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47.レス湖の遺跡

 レス湖までは、南レリーアから歩いて丸1日掛かる。

 馬車を使えば半日と少しだ。

 翌朝。和哉とロバート、カタリナは、持ち物倉庫に食料やその他の備品が十分あるのを確認し、同行するメンバーに伝えた。

 メルティが、旅支度を整えて宿へ来た。

 いつも着ている黒いスウェットの上にサンドウォームの胸当てを着け、両腕にはミスリルの篭手を嵌めている。

 靴は、底をダーマスク剛で強化した一角熊の皮のロングブーツだった。


「武器は?」尋ねた和哉に、メルティは「これ」と、サンドウォームの皮のベルトの後ろに挟んでいた三節棍を見せた。


「格闘専門か。じゃ、前衛だな」ロバートが、ちょっと渋い顔をする。


「厄介そうなモンスターだったら、交代して貰えばいいじゃん。な?」


 和哉が振り向くと、メルティはぎこちなく頷いた。


「それでも信用出来ねえって」タイスはまたごね始めたが、和哉は無視して、「そんじゃ、出発」と、号令を掛けた。


 まずは、デュエルが馬車を預けた駅舎に行く。

 アルベルト卿が畳まなかったので、馬車はそのまま駅舎に入っていた。

 今回は全員馬車での移動となる。

 タイスはメルティを避けて、一番前の席に座った。


 四頭立ての御者台には、ロバートとガストルが座った。ガストルは故郷で荷馬車の御者をしていたという。

 馬車は、到着した時とは真反対の南東門から街を出た。


 道中、和哉はカタリナに昨夜の件で気になったことを訊いた。


「メルティに掛けた暗示って、あれ、《バーサク》を解くためのもんでしょ? なのに、おんなじ言葉でどうして、メルティがバーサーカー状態になったんすか?」


「それ、私自身も知りたい」メルティが身を乗り出した。


 カタリナはゆっくり紫煙を吐く。


「アビリティの発動にも使うのさね。でないと、戦ってる最中に勝手にバーサーカーになっちまうだろ?」


「暗示で全部コントロールするのかぁ」なるほどね、と和哉は手を打つ。


「ある程度はね。けど、どんな状態になると発動するのかって条件が分からないんで、その条件が揃っちまった時には、暗示の抑えが効かないかもしれないんだわさ。――そこんとこ、よおく自分で覚えときなね」


