲の動きに合わせるクラリスとは違い、和哉は、ドラゴンとは違う羽ばたきに慌てて羽根にしがみついてしまった。

 風が大きかったのでオーガストは大丈夫か? と和哉は後ろを見た。

 鳥類とは全く違う理で空を飛ぶドラゴンは、どうやらあまり風の影響は受けないようだった。


「さて。ちょいとズルをするぞい」


 クラリスは白鷲を地上に降りるよう誘導する。

 

『何処へ降りるつもりだ?』


 下はサーベイヤ山地の森だ。夜間で見えにくいが、生い茂った木々が密生し、暗闇でなお暗い森の何処に、大鷲やドラゴンが着地出来る場所があるのか?

 オーガストの疑問は、和哉の疑問でもあった。

 だが。


「もうすぐ見えてくるわい」クラリスは取り合わず、どんどんと鷲を降下をさせる。


 と。山地の大森林の間に、ぽっかりと木々が無い場所が現れた。


「ロー族の砦跡じゃ」


「ええっ!?」和哉は慌ててもう一度下を見た。


「ロー族の砦って……、以前、ジャララバが根城に使ってた?」


「なにっ!? あのバケモンがこの砦にも巣食っとったのかっ!?」


 そう言えば、和哉がロー族の砦で宣人を取り返したのは、クラリスに出会う前だった。

 話せば長くなる。和哉は「そうっす」とだけ返した。


「うむむ、けしからん死人使い共じゃったの!! ロー族はその昔、この世界に初めて魔族が現れた時、神々の軍勢と共に戦った、聖戦士の一族じゃったのに」


「へええ? そうなんすか」


 和哉が驚きの声を上げたのと同時に、大鷲が、ロー族の砦跡の屋上に着陸した。

 遠目から見た時より、砦の屋上はかなりな広さだ。

 続いて舞い降りたオーガストも、屋上の広さに驚いている。


「話では聞いていたが、こんなに広い屋根を持っているとは、知らなかった」


 ロバートとデュエルを降ろし、人型になったオーガストは、くるり、と回って屋上全体を見渡した。


「では行くぞい」


 きょろきょろしている和哉達を置いて、クラリスはさっさと闇の中を歩いて行く。

 大賢者は、自身の頭の上に小さな明かりを乗せて歩いているので、それを追って、和哉達も移動した。


 水平の屋上の隅に、下へと通じる階段があった。

 クラリスは急ぎ足で階段を下りる。和哉達も、置いて行かれまいと、2、300年生きているにしては足の速いハーフ・エルフの大賢者の後に続く。

 二つ程踊り場を抜けたところで、大きな白い扉に突き当たった。


「ここが、ズルがある場所じゃ」


「……もしかして、魔法陣っすか?」ロバートが、恐る恐る、という体で訊く。


 クラリスは「分かっとるんなら、とっとと扉を開けんかっ」と、相変わらずのむくれ口調でロバートに命じた。


 ちぇっ、と、ロバートが小さく舌打ちしたのに、和哉は、怒られた子供がふて腐れているみたいに思え、吹き出しそうになる。

 ロバートは縦に長い取っ手を乱暴に掴み、力任せに押した。

 ぎいっ、という、古い蝶番の軋む音がして、扉が開く。


「ほいっ」と、クラリスが明かりの球を中へ二つ程投げ入れた。


「……古いけど、あんまり埃っぽくない」思わず感想を口に出した和哉に、大賢者は、

「ここの魔法陣は、最近でも割と使われておったからの。ここから南レリーアの神殿へも移動出来るんじゃ」


「あー!? だったら、オーガストに俺らを乗っけさせて飛ばせ無くったって、神殿の魔法陣使ってここまで来りゃよかったじゃねえっすかっ!! そのほうがぜんっぜん、速いってっ!!」


 扉の件でどやされた上に、まさかの魔法陣のカラクリを聞かされて、ロバートがクラリスに食って掛かる。


「ついでに言うならっ!! オオミジマからの帰りだって、この魔法陣を使えば南レリーアへひとっ飛びだったじゃあないっすかっ!!」


 クラリスは、明かり球でもはっきり分かる程、端正な顔を顰めた。


「ばっかもんがっ!! 人の話をようく聞かんかっ!! わしは、ここから、南レリーアの神殿へ飛べる、と言ったが、神殿からロー族の砦跡の魔法陣へ飛べる、とは言っとらんわっ!! ——おまけにっ!! オオミジマから南レリーアへ飛んでどうするんじゃ!? 戻るのはセント=メナレスじゃろうがっ!! この魔法陣では、セント=メナレスの王城にも大神殿にも戻れんわいっ!!」


