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77.テッセ港

 一日経て、オオミジマの連絡役から帰ってきた答えは、「否」だった。


「やはり、結界の張り直しには、長老方が慎重なようで」


 和哉はやっぱりなあ、と内心で肩を落とす。

 長年の慣習を破るのに反対するのは、年長者にはままある感情だ。

 よく言えば賢明、悪く言えば事なかれ主義。


「年寄りは頭が石化しとるの」


 自分とて相当いい歳なクラリスが、ふん、と鼻を鳴らした。


 宿屋は丁度夕食時で、食堂も部屋も一杯である。

 クラリスは外部に自分達の話が聞こえないよう、自分達の周囲に遮蔽の呪文を掛けている。


「しっかし、そんな堅固な結界を掻い潜って、よくもまあ、アマノハバキリを持ち出せたもんだな」


 ロバートが唸った。


「持ち物倉庫」


 ぼそり、と言ったジンに、一同が「えっ?」という顔になる。


「ジャララバ達は、アマノハバキリを持ち物倉庫に入れて、オオミジマから持ち出した……?」


 訊いた和哉に、ジンはこっくりと頷いた。


「ま、まあ、その手を使えば、簡単に持ち出せないこともねえわなあ」


 ロバートは、少々腑に落ちないという表情で同意する。


「容量オーバーじゃろ」けろりと言ったクラリスに、宣人が、「持ち物倉庫に容量があるんですか?」と訊く。


「あるじゃろう。もし無ければ、この世界ごと持ち物倉庫に入ってしまうがな」


 あ、そりゃそうだ、と、和哉は納得する。

 しかし、世界は入らないにしても。


「アマノハバキリは、本体は真竜でも、普段は一振りの刀ですよ?」


「持ち物倉庫は、魔力の量も計算して、入る入らんを量っておるはずじゃ。とすれば、桁外れの魔法を有した剣が、持ち物倉庫に収まるはずがないわい」


 試しに入れてみろ、と言われ、和哉は背から剣を外し、持ち物倉庫に入れようとした。

 入るどころか、クラリスの指摘の通り、『容量オーバー』の警告ランプがついてしまった。


「ほんとだ……。入らない」


「重力系の禁呪は、連中の得意技」


 ジンの言葉に、コハルが「あっ!!」と声を上げた。


「すっ、すみませ……。ということは、アマノハバキリに重力系の術を掛けて、持ち物倉庫の容量計をごまかした、となりますか?」


「恐らくは、の」クラリスが、渋い顔で頬杖をついた。


「それ以外、『神器』を持ち出すすべはないじゃろ。問題は、持ち出されたものを入れることじゃ」


「それに、」とジンが付け足す。


「持ち物倉庫に入れられたものは、他人から絶対検索される恐れは無いし。どんなに魔力の強い魔術師やモンスターでも、他人の持ち物倉庫は覗けない」


「そう……、なんですか。だから、気付かれなかったのですね」


 コハルの言葉に、少し引っ掛かりを感じた和哉だったが、敢えて訊きはしなかった。


「こっちも重力系の術で、持ち物倉庫に放り込んでいくってのは?」


 真面目に言ったデュエルの意見を、クラリスは「あほか」の一言で一蹴する。


「大賢者なんぞと担がれておるわしでも、まだまだ首と胴が離れるのは切ないわいっ。重力系の禁呪なんぞ、知っておっても使わぬわっ」


「と、なると、やはりもう一度オオミジマの統治三家と長老方にお願いをして、今一度、結界の解呪を……」


「時間が無い。強行突破じゃな」


 コハルの言葉を遮って、クラリスが不穏な提案をした。


「って……。えっ!? 本気でっ!?」


「ここでつべこべ言っておる間に、あ奴らがオオミジマに到着してしまうがな。統治三家には、カズヤ、おまえが後から土下座しておけ」


「ちょっ、そーいうのって……!!」


 和哉の抗議は、オーガストの「おっもしれえっ!!」という手打ちに、かき消された。


「喧嘩は先に売ったほうが勝ちだ。負けたところで、どうにか手はあんだろ」


「もーっ!! お兄ちゃん無責任過ぎっ」


「けど、確かにそーだな……」和哉は率直に言った。


 ここでもう一度オオミジマの長老達の意見を待っていたところで、ジャララバ達に先を越されるのは目に見えている。

 統治三家の不興は買いたくないが、緊急事態だ、腹を割って話すしかない。

 それでも長老達が和哉達の行動が許せないというなら――


「勝手にしろ、かな」


 思考過程は話さなかったが、察したカタリナやロバートがにやり、とした。


「肝が据わってきたじゃないかだわさっ、リーダー」


「安心しろカズヤ。おまえの骨は俺がノブトに食わせてやる」


