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15.新たな技

 一体、自分にはどれだけの特殊技が設けられているのか?

 というか、ナリディアは、もしかしたら、実験的に和哉に外道技を設定したのかもしれない。

 強大な力を簡単に手に入れられる代わりに、人では絶対やらないような、外道な大技。


 ――月天使って、やっぱり悪魔なのかも……。


 がっくり項垂れる。和哉の肩に、大きな手がぽん、と置かれた。


「ご苦労さん」


 ロバートの、明らかに面白がっている顔を見て、更に和哉は脱力した。


「とにかくさ」カタリナが、和哉の凹み具合には一切頓着なし、という態度で立ち上がる。


「あのドラゴンを何とかするんだろ? でないと、コハルちゃんは目的を達成出来ないし、こっちは寝覚めが悪い。《モンスター・イーター》……、ととっ、カズヤは、新しい技とやらを習得出来ない」


「アンデッド・ドラゴンのHPを、半分まで減らす」唐突に、ジンが宣言した。


「半分減らせば、どうにかなんのか?」


 ロバートの質問に、ジンはこっくり頷いた。


「カズヤの力が、どうにかする」


「そーおっか!! んじゃ、やってみっか!!」


 自分のことながら未だにさっぱり内容が分からない和哉を置き去りに、ロバートとカタリナが広間に向かって歩き出す。


「アンデッドだと、やっぱ火の魔法には弱いか?」ロバートがカタリナを振り返った。


「の、はずだねぇ。けど、あいつ、自分でも火ぃ吹いてたからねぇ。一発当ててみないと分からないさね」


 二人は、アンデッド・ドラゴンの攻撃が届く、壊れた広間の縁ぎりぎりに立った。

 どーするんだよ、と、のろのろと後をついて来た和哉の襟首を、三度ジンが捕まえる。


「炎のブレス攻撃を。ダメだったら、回復魔法を掛けてみる」


「……だから、俺、イヌじゃないから……」


 さすがに首根っこを持たれること三回目で、和哉も少しは抗議してみた。

 が、ジンはステンレス・シルバーの眉尻を僅かに上げただけで、和哉の襟をぱっ、と離した。

 急につっかえが無くなり、たたらを踏んで和哉は広間に転がり込む。

 そこへ、アンデッド・ドラゴンの容赦ない尾の一撃が飛んで来た。


「うっわっ!!」必死で頭を下げて避ける。


 両側に鋭いエッジの山が幾つも並んだ、鋼鉄よりも硬いドラゴンの尾に頭を殴られれば、間違いなく頭蓋骨が割れる。

 間一髪避けた和哉は、何だか色んなことに腹が立って来た。

 どうして、自分が一番先にドラゴンの前に転がされなければならないのか?

