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第100話 怪獣大決戦

 上空へ舞い上がった私は、堕ちた不死鳥と正面から対峙した。


 至近距離で見るその威容は、もはや絶望そのものだ。


 翼長三十メートルを超える質量。


 かつて黄金の輝きを放っていた羽根は、泥のような瘴気に侵され、内側からは煮えたぎるマグマのような黒い血管が脈動している。


『……オォォ……オオオオオッ!!』


 不死鳥の咆哮(ほうこう)が空気を震わせる。


 それは生命の叫びというより、世界そのものが軋むような轟音だった。


 大きく開かれた(くちばし)から放たれたのは、直径数メートルはある極太の「黒炎の熱線(ブレス)」。


「ポルカっ! 全力でいくよっ!」


 胸元のポルカが激しく明滅し、戦場の緊張を煽るような激しいリズムを奏で始める。


 私は背中の水翼から高圧の激流を噴射。音を置き去りにする機動で、戦場という名の空を自在に翔ける!


『――閉じ込める空 見上げて――』

『――聞こえているよ あなたの声――』


 歌声に合わせて水翼の出力を全開にする。


 鋭角的な旋回でブレスを回避。直後、私がいた場所の岩壁が直撃を受け、一瞬でドロドロの溶岩へと溶解した。


 当たれば一瞬で蒸発。――でも、今の私にはかすりもしない!


『――自由な風 起こそう――』

『――涙の雨なんかに 負けない!――』


 不死鳥が狂ったように追撃の火球を連射してくる。


 私は空中で華麗にターンしながら、両手に巨大な水の拳を展開。迫りくる火弾を、ダンスを踊るような身のこなしですべて叩き落としていく。


 パァンッ!パパァンッ!


 火花が夜空を(いろど)る演出に変わる。私は一気に、不死鳥の頭上へと加速した。


『――星に 導かれて――』

『――ここまで 歩いてきた――』


 ドォォォォン!!


 背後で爆発的な推進力が炸裂。私は音速を超え、衝撃波を纏って不死鳥の死角を突く。


 右足にすべての魔力を集中。水流が螺旋(らせん)を描き、巨大で鋭利(えいり)な「(くさび)」を形成する。


『――もっと 高く 飛びたい――』

『――願い 乗せた 翼に なあれ!――』


 狙いは一点。


 重力、加速、そして私の(うた)のすべてを乗せた、必殺の衝撃!


『――Splash! 響かせて――』

『――蒼き旋律(メロディ) 彼方へ 放って――』


「スゥゥゥパァァァーッ!! スプラッシュュュュッ!! キィィィーックゥ!!!」


 ズドォォォォォォォン!!!


 水流とともに突き刺さった一撃が、不死鳥の脳天を直撃した。


 重低音の衝撃波が空洞全体を揺らし、巨体が空中で「く」の字に折れ曲がる。瘴気の鎧がガラスのように粉砕され、黒い破片がマグマの海へと降り注いだ。


 まさに怪獣大決戦。カルデラの地盤が、私たちの激突に悲鳴を上げている。


『ギシャアアアアッ!!』


 痛みに狂った不死鳥が、質量弾と化した体当たりを仕掛けてくる。


 逃げない。真っ向から受け止めてみせる!


『――スパーク! 空を覆う 恐怖――』

『――笑顔で 包み込むから――』


 私も身体を巨大な水球で包み込み、出力を全解放!


 蒼い流星と黒い太陽が、正面から激突する!


 ガギィィィィンッ!! バリバリバリバリッ!!!!


 水と炎、青と黒のエネルギーがせめぎ合い、天を焦がす火花が散る。


 眼下の溶岩の海が、衝撃の余波でモーゼのように左右に割れた。


「ぐっ……なんて、重さなの……!」


 押し込まれそうになる視界の先。黒い炎の奥に、悲しげに揺れる金色の瞳が見えた気がした。


(泣いてる……やっぱり、無理やり動かされているだけなんだ)


 私は逆噴射で距離を取ると、歌をクライマックスへと導いた。


『――Splash! 悲しみが――』

『――枯れるくらい 元気を あげるよ――』


 指先に全魔力を集中――キュピィィィン!


 放たれた超高圧水流レーザーが、瘴気の核を正確に貫き、洗い流していく!


『――ラッキー! 未来(あす)を 掴み取る――』

『――私の誓い!――』


「聞こえてるよ、あなたの泣き声! 暴れたくないんでしょ? 今、助けてあげるから!」


 私の叫びに応えるように、不死鳥の動きが止まる。


 ――けれど、世界はそれを許さなかった。


 ゾワリ。


 背筋が凍りつくような、絶対的な悪寒。


 不死鳥の背後、次元の裂け目にある巨大な『眼』が、ギョロリと私だけを凝視したのだ。


 ズズズズズ……ッ!


 裂け目から吐き出されたのは、意思を持つ泥のような、おぞましい量の瘴気。


 それは必死に抗う不死鳥の身体に絡みつき、無理やり内側へと侵食していく。


『ガァァァァァァァッ!!』


 不死鳥が絶叫する。身体が醜く膨れ上がり、黒い炎が自爆寸前の臨界点を超えて暴走を始めた。


「いけません! 不死鳥を自爆させて、空洞ごと消し飛ばす気です!」


 地上でレンさんの悲鳴が響く。近づくことさえ許さない、拒絶の熱風。


 私の水のドレスが、みるみる蒸発していく。


「くっ……近づけない……!」


 その時。


「おいおい、主役がステージの端っこで立ち止まってんじゃねぇよ!」


 下から、聞き慣れた不敵な声が響いた。


 見上げれば、仲間たちがボロボロになりながらも、一斉に動き出していた。


「一点突破です! みなさん、パスティエール様のために道を!!」


 ヒルダさんが弓を引き絞り、魔力を過充填させた矢を放つ!


