63.南下の旅
サーベイヤ王国の王都セント=メナレスは、大河キリアークのほとりにある。
目的地は、王都から距離にして一日程手前の城下町カーナビート。治めているのは、代々王国の元帥を務めているクリムゾン侯爵である。
南レリーアからは約三ヶ月、ひたすら南下の旅になる。
王都への街道は、さすがによく整備されていた。
ざっと見たところ、50センチ×30センチくらいの石が、規則正しく敷き並べられている。石畳には数本の轍の跡がくっきりと刻まれていて、馬車はその上をゆっくりと進んだ。
始まりの村――結局、あの村の名前は分からず仕舞いだった――から南レリーアまでの田舎道とは雲泥の差で、道端も綺麗に樹木が植え付けられていて、モンスターが隠れられそうな、背の高い茫々の草など一本も生えていない。
メリアーナ嬢の体調を考えて用意された馬車は、一番大きな四頭立ての荷馬車だった。
外観は、貴人用と分からないように、ごくありふれた大型荷馬車である。
が、中にはベッドを設え、世話役の侍女が常に二人居られるよう、侍女用の簡易ベッドもある。
またサスペンションが改良されていて揺れが少なく、病人が疲れないように配慮されていた。
馬車は、メリアーナ嬢用ともう一台、こちらは護衛役の和哉達が乗り、先を進んだ。
途中途中の町や村でも、病気もあるが、何より超有名人のメリアーナ嬢は簡単に馬車からは降りられない。
そのため、和哉達はメリアーナ嬢の希望で、1日交代で2人ずつ、メリアーナ嬢の馬車に話相手として同乗した。
これだけ街道が整備され、要所要所に正騎士団や傭兵騎士団の駐屯所があれば、まずモンスターは出ないと思うが、そこは《エンカウント100パー》の和哉である。
うっかり外へ出ると何が起こるか分からない。例え小物でもモンスターに遭遇すれば、厄介だし時間も取られる。ので、和哉個人としては、ずっと籠って移動できる大型馬車の旅は大変嬉しかった。
南レリーアを出立してはや二ヶ月。本日はガートルード卿と和哉が話し相手の当番である。
旅も三分の二までも来ればいい加減話題も無くなるかと思いきや、今日はメリアーナ嬢の首飾りから、面白い話になった。
「カズヤは遠国より来たので知らぬであろうが、サーベイヤとダルトレットが、かつては1つの国だった、というのは、令嬢は御存じと思う」
ガートルード卿の、よく通るセクシーなハスキーボイスが、メリアーナ嬢の馬車の内部に響いた。
メリアーナ嬢が「知っている」との頷きを返す
和哉は急いで地図を広げた。
「あ、大河キリアークを挟んで、サーベイヤの王都セント=メナレスと、ダルトレット王国の王都ルビアイダスって隣り合ってるんだ?」
隣国の首都が、こんなに近くにあるなど、まず珍しい。
「ルビアイダスは、かつてはサウス・メナレスと呼ばれていた。今はシードル国戦の折に陥落した王都リラに代わり、王都となっている。昔の名称こそが、二国がひとつだったという証だ」と、銀髪美女の竜騎士が、薄く笑んで頷く。
「500年も昔の話だ。その頃、サーベイヤとダルトレットは、エディンバルという名の大国だった。大河キリアークが海に注ぐレダ湾を形成する南の半島に、イトールという国があり、そことの交易や、シードル国、その東のエルフの国にも商人が行っていた」
「エルフっ!? エルフが居たんすかっ!? 500年前まで?」
「ロゼラウムの森に。ただ、一時よりはかなり人数は減っていた、というが」
ロー族の館への道で、アンデット・グリーンドラゴンに聞いた話だ。
シードル国の援軍を得てドラゴンを追い払ったあと、しばらくはエルフは森に留まっていたのだ。
