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73.一応、仲直り

 どうにか騒動を納めた後。

 和哉達はエルウィンディアに本体に戻って貰い、移動することにした。

 和哉は竜騎士としてエルウィンディアの背に騎乗することになった。が、他のメンバーの騎乗をエルウィンディアは拒否した。


『袋かなんかに入って。それ持って飛ぶから』


 本体に戻ったドラゴンは、素っ気なく言い放った。


「なあんでっ、あたしらがそんな扱いになんのかさっ!?」


 噛み付いたカタリナに、『だって、こおんな大人数、全員あたしの背中に乗っけられないもの。袋とか籠なら、あんた達を銜えて飛べるから、そのほうが安全でしょ?』


「ふむ。一理あるの」


 クラリスが頷き、ロバートと宣人に、持ち物倉庫にそれに使えそうなものが無いか尋ねた。

 和哉とカタリナもリストから調べ、結局、一番大きなテントが使えそうだと判断した。

 倉庫から出し、取り敢えず全員で入ってみる。


「窮屈だわさっ」カタリナが不満げに鼻を鳴らす。


『だったら、銀髪女をほっぽり出せば?』


 先程のジンの態度をまだ根に持っているらしいエルウィンディアが、冷たい口調で提案した。


 と。


「分かった。私が出る」ジンはテントを出て来てしまった。


「え……? でも、どうするん? 俺と一緒に、エルウィンディアの背に乗る?」


 和哉の言葉に、青緑色のドラゴンがムクれた。


『ちょおっとぉ、カズヤっ!! あたしこいつを背に乗せるのは絶対ヤよっ!!』


「こっちも願い下げ」ジンが、珍しく表情も露わにツーンと横を向いた。


「けど、歩きじゃあどーにもなんねえぜ? ジンちゃん」


 テントから顔を出したロバートに、ジンは「大丈夫」と言うと、腕に巻いたミスリル鞭を解いた。


「こうするから」


 言うなり、ジンはドラゴンの尻尾の根元にミスリル鞭を巻き付けた。


『人の尻尾になにすんのよっ!?』


「テントには入れない。背には乗れないなら、ぶら下がっていくまで」


『……あっ、そっ』エルウィンディアは、優美な長い首をくいっ、と和哉へ向けた。


『いいわ。じゃ、カズヤ、乗って』


 背を低くしたエルウィンディアに、和哉は飛び乗る。

 本来なら、ドラゴンの背に馬の鞍と同じような騎乗用の器具を取り付けるのだが、急なことだったので持ち合わせが無い。

 和哉は「ちょっとごめん」と言いながら、ブーツと手袋を外し、持ち物倉庫に手早く放り込んだ。


《両生類の壁歩き》で、ぺたりとエルウィンディアの背に貼り付いた。


『すっごい技ねっ。さっすが、あたしが見込んだ契約者(パートナー)だわっ』


 魔法にハート型を飛ばせる、なんていうものがあったら、絶対飛ばしていそうな言い方でエルウィンディアが和哉を褒める。


『行くわよ』


 宙に浮き上がったドラゴンの背中から尾を振り返った和哉は、相変わらずムッとした表情のジンの、ブラスの瞳と目が合った。


「だ……、大丈夫?」気遣って尋ねると、ジンは頷いた。


「これしきで落下したら、神官戦士としてみっともない」


『あーら、なら、振り落としてあげちゃおうっかなあ?』


 今にも大きく尾を振りそうになるエルウィンディアに、和哉はムカっとした。


「それは止めてって。俺の騎乗竜になったんなら、ジンも仲間だ。どうしてもジンが嫌だっていうんなら、契約は解除するっ」


『えっ?』


 和哉がそこまで強く言うとは思っていなかったのだろう。

 エルウィンディアは少しだけ首を下げる。


『……ごめんなさい。もう、意地悪は言いません。だから、契約解除はしないでっ』


「分かってくれたらいいよ」


 この分じゃ、二人の仲直りは当分無理かもしれない。

 それにしても。

 どうしてエルウィンディアとジンがいがみあうのか、和哉にはさっぱり分からなかった。


 ******


 尻尾にぶら下がった姿勢のジンを時折り振り返りながら、エルウィンディアに騎乗して三十分ほど。

 ドラゴンがゆっくりと降下し始めた。


『ここで一旦降りるわね』


 エルウィンディアが着地したのは、廃墟の館からコハルが見付けた、荒野の中の一軒家のすぐ側だった。

 和哉が背から降りると、クラリス達が入ったテントをそっと下ろし、エルウィンディアは人型に戻る。


「ジンっ」和哉は、三十分もミスリル鞭でドラゴンの尾にぶら下がっていた少女へ駆け寄る。


「大丈夫だったか?」


 ジンは、いつもの無表情で、黙って頷いた。だが、鞭を仕舞った両腕を、軽く摩っている。


「……痛む?」ブラスの瞳を覗き込む。


「治癒魔法を掛けながらぶら下がってたから、平気」とジン


 それは平気とは言わないだろう。

