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48.レス湖の遺跡2

 階段を降りると、カタリナが言った通り、不思議な景色が広がっていた。

 上の階では塞がれていた内側の壁にも窓が開いており、そこから湖面が見える。

 しかも、吹き抜けになっている城の内側に入り込んだ湖は、外側より湖面が2階分低い位置にあるようだ。


「わざと水を入れたんかな?」


 でなければ、吹き抜けの水面が低くはならない。

 和哉の疑問に、カタリナが頷いた。


「カズヤの言う通り、わざと水を入れない限り、ここに入りっこないんだわ。けど、どうやって入れたのか、仕掛けを見付けたくても、この階から下への階段が見つかってないんだわさ」


「あるいは、古の主がわざと塞いだか」とルース。


「ともかく、先へ行くしかないだろう。この遺跡に来た目的は、探索ではなく腕慣らしなんだから」


「まあ、そうだわさ」と、カタリナはルースの言葉に頷いて歩き出した。


 回廊を、上の階と同じく右へ回る。最後尾のコハルとメルティが、水面からジャンプした、オレンジ色の魚を見て騒いでいた。


「きっれいっ!!」


「とても珍しい色の魚ですねっ」


「オレンジフィッシュって言うらしいんだわさ。煮るとオレンジの香りがするって、漁師が言ってたわさ」


 塞がっている回廊の内側に、湖の魚が生息しているのがちょっと不思議だ。

 それはさておき、アルベルト卿が居たら、絶対食べてみたいと言い出すだろうな、と和哉は思った。


 やがてカタリナが言っていた通り、黒い大扉が、回廊を塞ぐように現れた。


「開けたら、またコウモリ野郎の緑色がチカチカかあ」ぼやきつつ、ロバートが扉の縦長のノブに手を掛ける。


「気ぃつけな。今度は黒いのが来るよ」


「へいへい」とおどけた返事を返し、ロバートは扉を押した。


 上の階の扉と同じように軽い金属音がして、扉が開いた。

 と、中から何かが扉へ向かって走って来るのが、ちらりと見えた。


「離れろっ!!」ルースが鋭く叫ぶ。


 ロバートは素早く身体を反転させ、扉の外へと出た。

 カタリナは、開けられていない側の扉に背をぴたり、とくっつける。

 半分開いた扉から、猛スピードで黒い塊が駆け出て来た。


 《ジャイアントラット レベル100》


 体高は低く、大きな牙が上下に生えていて、ネズミというより地球で言うイノシシに似ている。


「こいつかぁっ!! 黒いのってっ!!」間一髪、ぶつかられずに済んだロバートが、疾走するモンスターを、驚きの表情で見送る。


 和哉達全員が上手く進路から逃げたので、ジャイアントラットは階段の近くまで走って行った。

 そこでくるり、と向きを変え、こちらへ戻って来る。


「また一匹出て来るぞっ!!」扉を覗いたロバートが、警告する。


「出戻りを片付けなっ、お嬢ちゃん達っ」ルースがコハルとメルティに指示した。


 メルティはベルトに差していた三節棍で、ジャイアントラットの前足を器用に叩いた。足が止まったモンスターの首を狙って、コハルが小剣を突き刺す。

 さすがは忍者。コハルは剛毛のジャイアントラットの急所を、一撃で刺して殺した。


 その様子を横目で見届け、和哉は正面から突進して来る新手のジャイアントラットに向き直る。

 扉から飛び出して来たところを、まずはロバートのバスタードソードが斬り付けた。

 が。


「硬ってえっ!! こいつ斬れねえっ!!」


 頭を狙った一撃は、惜しくも跳ね返される。


「コハルを見習えっ!! 急所を狙うんだっ!!」ルースに怒鳴られ、ロバートは、殴られて足を止めたジャイアントラットの首を狙った。


 バスタードソードで首を突き刺し、どうにか2匹目も仕留めた。だが、そのすぐ後ろから、3匹目、4匹目が飛び出して来た。

 慌てて剣を引き、ロバートが3匹目を避ける。そいつの足を、ガストルがバスタードソードで叩いた。

 空かさずルースが首を刺す。

 どうっ、と倒れたジャイアントラットの身体から、黒い血が流れ出る。

 その血の上に、4匹目が跳躍して来た。


 ルースは間に合わず、刺した剣を引いて逃れる。

 足を薙ぎ払おうとしたタイスの剣が空振りし、ジャイアントラットは真っ直ぐに和哉目掛けて走って来た。

 和哉はアマノハバキリを背から引き抜き、真正面からジャイアントラットを迎え撃った。

 正面から斬る積りの和哉に、ルースが警告する。


「バッカっ!! それじゃ――!?」


 真竜(リアディウス)の変化であるアマノハバキリは、他の剣とは靭さが全く違う。

 いける、と信じ、和哉は剣を振り下ろした。

 ジャイアントラットの頭部が真っ二つに割れる。もんどり打ったモンスターが、回廊の側壁に激突した。


「……すんげえ……」タイスが、小声で呟くのが聞こえた。


 和哉の腕と剣の靭さに呆れたのか、ルースもガストルも、ロバートやコハル達までもが、あんぐりと口を開けて固まった。

 だが、皆が手を止めたのも束の間、また3匹のジャイアントラットが扉から突進して来た。

 