 メルティをじろり、と見て念を押したカタリナに、メルティが「分かった」と、少々強張った顔で頷いた。


 昼少し前に、一行はレス湖へ到着した。

 街道から右に逸れた場所に、湖はあった。カタリナが説明してくれた通り、円形状の大きな城が、湖の中央から突き出している。

 岸辺には広く草木を刈り取った広場があり、いくつもの馬車やテントが並んでいた。


「城までは舟で行くんだわさ」


 ロバートが適当な場所に馬車を留め、外した馬を冒険者協会の出張所駅舎に預けに行く。

 その間に、カタリナは和哉達を連れ船着き場にやって来た。

 舟は12人乗りで、1パーティごとに貸し切り。漕ぎ手と合わせて、貸出料は一往復につき30テリングである。


 舟の乗降管理の男の差し出すカードに、リーダーの名とパーティの人数を書き込む。

 今回は一応、案内役のカタリナがリーダーとなった。

 ロバートを待って、和哉達は舟に乗った。


「随分と……、水が澄んでるんだな」普段あまり喋らないガストルが、水面を見つつぼそり、と呟いた。


 強めの夏の風に煽られる雲が、太陽を見え隠れさせ、その度に湖面の小さなさざ波がきらり、きらり、と宝石のように光っている。


「そうだね。ダルトレットじゃあ、こんな澄んだ水を湛えた湖はあんまりないな」ルースも、眩しそうに湖面を見遣る。


 和哉は首を伸ばして水の中を覗いてみた。ルース達が言うように、清く透明度の高い水は、赤や黄色のカラフルな小魚の姿の下に、人工的な石組みのようなものまで見通せる。


「……この真下にも、遺跡があんの?」


「ああ。あそこに頭だけ出してる城は、実際には湖の底の方でずうっと岸近くまで広がって建てられてるんだ」


 和哉の問いに、屈強な船頭が答えてくれた。


「円錐形の城か。あのてっぺんの大きさからすると、かなり深い湖だな」ロバートも覗き込む。


「深いよ、レス湖は。ただ水生のモンスターが居ないんで、安心して漁が出来る」


 話しているうちに、戻って来るパーティの舟とすれ違った。

 乗っている冒険者の顔を、和哉はちらりと見た。5人ほどのパーティのほとんどが、10代後半らしい若者だ。

 やや疲れた様子だったが楽しそうに喋っている他パーティの若者たちに、この遺跡は本当に腕慣らしだな、と、和哉は思った。


 程なくして、城の遺跡に舟が着いた。

 元々舟で渡るようには建造されていないらしい城には、簡単な木造の船着き場が、大きな窓らしき場所に無理矢理設置されている。

 湖が深いため船着き場は水中で固定されてはおらず、筏のように浮いている。

 大人2人がやっと横に並べるほどの船着き場に、まず和哉が靴を脱いで降りてみた。

 火トカゲのアビリティでどこにでもくっつくことが出来る和哉は、万が一、船着き場が転覆しても水中に投げ出されない。

 和哉の体重で多少撓んだものの、結構頑丈な筏式船着き場は、次に降りたロバートも難なく支えた。

 先にロバートが窓へと向かい、和哉はカタリナ、コハル、メルティと女性陣に手を貸して下ろす。

 ルースに手を差し伸べると、「いらないよ」と無下に断られた。


 残りの男2人も降り、いよいよ遺跡の中へと入って行く。


「最初は右の通路から行ったほうが無難かね」


 カタリナの言葉に従って、ロバートを先頭に、一行は右側へと歩き出した。

 靴を履くのに手間取った和哉は、コハルと共に最後尾についた。

 硝子の無い窓が多い城の遺跡は、回廊になっており、昼間なら松明や明かりの魔法は必要ない。足元も、水中に建てられている割には乾いていた。


「モンスターなんて、いねえな」ロバートが、天井を見上げながら呟く。


「これじゃあ、腕慣らしにもなんねえぜ?」


「この先に扉があるんだわさ。そこを開けると、ごっそり出て来るわさ」


 カタリナが言った通り、窓が途切れ、暗くなった通路の先に扉が現れた。 金属製だと思われる扉は、湖の中という悪環境にも拘わらず、全く錆が無く、真っ白である。


「罠は無いから、普通に開けて大丈夫だわよ」


 ロバートは、両開きの大きな扉の、細長い取っ手を掴んで押した。

 きいっ、という軽い音がして、扉はすんなりと開いた。


「うっわっ!!」身体半分中へ入ったロバートが、突然驚きの声を上げた。


「どうした!?」ルースが鋭く尋ねる。


「……びっしり、緑色に光ってるコウモリが、天上から、ぶら下がって、やがる」


