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89.魔力と魔法陣

 宣人とクラリスをオオミジマに残し、和哉達はサーベイヤ王国の王都セント=メナレスに戻ることとなった。

 コハルは、引き続き『神器』の見張り番という名目で、和哉達に同行した。


 オオミジマに来た時と同じように、和哉はエルウィンディアに騎乗し、ロバートやカタリナ達はテントに入り、オーガストに運んでもらった。

 テントの中を改装する術は、クラリスがカタリナに伝授した。

 カタリナは教わった術に自分なりのアレンジを加えたので、出来上がったテントの中は、まるでインドの大金持ちの大邸宅のような、ゴージャスかつド派手なものになった。


「落ち着かねえよっ!! こんなハデハデのキンキラキンなリビングなんてっ」とロパートが文句を言ったのに、カタリナは、「じゃ、ロバートもカズヤとエルに騎乗すればいいんだわさっ」と言い返した。


「高高度での飛行で、ドラゴンの外套を着てても手がかじかむよりマシじゃね?」


 気の毒とは思ったが、これ以上時間を取られたくないと思った和哉は、わざと揶揄うような言い方をする。

 案の定、ロバートは「うー……」と唸って黙った。


 オオミジマからセント=メナレスまでは、オーガストとエルウィンディアの翼でも6日は掛かる。

 アデレック大陸の上空は、海上とは違い、他の竜の狩り場がある。

 直線ならば3日だが、他竜の狩り場を避けて飛ぶため、その分蛇行することになるためだ。

 転移の魔法陣を使えないのかジンに訊いたが、「他にも色々支障があるけど、一番は、無人の村の魔法陣は欠損部分が多くて、行き先には使えても出発点には使えない」と、にべもない返事をされた。


 仕方なく覚悟を決めて6日間、和哉はエルウィンディアの背に乗った。

 

 セント=メナレスに着いたのは、6日後の夕方だった。

 まずは休憩するために、図々しいかと思ったが、ウィルストーン伯爵の別邸へと立ち寄った。

 伯爵は快く門を開けてくれた。すっかり体調が良くなったメリアーナ嬢が、嬉しそうに和哉達を出迎えてくれた。


 通された広い客間で、和哉達は旅装を解き、隣続きの風呂も使わせてもらい、しばしくつろがせてもらう。


 旅の垢を落としてさっぱりし、客間に戻って来ると、メリアーナ嬢の侍女頭のニルダがお茶と軽食を準備していてくれた。

 和哉達はオードブルやサンドウィッチを摘みながら、オオミジマでの出来事を、搔い摘んでメリアーナ嬢に話した。


「……そうですか。クラリスさまは、オオミジマに残られたのですか」


 改めてお礼を述べたかったのに、と、メリアーナ嬢はおっとりとした端正な顔を曇らせる。


「いいんじゃないっすかね」和哉は、萎れかけた可憐な一輪の花のような伯爵令嬢を励まそうと、明るく言った。


「大賢者さまは風来坊ですから。オオミジマで遊び飽きたら、またこっちへ戻って来ますよ」


「そう。それに、魔法のこととなると子供のように夢中になって、周囲が分からなくなってしまうご仁だから。メリーが気にすることはない」


 ジンも、幼馴染みを励ました。


「そうですわね」メリアーナ嬢は、気を取り直したようにくすっ、と笑った。


 ニルダと2名の侍女が、お代わりの軽食のワゴンを押して入って来た。

 と、その後ろから、ウィルストーン家の従者だろう青年が、血相を変えて駆け込んで来た。


「失礼致しますっ。姫様、ただ今伯爵へ南レリーアにご滞在中のグレイレッド殿下から急使が参りまして、カズヤ様方のパーティが王都にお戻り次第、なるべく急ぎで南レリーアへお戻り下さるようにとのことでございますっ」


