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103.陽光姫の死

 サーベイヤ王アレクサンダー陛下とオオミジマ宗家の姫カオルコの結婚式は、先にサーベイヤで、次にオオミジマで、2度盛大に執り行われた。

 1年振りに目覚めた和哉は、自分がその式典の中で『飛び抜けて特殊な存在』であることを、改めて知った。

 王族貴族、ロバート達国家栄誉賞受賞者クラスと同じ席で式に参列するのだと思っていたら。


「カズヤは御使い様の特別なお気に入りだから、並ぶ場所は一段上」


 と、ジンに聖職者の並ぶ席へと引っ張っていかれた。

 神官や巫女の立つ祭壇の上段は、その上はもう御使い様だけ、という、この世界の人間では最上位の場所だ。


「あー、と……。俺、1年間寝てただけだし……」


「みんな知ってる。どうしてカズヤが1年も起きられなかったのかも」


 ジンに、普段通りの無表情で言われ、和哉は返す言葉が見つからなくなる。

 詰まった和哉を、ジンはさっさと誘導し自分の隣へと座らせた。


 下段に陣取っている一般市民——大勢の視線が、王とその新しい妃、更に自分にも注がれているのに、和哉は尻の辺りがずっとムズムズしていた。

 最後まで何処か落ち着かない心持ちの和哉を他所に、兎にも角にも王の婚礼は恙なく終わった。


 ******


 その後続いて宣人とサクラコ姫の婚礼も終わり、気付けばサーベイヤの王都の森は、春の花が満開になっていた。


「王都には夏柳も多いけど、春はラグーンの花が満開になる」


 和哉達が居候させてもらっているジンの父、グレイレッド王弟殿下の王都の居館の庭。

 オオミジマでの結婚式の後、和哉達には王都の館を使うようアレクサンダー陛下直々にお達しがあった。


「カズヤ殿には専用の居館を用意しても良いのだが」


 と、陛下は言われたのだが、グレイレッド殿下とジン親子が反対してその案は無くなった。

 和哉やロバートとしても、自分達のためだけに使用人やら執事やらをわざわざ雇うという生活は、ちょっと遠慮したかったので幸いではあった。


 美しく手入れされた樹木や草花の間に敷かれた小道を、ジンはゆっくりと歩く。

 相変わらずの神官服姿の彼女の横に並んだ和哉は、ジンが指差した低木に目をやった。

 ラグーンは、高木の夏柳の半分にも満たない。だが、無数に伸ばした細い枝に一重の小さな白い花を目一杯咲かせている。

 甘く淡い香と白い可憐な花姿。ふと、和哉はある少女を思い出す。


「そう言えば。俺、目が覚めてから何や彼やって忙しくって、イディア姫に会ってないな」


 ジンの遺伝子的な双子——グレイレッド殿下の『正式な』姫であるイディアは、幼い頃から身体が弱く、一年のうちの半分以上を南レリーアの別邸で過ごしている。


「エルが居るんだし……。落ち着いたから、会いに行ってもいいかな?」


 何気なく言った和哉に、ジンは足を止めた。

 一歩前へ出る形になった和哉は、振り向いた。

 無表情なジンの、ブロンズの美麗な顔がみるみる青褪めていく。驚いて、和哉はジンの肩に手を掛けた。


「どうした? ジン?」


「……イディアは、亡くなった。半年前に」


「……え……?」


 思い掛けない言葉に、和哉は一瞬、声を失う。ジンは、オレンジゴールドの唇を震わせて、続けた。


「急に、容態が悪化したの。陛下が王城の魔法陣を使わせて下さって、すぐに南レリーアの別邸に皆で行ったのだけれど……」


 俯いたジンの肩に置いた手に、和哉は思わず力を入れる。


「どうして……っ!! すぐに言ってくれなかったんだよっ!! みんな……」 


「カズヤを、混乱させたくなかった」


 呟くようなジンの声に、和哉は、今更ながらジンの心の傷の大きさを悟った。

 ずっと、繋がっていたのだ。