 あんまりなブラックユーモアに、宣人がぶんぶん、と思い切り首を振った。


「堪忍してください、ロバート。和哉なんか《たべ》たら、僕が人間じゃいられなくなります」


「どーいうイミだよそれっ!?」


 噛み付いた和哉を避け、宣人は大きなデュエルの背の後ろへ隠れる。


「やれ、話は纏まったようじゃて。夕飯にでもするか」


 大賢者が、遮蔽の呪文を解いた。

 途端に聞こえてきた食堂の喧騒に、和哉は、改めて、ただの一冒険者の自分が下した決断の大きさに、戸惑った。


 ******


 夕食のあと、和哉はガートルード卿の助言に従って、長期騎乗用の装備を急遽整えた。

 グルドール公国は大きな国ではない。港町テッセまでは、エルウィンディアとオーガストの翼で2日。

 クラリス達は例のテントで優雅に空中飛行を楽しんだ。

 和哉は、ドラゴンの革の内防寒着の威力で、今度は癒しの魔法を連発せずに済んだ。

 飲食についても、この前も持ち物倉庫から適当に食べられるものを出して食べていたので、さして問題はなかった。

 ただ、前回も困ったことなのだが、生理現象だけはどうしようもない。

 ノーディスまでの道程では、エルウィンディアには申し訳ないが、こっそり騎乗で用を足していた。

 飛び立つ前に、そのことを白状して謝ったのだが、そこは人間にすればまだ10代の乙女。


「いやーっ!! あたしの背中で◎※~〒とかっ、△●※とかっ、しちゃってたのーっ!!」


「だから、ごめんって」


 平謝りの和哉に、ガートルード卿も口を添えた。


「今度はそういうそそうはしないはずだ。竜騎士の長期用の装備には、しもの始末用の袋が付いているからな」


「えー、じゃ、ガートルード卿も、その昔は、もよおしたらそこにしてたの?」


 ああ、と答えたガートルード卿に、「けど」と、エルウィンディアは続けて訊いた。


「でも……、袋が一杯になったら、どーすんの?」


「ぶる下げておく。予備は5、6袋あるからな。降りてからしかるべき処理をする」


「……敵の上に、爆弾代わりに、落としたりしなかった?」


 真面目な表情で飛んでもない質問をした若いドラゴンに、アンデッド・ウォーリアーはにやり、と含みのある笑いを浮かべた。


「なかったと言えば、嘘になるかな」


「うっげっ!!」それまで傍で黙って話を聞いていた、デュエルとロバートが、大げさに口を押さえた。


「××爆弾」ジンが、可愛らしい口から、言ってはいけない単語をするりと吐く。


 うわっはっはっ!! と、クラリスが笑い出した。


「命中したもんは、堪ったもんじゃないのうっ!! 下手な魔法より面白いわいっ」


「もうっ!! シモの話はそれくらいにしてっ。急ぐんでしょ!!」


 真っ赤になって膨れるエルウィンディアを、クラリスと兄オーガストが更に笑う。


「ひっどーいっ!!」と抗議する若い騎乗竜の肩を、ガートルード卿がぽんっ、と叩いた。


「尾籠な話も戦場ならではだ。慣れなければ、これからカズヤと共に闘っていくのは難しいぞ。――まあ、エルウィンディアは大丈夫だと、私は思っているが」


 氷の彫像を思わせる美女の大先輩に微笑まれ、風と水のドラゴンは気圧されたように「はい……」と頷いた。


 大陸の南端に突き出た半島のやや東側に、港町テッセはあった。

 和哉達は、テッセの近くでドラゴンから降り、町へ入った。


「連中が先に船をチャーターしているかどうか、だな」


 二軒ある宿屋の、『七色のイルカ亭』で待ち合わせることにして、和哉はロバート共に他の仲間と別れ、船着場へと向かった。


 船着場には、オオミジマへの定期船が泊まっていた。

 巨大な帆船で、4本のマストの真ん中には、赤い染料で、丸の中に複雑な文様が描かれている。


「貨客船だな。かなり大型の荷物まで運ぶみたいだな」とロバート。


 和哉とロバートは、乗船券売り場で詳しい話を聞いた。

 オオミジマに直接寄航出来る船は無いらしい。定期船にしろ観光船にしろ、必ず手前のオキツシマ港へ入港させられる。


 結界のことも、その辺りは関係しているのだろう。


 今日出た船は午前中に2便。どちらも、商隊のような連中は乗っていなかったという。


 まもなく夕刻になる。

 通常は4便出るはずの船が、舵の故障で1便欠航し、最後の1便がもうすぐ出る。


「別の船を貸切にしてオキツシマまで行った可能性もあるしな」


 ロバートの読みに、和哉は頷いた。


 ここはやはりドラゴン兄妹の翼を頼るか、と、和哉達が立ち去りかけた時。


