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27.50年前の暗躍

 ナリディアの対処ではかなり心もとないと不安を覚えつつも、他に方法はないのだろうと諦める。

 取り敢えず事情は分かった旨を伝えると、ナリディアは、いつものきゃぴりんコスプレ美少女顔に戻った。


「ではではっ、ラミアさんのほうには説明しておきますので、明日、もう一度洞窟へ行って下さい」


 これからもよい冒険を――という、ナリディアの声に送られるようにして、和哉は目が覚めた。

 部屋には、今帰って来た、という感じのアルベルト卿とロバートが、何やら難しい顔でひそひそと話していた。


「おかえり……」和哉は上半身を起こし、二人に声を掛けたる


「あ、起こしちまったか?」


 いや、と和哉は首を振る。


「ちょっと……、『例の人』に用事があって」


 寝ている状況+『例の人』と言えば、同じ境遇のロバートには通じる筈だ。

 事実、ロバートは、ははん、という顔をした。


「洞窟で、なんかあったか?」


「なんか、どころじゃないことが」


 と答えたところで、和哉は部屋にデュエルが居ないのに気が付いた。

 自分が仮眠をとる少し前までは、デュエルも自分のベッドに横になっていたのだが。

 そことをロバートに訊くと、


「ああ、奴なら、腹が減ったって、食堂へ降りて行ったぜ」と、呆れた顔をした。


「何だかくたびれたような顔をしてたけどな」


「洞窟でのこと、話さなかった?」


「いや。――カズヤに訊いてくれって、何も言わなかったぜ?」


 まあ、そうなるか、と、和哉はデュエルが黙っていたことに納得した。

 ラミアとの遭遇は、デュエルの責任ではない。完全に和哉への、ナリディアのサプライズだ。

 それは、ラミアと和哉のやり取りを聞いていれば、当然分かる。

 自分が口を出す問題ではないと、判断したのだろう。――それに、事は《悪魔ナリディア》に関係している。

 この世界の住人にとって、ナリディアはお近づきになりたい御使い様ではない。


「で? 何があった?」


 暫し考え事をしていた和哉は、顔を覗き込んで来たロバートに、ちょっと驚く。

 和哉の慌て振りに少し笑った元英国人の大男は、和哉に話を促すように顎をしゃくった。


「――地下二階の部屋で、ラミアと遭遇したんだ」


「なんとっ」驚いた声を上げたのは、それまで黙っていたアルベルト卿だった。


「ラミアには上位種と下位種が居る。下位種でもレベル1500から2500、上位種になると3500を軽く超える、強力なモンスターだ。それに遭遇して無傷で戻れたとは」


「……色々と、事情があって」と、和哉は言葉を濁した。


が、考えてみれば、アルベルト卿は、アンデッド・ウォリアーとはいえ仲間である。

仲間に、突飛な事情だからと、ずっと隠し事をするのは、どうしても気が引けた。

 ベッドから降りると、和哉は地球人仲間のロバートを、「ちょっと」と手招きした。

 何事かと、近付いたロバートは長身を和哉の頭の位置まで折る。


「アルベルト卿に、俺らの素性を話しても、いいかな?」小声で尋ねた和哉に、ロバートは一瞬、きょとんとした。


「地球から来た、異世界人だってことか? ――ああそれなら」


 ロバートは顔を上げると、アルベルト卿に向き直った。


「俺とカズヤの素性なんて、卿はもう、ご存じですよね?」


「うむ、大体は」アルベルト卿は、鷹揚に頷いた。


「この世界の人間でない事は、薄々分かっていた。……何というか、生者のにおいが乏しいのでな」


 和哉はどきり、とした。

 洞窟内でデュエルに言われた事と、ほぼ一致している。

 だが、アルベルト卿のほうが、更に意味深長だった。


 生者のにおいが乏しい――確かに、和哉達地球人は、地球が消滅した時点で一度身体を失っていた。

 肉体的には、死んだのだ。

 しかし、ナリディア達宇宙空間管理システムエンジニアが、高度な科学技術を用い、真我、と呼ばれる、人間の《核》の部分を、肉体との繋ぎ役となるアストラルという物質で出来た、本人と同じ容姿の《中枠》に入れて、この異世界へ移動するまで、一時保管していた。

 