 ナリディアの『指令』があったから、というだけでなく、ジンは、遺伝的な「双子」の姉として、イディア姫を大事に思っていたのだ。

 ジンの視るもの、聴くものを、ずっと共有していたイディア姫。イディア姫がジンを通して、和哉達との『旅』を楽しんでいたことを、ジンは誰よりも知っていた。

 感情を極力抑えるように月天使から調整されていたジンだが、それはイディア姫に、ジンの心のフィルター無しで物事を伝えるためだった。


「イディアは、最後まで、カズヤに会えることを楽しみにしていた。でも、自分の夢はもう、絶対に叶わないことも知ってた。だから……」


「ジン……」


 大きな黄銅(ブラス)の瞳が潤み、今にも涙が零れそうなジンの肩を、和哉は引き寄せる。

 ジンは、大人しく和哉の肩に顔を埋めた。


「ナリディアは……、助けてくれなかったのか?」


 何気なく聞いた和哉に、ジンは顔を上げぬまま首を振った。


「無理。いくら御使い最高位の月天使さまでも、死んだ人間を蘇らせるのはタブー。余程の理由が無い限り、蘇生の御技は使えないの」


 ジンの言葉に、和哉は何か、引っ掛かった。


 ——蘇生の技って……。そう言や、俺ら地球人は、殆ど全員、ナリディアに蘇生してもらったんだよな?


 ナリディアの大失態。

 地球の含まれていた宇宙とは別の、暴走を始めた宇宙の運動方向と、地球があった宇宙の回避運動方向の数値を入れ間違ってしまった。

 故に、地球は暴走宇宙に巻き込まれ、宇宙ごと消滅してしまった、という。

 だが。 それはあくまでナリディア達『宇宙空間管理システムエンジニア』なる、自称『揺らぎの外の存在』の説明だ。

 実際、和哉は自身の眼で地球が無くなった現場を『観た』訳ではない。

 しかし事実としても、消失した宇宙の「中」に居た和哉がその瞬間を観られる訳はなく……結果として、今、この地球とは全く環境も歴史も異なる星に居る、という事実を以て、ナリディアの言葉を信じざるを得ない。

 月天使の言葉が100%真実であるなら、和哉達地球人及び同じ宇宙空間に属していた人類の『消滅』は、余程の重大事だったという事か。


「確かに、最初そうは言ってたけどなぁ……」


 呟いた和哉に、ジンはふっ、と顔を上げた。


「月天使様は、嘘は言わない」


 ジンの強い目の色に、和哉は一瞬どきりとする。


「……あー、と。ジンは、その……。まだ、俺らの考えてる事が読めるんだ?」


「イディアは、いなくなってしまったけれど、私が月天使様の神官であることに変わりはないから」


「あー。そりゃそーだ」


「おっ!! いたいたっ!!」


 小径の反対側から、聞き慣れた野太い声がした。

 小走りに近づいて来たロバートに、和哉はぱっ、とジンを離す。と、ジンは和哉の腕を掴み返して己れの方へ引っ張った。


「おおっ!? こりゃジンちゃん、邪魔しちまって悪ぃな」


 へにゃりと厳つい顔を崩した大男に、ジンは「本当に、邪魔」と邪険に言った。


「ちょっ……!! ジっ、ジンっ!! 誤解されるよーなことをっ。べっ、別に俺達何かしてた訳じゃないだろっ!? ——笑うなロバートっ!!」


「ギャハハっ!! ジンにしっかり揶揄われてやがんのっ」


「あのなぁっ!!」


 誤解を解こうと必死に喚く和哉を笑い飛ばすロバートに、和哉にくっついたままのジンが、冷ややかな声で訊いた。


「……何か用があって、来たんじゃないの?」


「あ? ああ、そうだった」


 ロバートはすっ、と真顔になった。


「大賢者様の予言通りだ。……ガルガロンより上位の魔族だと。場所は南レリーアの南西

にある湖だ」

本日分です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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