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39.南レリーア

 ハイドラが出現した沼からマニュエルルス河に掛かるタタン大橋に差し掛かるまで、約2日。

 馬車が4台は横に並んで通れそうな石造りの巨大な橋を渡り、約100メートル程で、南レリーアの外郭の第一の大門に入る。

 大門は、アーチ型の巨大な建築物で、内側には南レリーアの通行確認所がある。

 村や町の入り口や門、柵や外壁には、モンスター避けの神聖結界を神官が掛けているので、門に入ればモンスターは出ない。

 これまでの街には無かった石造りの門を、和哉は馬車の窓から顔を出し、しげしげと眺めた。


 何台もの荷馬車や客用馬車が、通行手続きをするために両側の通行許可所の前へと並んでいる。

 徒歩で荷物を運んでいる商人も、専用の窓口に数人が列をなしていた。


 高位貴族や王族の別邸も多くある南レリーアでは、盗賊のような輩を街に入れないよう、十分な警戒がなされていた。

 そのひとつが、街に入る旅人の身分審査だ。

 身分審査は、身体と特殊技レベルの分かる御使いの神官と、街の行政官が審査官として、二人1組で審査している。

 商人や農民は、住んでいる村や街で身分証が発行される。


身分証がある商人や農民、職人と言った定住者はいいが、和哉達のような、冒険者という連中は、定住先が無い者が大半なので、身分証などはない。

 どうするのだろうと心配をしていると、ジンが「大丈夫」と頷いた。


「冒険者の身分保障は、立ち寄って仕事を依頼した神官が証明書を出すか、冒険者協会に登録して発行してもらうのがならわし。でも、冒険者協会は南レリーアのような大きな街にしかないし。本当は最初の村で神官に証明書を貰うのが順当だったけれど」


