表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/114

38.取引

「一体、何をやったんだ?」


 危機から逃れられたのも束の間、ルースは険しい表情で和哉に問い質した。


「石化の魔法なんて、見たことも聞いたこともないぞ?」


「ええと……」


 正直に説明してよいものやら。

 和哉は、困ってジンを見た。

 ジンは、いつもの無表情で、砕けたハイドラの死体を眺めつつ、言った。


「カズヤのアビリティについて、詮索しない方がいい」


「……ふうん」ルースは、人の悪い笑みを浮かべる。


「もしかして国絡みな秘密ってヤツ?」


「おいおい、物騒なことは考えんなよ、姐さん」ロバートが、おどけた調子で釘を刺す。


 が、ルースは無視して、ジンに近付いた。

 すっと手を伸ばすと、少女の細い首に掛けられた銀の鎖を指に取る。


「これ、王族の関係者だけが持つのを許されてるペンダントだろ?」


 服の胸元から引っ張り出された、銀製の月と太陽のデザインのペンダントヘッドを、ルースは指先で撫でた。


「サーベイヤの神官には、王族や高位の貴族の出身者が多いって話だが、あんたもその口かい?」


 和哉は思わず「えっ?」と小さく驚きの声を出した。

 ジンは謎が多い、と、以前カタリナが言っていた。

 もし、本当にサーベイヤの王族の出ならば――いや、コハルと出会った時、コハルもジンのペンダントを見せられて、「和哉のことは国家の機密か?」と尋ねていた。

 ということは、やはり、ジンは王家と何がしかの拘わりがあるのかもしれない。

 まさか姫君、なんてことは無いと思うが、と、和哉は内心で少々びびった。


 無遠慮に自分の持ち物をいじり回す女傭兵を、ジンは、いつもの無表情で、黙ってじっと見ている。

 ジンが答える気が無いとみて、ルースはペンダントを放した。


「……まあ、いいや。あんたが何者でも、こっちには関係ない話だけどね。ただ詮索するな、って言うんなら、見返りは貰わないとね」


「仮にも、一度はサーベイヤの紋章を着けた剣士が、口止め料を請求とは」


 呆れたものだ、と鼻を鳴らすアルベルト卿を、ルースは睨んだ。


「剣士って言ったって、あたし達は傭兵だ。国は、あたし達に対して一定の対価は払っても、それ以上、命の保証まではしない。いざって時の捨て駒にだってする。あんた達正騎士みたいに身分や財産を保障されてない分、骨の髄まで国に忠誠なんか誓う必要はない。――死んでまでサーベイヤの騎士であろうなんて、これっぽっちも思っちゃいないね」


「ほう。私のことは気付いてたのか」


「当たり前だろう」タイスが言った。


「冒険者も兼ねる傭兵が、モンスターかそうでないか見極められなくて、どうするよ」


「然り」アルベルト卿は、深く頷く。


「見くびっていたのはこちらの方だったか。それは失礼した。……で、アンデッド・モンスターの私は、君たちにとって狩るべき対象かね?」


「いいや」ルースは笑って手を振った。


「生きてる人間の仲間になる程、しっかり自我のあるアンデッドに手出しはしないよ。しかも、あんたかなり強そうだし。返り撃ちはごめんだね」


 で、話を戻すけど、と、ルースは和哉を見た。


「あんたの特殊アビリティを黙ってる代わりに、あたし達にそれ相応の支払いをするの、しないの?」


「何が望み?」ジンが訊いた。


 ルースは、頭一つ半は背の低いジンの、ブラスの瞳をじっと見詰める。

 ジンは、相変わらずの、何を思っているのか分からない表情で、ルースの赤い瞳を見返している。

 と、ルースがにやっ、と笑った。


「貴族の地位」


「おいっ、本気で言ってんのか?」思わず突っ込んだのは、デュエルだった。


「貴族なんて、最下級の男爵だって、それなりの功績を上げなきゃ許可されないぜ? それを、脅しで獲ろうなんて……」


「脅すなんて、人聞きの悪い。これだから亜人は頭が悪くて困る。あたしが言ってんのは、それだけの対価がある情報なのかどうかって話さ」


 明らかに半分冗談のルースの提案に、アルベルト卿はむっとした様子で腕を組み、ロバートは「あほか」と、草叢から馬車へと戻った。


 ジンは小首を傾げると、静かに答えた。


「本当に、貴族の地位が欲しいのなら、掛け合ってみてもいい」


 逆に、ルースがぎょっとする。


「マジで言ってんのそれ?」


「カズヤの能力は、なるべく吹聴して欲しくないし。本人もそれは望んでいない。最も困るのは、サーベイヤの外にカズヤの存在が漏れること」


「……なるほど、ね」女傭兵は、真顔になる。


「分かった。そこまであんたが言うってことは、もし、あたし達が何処かの国にこのにーちゃんの情報を売った時点で、サーベイヤの暗殺隊に狙われるってことだ。――そりゃご免だわ。黙っとく」


「え? サーベイヤの暗殺隊って……?」


 和哉は始めて聞く物騒な集団名に、思わずジンとアルベルト卿を見る。

 アルベルト卿は、ジンに頷くと、和哉に答えた。


「どの国にも、表の顔があれば裏の顔がある。サーベイヤの正騎士団が軍事においての表の顔なら、暗殺隊は裏の顔。不都合な情報を漏らした者を、密かに処分するのが、主な仕事だ」


「オオミジマでの私達ハットリ一族のような存在ですね」とコハル。


「オオミジマには領土を取り仕切る主家とその家臣団、武家がおります。武家は、サーベイヤで言うなら正騎士団に当たります。ハットリ一族と他の忍者は、公に出来ない任務を担います。――時には、暗殺、なども」


「物騒な話なんだわさ」カタリナが、不貞腐れたようにショールを巻き直す。


「どっちにしても、カズヤもあんた達傭兵騎士も、まだ死相は出てないんだわよさ。当分付き合わなきゃならないようだけどね」


「そんなことが、分かるのか?」タイスが、冗談だろうという顔で言う。


「私はこれでも一流の占い師だわよ」カタリナが、ふん、と顔を上げる。


「人の運勢を見誤ったことなんざ、今までいっぺんだってないわさね」


「占いなんて、信じらんねえな」


 タイスが、小馬鹿にしたように肩を竦める。

 ぎろっと相手を睨み、くわっと口を開いたカタリナを、和哉は止めた。


「まあ待てって。カタリナの占いが本当に当たるってのは、その内この人達にも絶対分かるから。吼えるんならそん時にしてくれって」


 とにかく、ここで言い争っていても仕方がない。

 気勢を削がれたカタリナは、そのまま踵を返して馬車へと戻った。

 仲間が馬車に乗り込むのを見ながら、和哉はやれやれ、と胸を撫で下ろす。


 この先も、まだ道中は続く。

 これ以上の揉め事が起きたら、身が持たない、と、内心で溜息をつく。

 だが、和哉の心配を余所に、男前な神官戦士の美少女はルース達に平然と言った。


「南レリーアに着いたら、本当にルース達の身分の件は掛け合ってみるから」


 ジンが本気だと受け取ったらしいルース達は、「分かった」と短く頷くと、自分達の馬を取りに、草叢から街道へと戻った。

やっと次話が上がりました!!

次は、二、三日中にアップ出来ると思いますです。

頑張りますっ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