「大変だっ!! テッセ沖で海竜(リヴァイアサン)が……っ!!」


 血相を変えて乗船券売り場に走ってきたのは、若い男だった。

 厚地の前掛けに、サメの皮の長ブーツ。服装からして漁師と分かる。テッセは大陸の南なので、前掛けの下は半袖の麻の丸首シャツだ。


「落ち着けってグレン。そう簡単に海竜なんかが出るわきゃねえだろうが? ハイドラと見間違えたんじゃねえのか?」


 グレン、と呼ばれた若い漁師は、券売りの親父に思い切り首を振った。


「いーやっ、俺だけならそうかもしんねえ。けど、トマスのオヤジさんが、あれは間違いなく海竜だって――」


「トマスのおっさんも、耄碌し始めたんじゃねえのか?」


「確かに……。ここらの海域で海竜なんて、ついぞ見たこたあねえけどよ……」


「あんたら」乗船券売りの親父が、不意に和哉に話を振った。


「冒険者なんだろ? ならこの近辺で海竜を見たって噂、聞かなかったか?」


「え? ……あー」


 まさかサーベイヤから魔法陣で、そのあとはドラゴンでここまで来たとは言えない。

 答えに窮していると、背後からクラリスの声がした。


「この辺りじゃ見とらんな。わしが見たのは、北の海域。確か、リガル海の出入り口付近じゃったかの」


 代弁してくれたのに、和哉はほっとした。

 乗船券売り場の親父とグレンは、難しい顔で白髪の魔術師を見遣る。


「リガル海じゃ、大陸の真反対だぜ」


「わしゃ長いことあちこちほっつき歩いとったんでな、その時に見かけたリヴァイアサンの話をこの小僧っこどもに聞かせたら、見たいとか抜かしおったんで、ちょっと連れて行ったまでじゃ」


「一戦交えたりは……?」好奇心丸出しで訊いたグレンの問いに、クラリスは「バカをいうでないわい」と、片手を振った。


「形あるドラゴンとしては、空のバハムートと並んで最強のリヴァイアサンなんぞと、余程でなければ一戦交えんわ」


「そ。チラ見して逃げて来たって寸法さ」ロバートが話を合わせた。


「まさか、そいつが南下して来たっていうのは……」乗船券売り場の親父が、青い顔で言った。


「無いの。ドラゴンは縄張りに煩い種族じゃて。今回遭遇したのは、ここら辺りの主じゃろ」


「ドラゴンは、無闇に人間を襲わないわよ」


 話に割って入ったのは当のドラゴン――エルウィンディアだった。


「ドラゴンの好物は魔力だもの。魔力の低い人間を何人も食べたって満腹になんかならないわよ。それより、魔力の高いモンスター、海だったらサハギンキングやマーメイド、大物はクラーケンなんかよ。あいつらは魔力が高いから、一回狩れば数ヶ月は持つわ」


「……嬢ちゃん、あんた、なんだかいやにドラゴンに詳しいんだな」


 うろんな目で、グレンがエルウィンディアを見る。ドラゴンの娘は隠し立てする気もないとばかりに、

「だって、あたしドラ――」ゴンだもの、と言い掛けた口を、和哉が慌てて塞いだ。


 ずるずると、人気の無い港の積荷置き場に引っ張って行く。

 腕力で勝る和哉に引き摺られてもがいていたエルウィンディアを木箱と木箱の隙間に押し込んで、漸く開放した。


「なあにすんのよっ!! あたしが何か、悪いことしたっ!?」


「そうじゃないけど。ここの人達に、エルとオーガストがドラゴンだってバレるのは、ちょっと不味いかなーと」


 まだ、ディビル教の連中が残っているかもしれない。

 二頭のドラゴンを仲間にしている、と知れるのは、得策ではない。


「この分じゃ夕刻の便は出ないな。――騒ぎが収まるのを見計らって、町の外から飛び立ったほうがいい。万が一テッセ(ここ)に居残ってる敵にも感づかれないように」


 そういうことか、と気が付いたらしいエルウィンディアが、赤い顔のまま頷いた。


「でも、人間は誤魔化せても、リヴァイアサンは誤魔化せないわよ」


「え?」


「こんな時期に顔を出したってことは、多分、理由はあたしと同じ。真竜(リアディウス)の気配を察知したからよ」


 エルウィンディアの言葉が終わるや否や。

 港沖の海面が、突如猛烈な勢いで盛り上がった。

PCを思い切りぶっ壊しまして(汗)

これは父が予備に、と取っておいたノーパソくんなんです。

んがっ!!

物凄く打ちにくいっ!!

何より、場所の関係で肩が張ってしまって・・・くすん。

贅沢ですが、この際中古でいいからデスクトップを早いとこ確保せねばっ。

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