3.剣士ロバート
宿屋は、教会の隣にあると神父が教えてくれた。
「というか、私が経営しております。道具屋と武器屋もありますので、ごゆっくりお泊りください」
――教会と宿屋が一緒なところって、ロープレにあったかな?
疑問に首を捻ったが、別に支障がなければいいか、と、和哉はすぐに考えるのを止めた。
宿屋の入口は教会の裏手口と面していた。
和哉はとにかく休もうと、すぐに神父、改め、宿のオヤジに休める部屋を頼んだ。
******
部屋は二階で、南の角の四人部屋だった。
ちなみに、一階は食堂兼武器屋兼道具屋だ。
部屋には先客がいた。
「おっ? 初顔だな」
派手な金の長髪の24~5の男は、日に焼けた男前な顔を、にっ、と笑顔に変えた。
「俺は、ロバート。剣士をやってる。もちろん冒険者だ」
ロバート、と名乗った男は、入口で突っ立っている和哉に手を出した。
握手しろ、ということらしい。
一日にしても同部屋になるのだ。心象は悪くしたくない。
和哉は、のろのろと移動すると、入口すぐのベッドに長い脚を投げ出して座っているロバートの側へ寄った。
「和哉。よろしく」
「カズヤ? もしかして日本人か?」
自分の地球での人種を言い当てられ、和哉は少なからず驚いた。
顔にも出たのだろう、ロバートが、面白そうに声を上げて笑った。
「そんなにびっくりすることか? ゲームは世界中で流行ってた。もちろん、日本はその分野じゃあ先進国ではあったけどね。――俺は、元はロンドン育ちだ」
ちょっと考えれば分かりそうなことだ。
地球人は和哉ひとりではない。そしてロバートの言う通り、地球にはゲームが蔓延していた。
「そう……だよな。異世界を選ぶ人が、俺以外に居ても、当たり前だよな」
「その通りだ、ボーイ。地球はもう無いんだし、選んだ以上、俺達はここで生きて行くのさ」
ロバートの言葉に、和哉は不意に、改めて『地球は無くなった』ということを実感した。
「そっか……。やっぱ、ここは異世界なんだ……」
急に、ゲーム世界に来たという、楽しい気持が萎んだ。
和哉は、どっと疲れを感じて、ロバートの隣のベッドへ、へなへなと座り込んだ。
「なぁんだよ? もう里心が出たのか?」
そんなんじゃあない、と言おうとして、だが和哉は、自分の心の中に、これまでの日本の生活を懐かしんでいる部分があるのを感じた。
家族のことは忘れたが、学校と家を往復しているだけの淡々とした日常は覚えている。そこには、ついさっき闘ったモンスターのような危険は、どこにも存在しなかった。
刺激が無いのが、逆に懐かしい。
多分、今は疲れ果てているのでこんなことを考えてしまっているのかもしれない。
初めてリアルに戦闘をしてみて、自分の非力さや動けなさを知って、情けなく思っているからかもしれない。
「泣いてるのか? ボーイ」
ロバートの大きな手が、和哉の頭にぽんっ、と乗せられた。
「大丈夫だ。確かに、地球は無くなったけど、さっきも言ったが、ここには地球から来た仲間が大勢いる。俺もその一人だし。カズヤはもう、俺の仲間だ」
素直に頷くと、ぽろっ、と、膝の上に滴が落ちた。
――かっこわりぃ。
和哉は慌てて、両手の甲で目を擦った。
「オーケー。疲れてるんだろ? 一度ぐっすり眠ったらいい」
ロバートは、和哉の頭をぽんぽんっ、と叩くと、まるで本当の兄のように和哉を寝かし付けに掛かった。
「取り敢えず、靴と革のベストは脱ぐ。特にベストは、そいつを着込んで寝ると妙な夢を見るぞ。蔓草のバケモノに捕まって締め付けられるとか」
和哉は、ロバートの陳腐なジョークに、ぶっ、と吹き出した。
「ありそうでやだな、それ」
「いいや、本当にあったんだっ!! 少なくとも俺は見た。経験者は語る、だ」
真剣に言うロバートがおかしくなり、和哉はますます笑った。
笑うな、と抗議するロバートに逆らって笑い続けながら、言われた通りにベストと靴を脱いでベッドに横になった。
ロバートが和哉に上掛けを上けてくれる。途端、和哉は、まるで眠りの魔法に掛かったように、すとん、と眠りに落ちた
忠告を聞いたお陰か、夢の中で蔓草のモンスターに出くわすことは無かった。
ええと、馬車馬のごとく書いておりますっ
現在楽しい真っ最中ですっ。
イギリス人のロバートが、なぜか言動がアメちゃんぽくなってますが、お気になさらず(^^;;