この子だれ?
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僕の人生にはドラマなんていらない。
ただ平和に、穏やかに過ぎていってくれれば何も言うことはない。
面倒事やトラブルに巻き込まれるのは真っ平御免だ。そういうのは漫画やアニメの中だけで十分間に合ってる。
僕はいつも通りの下校道を歩きながら、そんな事を思っていた。
『人は誰しも自分の人生の主役』
そんな言葉をよく聞く。耳当たりがよく、いい言葉だと思う。
だけど、僕にとっては主役なんて程遠い。
目立ちたくないし、活躍したくもないし、面倒事も避けて過ごしたい。主役どころか、脇役にすらなれないモブの立ち振る舞いだろう。
だけど、僕にとってはモブが一番性に合ってる気がする。
「ほんとに、ちょっとだけ! ね、お願い!」
「......だからやめてって......!」
......だから、こういう明らかな面倒事を目の前にすると『勘弁してくれ』という感情が真っ先にくるのだ。
大学生くらいの男が高校生くらいの女の子に絡んでる。状況的にナンパだろうな。こんな大通りの真ん中で、大胆だ。
ただ、絡まれるのはある程度仕方ないかもしれない。
絡まれてる女の子は、そこらのアイドルやモデルと比べても全く見劣りしないほどの美人だ。それどころか、上回ってるかもしれない。
少し色素が抜けたような色合いのサラリと伸びた長い髪の毛は、太陽を反射してキラキラと光っている。また、小柄ながらもスラッと伸びた肢体や、端正な顔立ち、一挙一動の所作の綺麗さなど、日本人離れした美しさと気品を兼ね備えていた。人の美醜に頓着がない僕でも、街を歩いてすれ違ったら振り返るかもしれない。それほどまでの美人だ。
まさに、高嶺の花といったところだろう。僕みたいなモブには、永遠に関わることはないような存在。
ただ、そんな美人が絡まれてるのに、だれも助けようとはしない。人通りはちらほらあるが、皆が見て見ぬふりをしてそそくさと歩いて行く。
それもそうか。こんな目に見えてる面倒事に首を突っ込みたい人間なんていないだろうな。
もちろん、僕だってできることなら見ないふりしてそそくさと立ち去りたい。
だけど、このまま見捨てるのも後味が悪い。
ここは面倒事にならないように穏便に助けるべきだろう。
はぁ......誰もやらないなら、僕がやるしかないか......
覚悟を決めて、絡まれてる女の子の元へ歩を進めた。
「ね、すぐ終わるから! ね?」
「......!? い、嫌......!」
女の子は無理やりに手を引かれ、声は震えてしまってる。
「ほら、行こ!?」
「あの、この子、僕の連れなので」
僕は男の手を掴んで、同時に男から女の子を引き離した。
「あ? 誰お前? この子の彼氏?」
「......そう。僕がこの子の彼氏だよ」
ごめんなさい、違います。だけど、そういうことにさせて下さい。
「は! お前みたいなメガネがこんな可愛い女の子と付き合える訳ねーだろ!」
男は嘲笑するように、そう吐き捨てた。
ごめんなさい、僕もそう思います......
すると、女の子は大きく息を吸って口を開いた。
「......私の彼氏です!!」
「ちょ......!?」
女の子は大声でそう宣言すると同時に、僕の腕にギュッと抱きついた。
その抱きつく手は小刻みに震えてる。女の子が年上の男に絡まれたら、そりゃ怖いよな。
僕はその震える手に、そっと手を添えた。すると、さっきまで強ばってた女の子の顔が少しだけ弛緩したように見えた。
「チッ、つまんな」
男は悪態をついて、バツが悪そうに去っていった。
「ふぅ......良かった」
いや、本当に良かった。
あそこで喧嘩沙汰になったらメガネ陰キャの僕に勝ち目は微塵もない。ぐしゃぐしゃに殴られて陰キャの肉塊になるところだった。
命があるって......素晴らしい。
僕は命に感謝しながら、ゆっくりと緊張を弛緩させていく。
「あ、あの......助けてくれて、ありがとう......」
女の子は伏し目がちに、モジモジとした様子でお礼の言葉を述べた。
「ううん、何事も無くて良かった。じゃあね」
僕は短くそう伝えて、この場を去ろうとする。
普段から注目されるのに慣れてない僕からしたら、この感謝されてる感じが......妙にむず痒い。早々に逃げよう。
「......まって!」
「......!?」
袖口を引かれて呼び止められた。
え、なに。一刻も早くこの場から去りたいのだけれど......
女の子は顔をわずかに紅潮させながら、うるうるとした瞳でこちらを見ている。
やめて。そんないたいけな仔犬みたいな目で、僕みたいなメガネ陰キャを見ないで?
「あの......名前、聞いてもいい?」
「ああ、城野 琥珀だよ」
「......!!」
女の子は僕の名前を聞いた途端、目を見開いて驚いたような表情を見せた。......そんなに変な名前かな。
「......琥珀くん!」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべて僕の名前を呼んでくれている。なんだろう......こんな可愛い子に名前呼ばれると嬉しいな。
「うん、じゃあね」
普通ならここでこの子にも名前を聞くところなんだろうけど、どうせまた会うこともないだろう。僕は再度そそくさと踵を返す。
「あ、まって!」
「うぐ......」
すると、また袖を掴まれてしまった。
「......まだなにか?」
すると女の子は顔をさらに紅潮させて、口を開いた。
「琥珀くん......さっき、言ったよね......?」
「......なにを?」
何か変なこと言ったっけ。全く記憶がない。
「だから......さっきのナンパに『この子の彼氏だ』って」
「......え?」
女の子は僕の袖口をギュッと握って、顔を真っ赤にして口を開く。
「私の......彼氏ってことで、いいんだよね......?」
......え?
「い、いや......ちょ、ちょっと待っ......」
あまりに想定外な発言に、思い切り動揺しまくった。我ながらハズい。
たしかにナンパから守るていで彼氏とは言ったが、本気にされるとは思わなかった。
「あれは、その場の方便っていうか......その......」
言い訳がましくなってるのを自覚しながら、その場をしのごうと弁明する。
「............それって......つまり」
女の子は今にも消えてしまいそうな、か細い声で呟く。
「私とは......付き合いたくない......ってこと?」
「う......!?」
目をうるうると潤ませて、今にも泣き出しそうな顔で僕を見つめてる。
やめてくれ! そんな捨てられた仔犬みたいな顔しないで!
「......そ、そんなことは」
「じゃあ、付き合ってくれるの......?」
う......これ、完全に詰んでないか?
少なくとも僕には、こんな今にも泣き出しそうな女の子を放っておいて逃げ出せるくらいの鋼のメンタルは持ち合わせてない。
それに、こんな人通りのあるところで女の子が泣きだしたら、完全に僕が悪者じゃないか。ぐぬぬ......
「......わかり、ました」
「ほんと!? 嬉しい!」
女の子はパァっと幸せそうな表情を浮かべて、嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねてる。
くっ......この策士め......
「これからよろしくね! 琥珀くん!」
そう言って、満面の可愛らしい笑顔を向けた。
なんでこうなったんだっけ......
ナンパから女の子を助けただけなのに、なんで彼女が出来ることになるんだ。はぁ......あたまいたい。
ともかく、色々あって......僕に彼女が出来た。
......ところで、この子誰?




