放課後
『琥珀くん?』
『おーい』
『見えてる? 届いてる?』
『返事してよぉ......』
スマホを見たら、ゾッとするほどのノマちゃんからのLIMEが届いていた。僕は心を鬼にして無視し続けていた。
そして、LIMEを無視すること一日弱。授業は終わって放課後になった。
LIMEの返信を無視するのは心が痛むが、よく知らない女の子と流れで付き合うことの方が良くないだろう。向こうにとっても、僕みたいなモブメガネ陰キャなんかよりいい人はいっぱいいるだろう。ここは関係をなかったことにするのがお互いのためになるんだ。うん。
僕は自分にそう言い聞かせながら、校舎を出た。
そういえば昨日はいつもと同じ帰り道でノマちゃんと会ったんだから、同じ道で帰るとバッタリ会ってしまうかもしれないな。
今日は違う道で......
「琥珀くん」
「......!!??」
僕は後ろから聞こえた声に、ゾッとするような寒気を感じた。
ガタッガタッ、ガタガタッ、とぎこちなく震えながら、ゆっくりと振り向く。
すると、にっこりと微笑みながら禍々しい邪気を放出してる美少女が立っていた。
「......どうしてLIME返してくれないの? 琥珀くん?」
「あ......えっ......えっと............」
やばい。あまりのオーラに気圧されて思い切りキョドってしまってる。とりあえず何か言わなきゃ......いや、頭が真っ白で言い訳が思い浮かばない......!
「......な、なななな、なん......なんで、ここにいるの......?」
僕はカミカミになりながら、話を逸らすように話題をぶつける。
「だって昨日助けてくれた時、制服だったでしょ?」
「......あ、うん」
「それで学校は分かってたから......それで」
「......うん」
「校門の前でずっと琥珀くんが来るの待ってたの」
「............え?」
つまり......待ち伏せされていた? 昨日会ったばかりで?
僕の背中に冷たい何かがツーっと走る。人は恐怖を感じるとこんなにも血の気が引くものなのかと、僕は初めて知った。
「ところで、琥珀くんはなんで返信してくれなかったの?」
......いやいやいや、それどころではないんだが。いまの恐怖体験のあとにこんなこと聞かれても、うまく切り抜けられる気がしない。なんなら今すぐこの場から逃げ出してしまいたい。......いやだめだな。この子なら世界の果てまで追ってくる気がする。
......どうするべきか。言い訳を探す? いや、頭が真っ白でなにも浮かばない。逃げ出す? 逃げ出しても永久に追ってくる気がする。また誤魔化す? この子なら話を聞くまで永遠に尋ねてくる気がする。ああ、どうすればいい。わかんない!
「......ごめんなさい、つい魔が差して......」
「うん。今度から返信はしてね」
「......はい」
僕はこの子について、なんとなく分かったことがある。
......この子、相当やばいかも。
「じゃあ、琥珀くんにはお詫びをしてほしいな〜」
ノマちゃんは先程のオーラとは打って変わって、楽しげな表情で僕に笑いかける。
「......お詫び?」
僕は恐る恐る尋ねると、さらにニコッと口角を上げて嬉しそうに口を開いた。
「今から、私とデートして!」
「......で、でーと?」
「そう! ......だめかな?」
だめ! ......と、言いたいけど、この子に逆らってもろくな事がないと直感が告げている。
ならば、ここは大人しく従うのが最適なのでは? 一旦大人しく従っておいて、向こうが僕に飽き始めた頃にスーッと距離を置く。そうすれば波風を立たせずに平穏に関係が終わる。完璧だ。
「......分かった。いいよ」
「ほんと!? ありがとう!!」
僕が承諾するやいなや顔をパァーっと明るくして、嬉しそうにぴょこぴょこ飛び跳ねた。
......多分ヤバいやつなんだけど、こういう所はかわいいんだよな。ヤバいやつだけど。
「じゃあ、行こ! 琥珀くん!」
「......!? ちょ、ちょっと待って......!」
ノマちゃんは僕の袖口を引いて、弾むように歩き出した。そんな彼女に連れられて、僕は戸惑いながら歩き出す。
そして、当面の僕の方針が決まった。
この突然できた彼女としばらく付き合って、波風立たないように穏便に関係を終わらせる。僕の平穏な日常は、誰にも邪魔させない。僕は密かにそう決心しながら、仮の彼女に連れられて歩いた。
そういえば、肝心なことを聞いてなかったな。
僕、この子のフルネームすら知らないや。誰、この子。




