◇カウンセリング 1
『ストレス』。
それは、人間として生きていれば誰でも感じるもの。
他人より与えられる不快感、失敗や挫折などから生まれる喪失感。
その他にも、環境の変化で、人間は無意識にストレスを感じることもあるそうだ。
ストレスとは、どんどん溜まっていくもの。
溜まったストレスは、どうすれば良いのだろうか?
方法としては、スポーツで気分転換したり、ストレスの原因となっている事を綺麗サッパリ忘れるというのも、方法の一つである。
しかし、そんな事で消えるほど生ぬるいストレスはほとんど無い。
そんな人達が行き着く答えが、人や物に危害を加える事により発散する、いわゆる『破壊』である。
我慢してきたものを、堪えなくても良くなる。
他人にぶつけることによって、得ることの出来る『解放感』。
その解放感と引き換えに、他人の信用を失ったり、後々から罪悪感を感じ、その感情は時に自身を滅ぼすことに繋がる。
そうなる前に、相談にのってくれるのが『カウンセラー』という職業の人達である。
そんなカウンセラー達の中でも、『この人に相談したら確実にスッキリとする』と言われている凄腕の男性カウンセラーがいる。
どうすごいのか、実際に覗いて見ましょう。
丁度彼の元に、カウンセリングを受けに来た人がいますからね・・・。
「ここが、有名なカウンセラーのいる所ね」
私の名前は、田崎実乃里。
卓球部所属の高校二年生。
今日は、私の大親友の悩みを解消してあげたくって、あるカウンセラーの元を訪ねる事にしたの。
噂によると、彼に相談したら確実にスッキリするらしい。
私が相談にのってあげられたら良かったんだけど、私は話すのは得意でも聞くのが苦手だから・・・。
「ごめんね実乃里、私なんかの為に・・・」
「いいっていいってぇ〜、私はやりたい事やってるだけだし」
今私に声をかけてきたのが、カウンセラーに悩みを相談する友人、『木原湖乃美』である。
彼女は、美術部所属で大人しい同級生。
高校一年生の時にクラスが一緒で、私から話かけたのがきっかけで、今は一番仲がいい親友である。
そんな彼女が、二年生になって二ヶ月経ったくらいから急に暗い表情を頻繁に浮かべるようになった。
「何かあったの?」と聞いてみたら、「・・・ちょっといろいろあって」と苦しそうに答えた。
そんな湖乃美を見てるのが辛くて、何か力になれないかと思って彼女の悩みを解消出来る方法を探した。
そうしてたどり着いたのが、このカウンセラーである。
「えっと・・・このボロい家ね」
そういって実乃里が指を差したのは、ゴーヤの蔓でつくられたグリーンカーテンのある、少々古びた一軒家だった。
「・・・本当にここなの、実乃里?」
「そのはずなんだけど・・・想像以上にボロいって言うか、ショボいって言うか・・・」
二人は入り口付近で、場所を間違えたのではとこの状況を軽く否定する。
すると、後ろから声が聞こえてきた。
「まぁ、確かに年頃の女の子が見ると・・・ちょっと引いちゃうかしら?」
「「っ!!?」」
後ろを見てみると、金髪でショートヘア、綺麗な碧色の瞳をした女性がいた。
見た感じ二人より年上で、少なくとも日本人には見えなかった。
「あらっ、ごめんなさい。突然おばさんに話しかけられたら、ビックリするわよね?」
「えっ、いや・・・そうじゃないです。突然出て来た事にビックリしちゃって・・・」
「あら、そうなの?」と言って、その女性は微笑んだ。
「・・・貴方たち、もしかしてカウンセリングを受けに来たの?」
「あっ、はい。もしかして・・・カウンセラーの方ですか?」
そういって実乃里は、湖乃美の代わりに女性に質問を続ける。
「私は違うわ、私はカウンセラーの助手兼世話係の『立仲リージュ』よ。よろしくねぇ〜」
「立原・・・もしかして、リージュさんってハーフですか?」
「そうよ、日本にいる方が長いから私自体、見た目に合わず日本語ペラペラなのぉ〜」
そういってまた、リージュは微笑む。
そして、家の入り口を開け、二人を中へ案内した。
家の中は、外装からは想像出来ないくらい綺麗にされていた。
埃一つ無い床、染みの一切見当たらない白い壁。