 なんで、自分が妙な特殊技を身に着けなくてはならないのか? ――いや、これはナリディアにチート技を頼んだ自分のせいだが。

 でも、それでもどうして、自分がロバートやカタリナやジンのように、もっと冷静に戦闘が出来ないのか。

 考えてみれば、闘い方なんてどうでもいいのだ。要は、自分の持てる力を必要な時に出せれば。

 それを、何で自分は、かっこいい闘い方、なんてものに、拘っていたのか――。

 バカバカしくなってきた。

 思考は、数分だった、と思う。アンデッド・ドラゴンが向きを変えた時、和哉は思い切り火トカゲの技の炎のブレスを、ぶちまけていた。

 和哉が攻撃したのを切っ掛けに、カタリナが炎の魔法をドラゴンに浴びせた。

 二人の攻撃による敵のダメージを、ジンが冷静に発表する。


「アンデッド・ドラゴンの火の魔法耐性、20%。カズヤの攻撃で減ったHPは200。カタリナの攻撃で減ったHPは180。残りHPは……」


 もったいぶったように言葉を切ったジンを、和哉は、早く言え、と思いつつ振り向く。

 ジンは、何でも見通すようなブラス(黄銅)の瞳で、和哉の目を見返す。


「残りHPは、2620」


「ってことは、こいつ、3000もHPがあんのかよっ!?」ロバートが吠えた。


「3000ってことは、レベルにすると、150!?」


 カタリナも、さすがに目を丸くした。


「上級クラスのドラゴンのアンデッドだから、これでも生前のHPの3分の1のはず。削れないことはない」


 簡単に言って退けたジンに、それまで仲間のやり取りを黙って聞いていた部外者のコハルが、心配そうに言った。


「しかし……。このままでは、長期戦になるのでは?」


「大丈夫」ジンは、いつもは見せない柔らかな笑みを、コハルに向けた。


「こう見えて、私の仲間は強いから」


 何処からくるのか分からないジンの大層な自信に、だが、和哉は何だかやれそうな気分になる。


「おっしゃっ! んじゃまた削ってみるかっ!!」


「お、何だか張り切り出したな、カズヤ」ロバートがにやり、と笑うと、背負っていたバスタードソードを引き抜いた。


「俺が尻尾の気を引くから、二人で炎をぶっ掛けろっ」


 広場を回り込むように走り出した剣士を、アンデッド・モンスターの目が追う。

 その隙に、カタリナが2撃目の魔法を繰り出した。

 今度はドラゴンの首の辺りに炎が当たり、痛みによりモンスターが鋭く咆哮した。

 和哉は、カタリナの方へと向きを変え、炎のブレスの準備を始めたドラゴンを、威嚇するように足元を狙ってブレスを吐いた。

 ドラゴン・ブレスが、当初狙っていたカタリナから、目標が和哉にずれる。まともにブレスを浴びた和哉だが、奇妙なことに、最初に浴びた時よりダメージがずっと少なかった。


「あちちっ」残っていた外套の前部分と、革のベストの前側が全部焼け落ちた。


 本当に襟周りだけが残ってしまい、これでは本気でワンコの首輪、である。

 幸い、上半身にしかブレスを浴びなかったので、ズボンやブーツは無事で済んだ。


 ――ズボンが丸焼けになったら、女子の前で素っ裸、だもんな。


 やばいやばいっ、と、内心で息を吐く。

 和哉が変なことで安心している間に、ジンが神聖魔法で、ロバートが剣技で、カタリナが魔法で、ドラゴンのHPを大きく削った。


「モンスターHP、残り1300っ!!」ジンが叫んだ。


 和哉ははっとする。

 アンデッド・ドラゴンの残りHPが半分になったら、自分の新しい技が使えるようになる、と、ジンは言った。

 今が、そのチャンスだ。

 が、何をどうすればいいのだ?

 戸惑って、和哉はジンを見た。ジンは黙って、また和哉の首を捕まえた。

 正確には、首輪を。


「《吸収》。ドラゴンを自分の中に吸い込むつもりで、突進」


 言うなり、ジンは思い切り和哉をアンデッド・ドラゴンに向かって投げた。

 ジンの細腕に、どうしてそんな腕力が備わっているのか、と思うほどの力で、和哉は、本気で投げられた。

 避ける間もない。

 吼えるドラゴンの足元――いや、腹の中に、和哉はずぼっ、と入ってしまった。


「ああっ!?」ロバートが、びっくり仰天の声を上げるのが聞こえた。


「何なのよっ!?」カタリナの金切り声もする。


 自分でも悲鳴を上げないのが不思議なくらいだった。和哉は、赤いドラゴンの、半透明の身体の中に入り込んで、そこから外を見ていた。

 完全に霊体のせいか、半分クサレのアンデッドとは違い、生臭いとか、猛烈な異臭とかは無い。

 有機物質ではない霊体だから、簡単に入り込めたのだろう

 なら、簡単に出られるかもしれない。

だが、腕を前へ出してもドラゴンの皮膚が押されるだけで、腕は外へは出ない。

 和哉の身体は完全に、アンデッドに潜り込んでしまっている。

 物質的《無い》はずのものの中に、何で閉じ込められてしまったのか?

 どうすれば、と、半泣きになった時。さっきのジンの言葉を思い出した。


『ドラゴンを自分の中に吸い込むつもりで――』


 こんなシロモノが吸い込めるとは思えない。しかし、それしかここから出る方法が無いのなら、やるしかない。


 ――ああもうっ、いつものパターンだし!!


 自棄になって、和哉はジンの言葉を実行する。


「吸い込まれろ――っ!!」


 ナリディアの超絶特殊技は完璧だった。

 和哉が息を思い切り吸い始めた途端。アンデッド・ドラゴンは急速に萎み、吸気に混ざって和哉の中に吸収されていった。

 全部吸い込むのに、何分も掛からなかった。

 すっかりアンデッド・ドラゴンを吸収して、どうにか自由の身になった時。


「ひゃあぁ~~。すっごいねぇ。《モンスター・イーター》だけじゃなくって、カズヤは《モンスター・アブソーバー》だったんだ」


 感心したようににこにこと笑うカタリナが、とっても嬉しくない称号を、またひとつ、増やしてくれた。

エンカウント率100%、モンスターイーター。

そして、今度はモンスターアブソーバー……

和哉の珍奇妙な大技は、まだ増える?

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