「出て来るだけ出して、廊下で仕留めろっ」戦闘モードに戻ったロバートが指示する。


 先に出て来た2匹をやり過ごすと、ロバートは最後の1匹の後ろ脚を薙ぎ払い、前に出たガストルが首を刺して仕留めた。

 最後尾のメルティとコハルが、最初のやり方で先頭の1匹を倒し、2匹目は和哉がまたアマノハバキリで胴を綺麗に斬り分けた。


「まだ出て来るかっ!?」ルースの問いに、ロバートが中を覗く。


「あと2、3匹くらいか? 中でうろついてやがる。――入るとコウモリだしなぁ」


「追い出しを掛けてみるわさ」カタリナが、ひょい、と掌に炎の球を作り出し、中へ投げ込んだ。


 球は見る間に大きくなり、部屋の中央付近で直径約2m膨らむと、爆発した。

 爆風に巻き込まれたポイズンバットが、ばたばたと焼けて落ちる。

 爆発と、落下して来るモンスターに驚いたジャイアントラットが、中から飛び出して来た。


 その数5匹。


 カタリナは急いで扉の陰へ引っ込む。

 ロバートは最初の2匹を避け、後続のルース達に任せた。

 ルースとタイスは2匹目を、コハルとメルティはまた先頭のモンスターを倒す。

 3匹目はガストルが足を叩き、ロバートが仕留めた。

 だが、4匹目の突進を避けるのが間に合わなかったロバートが、もろに体当たりを食らう。


「うっわっ!!」ロバートの巨体が、メルティ達の居る辺りまで吹っ飛ぶ。


 大丈夫か? と問う暇も無く近付く4匹目を、和哉は一刀で切り捨てた。

 最後の一匹をルースとガストルが仕留めたのを見届けて、和哉は階段近くで仰向けに倒れているロバートに駆け寄った。


「生きてるっ!?」


「……殺すな」


 側にしゃがんで心配そうに様子を見ていたコハルの後ろから覗いた和哉に、ロバートはむっくりと起き上がって苦笑しつつ返す。


「思いっ切りぶち当られたけど、鎧に凹みが出来た程度だ。カズヤとおんなじ装備にしといて正解だったぜ」


 とはいえ、胸が痛むと言うロバートに、和哉は癒しの術を掛けた。

 和哉の魔法を見ていたルースは、本当に驚いた、と目を剥いた。


「あんた、一体どれだけの技が使えるんだ?」


「……それは、聞かないお約束、じゃなかったっけ?」


 惚けた和哉に、ルースはふん、と鼻を鳴らした。

 カタリナが、部屋の前で皆を呼んだ。


「あと、面倒臭いのはイービルアイなんだわさ。レベルが少々高めなんで、炎の魔法でも一撃じゃ落ちないんだわ」


 和哉は、まだポイズンバットが残っている室内を覗いてみた。

 自分がゲームで見たことのあるイービルアイなら、大きな目玉に細くて黒い鉤爪の手足と、コウモリの羽がくっついていて浮遊しているモンスターだ。

 ポイズンバットの緑色の光にぼんやりと見える天井付近に、それらしき浮遊物体が4、5匹飛び回っている。


「あの、イービルアイだ」和哉はロバートに言った。


 地球仲間で、やはり似たようなゲームをしていたロバートが、分かった、と頷く。


「ってことは、石化に注意、か」


「よく知ってるねえ?」カタリナが片眉を上げる。


「ついでに、ストップっていう術も使って来るよ。掛けられると動けなくなるんだわさ」


「結構、手強いモンスターなのね」メルティが、愛らしい顔をきりっ、と引き締めた。


「ま、石化はカズヤには効かないから大丈夫だ。――先にポイズンバットを片付けちまうか」


 ロバートの言葉に、カタリナがもう一発、炎の球を部屋へ投げ込んだ。

 爆発が起きる。キーッという、コウモリの断末魔が一斉に響く中へ、和哉は1人で入った。

 カタリナが、明かり用の火の玉を5個、投げ入れてくれた。先程より明るくなった室内の天井付近から、大きな目玉のモンスターが、和哉の方へと飛んで来る。

 イービルアイの後ろから、まだ生き残っていたポイズンバットも来た。

 敵が攻撃圏内に入る直前。

 和哉は火炎放射をお見舞いする。

 ジェット戦闘機の噴射並みの炎が、天井の4分の1ほどを覆う。

 ポイズンバットはほぼ全滅。しかし、レベルの高いイービルアイはまだ生きている。


 ジンが居ればモンスターの残りHPが分かるのだが、生憎和哉は読めない。

 イービルアイは、和哉を警戒してか、天井すれすれの位置から中々降りて来ない。

 もう一度火炎放射をぶっ掛けようか、と和哉が身構えた時。

