第一話 激弱雀士
「ロンッ」
私が牌を捨てたと同時に歯切れよく発されたその声は、残念ながら東の方角から聞こえた。
「12000」
(なかなか良い手を揃えてたんだがなぁ、こりゃかなりの痛手だ)
バラバラと、白く細長い点棒を数本卓の上に差し出し、軽い会釈を交わす。
自分が捨てた牌が誰かの和了牌になると、持ち点を引かれる。だいぶ省略したが、これが麻雀だ。
麻雀を作った人たちはよっぽど暇だったに違いない、と思う。
いや、でもこうしてジジババに交じって平日の昼間っから健康麻雀(賭けはせず、場代だけ払う雀荘のこと)に興じる23歳の芋女がそれに準ずる何かを作ったわけではない。
ということは、やはりそれなりの頭脳と時間があったが故の産物か・・・。
そんなくだらないことを考えながら片手間で打って、起死回生できるほど麻雀は甘くはない。
最終局は、関係のない他2人同士の点数の横移動で、当然そのまま4着に終わった。
私が麻雀を打つ理由。それは、役満(一番点数の高い役。36000点)を揃えるため、ただそれだけだ。要するに非日常的な高揚感を得たいがために打っている。勝ち負けは正直どうだっていい。ほんの手遊び程度とも言える。
それ以外、特に金がらみの目的がないことは、健康麻雀に来ていることからも察していただけるだろう。
そうとは言っても、金が有り余っている訳でもあるまい。それでも、何があっても賭けはしないと決めているのは、先述の通り、役満だけを狙うせいで激烈に弱いからだ。
放銃率(自分の捨て牌が誰かの和了牌になる確率、要はロンされる割合)が18%を超えている。平均は12%から16%とも言われる中で、これはある意味驚異の数字なのである。
本来、他のプレイヤーの様子を探りながら、状況によっては遠回りをしたり、自分の和了を諦めることも必要なのだが、それはしない。それにそこまでの脳がない。役満がそろえば本当に何でもいい。故に押し一択の特攻型モンスターが生まれてしまったのだ。
ここまで役満にこだわるのは、単なるビギナーズラックで味わった甘い記憶に今なお踊らされているから。
麻雀を覚えたての人によくある現象だが、なぜか最初から役満を揃えたがる。その標的になるのは大体「国士無双」だ。確かに、非常に覚えやすい役ではある。それにやたらと名前が格好良い。
やっと少しネット麻雀でルールを覚えたくらいの時、最初から牌がほとんど揃っており、尚且つ引いてくるものも順調で、あっけなく国士無双を揃えてしまったことがある。
(なんだ、結構楽勝なのか。面白いんだか面白くないんだか。)
そのせいで麻雀=役満という認識が強くなってしまい、技術をおざなりにして今に至る。
(1回でも役満が揃えば何でもいいってことよ)
そういうわけで、万年3着、4着がつづいていることには都合よく目をつぶっている。




