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110.撤収

『殺されるぅぅぅ!!』


 必死に走って来る小型犬が、和哉達を見つけるなり大きくジャンプした。


「おっわぁっ!?」


 いきなり抱き着かれたロバートが、剣を握ったままひっくり返った。


「なんなんだっ、おまえっ!?」


『じょ……っ、女王様の逆鱗に触れちゃったよおぉぉ!! 勝手にあんたらとケンカしたからって……っ!!』


「女王様って、もしかして、ルーリール女王のことか?」


 ルースが、怪訝な顔で訊く。


「ルース、知ってたんだ?」


 和哉は驚いてルースを見た。

 ルースはふん、と鼻を鳴らした。


「ダルトレットじゃ有名なおとぎ話だ。妖精の女王ルーリールは魔物になった、と伝えられている」


『ま……、魔物じゃなくって、女王様は、魔王様そのものだよっ!!』


「——なんだと!?」


 マーナガルラの言葉に、大賢者が眉を逆立てた。


『ぼっ、僕はっ、魔王様直属の部下だものっ!! 今は、魔王様はっ、妖精の女王様の姿を借りてるけど』


 小型犬化したマーナガルラが震えながら説明している間にも、インプが途切れることなくこちらへ攻めて来ている。

 カタリナとヘルキーニアが魔法を打ち続けているが、それも限界に近い。


「どちらでもよいわっ。とにかく、この状況をどうにかせよっ」


 さすがにヘルキーニアが切れた。

 カタリナも「キリがないんだわよさっ!!」と怒鳴った。


「仕方、ないのっ!!」


 クラリスが氷の魔法と雷撃を同時に放ち、インプの群れを大幅に蹴散らした。


「……不味い、母者」


 ヨアヒムが口を開いた。


「『魔王』が、城から出て来た」


「なんじゃとっ!?」


 雷撃の手を止めたヘルキーニアが、黒い城を前のめりで凝視する。

 和哉は、薄くなったインプの群れの向こうに巨大な黒い塊が蹲っているのを見た。


「あれが、『魔王』?」


 ロバートに未だしがみついている小型犬は、和哉の言葉に背後を振り返り——絶叫した。


『ぎっ、ぎゃああぁぁぁぁ!! 『魔王』様がぁぁぁ!!』


 マーナガルラの叫びに呼応するかのように、再び城から大量の小悪魔が吐き出された。


「これ以上はっ、無理だぞえっ」


 ヘルキーニアが美しい顔を歪める。

 と。

 突如、凄まじい吹雪がインプの群れを襲った。

 猛烈な雪風に、沸いたインプの大半が城の方向へと吹き飛ばされる。


「なっ——!?」


「ブランシュっ!!」


 やや後方に居たガートルード卿が叫んだ。振り返ると、そこには死んだはずの卿の騎乗竜の姿があった。


『御使い様にご無理を言って、一時だけ戻った。私が奴らを止めるから、皆はすぐにこの場を退いてくれ』


「おまえ……」


 言い掛けたガートルード卿に、人型の美しい白い竜は一瞬笑い掛ける。


『主の危機だ、と言ったら、月天使様は許して下さった。早くっ』


「けど、ブランシュは、」心配する和哉に、ガートルード卿の元相棒は、


『私は亡霊だ。魔王に飲み込まれても問題ない。お気遣いは無用だ、勇者殿』


「おっ、俺は、勇者じゃないってっ」


『そうだったか? 御使い様方の認識ではそうなっていたようだが』


「はあっ!? なんかの間違いだろそれっ。もしかしたらナリディアの——」


 バグじゃないか、と言い掛けた和哉の後ろ首を、ジンが思い切り掴んだ。


「今言う話じゃないから。ブランシュの言葉に甘えて、逃げる」


「ちょっ、ちょっと待てってジンっ!! 魔王を倒したら——」


 いいんじゃないのか? と言おうとした和哉に、ジンは、


「今は、無理。こちらの体制を立て直さなければ、魔王は倒せない。カズヤの魔力体力でも負けてるから」


 猛烈な勢いで和哉を引き摺って走り出した神官戦士の少女を追って、他の仲間も一斉に元来た道を走った。

 言葉通り、ブランシュが吹雪のブレスと氷の魔法でインプを完全に足止めしてくれた。

 ジンから離れ、途中から自力で走った和哉は、一度後方を振り返る。

 黒い塊が、竜の亡霊の白い姿を飲み込もうとしていた。


「ブランシュ——っ!!」


『行けっ!!』


 あと少しで通路の出口である。

 声を最後に見えなくなったブランシュに、和哉は心の中で礼を述べ、出口を潜った。


 ******


 しんがりのヨアヒムが道から出ると、すぐにヘルキーニアが出口を消した。


「全くっ……、とんでもない、ものが、出て来やがった、なっ!!」


 マーナガルラを胸元に引っ付けたまま、ロバートが湖の岸にべたりと座った。

 ルース、デュエル、メルティ、ガストルも、その場にへたり込む。

 ガートルード卿は呆然と立ったまま、湖を見詰めていた。


「……私らは、戦力になる、どころか、お荷物だった、ようだな……」


「そんなこたあねえよ……。相手が、悪過ぎたってだけだ」


 悔しそうなルースに、ロバートが、まだ震えている小犬型のマーナガルラを懐から引っぺがしながら答えた。


「俺も何にも出来なかったし。おまけに、討伐予定の魔物がくっ付いて来ちまった」


『そ、そんなこと、言われても……』


 首根っこを掴まれて、ぺろん、とぶら下げられた格好のマーナガルラは、耳も尾も垂れたまま、おどおどと和哉達を見回している。


『わ、悪かったよっ、喧嘩吹っかけて。まさか、あんなに女王様に怒られるなんて僕も思わなかったんだっ。……本気で僕、抹殺されるところだったんだ』


「なんでじゃ?」


 皆が一番疑問に思っていたことを、クラリスが尋ねた。


「おまえは、魔王の直属の部下なのだろう? あれくらいの啖呵で、魔王が怒るというのが解せん。——やはり、何か命じられて我らの中へ入って来たのでは、ないのか?」


 大賢者の言に、和哉は耳の後ろがびりびりとする。

 その可能性だって、あるわけだ。

 ロバートがマーナガルラをぽんっ、と地面へ落とす。

 俄に、全員に緊張が走るのが分かった。

 しかし。


『そ……、そんなことっ、ないって!! ぼ、僕は、本当に、女王様に殺されかけたんだってっ!!』


どうにか頑張っておりますっ

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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