「へええ。でも、今は居ない?」
「集落はほとんど消えた、と聞く。エルフは元々、増えにくい種族だ。長命種ゆえか、子供は実に数百年から千年ほどに一人くらいしか生まれない」
「そうなんだ」
ゲームでのエルフといえば、皆弓が得意であったり、魔法が得意だったりと、どちらかと言えば戦闘では後衛職だった。
などと、かつての地球でのことを和哉が思い出している間に、ガートルード卿の話は先へ進んでいた。
「――イトール国は海に突き出た半島ゆえ、海産物が交易の主体だった。豊かな国だったのだが、何を思ったのか、フィファル5世という王が、半島の先端の塔に封じられていた魔族を解き放ってしまった。
魔族はたちまちイトール国を席巻した。
アデレック大陸は、恐怖と混乱に陥った。羽ある魔族は遠くウルテア国にまで達したという。無論、オオミジマにも。しかし、大半の魔族は徒歩で進撃し人間の街や村を襲った。エディンバル大国の南部、現在のダルトレットは、一時完全に魔族に制圧されたのだが、そこに現れた英雄グィンの奮闘で、漸く魔族たちをイトール国まで押し返したのだ。
現在は、全ての魔族が御使い様の御力で、旧イトール国から一歩たりと出られぬ状態になっている」
「ちょっと、分からないんけすけど」
封じられていた魔族、というのが、今、和哉達が街道や廃墟で戦っていたモンスターと、どう違うのか?
その辺りを尋ねると、ガートルード卿は「ふん」と笑いながら腕を組んだ。
「簡潔にして難解な質問だな。魔族とモンスターは同じだ、と言えば、言えなくもないのだが、一部違う輩も居る。
例えば、インキュバスやバンシー、ヴァンパイアなど、人間を狩ったり憑依する性質を持つものは、魔族とされていた。しかし、同じように人を狩る性質を持つオーガやゴブリンなどは、魔族として封じられてはいなかった。
線引きが何処だったのか、封じた人間にしか分からないが、私が思うに、より強く人間の手に負えないモンスターを『魔族』として封じていたようだ」
「じゃ、また封印し直された魔族は、結構力のあるヤツばっかってことですか」
「大体が、な。しかし全てでは無い、魔族の国(イトール国)から逃れたものも居る。そこが、厄介の種になっている」
「そうなんだ……」和哉は小さく頷いた。
ハイクラス・ラミアのヘルキーニアも、もしかしたら元は封じらていた魔族の末裔なのかもしれない。
それにしても、ルースやガストルの故郷に、自分が知る由も無いそういう歴史があったことに、和哉は改めてここが異世界なんだ、と痛感する。
そこで和哉は、あることに気が付いた。
「ってことは、サーベイヤ人とダルトレット人って、元はおんなじ人種なんですよね?」
「そうだが……。ああ、ダルトレット人の肌の色のことか」
「はい。きっぱり違うっていうか、ダルトレット人のほうが、結構色が濃いっていうか」
「イトール人との混血が多いからだな。解き放たれた魔族に追われたイトール人が逃げ込んだのが一番多かったのが、現在のダルトレットだ。
イトール人というのは元々、未踏の大地からアデレック大陸に渡って来た、渡来人だ、言い伝えられている。生粋のイトール人は、タイスのような、白髪に浅黒い肌をしていた、という。500年の間にサーベイヤ人と混ざり、その特徴はあまり出なくなったが、時折、タイスのようにイトールの血の濃い者も生まれるらしい」
和哉は『未踏の大地』というフレーズに引っ掛かった。
イトール人の先祖がその大陸から来た、ということは、未踏でも何でもないではないか?