考えてみれば、一度死んで、また新たな身体を作って貰い、この世界へとやって来たのだから、和哉達は言わばアンデッド・モンスターに近いのかもしれない。

俯いて、少し考え込んでしまった和哉に、アルベルト卿は明るい声を掛けて来た。


「気を悪くしたのなら、謝るぞ少年。だが、君らがどんな場所からやってきた者なのか、そんな事は私には関係ない。――今は、仲間だ」


「そう、ですね」


 アンデッド・ウォーリア―であるアルベルト卿を仲間と認めた時から、遠慮など要らなかったのだ。

 和哉は深く頷くと、本日の出来事を、ナリディアの事も含め、包み隠さず話した。

 さすがにナリディアの名が出た時には、アルベルト卿と言えども少々驚いた様子になった。が、さすがはサーベイヤの正騎士にして戦巧者のアルベルト卿、話の本質をすぐに理解した。


「……なるほど。では月天使は、自らの管理下から外れてしまった、強力な技を有した異世界人を、再び管理下に戻したい、と申すのだな。それには、少年の……、失礼、カズヤの能力が必要だと」


「端的には、そういうことです」


「ふうむ」と、アルベルト卿は、いつもの癖で本来なら無い顎を撫でる。


「ロバート。今日我らが仕入れた情報と、カズヤの情報、何処かしら共通点があるようだな?」


「えっ」振られて、ロバートが驚く。


「月天使が説明した、異世界からの邪教信徒だ。私が、アマノハバキリを預かる羽目になった事柄に拘わる一派と、行方不明の異世界人と、どうも繋がっている気がする」


「って、どんな話?」興味津々、というより、自分にも火の粉が降り掛かっている和哉は、少しでもいいから関連情報が知りたい。


 和哉の気持を汲み取ってくれたロバートが、ジンと3人でマランバルの街で集めた情報を話してくれた。

 話をしている途中で、ジンが夕食が出来た、と呼びに来た。

 3人は、続きは食事の後にしようと決め、階下へ降りた。


 ******


 アルベルト卿がマランバルで探していたのは、自分を含む、当時のサーベイヤの北面軍正騎士をロッテルハイム邸へとおびき寄せた人物についての情報だった。


「当事者達が50年を経た今、生きているとは思われん。しかし、そやつらに繋がる組織や人は、まだ残っておるやも、と思ってな」


 夕食後。

 和哉達は全員、男達が借りた4人部屋へと集まった。

 誰に聞かれるか分からないため、扉を閉めたあと、ジンが神聖魔法の《遮断結界》を部屋の中に張った。


「ロッテルハイム子爵のご子孫から直接話を伺いたいと、マランバルの館へ行ったのだ。だが、残念ながら、ご子孫は御使いの元へと旅立たれており、出会う事は叶わなかった」


 アンデッドならではの人探し、だろう。

 死んだ人の魂がまだこの世に留まっていれば、それと話をしようという。

 和哉は、斬新な捜索方法にいささか仰天しつつ、黙って聞く。


「代わりに、ご子孫の屋敷にたむろしていた同族から、耳寄りな話を聞けた。ご子孫がお亡くなりになる数日前、灰色の外套を着た魔術師の一団が、ご子孫を訪ねて来たと」


「それが、もしかして、ディビル教の信者っすか?」尋ねた和哉に、アルベルト卿は「いや」と、首を振った。


「はっきりとは分からぬ。だが、私がアマノハバキリを預かる時、確かにあの、灰色の外套の集団が、ロッテルハイム子爵邸に居たのだ」


「アマノハバキリは、とても数奇な運命を辿った刀だと、以前フミマロさまに伺ったことがあります」


 コハルが、急に思い出した、という風に言った。


「『神器』ではあるけれど、同時に『聖魔器』でもあると……。私には、よく意味が分かりませんが」


「『聖魔器』……」カタリナが、口の中で復唱した。


「それって、『神の武器』にもなるけど、『魔物の武器』にもなるってこと? もしそうなら、邪教の何かの儀式に、アマノハバキリが必要だったってことじゃないかだわよ?」


「けどそうなら、王族のルドルフ卿が、どうして多大な危険を冒して、オオミジマからアマノハバキリを盗み出したんだ? もし、自分が王位に就きたいなら、もっと簡単に……、例えば、自分より継承権が上位の王族を暗殺するとか?」