 ヒュンッ!!


 一点を射抜き、熱波の壁に綻びを作る。


 すかさずセリナとクラウス先生が合わせる!


「「『水の矢(ウォーター・アロー)』!!」」


 二つの水流が綻びを冷却し、壁を脆く変える。


「運ぶぞ、レン!」


「はいなぁ! 風よ、彼らを空へ!」


 クロウさんとレンさんが練り上げた暴風が、前衛の三人を弾丸のように打ち上げた。


「うぉぉぉぉぉぉっ!!」


「行くぞ野郎ども! 遅れんじゃねぇぞ!」


「グルァァァァッ!」


 風に乗ったカイル、ヘクターさん、ゼガ隊長。


 三人の渾身の一撃が重なり、ついに熱波の壁に巨大な「風穴」がこじ開けられた。


「今だ! 行けぇぇッ、パスティエール!!」


 全員の声が、私の背中を強く叩いた。


「みんな……ありがとう! 最高のアシストよ!」



 私は翼を全開にし、仲間が開けてくれた「道」へ突っ込んだ。


 肌を焼く熱さ。消えゆく水の鎧。


 けれど、私は迷わず不死鳥の首元に飛び込み、その身体を力一杯抱きしめた。


「もう泣かないで。私が全部、受け止めてあげる」


 私は、歌う。


 私の魂の奥底、一番古くて暖かい、前世の記憶。


 大好きだったお母さんが、いつも私に歌ってくれた、あの歌を。


『――おやすみ わたしの たからもの――』

『――そっと まぶたを とじたなら――』

『――ゆめの ふねが やってくる――』


 激しいビートは止まり、静謐(せいひつ)な調べが世界を満たしていく。


 優しい水が(まゆ)のように私たちを包み込み、外界の雑音を遮断した。


『――ほしの うみを わたるため――』

『――こえは きこえなくても――』

『――そばに いられなくても――』


 黒い泥が、私の歌に溶け、涙のように洗い流されていく。

 頑なだった呪いが、愛の歌で解けていく。


『――この うたが かぜになり――』

『――あなたの あしたを てらすから――』

『――おやすみ かわいい うたごえよ――』


 不死鳥の瞳から、どす黒い色が消えていく。


『――いつか せかいに ひびくひを――』

『――かあさんは しんじてる――』

『――どんな よるの むこうでも――』


 ああ、そうだ。

 あのお母さんは信じてくれていた。

 いつか私が、こうして誰かの心に寄り添って歌う日を。


『――こえは きこえなくても――』

『――そばに いられなくても――』


 祈りを込めて、囁くように歌い上げた。


『――この うたが ほしになり――』

『――あなたの みちを てらすから――』


 その瞬間――。


 カッッッ!!!


 黒い繭を突き破り、黄金の光がカルデラ全体を飲み込んだ。


 それは浄化の光。


 背後の『眼』を焼き焦がし、次元の裂け目を不愉快そうに歪ませる。


 侵蝕者の気配が、断末魔とともに消え去った。


 光が収まると、そこには一羽の、息を呑むほど美しい鳥がいた。


 全身に聖なる残り火を纏った、霊獣・不死鳥。


 不死鳥は背中に私を乗せ、静かに地上へ降り立った。


 変身が解けた私の耳に、威厳ある声が響く。


『……感謝する、小さき歌姫よ。そして勇敢なる戦士たちよ』


「不死鳥さん……正気に戻ったのね」


『ああ。お主の歌が、我が魂の呪いを解いた』


 不死鳥は一度力強く羽ばたくと、真剣な眼差しで告げた。


『心して聞け。あの『眼』――侵蝕者は、まだ隙間から覗くことしかできぬ。だが、奴らがこの世界にその醜悪な巨躯を現す日は近い。……歌姫よ、精霊王に会うのだ』


「精霊王……?」


『彼らならば、お主の特異な力を導き、世界を救う鍵と成せるやもしれん』


 不死鳥の(くちばし)が、そっと私の額に触れる。


 温かな、消えることのない「聖なる炎の加護」が、魂に刻まれた。


『行け、希望の子らよ。我が翼は、常にそなたらと共にある』


 一枚の黄金の羽根を残し、不死鳥は光の粒子となって、伝説へと帰還していった。


 静寂が戻った大空洞。キラキラと光の粉が降り注ぐ中。


「……行っちゃったな」


 カイルの声に、ようやく現実へと引き戻された。


 見上げれば、仲間たちの安堵した顔、そして黄金の粒子が舞い散る、幻想的な光景。


「へへっ……アンコールは、また今度ね……」


 私は精一杯のVサインを作ると、そのままカイルの胸に倒れ込んだ。


 心地よい疲労と、温かな腕。


 火山を舞台にした、私たちの長く熱い『ステージ』は。

 こうして最高潮の光の中で、静かに幕を下ろした。


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