 後ろからコハルのくないが、イービルアイ目掛けて飛んだ。

 ブーメラン形の、少し大きめなくないは、イービルアイの羽根の片方を切り落とし、コハルの手に戻る。

 浮力を失ったモンスターが落ちて来るのを待って、和哉はアマノハバキリを振った。

 ぐにゃり、という、内臓を斬ったような嫌な手ごたえを残し、イービルアイの目玉(胴体)が真っ二つになった。


 残りの4匹が、一斉に《にらみ》で和哉にストップを掛けに来た。が、麻痺系の術に耐性があるためか、和哉はストップに掛らなかった。


「カズヤのほうがモンスターだな」ルースが呟くのが聞こえた。


「そうかもだわさ」カタリナが笑い含みに返しながら、詠唱無しで雷撃の魔法を放った。


 初級クラスのサンダーは、あまり攻撃力は無い。が、一度火炎放射を浴びているイービルアイには、効果があった。

 雷撃を受けた1匹が落下してくる。和哉の右脇から飛び込んだロバートが、バスタードソードで叩き斬った。

 再びコハルがブーメラン型くないを飛ばす。コハルに続いて、カタリナも2度目の雷撃を放つ。

 片羽根を失ったイービルアイが、落ちながら《にらみ》で石化を掛けて来る。中へ入り掛けたガストルが運悪く掛かり、固まる。

 和哉は急いでガストルの身体に手を当てた。


「石化、解けろ」


 すぐに石化が解けるのを見て、タイスが「なんだそりゃ!?」と叫んだ。


「気にしないでくれって」


「……おまえ、ほんとに人間か?」


 和哉がタイスと言い合っている間に、コハルとカタリナが落下させた3匹を、ロバートとルースが潰していた。


 部屋の最奥の、壁が半円形に窪んだ辺りに残っていた2匹のポイズンバットを斬り落とすと、モンスターは全て居なくなった。

 ロバートはコハルと一緒に、ジャイアントラットの《落し物》を拾いに、一旦室外へ出て行った。

 和哉は残ったメンバーと、イービルアイとポイズンバットの《落し物》を拾い集めた。

 大量のポイズンバットの羽と毒袋を拾っていると、その中に、炎の明りに照らされてキラッと光る小さなものを見付けた。


「……小瓶?」涙型の小さなガラス瓶を拾い上げて、和哉は首を捻った。


「これって、イービルアイの落し物なん?」


 カタリナに見せると、炎の魔女は驚いた顔で「そうだわよさっ!!」と叫んだ。


「めっずらしいんだわさっ!! イービルアイの《目薬》はっ!!」


 カタリナの声に、ルース達も寄って来た。


「話には聞いたことがあるが。現物を見たのは初めてだな」


 ルースが、和哉の手の中の《目薬》をしげしげと見る。


「こいつがあれば、《暗闇》の術を掛けられた時にすぐに解除出来るんだぜ?」とタイス。


「中々、手には入らん」いつも無口なガストルまで、感心しきりという表情で言った。


 イービルアイの《目薬》は、結局和哉が拾ったひとつだけだった。あとの《落し物》は、ポイズンバットと同様、丈夫な羽だけだった。

 ジャイアントラットの《落し物》を拾い終えたロバートとコハルが戻って来た。


「なんだった? 《落し物》」尋ねた和哉に、ロバートは首を竦めた。


「《牙》と《毛皮》だけだ」


「こっちは、イービルアイの《目薬》が1個、手に入ったんだわさ」


 カタリナが、さも自分が見付けたかのように自慢げに言い、ついでに《目薬》の効能もロバートとコハルに説明する。

 呆れたという顔で聞いていたルースが、カタリナが喋り終わるのを待って、尋ねた。


「ここから先は行けないのか?」


「ああ……と。そうさね、行き止まってた筈だわさよ。他に出入り口もな――」


 カタリナの答えが終わらぬうちに、突然、最奥の半円形の壁の窪みが動き出した。

 石壁だと思っていた窪み部分がぐにゃり、と、まるでゴムのように前へ押し出る。

 押し出た部分はそのまま、何かの形を作り始めた。


 鎧兜を着け、バトルアックスを握った、桁外れに大きな巨人。

 その背の高さは、ざっと見て約3m。


 あまりに意外な仕掛けに、和哉達が呆気に取られている間に、巨人は壁の茶色から(くろがね)色に変わる。

 全身が鉄で覆われたモンスターは、巨体ならではの大股な踏み出しで、部屋全体を揺らした。

次は小ボス戦っす!!

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