「然り」と、アルベルト卿はロバートの言葉に肯首する。


「邪教の儀式、もしくは、『神器』の所有と、ルドルフ卿の思惑の一致が窺えない。――双方に、他に何かメリットがあったのか……」


ジンが、口を開いた。


「『ルドルフ・カーナディヒ卿は、当時、アマノハバキリをオオミジマのイチヤナギ家から『譲り受けた』と詐称した』と、刑務史書には載っていた」


 皆が、「え?」と同時に声を上げた。


「だって、コハルさん達ハットリ一族は、盗まれたから探していたって……」


「そうですっ」とコハル。


「それを、堂々と『譲り受けた』って……。どういうことなの?」カタリナが、皺の寄った額に更に皺を寄せる。


「《幻惑》の術かもしれん。ルドルフ卿は、何らかの理由で邪教集団と拘わり、《幻惑》の術によって、イチヤナギ家から『神器』を『譲り受けた』と、思いこまされた」


「あるいは、逆かも」和哉は、思い付いた言葉をぼそりと言った。


 ジンが、和哉を不思議そうに覗き込んで来る。


「逆?」


「うん……。イチヤナギの誰かが、邪教集団に拘わっていて、当時のご当主が《幻惑》の術で、アマノハバキリをルドルフ卿に譲ってしまった」


「そっ、そんなっ!!」コハルは声を荒げた。


「そのような事、絶対にあり得ませんっ!! イチヤナギのご当主様のお側には、常にハットリの手だれが数人、護衛として侍っておりますっ。ハットリは忍者の一族、かなり強力な幻術や魔術にも耐えられる修業を積んでおりますっ。

 その手だれの守護を掻い潜り、ご当主様に怪しげな術など、掛けられる者はおりませんっ!!」


「当時の経過がどうあれ」と、アルベルト卿が話を纏める。


「オオミジマの『神器』はイチヤナギ家からルドルフ卿の手に渡り、ロッテルハイム子爵がその隠蔽を仰せつかった。そのために、私と北面正騎士の一団は特殊な術によってアンデッドにされ、50年という歳月、『神器』を守り続けた。

 というのが、事実だ。

 ――誰が? 何のために? 

 それが、期せずして現代に蘇る事が出来た、私の疑問だ。私は、ロッテルハイム邸の地下広間で、一瞬にして生を奪われ、アンデッドとして彷徨い続ける運命に投げ込まれた多くの仲間に、真実を伝えたいのだ」


「――邪教の信徒なら、《死者再生》の魔法を、扱えるのかも」ジンが、飛んでもない情報を冷静に口にした。


「なっ、なんだその、《死者再生》の魔法って?」目を剥くロバートに、ジンはいつもの無表情で「言葉通り」とだけ答えた。


「死んだ人間をアンデッドとして蘇らせる、ってコト?」聞いた和哉に、ジンがこっくりする。


「それが出来るなら、例えば、こういうことも言えるな。――邪教集団は、イチヤナギ家からアマノハバキリを奪うためにルドルフ卿に近付いた。卿に《幻惑》の術を掛け、アマノハバキリを奪わせる。そののち、ロッテルハイム子爵へと預けさせて北面正騎士を集めさせる。子爵の命を受けて剣を守る騎士達を一度殺し、《死者再生》の魔法でアンデッドとして、アマノハバキリを守らせた」


「どーして、そんな手の込んだことを?」


 ロバートの疑問を聞いて、仮説を披露した和哉も、どうしてだ? という疑問が頭に浮かぶ。

 切れ者アルベルト卿も「ふうむ」と唸った。


「全ては、アマノハバキリに秘密があるかも」と、ジン。


「確かに、だわね。そもそも、どーしてカズヤみたいな2流剣士を主に選んじゃったのかも、ナゾだわよ」


「へー、そーなんだ?」それまで黙って部屋の隅っこで丸くなっていたデュエルが、不思議そうに言った。


 和哉はふと思い立って、ベッドの下の引き出しに仕舞っていたアマノハバキリを取り出した。

 刀袋を外し、鞘ごと刀を取り出す。

『神器』であるアマノハバキリには、通常侍や忍者が持ち歩くための、革製の鞘は無い。白木の柄が付けられ、同じく白木の鞘に納められている。

 和哉は、アマノハバキリをそっと抜いてみた。


「……刀身を目にするのは、何日振りか」


 淡いランタンの明かりの下に現れた、青白い刀身に、アルベルト卿が目を細めた。

 和哉は、抜き身を技とデュエルの方へ向け、何も言わずに男の反応を見る。

 と。

 思った通り、デュエルは渋い顔をした。


「何かにおうのか?」


 デュエルは頷くと、


「えっらい強力なモンスターのにおいがする。――その剣、生きてるぜ」

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