地球でもそうだった。先住民が居るのに、あたかも自分達が新しく見付けた土地のように振舞い、適当に陣取りをして先住民族を虐げた国家が、いくつかあった。
複雑な思いが顔に出ていたらしく、ガートルード卿が苦笑した。
「『未踏』と言っているのは、アデレック大陸の人間があちらへ渡っていないからだ。――どうも、強力な魔法結界のようなものが張り巡らされているようで、未踏の大地は、イトール人の祖先のように、出る者は簡単に出られるのだが、入ろうとする者は完全に拒否されるのだ」
「……試した人が、いる?」
「ああ。1000年ほど前、アレーン商会という船会社が、3艘の大型船で未踏の大地に挑んだ。が、3艘共、壁のようなものに阻まれ、あちらに着岸は出来なかった」
「けど」と、和哉は、ロー族の砦で1500年前のドラゴンから聞いた話を持ち出した。
「ドラゴンが渡れてるってことは、やっぱ人間避けなんすかね?」
「さあて」ガートルード卿は、ちょっと難しそうな表情をする。
「土台が、あの大陸にはどんな人種が居て、なんのために結界を張っているのか分からぬのでな。――その辺りは、旧イトール国でも王族しか知り得ぬ話だったようだ。
しかし今は、御使い様の御力で、彼の地は魔族の国として封印されてしまった。我ら人間ごときがのこのこと入り込める場所では無い」
謎だらけ、というのは、人間嫌でも興味をそそられる。和哉は、行けるものなら、そのうち絶対未踏の大地に行ってみよう、と密かに思った。
「話を戻すぞ」と、ガートルード卿が、冒険心に燃える少年を現実に引き戻した。
「イトール国というのは、海産物の他に、とても大事なものの生産地でもあった。ガルゴン魔合金という、非常に貴重な金属を加工して、他国に売っていたのだ。ガルゴン魔合金は、主に装飾品とされたのだが、名の通り、魔力が籠っているので大変重宝された」
ガートルード卿は、メリアーナ嬢から首飾りを借りる。
「これは水の魔法を持った首飾りだ。紛う事無きガルゴン魔合金製だ」
「水の魔法のネックレスって、持っているとどう……?」なるのか?
今いち想像出来ない和哉は、ガートルード卿に尋ねる。
「メリアーナ嬢のように戦闘に使用しない場合は、水難避け、あるいは雨請いの儀式などに力を発揮する。戦闘する場合には、例えばカズヤならば剣を振るった際に追加効果で敵に水の魔法をぶつけられる。
ガルゴン魔合金の装飾品は、そのように1つひとつが違う魔力を有しており、持つ人間の力――魔法や武器に追加効果を加えたり、魔力の無い者には護りとしての役割を発揮する。
しかし残念ながら、イトール国が魔族の国として封印されてしまった今日は、ガルゴン魔合金の装飾品は高根の花だ。何しろ、500年以上前の代物しか、ないのだから」
「と、すると、買ったらいくらくらいなんすか?」
数が出回って居れば、いくら古くともそうは高くないだろう。
軽く訊いた和哉に、ガートルード卿は、美貌にやや意地の悪そうな笑みを貼り付けた。
「ものにもよるが、一国の正騎士団がまるまる買えるくらいの値はするぞ」
「え……? ええっ!?」
和哉が驚いて声を上げたその時。
馬車が急停車した。
「どうした?」
ガートルード卿が、御者の背後の窓を叩く。
「とっ、盗賊のようですっ。前の馬車の方々が、今出て来られて……」
「騎士団が配備されている王都への街道で盗賊とはなっ」言って、ガートルード卿は素早く扉を開け、外へと飛び出した。
後に続こうとした和哉を、だがガートルード卿は「出てはいけない」と、窓越しに鋭く制した。
「君が参戦すると、ややこしくなるだろう?」
「……そうっすけど」
ジンに神聖結界を張って貰えれば、小物のモンスターは寄り付かない。
大丈夫なんだけどなあ、と、和哉はややしょぼくれた。
和哉の表情がおかしかったのか、ガートルード卿が軽く笑う。
「それに、君まで降りてしまったら、いざという時メリアーナ嬢を護る人間が居なくなる。――ここは、とにかく頼む」
そりゃそうだ、と気が付いた和哉は、「ういっす」と、顔を上げて返した。
ガートルード卿が、窓枠から見えなくなる。
ややあって、金属同士のぶつかり合う音と、怒声が聞こえてきた。
何がどうなっているのか?
