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106.お子ちゃま?

 髪に幾筋かの赤い線が走っているのは、魔族の『妖気』が放出しているためだろう。


「……僕をバカにして済むと思ってる?! そこまで言うなら、僕が上位魔族である証拠、見せてあげるよ」


 言うや否や、マーナガルラの小柄な身体が膨れ上がった。

 纏っていた青い服は朱と紺が入り混じった太い毛に変わる。可愛らしい貌も、獰猛な犬科の——狼のようなものへと変貌した。

 二つ頭の青い狼、といった感じである。

 ガマガエル姿のガルガロンと同じ程の大きさにまでなったマーナガルラは、地を揺るがすような咆哮を放った。


「うおっ!!」


「——くっ!!」


 ガストルとルース、メルティは、上位魔族の咆哮の魔力『恐慌』を、まともに受けて身を竦ませる。

 ガルガロンとの闘いである程度耐性がついたらしいデュエルやオーガストは、少し肩を揺らした程度。

 残りのメンバーは和哉を始め、誰もが涼しい顔をしていた。


『なん——!! 僕の『咆哮』が怖くないのかっ?!』


 しれっとした表情で見上げられて、マーナガルラが目を剥く。和哉はふん、と鼻を鳴らした。


「おまえ、やっぱり勘違いしてるな。俺らが今まで誰と闘って来たと思ってんの?」


 マーナガルラの狼貌が醜悪に歪む。

 和哉は下唇を舌先で少し舐めると、徐にアマノハバキリを抜いた。


「そぅらっ!! 俺らを脅そうとしたお礼だっ!!」


 アマノハバキリの刀身が青白い光を放つ。真昼の陽の光の中、煌々と輝き出した真竜の化身した剣に、マーナガルラは総毛を逆立て低く唸った。

 尖った耳が、二つの頭共後ろへ折れている。明らかにアマノハバキリの魔力を恐れているのを見て取り、和哉は一歩、前へと出た。


『——っ!! ぼっ、僕を脅してっ、後でどんな目に遭っても知らないからなっ!!』


『こんな……』と何か言い掛けて、マーナガルラは突然姿を消した。


 霧のように掻き消えた上位魔族に、和哉はあっけに取られる。


「……どーでもいーけど、退散するの、早くね?」


「確かに」ジンが真面目に頷いた。


「そぉんなに、カズヤの剣が恐かったのかな?」


 同じくきょとんとした顔でエルウィンディアが言った。


「俺らは慣れちまってるからなんにも感じないが。やっぱり真竜の魔力って、魔族共にはキツいのかもな」


 ふうん、と、解ったような解らないような気分でデュエルに相槌を返した和哉は、ふと、あることが引っ掛かった。


「『後でどんな目に遭っても』って……。あいつ、もしかして、別な上位魔族にチクるつもりか?」


「ええ〜ん、ボクちゃんをイジメる奴らがいる〜!! ママ助けて〜〜。ってか」


 ふざけるロバートに、ガートルード卿とメルティが口元を押さえた。

 ブブっ、とクラリスも吹き出した。


「母親に言いつける子供のようにか? いくらマーナガルラの見掛けが幼くとも有り得んぞ」


「あいつには頭がふたつある」ジンが、いつもの感情の籠らない声音で言った。


「今、現れた頭より、もう一つの頭。そいつの方が厄介なのかも」


「えっ!? でも、頭は二つとも揃ってたぜ?」デュエルが、ジンの言葉に驚いたように言った。


「今のは幻影。一見するとちゃんとマーナガルラと見えるけど、実際にはどちらかの頭が創り出したものだと思う」


「うへえ……。双頭が別思考するのかよ」


 ロバートがうんざりした声を上げた。


「ともかく、あやつが覚醒しかけておるのは間違いなかろうて。完全に目が醒める前に叩いておいた方が得策じゃな」


 若々しい相貌で翁の言葉を使うクラリスに頷きながら、和哉は少しだけ顔を顰めた。


「なんか……。ガマガエルより厄介そうな気がするんすけど」


「それはそうじゃ。ガルガロンよりも魔族としての力はマーナガルラの方が高いからの」


「見た目とは結構、ギャップがあるんだぁ」


 めんどくさぁ、と呟いて、エルウィンディアが髪よりも濃い翡翠色の眼を細めた。


「けど、あいつの本体の寝ぐらって、どこにあるんだ?」


 今更ながらの疑問に首を傾げた和哉に、大賢者が「やれやれ」と息を吐いた。


「あやつのねぐらは、湖の底じゃ。ガルガロンと同様、祠に封じられておったはずじゃて」


「じゃ、水に入らなきゃ叩けないって訳っすか?」


 デュエルが嫌そうに眉を寄せる。メルティもはあ、とため息をついた。

 そう言えば二人共ネコ科の亜人だもんな、と和哉は内心で同情した。


「祠は、湖の最も深い場所にある。舟でその場所まで行き、水中へ潜ってもよいが……。それには水中で呼吸が出来る魔法を使わねばならん」


 この大人数にいっぺんに魔法を掛けるのは難しい、と、大賢者は言った。


「そこで、じゃ。——カズヤ」


 呼ばれて、はい? と和哉は大賢者に顔を向ける。


「おぬし、召喚獣を持っとるだろう? ハイクラス・ラミアの」


「な——!! んでっ、クラリスがそれを知ってるんだっ!?」


 和哉のステータス情報を読み取れるのは、御使い達と神官、同じ転移仲間のロバートやカタリナくらいだ。

 大賢者といえど、この(ガイア)の住人である。余程でない限り、和哉達のステータスを知り得ない。

 にも関わらず。


「私だ」声を上げたのは、ガートルード卿だった。


「アルベルトから聞いていたのだ。カズヤの特殊な能力について、他にも色々あるようだが、特に召喚獣というのが面白くて、な」


「あ——」そう言えば、そうだった。


 アルベルト卿には生前〔?〕バレていたのだ。

 ガートルード卿はアルベルト卿と同期で、しかもアンデッド・ウォーリアー仲間だった。

 生身の人間には隠せても、アンデッドにはどういうわけか筒抜け、だった。


「召喚獣のことで、今更慌てるのも変だろうよ?」


 デュエルがボサボサの金の頭を軽く掻き混ぜながら言う。


「ハイクラス・ラミアの件は、一緒に遭遇した俺も知ってるんだし」


「まあ……、そうなんだけどさぁ」


 和哉は少しだけ気まずさを感じる。

 チート技、というものの説明は、極力したくない。

 この星の先住の人間に、ナリディア達の実態を話すのは得策ではない。

 困って黙り込んだ和哉に、ロバートが助け舟を出した。


「大賢者さまは何でもお見通し、ってことだ。ガートルード卿から聴いた話だけじゃなくても、色々ご存じみたいだって」


「特別な存在」ジンが決定打を打った。


「と、いう訳で。カズヤ。そろそろ本題じゃな。ハイクラス・ラミアを召喚せい」


3、4日間隔になってますが(^ ^;;)

よろしくお願いいたします。

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