 和哉は、あ、と思った。

 が、怒れるブリティッシュ・ライアンは、更に吼える。


「意味、わっかんねえってっそれっ!! 片方から行けるんなら、その魔法陣同士はおんなじ言語で書かれてんでしょーがっ!! だったら、飛べない訳ねえでしょーっ!?」


 ずいっ、と金髪を振り立ててクラリスに顔を近付けるロバートの腕を、和哉は「待てって」と引いた。


「一方通行。——そういう、ことですよね?」


「そうじゃ」クラリスが、長い白髪を振って頷く。


「なんだそれ?」ロバートが和哉を見る。


「だから、どうしてかは俺には分かんないけど……。一方通行なんだよ。神殿の魔法陣から、ここの魔法陣は『開けられ』ない」


「ここの魔法陣の一部は、神聖魔法で書かれておる。が、全部ではない。ので、向こうを開けるのは出来るが、南レリーアの神殿の魔法陣からこっちは開けられん。恐らく各々の魔法の独特の魔力波動が関与しておるのじゃろう。——と、そんな講義をしているヒマでは無いの。とにかく、この魔法陣を使って、リガル海のガルガロンの祠まで飛ぶぞい」


「それも、一方通行、なんすか?」


「そうじゃ」というクラリスの返答に、和哉は、この砦の魔法陣の役割をぼんやりと憶測した。


 ——いざという時のための、避難通路。


 多分、魔族とロー族の戦いは熾烈を極めたのだろう。神々か、ロー族の貴族か王族を逃すために、この魔法陣は作られたのか。


 考え事に没頭していた和哉を、クラリスが呼んだ。


「はよせいっ!! 出発するぞっ!!」


 和哉は慌てて、光り始めた魔法陣の中へ飛び込んだ。


 ******

 

 リガル海の小島の魔法陣は、祠から2m程離れた場所にあった。

 島には草木1本無く、暗闇の中、緩い波が岩を打つ音が小さく響く。


 明かり球に照らし出された祠は、高さ、幅とも1.5mほど。簡素な石造りの大きな箱、という感じである。

 クラリスは、ひとつの明かり球を引き寄せ、足下を照らしながら、祠へと近付く。

 和哉達も後に続いた。


「……開いては、ないみたいっすね」和哉が、クラリスの背後から祠の扉を覗いた。


「いや。こりゃ空いとるな。封印は解かれておる」


 と、断言されても。

 祠の正面の両開きの扉は、しっかりと閉じられている。おまけに、取っ手に魔法の封印らしい羊皮紙も貼られている。


「どう、見ても、開いてませんが……」和哉と同じ感想を持ったらしいデュエルが、遠慮がちに反論した。


「おまえさんらの目がフシアナなだけじゃわ。——気になってるのは、この封緘じゃろう?」


 言うなり、大賢者は羊皮紙をぴっ、と剥がしてしまった。


「わあっ!!」


「そっ、そんなことしたら、封印された魔族が……!!」


「何を慌てとる。こりゃ偽物じゃよ」


「え……?」クラリスに「ほい」と渡された羊皮紙を、和哉は明かり球の下でしげしげと見た。


 15㎝から20㎝ほど。ほぼ正方形の羊皮紙には、魔法陣と同じような、円の中に文字と文様がびっしりと描かれている。


「その魔法文字は、でたらめじゃよ。第一、文字色が赤じゃろうが」


「本当の封印は、赤じゃないんですか?」


「神や御使いの封印には、赤という色は使わん。まして、上位魔族を封印するのに、赤は効力が無い。金か銀が本物じゃ」


 大賢者の説明に、和哉は驚きと同時に危険を感じた。

 この封緘が偽であるなら、ガルガロンはとっくにこの祠から解放されていることになり……。

 

 何処にいるのだ?


 唐突に、クラリスが頭上の闇を見上げた。


「——星が、ひとつも見えん。どうやらガルガロンの罠に引っ掛かってしもうたようじゃ」

 和哉も上を見た。

 大賢者が言う通り、真っ黒な空が見えるだけだ。

 普通なら、たとえ闇夜であっても、目を凝らせば、星明かりや、その光に反射しうっすらと青い雲の塊などが見える。

 それらが全く、無い。


「《繭》の術か」


 オーガストが言った時。

 突如、頭上から太い稲妻が祠に落ちた。

やばい(__;;)

ここのところの暑さで、脳みそがほぼ機能停止状態に。

ただでさえカメなのに、これ以上遅くなるのは・・・(ごにょ)

何とか、がんばりますー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