第4話 万能鑑定士、ゴミ箱を鑑定する
腐竜ゲルニアが消滅して、辺りにはしんと静まり返った空気が流れていた。
今まで体中を支配していたあの泥の中に沈んでいるような重苦しさが、嘘のように消え去り、代わりに、澄み渡った泉のような力が、全身の細胞一つひとつに満ち満ちているのを感じる。
「なにごとかと思えば・・・・・・ゴミ捨て場に太陽が落ちてきたわけじゃなかったみたいね」
不意に、背後から小生意気な、けれど妙に落ち着いた声がした。
反射的に振り向くと、そこには山積みのガラクタの上に腰掛け、こちらを見下ろしている奇妙な少女がいた。
見た目は十歳そこらの幼女だ。金色の髪をツインテールにしている。けれど、その金色の虹彩を湛えた瞳は、到底こどものものとは思えない、酸いも甘いも噛み分けた大人の知性を宿していた。
「誰・・・・・・?」
「このゴミ処理場の主、万能鑑定士クレア・ポンヌよ。普段はこのゴミ処理場に紛れ込むお宝をコレクションしたり、売り捌いて日銭を稼いでいる・・・・・・あなた、面白いわね。ちょっとじっとしてなさい」
クレアと名乗った少女は、ガラクタの山を軽やかに飛び降りると、僕の目の前まで歩み寄ってきた。そして、眼の奥をカッと見開く。
「【万能鑑定眼】――展開」
彼女の瞳の中に、幾何学的な紋様が浮かび上がった。
彼女は僕を上から下まで眺め回すと、やがて呆れたようにため息をついた。
「・・・・・・凄まじいわね。あんた、自分が何者か分かってる?」
「僕は・・・・・・ノルディアス家出身の、ただの魔毒処理係だ。宮殿の『ゴミ箱』だよ」
僕の自嘲気味な言葉を、クレアは鼻で笑う。
「ふん、節穴揃いの宮殿の連中らしい言い草ね。いい?鑑定結果を教えてあげる。あんたの魔毒の吸収は――それによる副産物の効果の方が、絶大なのよ」
クレアは僕の胸に人差し指をビシッと向けて、説明を続ける。
「聖女や一流の魔導士、あるいは騎士たちが排出する魔毒。確かにそれは忌むべき不純物ではあるけれど、その中には当人たちがこれまでの人生で培ってきた様々な能力の残渣も確かに存在するの。あんたはそれを何年も何年も、毎日摂取し続けてきた。そしてそれを、自分の体の中で溜め込み、練り続けてきた。いわば数十年熟成された最高級のヴィンテージ・マナをため込んだ壺ってところね。さっきの光は、その壺の蓋が、命の危機に直面して、開いたということよ」
そうか。僕は先ほど放ったあの凄まじい力の正体を理解する。
毎日毎日、聖女リリアニアは己の魔毒を僕に喰らわせ続けた。その際に、少しずつだけれど、リリアニアの中にある強力なスキルも一緒に吸収してしまったのだろう。 リリアニアだけではない。僕をゴミ箱として、日々魔毒を吸収させてきた宮殿の高位魔導師、剣士、聖女、その他大勢。彼ら彼女らの能力も、知らず知らずのうちに、体内に摂取してきた、ということなのか。
僕が苦しんできたあの日々。それは決してただゴミ箱としての無意味な時間ではなかったのだ。
「あんたの価値は、もはや測定不能。国一つを買い取ってもお釣りがくるくらいよ・・・・・・決めた。私、あんたについていくわ」
クレアの唐突な申し出に、僕は困惑する。
「えっ・・・・・・? いや、困るよ。僕はこれから王都に戻って、家族を助けなきゃいけないんだ。危険すぎる」
「バカね。こんな面白いお宝を放っておく鑑定士がどこにいるの?それに、あんたは自分の力の使い方も、今の自分の市場価値も分かってない。私の鑑定眼が必要なはずよ」
クレアは「異議は認めない」と言わんばかりに、腰に手を当てて胸を張った。
「つまり、私はあなたの『所有者』になるの。あなたは私の最高級のお宝として、きちんと面倒見てあげるわよ」
好奇心に満ちたその瞳を見ていると、断るだけ無駄なような気がしてくる。・・・・・・それに、確かに僕には、この新しく手に入れた力を正しく導いてくれる協力者が必要だった。
「・・・・・・分かった。でも、何があっても守りきれる保証はないよ」
「いいのよ。死ぬ時は最高のお宝を拝んで死ぬって決めてるから。さあ、行きましょうか、ゴミ箱改め『黄金の器』さん!」




