第63話 【幕間】見習い剣士
俺の名前は、カイル。
俺たちを乗せたキャラバンは、領都アイアン・フォルトに到着した。
北の砦シルヴァと同じか、それ以上に巨大な要塞都市。どうやらこれが領主の城らしい。
城門をくぐると、シルヴァには無かった大きな街並みが広がっている。
俺たちの到着を歓迎する、すげえ数の領民たち。そして、あのチビ……に「歌姫様!」と熱狂する人だかり。
馬車を降りた瞬間、ペトラが興奮してチビに駆け寄るのが見えた。
「パスティエール様!見た!?すごい!何あの城壁!全部がデカくて……息苦しいくらいキッチリしてる……。あの構造、後で絶対中見せてよね!」
こいつは、いつもこうだ。興味のあるモンを見つけると、周りが見えなくなる。
俺が圧倒されたのは、建物のデカさなんかじゃない。すれ違う兵士たちの、その「質」だ。バルガス隊長のところの兵士たちも強かったが、ここの連中は、もっとヤバい。
これが、チビの「家」……。
城の入り口で、辺境伯……ライナス様が出迎えてくれた。
「おお!パスティ!よくぞ無事で……!」
シルヴァで遠目から見た、あの厳格な領主の姿はどこにもない。ただの、娘にデレデレの親父だ。
(別に俺の両親が死んだのは領主のせいじゃないさ、恨んでなんかないけどよ。ちっ……!なんだか知らねえがイライラすんな)
その後、皆で城の中の領主の執務室に通された。
「そして、こちらはカイル。シルヴァのバルガス隊長が預かっていた、筋の良い剣士見習いです」
チビの母ちゃんが、俺に自己紹介を促す。
「……カイルだ。強くなるためにここにきた」
その瞬間、領主の目が、一瞬、鋭く光った。
「ほう……!お前がバルガスのところで育った小僧か!よかろう、後で訓練場でその腕、この俺が直々に見てやる」
ぞくり、と背筋が震えた。あの目は、本物だ。
翌日、俺は訓練場にいた。 約束通り、領主様直々の「採用試験」だ。
「カイルとやら。見習い兵士として、お前がどれほどのものか、その剣で見せてみろ」
領主は、木剣を構える。隙が、一切ない。
(シルヴァの訓練場じゃ、同年代には負けなかった。あんたがどれだけ強いか知らねえが、この一撃は……!)
「うおおっ!」
俺は、最速の踏み込みで、領主の胴を目がけて突っ込んだ。
カッ!
軽い音。
領主は一歩も動かず、俺の木剣を、構えていた木剣で軽くいなしただけ。
「なっ……!?」
俺は、自分の勢いを殺しきれず、無様に体勢を崩す。
「……バルガスのところで何を学んだ?獣のように突っ込むだけでは、手練れには通じんぞ」
「くっ……もう一回だ!」
俺は体勢を立て直し、もう一度斬りかかる。
ガキン!
軽い衝撃と共に、手から木剣が弾き飛ばされる。気づいた時には、俺は地面に押さえつけられていた。
領主は、俺が振りかぶる前から、俺の動きが全て見えていたかのようだった。
(……強えぇ……。これが、辺境伯……。レベルが違う……!)
領主が訓練場を去った後、俺は一人、隅に残った。
(クソッ!クソッ!)
あの侍女に負けた屈辱が蘇る。
あいつは、剣技じゃなく、魔術で俺に勝った。あの光る壁と、体に光をまとわせるアレだ。
魔術師の爺さん先生は俺にも『身体強化』が必要だと言った。
俺は言われた通り、目を閉じて、体の中の……なんだ?魔力?を巡らせようとしてみた。
(……わかんねえ……)
何も感じない。
(なんでだ!俺には才能がねえのか!?)
俺は、木剣を地面に叩きつけた。
脳裏に、あの日の光景がフラッシュバックする。魔獣に、父さんと母さんが食われるところ。俺は、物陰に隠れて、震えてるだけだった。
無力だ。
シルヴァでのチビの歌を思い出す。
あのチビは、俺には無い力で兵士たちの心を震わせた。
あいつは、あんなすげぇ力を持ってるのに、無防備すぎる。
俺が『剣』になってやるって誓ったのに、侍女にも、領主にも負けて……魔術も使えねえ!
俺は、ただの口だけ野郎だ……!
その夜。 悔しくて眠れず、俺は一人、月明かりの下で無我夢中に木剣を素振りしていた。
(クソッ!足りねえ、全然足りねえ!)
焦りから、動きが荒くなる。
「……フン。まるで、狂犬だな」
声がした。
「誰だ!?」
影から現れたのは、昼間領主の隣にいた、あの厳格そうな老人だった。チビの爺さんらしい。
「なんの用だ」
「貴様がバルガスのところの小僧か。目上に対する言葉遣いもなってないとはな、バルガスはどんな教育をしてたんだ、まったく」
「言葉遣いなんて知るか!俺は強くなりたいだけなんだよ」
「ふっ、ライナスに完膚なきまでに叩きのめされたと聞いた」
「……っ!」
「セリナにも負けたそうだな。魔術を使ったとはいえ」
「うるせえ!次はぜってぇ負けねえ!」
爺さんが木剣を俺に向ける。
「……抜いてみろ。その『負けねえ』とやらを、ワシに見せてみろ」
俺は、怒りに任せて、全力で斬りかかった。
「舐めるなよ、ジジイ!」
バシィッ!
