表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/39

第13話 ドワーフの鍛冶師と黒曜石

 冒険者ギルドを出た後も、私の興奮は冷めやらなかった。


「すごいね、ギル兄様!冒険者ギルド!」

「だろ!俺もいつか、すげえ魔獣を倒して、あそこの壁に角を飾ってもらうんだ!」


 兄様と二人、これからの冒険の妄想で盛り上がっていると、お爺様が「まだ終わりではないぞ」と言って、今度は鍛冶職人たちが集まる地区へと足を向けた。


 案内されたのは、ひときわ大きな工房。中からは、規則正しい槌の音と、もうもうとした熱気が立ち上っている。


「よう、ブロック!腕はなまっておらんか!」

「がっはっは!誰かと思えば、ガレオスの旦那じゃねえか!あんたこそ、その剣は飾りになってねえか?」


 お爺様と親しげに軽口を叩き合うのは、ギルドマスターのドルガンさんと同じ、屈強なドワーフの男性だった。彼がこの工房の主、ブロックさんらしい。


 私たちは工房の奥にある応接室に通され、お爺様は単刀直入に本題を切り出した。


「この孫娘が、リュートとかいう楽器を作りたいそうだ。弦になる素材は、今ドルガンに依頼してきた。お前には、その楽器の本体を作ってもらいたい」


「楽器だと?冗談よせ。俺は武具専門だ。楽器なんぞ作ったことはねえ」


 ブロックさんは、立派な髭を揺らして、にべもなく断る。その頑固な職人気質な様子に、私は慌てて口を挟んだ。


「あの!楽器と言っても作って頂きたいのは部品なのです…」


 私は、前世の記憶を頼りに、アコースティックギターの構造を手振り身振り、地面に棒で絵を描きながら必死に説明した。木の箱で音を共鳴させる仕組み。弦の振動を伝えるための(ブリッジ)の重要性。そして、弦の張りを調整して音程を変えるための、糸巻き(ペグ)の構造。


「弦を張るのは自分でやります。頑丈な本体部分と糸巻きの機構を作っていただきたいのです、よろしくおねがいします」


 私の拙い説明を、ブロックさんは腕を組んで黙って聞いていた。そして、全てを聞き終えると、「…ふん」と鼻を鳴らした。


「なるほどな。構造は分かった。それなら、まあ、作れんこともなさそうだ。…よかろう。弦の素材が届いたら、一度持ってこい。それに合わせて木材で本体を誂えてやる」


「本当ですか!?」

「ドワーフに二言はねえ」


 やった!楽器作りの、大きな一歩だ!


「しかし、パスティ。お前、触ったこともないのに、ずいぶん詳しいんだな」


 不思議そうに尋ねるギル兄様に、私は「えへへ、本で読んだんです!」と、用意していた言い訳でごまかした。


 工房からの帰り道。すっかり日も暮れ始めた中央広場は、夕食の買い出しや仕事を終えた人々で、昼間とはまた違う賑わいを見せていた。


「よし、今日は買い食いを許す」

 お爺様のその一言に、ギル兄様と私は「やったー!」と歓声を上げる。


「ぱ、パスティエール様!?歩きながら物を食べるなど、淑女の作法に反します…!」


 セリナがはわはわと慌てているが、お爺様には逆らえない。私たちは、屋台で売っていた魔獣の肉の串焼きを一人一本ずつ買ってもらった。香ばしいタレの匂いと、少し硬いけれど、噛めば噛むほど味が出る肉の旨味。初めての買い食いは、少しだけ悪いことをしているような背徳感も相まって、最高に美味しかった。


 広場では市も開かれているらしく、様々な露店が並んでいる。日用品から、用途の分からないガラクタまで。


 その、一角を通りかかった時だった。

 私の『瞳』が、奔流と呼ぶべき、強烈な魔力の輝きを捉えた。


 私は、吸い寄せられるように、その光が放たれる方へと、とてとてと歩いていく。


 そこは、人の良さそうなおばあさんが一人で営んでいる、小さな露店だった。古びたアクセサリーや小物、綺麗な鉱物などが、布の上に並べられている。


 そして、光の源は、その中の一つ。古びた銀の鎖に通された、何の変哲もない、磨かれた黒曜石のようなネックレスだった。けれど、私の『瞳』には、それが太陽のように眩い、清らかな金色の魔力を放っているのが視える。悪い感じは、全くしない。


「おや、嬢ちゃん。何か気になるものでもあったかい?」


 店主のおばあさんが、にこにこと話しかけてくる。そこへ、私を探していたお爺様たちもやってきた。


「パスティ、どうかしたのか?」


「お爺様、これ、とてもきれい…」

 私がネックレスを指さすと、おばあさんは「ああ、それかい。銀貨一枚でいいよ」と、特別な反応もなく言った。


「そうか。欲しいのか」

 お爺様は、鷹揚に頷くと、懐から銀貨を一枚取り出し、そのネックレスを買ってくれた。


 城に戻り、私は早速、自室でそのネックレスをまじまじと観察してみた。


 『瞳』で見れば、確かに強い魔力を感じる。けれど、手に取っても、身につけても、特に何かが起こるわけではない。ただの、少しひんやりとした石の感触があるだけ。


(不思議なネックレス…。でも、きっと、ただの石じゃないはず)


 今は分からない。けれど、いつか、この秘密も解き明かせるかもしれない。


 私は、次の魔術の授業の時にアルフレッド先生に聞いてみようと心に決め、そのネックレスをそっと机の引き出しにしまい、夕食と湯浴み後すぐに深い眠りに落ちたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