 意地を張っていたジンに、和哉は済まない事をした、と反省した。

 と同時に、エルウィンディアの、ジンに対する態度に改めて腹が立ってきた。


「エルウィンディアっ」和哉は、青緑色の髪のドラゴンの少女を呼んだ。


「ひとつ言っておきたい」


 真面目な声で、騎乗竜を見据え言う。


「ジンは俺の仲間だ。繰り返すけど、二度と、こんな酷い事をしないで欲しい。――ジンも」と、神官戦士の少女を振り返る。


「妙な意地の張り合いは止めてくれって。お互い仲間になったんだから」


「――分かった。もうしない」ジンが、少しシュンとしたような声で返事した。


「本当にごめんなさい、カズヤ。あたしも、もうしません」エルウィンディアも、頭を下げた。


「ご、めんね? ジン」


 エルウィンディアが、ジンのブラスの瞳を、恐るおそるという様子で覗き込み謝る。

 ジンは「別に」と平素の無表情で返した。


「私も悪かった」


「おーおー、嬢ちゃん達、仲直りしたのかよ?」テントから出て来たロバートが、にやっと笑った。


 二人の少女が同時に頷く。


 クラリスが、「やれやれ、若いというのは、本当に厄介なことじゃわ」と肩を竦めた。


「ところで、この家は?」訊いたのはデュエルだった。


「あっ、ここはあたしの家よ。母さんと二人で住んでるの」


「えっ? ドラゴンの、家?」


 白い漆喰に、赤レンガの屋根の、どこの村にでもありそうな一軒家である。

 門扉は無く、柵は丸木を格子状に組み合わせた簡素な作りだ。

 前庭には小さな花々が植えられており、その右脇に小さな畑があった。


「全くもって、普通の家じゃな」クラリスが感心半分、疑問半分といった顔で言う。


「さっきも言ったけど、ドラゴンは大概人間の姿で暮らしてるの。本体に戻るのはよっぽどの時だけ。狩りも人間の姿でのほうが多いわ」


「えーと、でも、エルウィンディアは最初訊いた時、自分がここの辺りの主だって、言ったよね? けど、お母さんが居るってことは?」


 突っ込んで訊いた和哉に、青緑色の髪の少女は頬を赤らめ、気まずそうに薄紫の目を和哉から逸らす。


「そっ……、それはあ……」


「エルウィンディア?」


 家の扉が開き、玄関から、年配の女性が顔を出した。


「どこへ行ってたの? ――あら、お客様?」


「あ、えーと……」


 口籠った娘の側へ、母親はやって来た。

 エルウィンディアの母は、娘よりもより濃い水色の髪を長く伸ばし、背の中央でひとつに束ねていた。

 緑色の小花柄のワンピースの上に、簡素なエプロンを着けている。

 娘と同じ、薄紫の瞳は切れ長で、顔立ちも清楚で美しい。

 大人の女性の優美さを備えていた。


「旅のお方々でしょうか。うちの娘が、何かそそうでも致しましたか?」


 やや低めの柔らかい声音で尋ねられ、和哉は緊張した。


「いえその……」和哉は、エルウィンディアと騎乗竜の契約を結んだことを、母親に話してよいのか、しばし逡巡する。


 多分、エルウィンディアは本当にまだ子供なのだ。母ドラゴンの庇護にあるべき子と契約したと判れば、母ドラゴンは怒るかもしれない。


 だが、和哉が言い出す前に、母親に契約は知れてしまった。


「エルっ!! あなた……、竜騎士と契約をしたのっ?」


 母ドラゴンは、驚いた表情で娘を見た。


「うん。カズヤは、あたしが探していた理想の竜騎士よ」


「あなたって子は……」母が、困ったような、諦めたような表情になる。


 激怒されるかと身構えていた和哉は、母ドラゴンの意外に寛容な態度に、ほっとすると同時に拍子抜けした。

 そんな初心(うぶ)な竜騎士の心情など知る由もないエルウィンディアの母は、優しい表情になり、娘の髪を撫でた。


「しょうがないわね……。まあ、ここで皆様を立たせたままではいけませんね。どうぞ、あばら家ですが、お入り下さい」


 エルウィンディアの母が招き入れるのに、クラリスが「あ、いや」と手を上げた。


「わしらは先を急ぐ身での。話があるなら、ここで承ろう」


「そうですか。……ですが、親の身として、一人立ちする子に渡したいものも、あるのですが……」


「クラリス、ここはお母さんの言う通り、少しだけお招きに応じよう」


「しかしの。敵どもの早さも考慮せんと不味いぞ?」


「分かってる。でも、俺もお母さんに色々訊きたいことがあるんだ」


 和哉の意見に、クラリスを除いた仲間全員が頷いた。


「仕方なかろう」渋々、という感情をあからさまに顔にくっつけて、大賢者は頷いてくれた。

なんか・・・早めに上がりました。


自分でびっくり。

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