和哉は、震えながらもその場に座って頑張っている御者に聞いてみた。
「どんな感じ?」
「けっ……、結構な人数の盗賊団で……。しかも、モンスターまで混ざっていてっ」
「モンスターがっ!?」
和哉がオウム返しに聞いた時、馬車の扉が乱暴に開かれた。
すわ盗賊かと背の剣に手を掛けた和哉だったが、入って来たのはジンだった。
「人手が足りない。来て」
「っても、俺が外出ると……」
「分かってる。だから、これを」と、ジンは胸元から何かの破片を取り出した。
一辺が10センチほどの、赤茶色の、いかにも硬そうな破片。
明らかに甲殻類のものとみられるそれに、和哉は嫌な予感を覚える。しかしジンの豊満な胸の間にずっと入れられていたのかと思うと、触りたい、という欲望にも駆られる。
絶対、顔が赤くなっているのを確信しながら、和哉はジンに訊いた。
「そっ、それって、もしかして、モンスターの?」
途端。ジンがにぃ、と笑う。
「もしかしなくても、モンスターの断片。早くこれを《たべ》て、応援に入って」
「っても……」どのモンスターだよ?
と言い掛けた和哉の顎を、ジンがくいっ、と持ち上げた。
綺麗な黄銅の瞳が、和哉の目をじっ、と覗き込む。
息が掛かるほど顔を近付けられて、和哉は心臓がバクバクして来た。
「……どーしても、《たべ》なきゃダメですか? ジンさま」
「ダメ。《たべ》られるのはカズヤしか居ない」
「宣人は?」和哉は、もう一人のモンスターイーターの名を上げる。
「ノブトは現在、特殊アビリティロックが掛けられている。だから、ダメ」
「おおいっ!! ジンっ!!」外からワ―タイガーのデュエルの怒鳴り声が聞こえた。
「早いとこカズヤを引っ張り出してくれっ!! ドラット族の奴ら、数が多すぎて……」
「ドラット族?」聞き返した和哉の口に、ジンはモンスターの破片をぽいっ、と投げ入れた。
吐き出す間もない。
モンスターの破片はいつも通り、口に入った途端、妙な味を残してすぐに掻き消える。
吐き気に、目に涙が滲んでくる。が、ジンは、普段通りの平坦な口調で和哉に言った。
「和哉のレベル。腕力レベルが20上昇。特殊技《泡吹き》《大鋏狩り》取得」
「《大鋏狩り》?」半分泣き眼になりながら、和哉は問うた。
「詳細は後で。とにかく、敵の殲滅が先」
言うなり、ジンはアンドロイドのバカ力とでも言える剛腕で、和哉を馬車の外へと引っ張り出した。
馬車の周りは、既に10人ほどの街道保安の正騎士に囲まれていた。
その周りを、4、50人は居るだろうか、赤いサッシュを腰や頭、腕などに巻き付けた、ダルトレット人とみられる集団が囲んでいる。
その背後には、ヘル・ブルが3頭。横に、魔物使いと見られる、長い黒の外套を着た男が立っていた。
前面の革の胸当てや袖なしの革鎧を身に着けた一団は、今にも馬車を壊しそうな殺気を纏い付かせながら、出て来た和哉を睨付けた。
「いい加減、抵抗するなって。俺達はお宝とご令嬢を受け取れば、馬車やあんた達には手は出さねえよ」
和哉の真正面に居る、白髪の男が言った。
男は腕に巻いたサッシュの他に、襟元まで伸ばした髪に赤い鳥の羽を付けている。
こいつが、ジンがさっき言っていた、ドラット族の頭なのか?