「ふへっ!? 俺ら、今オオミジマから戻って来たばっかなんですけど……?」


 驚いて、和哉は紅茶を飲もうとした手を止めた。


「王弟殿下がそう仰られるからには、余程のことと思いますが。父上は、理由をご説明下さいましたの?」


 メリアーナ嬢が尋ねる。

 従者の青年は、やや焦った様子で、「はいっ。その……、大量のモンスターが、サーベイヤ山地から南レリーアの周辺に押し寄せて来ていると……」


「何だってっ!?」デュエルが、サンドウィッチを両手に持ったまま立ち上がる。


「山地からってことは、ロー族の砦跡から、とかか?」


 ロバートがティーカップを卓に戻しながら訊いた。


「いえ、そこまで詳しくは……」


 従者は、おどおどとロバートとデュエルを見る。


「ジン?」


 神官戦士の少女が、いつもの、御使いと交信している時のぼんやりとした表情になっているに気付き、和哉は呼び掛けた。


「……何か、分かった?」小声で訊ねた和哉に、ジンはゆっくりと肯首した。


「護りの竜を……、動かしたことで、封じられていた、上位魔族が目覚めたと」


「ちょっ……!! それって、かなりマズいんじゃないか?」デュエルが、虎耳をぴくぴくと動かす。


「竜を護りに付けてたくらいの上位魔族っつったら……。ヴァンパイアとか、アンデッド・ウィザードとか……」


「どっちにしても」カタリナが、ソーサーを卓に置いた。


「とっとと南レリーアに戻るしかなさそうだわさね。王弟殿下直々のご要請ってことは、かなり大変な状態になってるってことだわさ」


「そう、だな。——でも、今サーベイヤに戻ったばっかで、またエル達に飛んでもらうのは……」


 2頭の若い竜には過酷だろう。

 そっとエルウィンディアの顔色を窺うと、案の定、ぶすくれている。


「疲れた」オーガストは抗議の意を、占領した長椅子に長々と寝そべることで示した。


「けど、徒歩じゃあ南レリーアまで3ヶ月は掛かるぜ?」


 急げって言われてもどーすんだよ、と、ワータイガーが口を尖らせる。

 と。

 ジンがすっ、と立ち上がった。


「事が事だから。セント=メナレス大神殿に掛け合って来る」


 ステンレスシルバーの髪を靡かせ、ジンは滑るように客間を出て行った。

 和哉が「何で?」と問う声も無視、である。


「……大神殿に、何かあるんすか?」


 仕方なく、メリアーナ嬢に振ってみた。


「多分、神殿間の緊急移動用の魔法陣が使えるかどうか、を、訊ねに行ったのではないでしょうか?」


「へえ。そんなモノがあるんだ?」ロバートが、青い目を見開いた。


「だったらっ!!」と突っ掛かって来たのはエルウィンディアだった。


「オオミジマからセント=メナレスまでだって、その、神殿の魔法陣ってヤツを使えば良かったじゃないっ!! そんなのがあるって知ってたら、あたしやお兄ちゃんが頑張って飛ばなくったってよかったんじゃないっ!!」


「あの、申し訳ありませんが」と、コハルが控えめに説明した。


「オオミジマには、残念ながら御使い様方を祀る神殿はありません。オオミジマの神はあくまでもフツノミタマノカミ様と、そのご眷属の神々なのです。ですので、大陸の神殿とオオミジマのお社を結ぶ魔法陣というのは、存在しません」


「えーっ、そうなのっ!?」


 納得出来ない、という表情で、エルウィンディアが叫んだ。


「もーっ!! だから人間のやることって、わかんないっ!! 便利なんだったら、御使いだの神様だの言ってないで、みぃんな魔法陣で繋いじゃえばいいじゃないっ!!」


「それも、そうですわね」


 メリアーナ嬢が、意外にも真面目な顔でエルウィンディアのハチャメチャな提案に頷いたのに、和哉は驚いた。


「けど、魔法って色んな術、っつーか、やり方があるんでしょ? 一概に全部一緒くたには出来ないんじゃ……」


「確かにな」ガートルード卿が頷く。


「ドラゴンやエルフは精霊魔法が使えるが、人間は使えない。また、旅の賢者のような不老不死者(ネクロマンシー)は、途絶えた古代語を使用する術も使える。……これはまあ、大賢者クラリスも使えたが。オオド人の呪は、アデレック大陸の共通語でも、古代語でもない。——クラリスはあれをマスターする気なのだから、大したバイタリティーだ」


「魔法陣は、出発点と行き先が同じ言葉で記されてないと使えないんだわさ」カタリナが、紫のドレスから覗く足を組み替える。


「しかも、発動する文字は、ただ魔力を注げばいいんじゃあなくって、どんな性質の魔力で何を基盤にするのか、明確でなけりゃダメなんだわよさ」


「基盤って、なに?」エルウィンディアが、可愛い顔を渋面に歪める。


「精霊魔法なら、精霊の力を借りて魔法陣の文字の内容を発動させるってことだわ。これは、精霊魔法の性質からして無理だけどね。魔法陣の殆どが、だから、あたしら魔術師が使ってる事象魔法か、神殿が使う神聖魔法のどっちかだわ」