二人が通された部屋も、赤いソファーが小さな丸机を囲む様に置かれている。
「ここでチョ〜ット待っててねぇ〜」
そういってリージュは、部屋から出ていった。
「「・・・・・・」」
しばらく、二人は黙り込んでいた。
「・・・ねぇ、実乃里」
「何、湖乃美?」
「私・・・今更だけど、何だか不安になって来たの」
友人の言葉に、実乃里はそっと肩に手を乗せる。
「大丈夫、私がずっと隣にいるから安心して」
「実乃里・・・ありがとう」
湖乃美が実乃里の手を取り、微笑んだ。
その時、ドアノブが回る音がする。
扉が開き、リージュが入って来た。
「先生、診てくれるそうよ。さっ、こっちに来て」
彼女の言葉に従い、実乃里と湖乃美はリージュの後ろを付いて行く。
すると、着いたのは下へ降りる階段だった。
「階段・・・ってことは地下ですか?」
「そうよぉ〜。家を増築する時間がかかるし多少は崩さないといけなくなるからぁ〜、地下につくったのよぉ〜!」
自信満々にリージュは答えたが、色々な所が訳が分からず、二人は困惑する。
「二人ともぉ、先生待たせてるから急ぎましょう」
リージュの言ったことに、二人はハッとし、再び彼女の後ろを付いて歩き出した。
しばらくの間、階段を降りる足音だけが響く。
階段を下りきったら、約三メートルほど先に、扉が見えた。
リージュがその扉を開け、「どうぞぉ〜」と二人を招き入れた。
実乃里と湖乃美は、恐る恐る扉の向こうに行く。
するとそこには、カウンセリングするとは思えないほど広い(高校の体育館ほど)が、何もない部屋が広がっていた。
「ここで・・・カウンセリングするの?」
実乃里がこの状況を疑う。
湖乃美の方は、実乃里に引っ付いて、不安そうに辺りを見回している。
「先生ぇ〜、患者さん連れて来ましたよぉ〜!」
リージュの声が、広い部屋に響きわたる。
「そんなの、見れば分かるよリージュ」
急に、実乃里と湖乃美の後ろから声がした。
振り返ると、リージュの隣に二人と同年代くらいの少年が立っていた。
「なっ・・・いつの間にっ!?」
「驚かしてしまったね。この部屋は、患者用の出入口と僕用の出入口があるんだ」
そういって少年は、こちらに優しい笑みを浮かべた。
ショートカットで、黒髪に前髪の一ヶ所に深緑のメッシュが入っている。
「はじめまして、僕がここのカウンセラーの『來亞』だ。以後よろしくね」
「貴方が・・・カウンセラー!?」
「どう見ても、私達と同年代だよね?」
二人の反応を見て、來亞は軽く吹き出す。
「ふふっ、確かに僕は十七歳。君たちと同い年だ。でも僕の家系は、代々カウンセラーをやってて、十五歳には一人前としてやっていかないといけないんだ」
來亞は、少し誇らしげに自分の家系を話した。
その時の表情は、とてもやんわりとしていた。
しかし、直ぐに目付きが鋭くなり、真剣な表情をつくる。
「じゃあ、カウンセリングに入ろうか。相談するのはどっち?」
「あっ・・・私です。木原湖乃美っていいます、お願いします」
湖乃美が軽く左手を上げて返事をしたら、來亞はリージュに対して右手を上げて合図をする。
その合図にリージュは、入り口付近の壁に手を伸ばし、触れる。
すると、触れた部分から周囲一メートル程がスローペースで出てきた。
「なっ、何よそれっ!?」
「何って・・・椅子と机を取り出しただけよぉ〜」
実乃里の言葉に、リージュがほんわかと答える。
その答えに、実乃里の肩の力がドッと抜ける。
「もう、実乃里ったら・・・」
「湖乃美さんだっけ?君の友達は何か面白いね」
湖乃美がクスッと、軽く笑うと、來亞が声をかけて来た。
「はい、実乃里はいつも私を笑わせてくれる、大切な友達です」
「いいね、そういうの。僕・・・湖乃美さんが羨ましいよ」
そういって來亞が、此方に微笑みかけて来る。
そんな彼が、何となく淋しそうに見えた気がした。
「先生ぇ〜!準備OKですよぉ〜」
リージュの言葉に、湖乃美と來亞は彼女の方を向く。
そこには、小さく白い円状のテーブルと白い椅子が三つほど用意されていた。
「さっ、二人とも座って。カウンセリングを始めるから」
そういって來亞は、実乃里と湖乃美を椅子に座らせた。