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5.魔女カタリナ

 ロバートが仲間に加えたいとした魔女は、宿屋から数件離れた、南通りのパブの二階に住んでいた。

 カタリナ・ロペロという、ラテン的な名前の女は、そのパブの占い師だという。

魔法使いで、レベルは40。 ロバートとは同時期にこちらへ来たらしい。

なのに、レベル30のロバートより高いのはどうしてなのか?

 ロバートに尋ねると、


「んー、聞いたことはないが……。多分、ナリディアに《ズル》を頼んだんだろう」


昼間は寝てるか、魔道書を漁っているかだというカタリナは、相当な変わり者で、少しでも気に食わないと怒鳴り散らすらしい。

特に、睡眠時間と読書時間を削られるのは大嫌いだという。

ロバートと和哉は、どっちにしても怒鳴られる昼間の時間に、カタリナを訪ねた。


「だあれだいっ!? 人の休憩時間にドアを叩くバカはっ!?」


 絶対女のものだとは思えない、低音のガラガラ声に続いて、がちゃ、というより、ドカッ、という、明らかに蹴飛ばしたらしい音と共にドアが開いた。

 出て来たのは、濃い栗色の巻き毛を背に垂らした、痩せた女だった。

 大きな薄紫の目と赤い口が、やけに目立つ。

 その顔に呆気に取られた和哉が何も言わずにいると、カタリナの真っ赤な口が、真横ににいぃっ、と伸びた。

 伸びた口が、いきなり和哉の顔の前へと近付いた。

 カタリナは、和哉のシャツの前襟を掴み、自分の方へ引っ張っていた。

 赤い口に喰われるかと思った和哉は、思わずぎゅっ、と目を閉じてしまった。

 と、さっき聞いた大音量の声が、和哉の耳を襲った。


「ロバートっ!! だれだい?! この小僧はっ!?」


「あー、今度の仲間だ」


「仲間っ!? この鼻たれ小僧がっ!?」


 2回も《小僧》を連発されて、和哉はむっとする。

 確かに、地球ではまだ高校生、17だ。

 だが若いのは自分のせいではない。たまたま、彼らより後に生まれて来ただけだ。

 若輩を悪しざまに言われる筋合いはない、と反論しようと目を開けた和哉は、そこに、まだカタリナの顔が超絶アップであるのにびっくりする。


「おっわっ!?」


「……ふうん」


 ぱっと、カタリナの枯れ木のような細い指が、和哉の襟を放した。


「で? 今度はどんな仕事をするんだい?」


 カタリナは足早にドアを離れると、今まで自分が寝ころんでいたらしいベッドへと戻った。

 なにがなんだか、分からない。

呆然としている和哉の肩をぽんっ、と叩き、ロバートがカタリナの部屋へ入った。


「村の牧草地に出没してる、モンスターのボスの討伐だ」


「牧草地って。あの一件、まだ片付いてなかったのかい?」


「ああ」頷くと、ロバートはベッドの側の古びた丸木の椅子に、慣れた様子で腰掛ける。

 ドアの和哉に顔を向け、「入れよ」と、手招きした。

 和哉は「しっ、失礼します」と小声で言うと、頭を下げつつ、恐々と室内へと足を入れた。

 途端。

 ぶぶっ、とカタリナが吹き出した。


「はっ、なあんだい、そのへっぴり腰っ!!」


「カティ、いたいけな少年をからかうなって」


 げらげら、という調子で笑うカタリナに、和哉は本気で腹が立った。

 ――少々ビビったけど。

そこまで笑わなくたって、いいだろうが。

 変わり者、と最初にロバートには聞かされたが、これは変わり者じゃなくって、無礼者だ。

 いくら魔女としてのレベルが高いからといって、ここまで人をバカにする相手とは、仲間になんかなりたくない。


「ロバートっ」と、和哉は怒り声で訴えた。


「俺、帰る。この仕事下りるからっ」


 くるりと後ろを向いた和哉に、カタリナが言った。