信じられない光景が起きた。
爺さんは、俺の全力の木剣を、素手で受け止めていた。
「なっ……!?」
そのまま手首を捻り上げられる。激痛。木剣が手から滑り落ちた。 目で追えなかった。
「パスティエールの『剣』になると言ったそうだな。その口先だけの覚悟で、ワシの孫を守れるとでも思ったか」
「今後、あの子の周りには、お前のような半端者では対処できん輩が集まってくる。いまのままでは荷物になるだけだ」
俺は、圧倒的な差を前に、地面に膝をつき、土を殴りつけた。
「……どうすりゃいいんだよ!俺は、ただ強くなりてえだけなのに……!剣も魔術も、全部足りねえ!」
爺さんは、しばらく俺を見下ろしていたが、やがて静かに言った。
「……アルフレッドは言っていたぞ。お前にはまだ伸びしろがあると。剣士であっても、使える力は全て使いこなし、己の『技術』とする。それが辺境のやり方だ。まずは基礎魔術の『身体強化』を覚えろ」
「お前の目は嫌いではない。もし本気で強さを求めるならば、ワシが直々に鍛え直してやる。ただし、生半可な覚悟なら今すぐシルヴァに帰れ」
俺は、爺さんの本気の目を見て、震える手で木剣を拾い上げた。
「……当たり前だ!やってやるよ!いつか、あんたからも、あの侍女からも、一本取ってやる……!」
「そして、今度こそ俺が、あいつの『剣』になる……!」
爺さんは「フン」と鼻を鳴らし、闇に消えていった。
あの爺さんが去った後も、俺は訓練場に残った。
言われた通り、『身体強化』の訓練を再開する。
(クソッ……クソッ……!全然ダメだ!領主にも、あの爺さんにも、侍女にも負けたままじゃ……!)
俺は、疲労困憊で、ついに木剣を握ったまま地面に倒れ込み、意識が遠のいていった。
(……なんだ……?あったけぇ……)
夢うつつの中で、不思議な温かさに包まれる感覚を覚えた。
どこからか、微かに歌が聞こえた気がした。シルヴァで聞いた、あのチビの歌声のような……。
(……夢、か……。クソッ、疲れてやがる……)
俺は、それを疲労が見せた幻だと断じ、そのまま深い眠りに落ちた。
翌朝。 冷たい土の感触で、俺は目を覚ました。
(……あれ?)
体中が、昨日の訓練で悲鳴を上げている。痛い。
でも。 疲労感だけが、不思議とスッキリと消えていることに気づいた。
(……やっぱ、変な夢でも見たせいか……?……フン!)
俺は首を傾げたが、すぐに気合を入れ直した。
訓練場の向こうで、昨夜の爺さんと、魔術師の爺さん先生、二人の爺さんがこっちを見ている。
その日から、俺の地獄の訓練が始まった。
俺は、木剣を強く握りしめ、二人に向かって走り出した。
カイル ステータスシート(一章終了時点)
■基本情報
名前:カイル
性別:男
年齢:10歳
誕生日:大陸暦675年、陽光の月
種族:人間
髪色:黒
髪型:短髪
肌色:褐色
性格:
ぶっきらぼうで口が悪い。プライドが高く負けず嫌いな「ツンデレ」。当初は貴族であるパスティエールを「お姫様のお遊び」と敬遠していた。
過去に両親を魔獣に殺されたトラウマから、自身の「無力さ」に強いコンプレックスを抱いている。誰よりも「強さ」を渇望しており、一度認めた相手に対しては不器用ながらも一途な忠誠心を燃やす。
人となり:
北の砦シルヴァの守備隊長バルガスに拾われ、鍛えられた見習い剣士。
シルヴァでの「慰問コンサート」でパスティエールの歌と覚悟に触れ、彼女を守る「剣」になることを誓う。
第1章終了後は、パスティエールの「食客」として領都の城に滞在。ガレオス(先代辺境伯)に剣術を、アルフレッドに魔術(身体強化)を叩き込まれる地獄の特訓の日々を送っている。
■基礎魔術の熟練度
典型的な「脳筋」タイプであり、魔術的なセンスは絶望的。ただし、剣士として必須となる身体強化のみ重点的に鍛えている。
・身体強化:【習得中】
当初は魔力を感じることすらできなかったが、ガレオスの指導により、剣技に魔力を乗せる感覚を掴みつつある。まだ無意識レベルには程遠いが、意識すれば身体能力を底上げできる段階。
・魔力付与:【不可】
武器に魔力を纏わせることはまだできない。
・魔力障壁:【不可】
防御は剣での受け流しや回避に頼っており、魔術的な防御はできない。
・魔力関知:【不可】
野生的な勘は鋭いが、魔術的な索敵はできない。
・魔力弾:【不可】
魔力を体外に放つことはできない。
■習得魔術
なし
純粋な剣士スタイルであり、詠唱を伴う魔術は一切使えない。
■加護
なし