 喋っている間にジンが戻って来た。

 王都に行って帰って来たにしてはあまりに速いのに、和哉は仰天する。


「なにか、魔法使ったのか? ジンちゃん」同じく驚いたらしいロバートが訊く。


「この別邸に、ウィルストーン伯の王都内の本邸の魔法陣へと飛べる魔法陣がある。それを使っただけ」


「「「……はあっ?」」」


 和哉とロバート、それにデュエルが同時に声を上げた。


「だったらその魔法陣、神聖魔法じゃなくって、事象魔法じゃねえの?」


 ロバートの突っ込みに、ジンは、「そうだけど」と無表情で肯定する。


「神官戦士のジンちゃんが、どーやって事象魔法の魔法陣を使えるんだ?」


「私は神官戦士だけど、事象魔法が使えない、とは言っていない」


「え……。ってことは、ジンも、カタリナみたいに火の魔法が使えたりするん?」


 和哉の質問に、だがジンは首を振った。


「攻撃魔法は使えない。神官が使える事象魔法は、補助的なものに限られる」


「ってえと?」ロバートが、金色の太い眉を寄せた。


「飲み水を湧かせるための《ウォーター》や、神聖魔法の攻撃防御(アタックシールド)より速く防御が可能な、物理防御(プロテクトシールド)、なんか」


「へえ」


「ちょっと待て」和哉は、立ち上がってジンに近付く。


「ウィルストーン伯爵のこの別邸に魔法陣があるんなら、最初に王城に行った時にどーして使わなかった? それに、南レリーアのグレイレッド殿下の別邸にも、多分魔法陣があるんだろ? なら、こっから魔法陣で行けるだろ?」


 黄銅(ブラス)の瞳を見据えて訊ねた和哉に、ジンは、こく、と頷いた。


「それ使おうぜ?」やったぜ、と思いつつ笑った和哉に、だがジンは「出来ない」と、きっぱり断った。


「なんで?」


「まず、この別邸に魔法陣があるって私が知ったのは、オオミジマに行く途中で、クラリスから聞いた。だから、王城に謁見で行った時には、魔法陣の存在は知らなかった。次に、この別邸から南レリーアの父上の別邸の魔法陣までは、距離があり過ぎる。私の事象魔法の魔力では、南レリーアの魔法陣は開けられない」


「開ける……?」なんのことか。


 魔法陣から魔法陣へ飛ぶのだから、別に何処のものだって同じだろう。

 開ける、とは、どういう意味なのだ?

 

 和哉の疑問を汲み取ったらしいジンが、説明してくれた。


「魔法陣を使うには、まず出発点の魔法陣をオープンにする。それから、その魔法陣を通して、目的地の魔法陣をまたオープンにする。つまり、目的地が近ければ、魔法陣から飛ばす魔力は少なくて済み、遠ければ大きな魔力が必要になる」


「はーっ。そういう仕組みだったんだ」


 言ったのは、和哉ではなくロバートだった。


「んじゃ、ジンより事象魔法を使い慣れてるカタリナだったら、ここから南レリーアまで『開け』られるんじゃねえのか?」


 ジンは、じっとカタリナを見詰めた。


「魔力は十分なんだけど、適性が、難しい、かも」


「それはあるわさね」カタリナが深く頷いた。


「あたしの魔法力は、どっちかって言うと、攻撃系に特化しているんだわさ。補助魔法、取り分け大きく魔力が要る魔法陣を使うっていうのは、あんまり上手くないかもだわねえ。まあ、テントの中身を改造するくらいは雑作もなかったんだけどね。……ついでに言うと、このメンツの中で一番魔力が大きいのはカズヤだけど、多分、あんたも魔法陣は開けらんないと、思うんだわよ」


 カタリナに指摘されて、和哉は束の間考える。


 ——確かに、どーやったら魔法陣が発動するのかなんて、俺分かんねえなあ。


「カズヤの魔力は、主に特殊技に特化している。事象魔法も、多分無理」


 ジンにはっきり言われ、分かってはいたが和哉はちょっとだけがっかりする。


「……面倒くさいんだな、人間の魔法は」オーガストが、うんざりした顔で言った。


「と、とにかく、ここでごちゃごちゃ言ってても始まんないし」気を取り直し、和哉は、青くなっているウィルストーン伯爵家の従者の若者を見遣って、言った。


「ジンが王都の神殿から、神聖魔法で南レリーアまで行けるって言うんだから、それで行こう」

うっくっ……。

また話が脱線して行ってしまいました……。


まだまだ続きますm(__)m

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