「ポイズンバットだわさ」気持悪そうな表情で振り向いたロバートに、カタリナが平然と説明する。


「素早いモンスターだけど、斬って斬れないこともないんだわさ。けど、面倒臭いんだったら、あたしとカズヤで片付けるんだわ」


「えっ、俺っ!?」和哉はいきなり指名されて、慌てて前へ行った。


「あんた、毒は平気だろ? 先に入ってひと吹き、焼き殺しちまいな」


 和哉は、ロバートが半身で開けている戸口から中を覗いた。本当に、全身が緑に発光している、いかにも『毒持ってます』というコウモリの大群が天井で待機している。

 レベルは125。体長は60㎝くらい。体色とは逆の赤く光る目で、一斉にこちらを見ている。

 人間が入って来たら、即、飛び掛かって来るのだろう。

 確かに、ここは毒耐性がある和哉が先に入り、火トカゲブレスである程度片付けたほうがいい。

 に、しても、どうもカタリナには便利屋のように思われているふしもある気がして、ちょっとだけがっくりしながら和哉は中へと入った。


 予想した通り、コウモリが次々と飛来して来る。

 素早く息を吸い込んだ和哉は、喰い付かれる前に火炎放射をお見舞いする。

 魔法レベルが上がったせいか、炎の勢いがルムブル・ドラゴン並みだ。

 飛んで来た20匹程を、簡単に丸焼きにした。


「ほいっ」和哉のブレスが切れる直前、カタリナがファイヤー・ボールを天井にぶつける。

 火の玉が、奥に残っていたポイズンバットの半分を焼いた。

 残ったポイズンバットは、ざっと見た感じだが約40匹ほどか。


「おーっ、残りこれくらいならどうにかなるか」


 ロバートが、バスタードソードを抜き中へと入って来た。奥から飛来するポイズンバットを、次から次と一撃で斬って捨てる。

 ルース達も飛び込んで来る。動きは素早いがレベルが高くない毒コウモリは、ロバートやルース達傭兵の腕なら、40匹の群れでも掃討するのにそんなに時間は要らなかった。

 ポイズンバットの《落し物》は、丈夫なコウモリの羽の皮と、緑色の毒袋だった。


「コウモリ、喰っとくか?」《落し物》を拾いながら、ロバートがからかって来る。


 和哉は眉を顰めて「いらねえよ」と返した。


 毒コウモリを片付けると、その部屋にはもうモンスターは居なかった。

 先の扉から出て、再び窓のある回廊を歩く。


「窓のある場所にはモンスターが出ないんだ」和哉の呟きに、カタリナが、「そういう仕掛けなんだわさ」と答えた。


 程なくすると、階段が現れた。

 階段は、下へと続くものと、上へ昇っているものとあった。


「……どっちが楽しそうだ?」と、ロバート。


「記憶じゃあ、上へ行くと銀色の大扉があって、中はイービルアイとポイズンバットとジャイアントラットの大群が待ってるわさ。下はまた回廊に出て、しばらく行くと黒い扉があって、その中は、やっぱり上とおんなじ」


「どっちもまた、カズヤの丸焼の餌食か」ロバートがにやっと笑いながら和哉を見た。


「ジャイアントラットは、火に強いんだわさ」


「じゃ斬るしかないか。――デカさは?」


「約1m半ってとこだわね。真っ黒だから、部屋の中で突進されると危ないんだわ」


 確かに、ポイズンバットの発光だけでは、室内は薄暗い。上からと下からの攻撃を受けるのは、かなり厄介だ。


「面倒くせえ」タイスが、ぶうっ、と頬を膨らませた。


「でも、そんな強くはないんだわ。メルティの修行にもなるかもだわよ?」


 カタリナが、先程のコウモリ掃討には加われなかった最後尾の亜人の娘を振り返って言った。


「どっちもどっちなら、下に行ってみる? 回廊から湖も見えるんだわ。魚が泳いでるのがよく見えて綺麗なんだわさ」


「観光地だな。ここは」ルースはうんざりした、というような調子で腕を組んだ。


「宝も無いし、モンスターの《落し物》も大したものは無い。――だが、まあ、迷宮(ダンジョン)と言われるものがどんなものなのか、ほんの少し覗ける場所としてはいいか」


「そういうことだわさ」


 それじゃ、と、カタリナがヒールの音も高く階段を降り始めた。

 回廊から湖面が見える、というのは、ちょっと面白いと思いつつ、和哉も後に続いた。

ジンちゃんとアルベルト卿は、今回居ません。

すいません。

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