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2.自分の能力を確認する

 和哉はナリディアに言われた通り、まっすぐに目の前に見える集落へと向かった。


「山田和哉さんの能力値については、お望みの通りの数値にしてあります。確認は、最初に降りる平原の南の村の教会で行って下さい。そこに、天使に仕える神父か尼僧がおりますので、その方にお話しして下さい」


 要するに、RPG王道ゲームタイプな世界らしい。


 歩行すること約十分。

 だが、まだ集落の入口には辿り着けない。

 道なき道、と言ったほうが正しいだろう草原は、結構背の高い草に覆われていて、掻き分けての行進は中々力がいる。

 おまけに、この世界の旅人の装備である、くるぶし上まで丈のある革のブーツは、頑丈であるがゆえに重かった。

 ここが、ゲームと現実の違いだ。


「うっえ~~、結構疲れる~~」

 

 力の上昇は頼まなかった。ので、体力は、多分地球時代とさして変わらない。

 もっと筋肉ムキムキにしてくれと言えば良かった。へこたれながらも、和哉は先へと進む。と。

 眼前に何かが飛び出して来た。正確には、飛び付いて来たのだ。


「うっわっ!!」和哉は咄嗟に身体を捩った。

 突撃して来た物体を、素早く振り返る。それは、猫ほどの大きさのウサギだった。

 何者かを認識した途端、頭の中に相手の情報が浮かんだ。


《キラーラビット レベル2》


 完全にロープレだ、と、和哉は内心で少しわくわくする。

 だがそこで、はたと困ったことに思い至った。

 まだ自分のレベルやHPやMPが、分からない。

 ふつう、ゲームならば自分のレベルや状態は、客観的に確認出来るよう、戦闘時にはステータス画面が出る。

 が、なぜか今は、敵のは出ても自分のは全く出て来ない。

 リアルだからなのか、もしかしたら、まだ教会に辿り着いていないからなのか?

 しかし、目下の大問題は、果たして、現在の自分のレベルで目の前の殺人ウサギに勝てるものなのかどうかだ。

 よくよく見れば、猫ほどのウサギといえど、そこはモンスター。前歯が大きく発達していて、しかものこぎりの歯のようにギザギザとしている。

 これに噛み付かれたら、多分、いや、相当な傷を負う。下手をすれば、指の2、3本は食い千切られるかもしれない。

 おまけに、先程不意を突かれた跳躍力だ。


「マジ、本気でヤバいかも……」


《逃げる》という選択肢もありなのだろうが、完全にファイトモードのキラーラビットから、逃げ切れるだろうか?

 和哉は、真正面に対峙したモンスターに、少なからず恐怖を感じた。

 しかし、他に助けは無い。

 あれこれ考えたところで、エンカウントしてしまったものは、戦うしかなかった。

「――やるっきゃねえかっ」和哉は、背負っていた木の剣をすっ、と引き抜く。

 剣道の型で構えたその時、モンスターの背後の草むらから、また別の個体が出現した。


『グルルルルッ!!』


 低く唸り声を発しながら和哉を見据えたそのモンスターは、青い毛並みをした大型の犬だった。

 和哉は、背中にどっ、と冷たい汗が噴き出るの感じた。

 ウサギだけでもどうなるのか未知数な上に、それより大きな犬――頭上に、


《キラードッグ レベル4》


 と、書かれている。

 キラーラビットがレベル2で、キラードッグが4なら、どう見てもキラードッグのほうが強敵である。


 ――これ2匹って……、倒せんのか俺?


 じりじりと右へ回り込む2匹のモンスターを油断なく見据えながら、和哉はどうしようか、と考える。

 ナリディアに、ここへ来る条件のひとつとして、多少ズル――チート設定で、と頼んだ。

 頼みが効いていれば、こんなモンスター《へ》でもない筈だ。


 ――取りあえず、先に来た奴を、ぶっ飛ばす。


 そう決めて、木の剣を握り直した。

 キラーラビットが飛び上がった。数秒遅れて、キラードッグがこちら向かって走り出した。

 迫ってくるモンスターに、和哉は木の剣を思い切り振るった。


 ******


 和哉が南の村に辿り着いたのは、最初の闘いから3、4時間程を経てからだった。

 降り立った時には真昼だった草原に、強い西日が当たっている。

 モンスターとの最初のエンカウントから、次々と闘いが続いた。モンスターは、倒せばゲームと同じく、何らかのお宝を落としていった。お宝を和哉が手に取ると、あっという間に消えた。


「ってことは、多分、持ち物欄に貯まってるんだよな?」


 だが、見ようと思っても、和哉のステータスやコマンド画面は、相変わらず開かない。

 従って、お宝を使うことも出来ないままだった。

 連戦でへろへろになって村の門に入って来た和哉に、村人らしい、みごとに農夫な中年の男が声を掛けて来た。


「旅の人かい?」


 和哉がそうだと頷くと、農家のおっさんは、


「教会なら、村の中央の建物だがよ」と、親切に教えてくれた。


 どうやらこの村は、和哉のような旅人――異世界人が、必ず最初に訪れる場所のようだった。

 和哉はおっさんに礼を言い、言われた中央の建物に向かった。

 本音は、先に宿屋で休憩したい。だが、多分、教会で自分のステータスと持ち物などのコマンド画面を開けなければ、宿屋にも泊まれないのだろう。

 教会の建物は、これも絵に描いたようなゲームの教会で、関係無いのに、尖った屋根には、欧州の宗教のシンボルである十字架が、これみよがしに乗っていた。

 和哉は教会の中へと入る。中は、夕暮れのためにほの暗く、壁数ヵ所に灯されたランプの明かりが届いている場所だけが、いやに目立っていた。


「すいません」和哉は、夕時のお勤めをしているらしい、祭壇に向かって祈っている神父に声を掛けた。

 神父はすぐに振り向いた。


「なにか――ああ、旅の方ですね。私に、どのような御用でしょうか?」


 これも、どこかで聞いたような台詞である。

 だが、ここはゲームと同じように作られた世界だ。和哉は気にせず、自分のステータスが見たいのと、疲れているので休める場所はないか、と尋ねた。

 神父はすぐに、和哉のステータスが見られるように、神聖呪文を唱えてくれた。


《カズヤ・ヤマダ。レベル17。クラス初級剣士。腕力レベル17、魔力レベル19、ライフレベル1。……特殊効果として、エンカウント率100パーセント》


 頭の中に、見慣れたステータス画面がぽんっ、と現れた。

 学校の黒板に黄色のチョークで記したように見えているそれには、HPとかМPとかの数値が書かれていない代わりに、腕力や魔力のレベルが出て来た。

 それはそれでいいかと思うのだが。


「なんすか? エンカウント率100パーセントって?」


「それは」と言って、神父が苦笑いをした。

「あなたは、そこにモンスターが居れば、必ず戦闘モードに入ってしまうという特技をお持ちなのです」


「えー……」


 チートどころか、最悪な《特技持ち》として、この世界に転生した和哉だった。

うー……


チートなRPGタイプの異世界物語って銘打っておいて、チートどころか、主人公、災難持ちになっています。


さて、どこにどう転がっていくのか……作者も分かりません(汗)

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