「連中、どうやらメリアーナ嬢のライバルの誰かさんに雇われてるみたいだぜ」
すすっ、と寄って来たロバートが、和哉に小声で言う。
「情報が筒抜けになってたってことか」
メリアーナ嬢が魔術師クラリスに会いに行くのは、極秘中の極秘だった筈だ。
それがどこから漏れたのか?
和哉は、赤い羽根を髪に差した男を睨み据えた目の端に、メリアーナ嬢の御者がこそこそと御者台を降りて行くのを捕えた。
――そうかっ!!
和哉は、メリアーナ嬢の馬車の一番近くに居たコハルを、鋭く呼んだ。
「その男を捕まえろっ!!」
コハルは、忍びの素早さで御者に近付くと、あっという間に御者を縛り上げた。
ドラット族の頭らしい男が、「ちっ」と小さく舌打ちした。
「よく気が付いたな」
「アホか。あんな逃げ方したら気が付くに決まってるね」和哉はふん、と、わざと鼻を上げた。
「出来れば、おまえらに手を出さずにご令嬢だけお連れしようと思ってたんだがな――。しょーがねえ、こうなったらおまえらも死んでもらう」
男はにやけた笑いを引っ込めると、手にしたロングソードで斬り掛かって来た。
和哉は、半歩下がって相手の攻撃を避ける。
とその時。
「カズヤ、《泡吹き》を使ってっ」
ヘル・ブルをミスリル鞭で牽制しながら、ジンが指示して来た。
「《泡吹き》?」どーやるんだそんなもん、と、和哉は一瞬考える。
考えて、はっとした。
ジンがさっき自分に《たべ》させたのは、多分グレートクレイフィッシュの一部だ。
あのザリガニのバケモノなら、確かに《泡吹き》をするだろう。
――う~~、とうとうザリガニにまで落ちた……。
だが、今は多勢に無勢。落ち込んでいる暇は無い。どんな効果があるのかは分からないが、やってみるしかない。
毒を吐く時の要領で、和哉は大きく息を吸い込むと、頭の中で(泡、出ろっ!!)と念じる。
吐き出した和哉の息が、まるで消防車の薬剤散布のように空中高く弧を描き、ドラット族に襲い掛かった。
「わっ!? なんだこれはっ!?」
敵は頭の上からどっと掛けられた白い泡に、驚いて逃げようとする。が、この泡、どうやら強い粘性を持っているらしく、一度くっついた人間やモンスターをそう簡単には逃さない。
和哉は、もう一度息を大きく吐き、逃げようとしていた背後のドラット族の男達も泡で捕まえた。
喚きながら粘性の泡から逃れようとする赤い羽根の男に、和哉は「ざまーみろ」と小声で言った。
「やったわいね」カタリナが、楽しそうに泡をつつく。
「さすがカズヤ。妙な技なら得意だな」ロバートまで面白がっている。
「は、いいんだけど。この後、こいつらどーやって引っ張り出すんだ?」
初めて使った技の効果が分からなくて、和哉はジンの顔を見た。
ジンは、暫し考えているような様子で動かなくなったあと、答えた。
「10分もすれば泡は消える。が、捕えられていた人間やモンスターは、泡の催眠効果で1時間以上眠らされる。眠っている間に縛り上げて、正騎士団に引き渡して終わり」
「そっか。――あ」その時になって、和哉は不味い事をしたのに気が付いた。
「あ、あのさ……、急に特殊技使っちゃったからさ、その……」
馬車を護ってくれていた正騎士団に退避命令を出すのを忘れていた。
「あーあ。正騎士のおっさんたちまで、泡の餌食かよ」
ロバートが、前の馬車の脇で泡まみれで倒れている正騎士団の幾人かを見付けて、頭を掻いた。
「あのー」と、コハルが声を掛けて来た。
「ついでに、デュエルも、巻き添えです」
え? と、和哉はコハルが指差したほうを見た。
そこには確かに、メリアーナ嬢の馬車の前輪部分で、泡を被って仰向いて倒れ、大いびきを掻いているワ―タイガーの巨体があった。




