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114.双子の魔物

 目星を付けていた森の洞窟は、やはり思っていた通り、地下へと深く伸びていた。

 ヘルロットは大型犬の姿になると、慣れた足取りで奥へと入る。

 ある程度まで来たところで歩みを止め、さらに人型になる。


「ここなら、無理なく結界を張れるな」


 魔力は極力使いたくない。洞窟のような場所ならば、入口にドアをつけるように結界を張れば済む。

 もし平原に『隠れる』ための結界を張ろうとすれば、大きく囲う必要がある。

 術が大掛かりになればなる程、漏れる魔力の量も増える。

 漏れた魔力から、こちらの力量も察知される。

 探知する相手が上位魔族であるなら、魔力の性質から、誰が結界を張っているのかまでが判ってしまう。

 まして、大賢者なら——

 考えながら結界を展開したヘルロットの目の前に、ゆらり、と青い影が現れた。


『上手くいったな』


 ヘルロットと同じ顔、同じ体格。違うのは髪の色と目の色だ。

 金の髪に金の目。


「ガロット」


 ヘルロットは自身の分身、狼の頭を持った双子に言った。


「本当にあの大賢者が信じたと思う?」


『いや』ガロットは薄笑いを浮かべたまま首を振った。


『疑ってるだろうな。大賢者だけじゃなくて、あのカズヤとか言う男も。あいつ、魔力量が半端ない』


「うん。コントロールはしてるけど、僕達みたいな上位魔族はすぐに感知出来るもんね。けど、隠してないっていうのもあるのかな」


『っていうことは、あっちも何か手を考えてるって訳だ。……どうやったら裏をかけるかだな』


「どんな手で来ると思う?」


『恐らく、俺達をカズヤに『食べ』させるつもりだろうさ』


 ガロットはにぃっ、と笑った。愛らしい貌が、獰猛なものに変わる。


『あいつはガルガロンを『食べ』たんだろう? なら、俺達も『食べ』られると、大賢者は踏んでると思う。——喰われるフリで、逆に『食べ』たらどんなに慌てるか』


「けど、中身から『食べ』られたらどうしようもなくない?」


 ヘルロットは、ガルガロンが和哉に内臓から『食べ』られた、と、戦いの場をこっそり見ていた魔王配下の小物の魔族から聞いていた。


「恐ろしい勢いで吸収したって。斬り込まれて、中身が出たところでやられたら対処の仕様がないよ」


 ゾッとしながら言うヘルロットに、ガロットは、


『その時はお互いを切り離せばいいだろう?』とことも無げに言った。


『両方やられなければ俺達は再生出来る。いくら大賢者でも俺達が合体したり分離したり出来るってのは知らないだろう』


「多分。でも……」


『それに、俺達が捕まっている間に魔王様がカズヤって奴を喰ってくれる』


「ほ、本当にっ!?」


 そんな話は知らなかった。

 ガロットと入れ替わっている間に魔王と話を決めていたのだろう。

 ヘルロットは、ほっと息をついた。


『出来れば、俺とおまえを土壇場で切り離して、どっちかがあいつを喰っちまえばいいんだけど、あの魔力量だと無理っぽいから、な。魔王様はその辺りも考慮して下さった』


「じゃあ、僕らはあいつの囮になればいいわけだ」


 魔王が片付けてくれるのなら、後は問題ないだろう。


「どちらかが残ってれば、魔王様は吐き出してくれるはずだよね……」

 『間違いなく、な』と、ガロットは笑った。


 ******


 ナリディアの準備は意外に早く出来たようだ。

 二日後。和哉達は再度、名無しの海ことルーリール・レリリア湖へ向かった。

 前回と同じく、エルウィンディアには和哉、クラリスが騎乗し、オーガストはガートルード卿とジンを乗せている。

 違う点と言えば。

 今回はメルティの代わりにコハルが加わる。前回は主であるオオミジマの当主フミマロに、別件で呼び出されて同行しなかった。

 正直、メルティとコハルなら、コハルの方が戦力になる。それに、忍者のコハルは特殊な呪符で、オオミジマの兄コタロウと遠隔でのやり取りが出来る。

 いざという時、かなり役に立つ。

 昼を少し回った時刻。

 全員が湖の畔に顔を揃えた。


「さて。では決戦といくかの」


 クラリスが、遠足にでも行くような呑気な声で言った。


「ロバート、あやつを呼び出してくれ」


「ほいよ。——『召喚。ヘルロット』」


 ロバートの声に呼応して、光の球が現れる。ここまでは和哉がヘルキーニアを召喚した時と変わらない。

 違うのは、球が内側から爆ぜたことだ。

 銀色の光球はバラバラに千切れ、中から現れたのは真っ黒な球だった。黒球は瞬く間に間伸びし、大きな動物の姿になる。


『呼んだ? ロバート』


 黒一色に見えた獣、いや、妖魔は、その体毛の半分が金色をしていた。

 明らかに、ヘルロットではない。


「おまえ……、ガロットか」


 唸るように言ったロバートに、上位魔族マーナガルラのもう一方の頭、ガロットはにいぃ、と嗤った。


『ヘルロットの方が良かったか?』


「いや、おまえらどっちでもおんなじだろうが」


『……ヘルロットと一緒にされるの、嫌だなぁ』


 ガロットは魔物の姿のまま湖の畔に座る。

 和哉は、青い魔物の時と目の形が違うのに気が付いた。

 ヘルロットの目は大きくて垂れ気味だった。対して、ガロットは、大きさは同じくらいだが切れ長で吊り上がっている。

 ヘルロットが狼かと思ったが、ガロットの方こそ狼だったのだ。

 その証拠に、纏う『気』も違う。

 ガロットの方が、より獰猛だ。


「おまえは、人型にはなんないのか?」


 ロバートの問いに、ガロットは『さあてね』と惚けた。


『今、人型になっても仕方ないだろ? これから、あんた達と闘うんだから』


 ——やっぱ、そのつもりだったかっ!!


 和哉は素早くアマノハバキリを抜いた。

 隣でジンが魔法障壁を展開するのが見えた。

 立ち上がったガロットが大きく口を開ける。咆哮と同時に、緑色の煙のようなものを吐き出した。


「毒霧っ!?」


 広範囲に広がる緑の煙は、和哉達全員を完全に捉えている。

 クラリスが、予想していたとばかりに杖を掲げた。


「リムーヴ・ポイズン・シャワーっ」


 緑の霧が白い雲のようなものに包まれる。雲はあっという間に毒霧を飲み込み消し去った。

 ちっ、と、ガロットが舌打ちした。


大幅に更新が遅れております。

すみませんm(_ _)m

頑張って書いております〜

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