「そっか。そいつは知らなかったな」とロバートが眉を寄せる。


「ずっと、俺もあの村から動かなかったしな。そうと知ってりゃさっさと証明書を出して貰ってた」


「あたしは、持ってるんだわさ」と、カタリナは肩に掛けたポーチから掌大の金属のプレートを取り出した。


 和哉は、カタリナの手を覗き込む。プレートには、日本でいうところの家紋のような、植物の文様と、その下に細かい文字がびっしり並んでいた。

 あまりに細かいので全部は読まなかったが、要するに協会の規約や、冒険者の権利、義務について書いてあるようだ。


「持ってねえと、門を通るのにやっぱ面倒になるか」


 参ったなあ、と、渋い顔をしたロバートに、ジンが、「別に問題ない」と言った。


「今回は神官戦士の私が一緒だから、冒険者の証明は必要はない。それに、正騎士のアルベルト卿も居るし」


「それは、そうなんだろうけど」と、和哉は気になったことを尋ねた。


「アルベルト卿、アンデッドですけど。神官にバレないんすか?」


「なに、その辺りは如何様にも誤魔化せる」


 本当なのか、と心配しているうちに、和哉達の順番が来てしまった。

 ルースと二人の仲間は、元傭兵騎士なので、すんなりと審査が済んだ。

 デュエルは、何やら査定の神官と監視官にこそこそと話をする。と、了承のサインが出た。

 残るは、馬車に乗っているメンバー、和哉、カタリナ、ロバート、コハル、ジン、アルベルト卿だ。

 ジンが馬車から下り、神官に例のペンダントを見せた。

 途端。

 神官の態度が一変した。


「どうぞ、お通り下さい」


 監視官までがジンに最敬礼をし、ジンは、姫君のように優雅に馬車に乗り直す。


「もう、大丈夫」


「じゃ、行くぜ」と、デュエルが馬車の手綱を振った。


「……何が、どうした訳?」


 ジンのペンダント一個で事が片付いてしまったのに、和哉は何が起きたのか分からず尋ねた。

 その隣で、ロバートが「そうかっ」と、手を打った。


「ジンの身分かっ。そーいやそのペンダント、王族のもんだって、傭兵の姐さんが言ってたな」


「あたしが、何だって?」


 器用に馬の鞍から馬車を覗き込んだルースが、ロバートを睨んだ。


「違うって。悪口じゃあなくってよ、ジンのペンダントの話だ」


「ああ。そのことか。――それで思い出したけど、あんた達、これからまっすぐ騎士団の駐屯所へ行くのかい?」


「いや」ジンが否定した。


「一度冒険者協会へ行く。会長に事の次第を話して、それから駐屯所へ行こうと思う」


「なんで、冒険者協会へ?」


「デュエルの里親が、冒険者協会の会長なんだって」


 軽く教えた和哉に、ルースは何を慌てたのか、思い切り手綱を引いてしまった。

 馬が驚いて前足を高く上げる。

 側を歩いていた商人や街の人が、馬が暴走するかと恐れ、通りの脇へ皆退避する。

 さすがに傭兵騎士団団長だけあって、大通りで馬から落下するようなみっともない姿は晒さない。


「どうっ!! ……ああびっくりした。――どうしてそれを早く言わないんだっ」


 尖ったルースに、ジンは、「ああ……。言うのを忘れてた」と、あからさまな嫌がらせをしれっと吐いた。


 ルースが顔を顰めて舌打ちする。


「ったく。なら、初めから罪人になんかならないじゃないかっ」


「そうとも限らんだろう」と、アルベルト卿。


「コルルク泥棒を働いたのは事実だ。我らが捕えたのだから、それは揺るがぬ。事実を知った上で、デュエルの父上が、養い子をどうされるかはそちらの都合だ。ただ、正義を重んじる人物であれば、例え養い子であろうとも正騎士団に罪を問うであろうが」


「それだって、南レリーアの冒険者協会の会長の養子を投獄出来るほどの豪胆な正騎士は、今はいないと思うけどね」


 冒険者協会の会長という立場がそんなに偉いものなのか、と、ある意味部外者の和哉は内心で首を捻る。

 カタリナがにやっ、と和哉に笑った。


「地域の大掛かりなモンスター討伐や、国境沿いの隣国との小競り合いなんかに傭兵を集めるのには、国は必ず冒険者協会に話を通すんだわ。報酬の分配なんかも、冒険者協会で決めるのさ。でなきゃ、国じゃそんな細かいとこまで事務が回らないんだわよ」


「教会でも、やるんじゃないんすか?」和哉の疑問に、アルベルト卿が答えた。


「地域によってはな。だが、カタリナ嬢の言った通り、大規模な傭兵の募集の際は、冒険者協会でなければ事務がさばけぬ」


「それだけ、国が冒険者協会を頼ってるってことか」ロバートが呟いた。


「大きな仕事を国から依頼されるというのは、事実上多大な権威が、冒険者協会の会長にはある証明だ。……デュエルの父上がどういう人物なのか、私には分からんが、それ相応の人柄といってよいな」


 アルベルト卿は、正騎士としてあちこち転戦して歩いたのだろう、大きな街の冒険者協会会長とは、何人にも会っているようだ。


 程なくして、馬車は第二の門を通過した。


「こっちは内郭の門になる」


 ジンに説明されて、和哉は、やはり大門と同じようなアーチ型の大きな入口を、馬車の窓から首を伸ばして見上げた。

 第一の大門との違いは、あちらは大きな鉄の扉が付けられていたが、第二の門には天井から落とす形の柵があることだ。


「鉄柵門は、第一の大門が破られた時以外は、下ろされない」と、ジン。


「南レリーアがウルテアと戦争をしていた頃、一度だけこの鉄柵門が下ろされたことがあったらしい。けど、正騎士団と傭兵騎士団の猛攻で、ウルテア軍は南レリーアの街中にはとうとう入れなかった」


「懐かしき話だな」アルベルト卿が微笑んだ。


「あの戦闘の時は、生憎と私の部隊は北レリーア砦の応援に出ていたのだ。ガートルードはブランシュに騎乗し戦闘に参加していて、他の3人の竜騎士と共に、ウルテアの兵士の半分をマニュエルルス河に叩き込んだ、と言っていた」


「竜って、そんなに強いんだ……」改めて感心する和哉に、ロバートが「今更かよ」と突っ込む。


「で、現在でも、竜騎士っているのかな?」


 一番知っていそうなジンに、和哉は尋ねた。ジンは、だが首を振った。


「いない。竜騎士は、竜と心話が取れる特殊技を持った人間しかなれない。アルベルト卿が活躍されていた頃は、結構その技を持った人間がいたが、今は本当に数がいない。その上、竜自体も頭数が年々減っている」


「それは、どうして……」


 和哉が尋ね掛けた時。

 デュエルが馬車を止めた。


「着いたぜ。南レリーア冒険者協会だ」

やっと最初の目的地に到着。

時間掛り過ぎ・・・(汗)

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