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107.魔王の子

 どうしてハイクラス・ラミアでなければならないのか?

 結論から言えば、と、クラリスは真顔になった。


「ラミアは大蛇の化身。それこそ上位魔族じゃ。ある意味、ガルガロンなどより魔力はある。それだけではなく、

『次元の狭間』の路を見つける能力を持っているのじゃ」


「次元の狭間……って」和哉ははっとした。


 と、いうことは。

 ヘルキーニアには和哉やロバートの『異次元倉庫』の在処がバレてる、ということか?

 思わず口をへの字に曲げた和哉に、大賢者は人の悪い笑みを見せた。


「召喚の契約を結んでおる以上、ハイクラス・ラミアが滅多なことは言うまいよ。……それより、早く呼ばんかっ!!」


 どやされて、和哉はうっと唸る。


「ったく。人使いが荒いんだからな、大賢者さまは」


 やかましいわ、というクラリスの声を聞き流すと、和哉は自分の意識の中に浮かんだ『異次元倉庫』の中身を検索する。

 正確には『異次元倉庫』の中にある技のリスト一覧を眺め、召喚魔法の欄を読む。

 時間にしてほんの数秒。


「ヘルキーニア」声に出して名を呼ぶと、唐突に目の前に光の球が現れた。


 金色の光球は間を置かず長く伸びると、人の姿に変わる。

 最初に出会った時と同様、銀の髪を長く背に流した蛇体の美女は、和哉を認め縦虹彩の目を細め、笑った。


「これはまた。意外な所へ呼び出してくれたの」


 ヘルキーニアは、スルスルと、それこそ『蛇の如く』和哉に近付いて来た。


「何の場所だかは分かっておるじゃろうが」


 クラリスが剣呑な雰囲気でハイクラス・ラミアに言った。


「これは。ノヴァ大賢者、久しいの」


「やはりあの時のラミアだったか。——やれやれ、色々と込み入っているようじゃな」


「何だよ。大賢者さまと知り合いだったの?」


 和哉が問うと、クラリスとヘルキーニアが同時に「知り合いではない」と答えた。


「昔の敵じゃて。こやつは当初、魔族の将軍として我らと対峙したのじゃ」


「それは仕方なかろうが。あの当時、わらわは初めての出産で子等が10体も産まれての。その上、同族との争いでねぐらを追われてしもうた。そんなわらわに手を差し伸べてくれたのが、魔王陛下だったのじゃ」


 確か、マランバルの洞窟で初めて会った時にも、ヘルキーニアは同様の話をした。

 しかしその時は、ねぐらを失って直後にナリディアに助けられた、と言っていた。

 話が、矛盾してないか?


「あのさぁ、確かヘルキーニア、ねぐらを追われた後すぐにナリ……、御使い様に助けられた、って言ってたよな? 魔王に仕えたのとどっちが先なの?」


「魔王陛下に従ったのが先じゃ。その後、魔王陛下との間に子等が20体ほど生まれたのじゃが……。ほぼ、数日で死んでしもうた」


「え? 魔王との間の子供って……」


 どんな子供だったのか?

 興味津々、が顔に出てしまったのだろう、一瞬、ヘルキーニアが剣呑な表情になる。

 が、すぐにハイクラス・ラミアは平静な顔に戻した。


「わらわの一族は異種族との交雑が多い。人間との間に子を成すのが最も多いが、力の強い魔族——高位魔族との間に子を設けることもしばしばある。カズヤが気になったのは、生まれた子等がどんな姿なのか、であろ?」


「うっ……。ま、まぁ、そうなんだけど……」


「丁度良い。呼ぼう」


 ヘルキーニアは顔を天へ向けると、よく通る声で子供の名を呼んだ。


「『ヨアヒム』!!」


 母が現れた時と同様、金色の球体がすぐに人型へと変化する。

 違っていたのは。


「あれ? 蛇型じゃない?」


『ヨアヒム』という子供は——完全に成体なので子供とは言えないが——長い黒髪に長身の男性だった。

 どこから見ても普通の人間、である。人と違う部分は、耳の先の尖った形と虹彩が縦であるというところぐらいだ。


「ええと……。ヨアヒム、くん? は、魔王のお子さんでいいのかな?」


 訊いた和哉に、ヘルキーニアがくくっ、と喉を鳴らした。


「そうじゃ。この子は、魔王陛下とわらわの間の唯一の子。しかも、我が一族には珍しい雄じゃ」


「お、雄って」


「雌ではないから、雄であろ? 人間とて雄と雌が居るではないか」


 人の場合、性別をオスメスとは言わない。が、妖魔のラミアは呼称に拘らないのだろう。

 はあさいで、と力無く頷いた和哉に、ヘルキーニアは細い銀の眉を上げた。


「何か言いたそうじゃの。……だが、まあいい。この子を呼んだのは、魔王陛下の血を継いでいるからと言うだけではない。わらわの子達の中でも、ヨアヒムは特別鼻が効くのでな」


「それは、マーナガルラの居場所を突き止めるのが容易という意味かの?」


 クラリスが訊いた。


「左様。わらわ一人でも良いのだが、なに、良い機会じゃ。ヨアヒムの腕試しもさせてもらおうと思うてな」


「……ま、良いがな。但し、相手は腐っても上位魔族じゃて。倒せる力量がなくば、わしは強制的に退去させるぞ?」


「分かっておるわ。ノヴァ大賢者のその辺りの気性、忘れるわらわではないわ」


 なんだか勝手に話が決まってくなぁ、と感心しながら、和哉はふと、隣のジンを見た。

 ジンの黄銅(ブラス)の瞳がちらり、と和哉を見返す。

 なんとなく『どうするの?』と言われているような気がする。


「って言っても、なぁ」思わず心の声を呟いた和哉に、ジンが小さくため息をついた。


「厳しいよな、ジンちゃんは」


 ロバートが、二人の後ろで苦笑した。


「でもよ、案外男の方が肝が据わらないんだぜ? 特にカズヤみたいなヤツは」


「うっさいよ」


 口を尖らせた和哉に、ロバートがゲラゲラと笑った。


 湖のすぐ側に立ったヘルキーニアと息子のヨアヒムは、束の間何事か話していたが、次の瞬間、二人同時に右腕を大きく前へ突き出した。

 母子の腕が指し示した先に、巨大な空間が出現する。


「マーナガルラの封じられている祠へと続く道じゃ」


 ハイクラス・ラミアの母子の隣へ立ったクラリスが、さらに一歩前へと出た。


「行くぞい」


 クラリス大賢者が短く号令を発し、和哉達はハイハイ、と後へ続いた。

 

続き、頑張って執筆中です!!

よろしくお願いいたします。

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