「あーれま。ちょぉっとからかったくらいで、もう尻尾巻くのかい? これだから小僧っこは……」


 また、小僧だ。

 やはり、ここは言い返さなければ、腹の虫が収まらない。

 和哉は二人に向き直る。


「あのな、おばさん、」


「おばさん?」カタリナが、薄紫の目を剥いた。


「誰がおばさんだいっ? 誰がっ!?」


 瞬間。カタリナの目の色が、薄紫から黒に変わった。次に、金色になる。


「言っとくけどね、あたしは、あんたたち地球人より寿命が長いんだ。確かに、百歳くらいは先に生まれてるけどねっ、これでも、あんたたちの年齢に直したら、まあだ25かそこいらなんだよっ!!」


 和哉は絶句した。

 カタリナは、同じ異世界転移組でも、地球人ではなかった。


 そうだった。


 ナリディアは「膨張宇宙と、地球の属する宇宙がぶつかった」と言ったのだ。

 だから、膨張宇宙の側にも、地球人と同等の文化や知識を持った人種が存在していたのだ。

 その人達も、衝突の巻き添えになった、という事実に、和哉は遅ればせながら気が付いた。


「……ごめん、なさい」


 バカにされたこちらが先に謝るのもおかしいのだが、カタリナの勢いに圧されたのと、妙な罪悪感が湧いて、和哉は思わず頭を下げてしまった。


「分かりゃいいのさ」つん、と顎を上げたカタリナは、ベッドのヘッドボードに置いてあった紙巻きタバコの箱に手を伸ばした。


「で? ひと月前の騒動がまだ片付いて無かったって? ここんとこあたしはパブの仕事しかしてなかったから、知らなかったけどね」


 ロバートは頷くと、


「それだよ。一旦はモンスターが減ったんで、みんな終息したんだと思って、見回りも止めてたんだが……。またここんとこ出没し始めたんだ。それで、アリ達のグループが調査を引き受けて、ボスが西の山の洞窟にいるらしいってとこまでは分かったんだ」


「じゃ、アリのグループで、洞窟に乗り込みゃいいじゃないか? なんでロバートがボス退治を引き受けたのさ? おまけに、またあたしまで巻き込もうって?」


 なんなんだい、と、尖らせた口の先から、カタリナは紫煙を立ち上らせた。


「アリのメンバーは、西の山に乗り込んで、アリ以外は全員、重傷なんだと」


「バァカかい?」カタリナは呆れた、という顔をした。

「傷なんざ、癒しの魔法で治るだろうが。神父に頼みゃ一発だろ?」


「ボスは毒蔓のバケモノで、そいつの毒は、特殊なステータス異常を引き起こすんだ。――石化だと」


「はあん……。それじゃあ、神父の手にも負えないか」


 カタリナは、煙草を持った手で、困ったという感じにこめかみを揉んだ。


「ちょっと待ってよ、ロバート」


 それまで二人の話を黙って聞いていた和哉は、初仕事が思った以上の大事(おおごと)であるのに、焦った。


「そんな大変なボスモンスター、たった3人でどうやって倒す気なんだよ?」


「そうだねぇ、あたしもそいつを聞きたい。」


 灰皿に煙草を圧し付けて、カタリナは鋭い目つきでロバートを見た。

 ロバートは、惚けた笑顔を、和哉とカタリナ交互に向けた。


「俺は3人でボスに挑む、なんて言ってねえぜ?」


「え? じゃあ、まだ仲間を増やすつもり――」言い掛けた和哉の言葉を押し退けて、カタリナの大音量の声が叫んだ。


「ジン、かい!?」


「ああ」ロバートは、こっくり頷いた。

書いては更新してます。

ので、ちょこちょこ後から直して歩いています(^^;;


話がおかしくなっていたりする場合も多々あると思いますが、気がついた個所は、前の話でも直しておりますので、よろしかったら読み直してみてやって下さい。

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