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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第97話 ワクチンへの抵抗と啓蒙の戦い



 公開ワクチン接種会の準備——リーゼは、王都中央広場に設営されたテントの中にいた。


 エルヴィンが報告した。「準備は整いました」


 テントの中には、接種用の机、椅子、消毒用具、そして牛痘ワクチンの瓶が並んでいた。


 リーゼは頷いた。「良いわね。今日から三日間、無料でワクチン接種を行います。できるだけ多くの人に、天然痘予防の機会を提供しましょう」


 エリーゼ、ルーカス先輩、そして数名の若い医師たちが、協力してくれていた。


 エリーゼが心配そうに言った。「先生、本当に、人々は来てくれるかしら?」


 リーゼは微笑んだ。「大丈夫よ。私たちが、丁寧に説明すれば——きっと理解してくれるわ」




 午前九時——接種会が開始された。


 リーゼは、テントの外に立って呼びかけた。


「皆さん!」と広場を行き交う人々が、振り返った。


「私は、リーゼ・フォン・ハイムダルです。今日から、無料で天然痘予防のワクチン接種を行います」


 人々が、興味深そうに集まってきた。


「天然痘は、恐ろしい病気です」とリーゼは説明を続けた。「致死率は三十パーセント——生き延びても、顔に痘痕(あばた)が残ります」


「でも——」と彼女は、小瓶を掲げた。「この牛痘ワクチンを接種すれば——天然痘を予防できます」


 人々が、ざわめいた。「本当か?」「天然痘を、予防できる……?」


「はい」とリーゼは力強く答えた。「私自身、すでに接種を受けました。安全性は、確認済みです」


 彼女は、腕を見せた。接種の痕——小さなかさぶたの跡がある。


「副作用は、ほとんどありません。数日間、軽い発熱や腫れがある程度です」




 最初に——一人の母親が、子供を連れて来た。


「先生……本当に、安全なんですか?」


「はい」とリーゼは、母親の目を見つめた。「私の命にかけて、保証します」


 母親は、少し迷ってから——頷いた。「お願いします」


 リーゼは、子供の腕を優しく消毒した。「少しチクッとするけど、我慢してね」


 針で軽く皮膚を傷つけ——牛痘液を塗る。


「……終わりよ」


 子供は、きょとんとした顔をした。「これだけ?」


「ええ」



 リーゼは微笑んだ。「これで、あなたは天然痘から守られます」


 母親が、深々と頭を下げた。「ありがとうございます、先生」



 その様子を見て——他の人々も、次々と列に並び始めた。


「私も、お願いします」「子供に接種してください」「家族全員、受けたいです」


 リーゼたちは、一人ひとり丁寧に接種していった。午前中だけで——約五十名が接種を受けた。


「順調ね」とリーゼは、安堵した。


 でも——その時——


「待て!」と大きな声が響いた。




 広場の入口から——黒い服を着た神父が、数名の信者を連れて現れた。


「皆、騙されるな!」と神父は、人々に向かって叫んだ。「その『ワクチン』とやらは、悪魔の技術だ!」


 人々が、ざわめいた。


「体に病を植え付けるなど——」と神父は続けた。「神の意志に背く行為だ!」


「病は、神の試練である。それを人為的に防ぐなど、許されることではない!」


 リーゼは、冷静に神父に向き合った。


「神父様」と彼女は言った。「ワクチンは、病を植え付けるのではありません。体の免疫力を高めるのです」


「詭弁だ!」と神父は、リーゼを指差した。「お前は、以前から神の教えに背いてきた。消毒、手洗い、そして今度はワクチン——」


「すべて、自然の摂理を乱す行為だ!」


 人々が、不安そうに顔を見合わせた。「神父様の言うことも、一理あるかもしれん……」「本当に、安全なのか……?」


 リーゼは——人々の心が、揺らいでいるのを感じた。




「皆さん」とリーゼは、声を張った。「私は、嘘をついていません」


「ワクチンの安全性は、科学的に証明されています」


 彼女は、資料を取り出した。「動物実験では、副作用はほとんどありませんでした。私自身も接種を受けましたが、何の問題もありません」


「それは、今のところだ!」と神父が反論した。「数年後、数十年後——恐ろしい副作用が現れるかもしれんぞ!」


 人々が、さらに不安そうになった。


「それは……」とリーゼは、言葉に詰まった。


 確かに——長期的な影響は、まだ分からない。でも、前世の知識では——ワクチンは安全だと証明されている。


「科学的根拠のない恐怖を、煽らないでください」とリーゼは、神父を見据えた。「あなたは、人々を天然痘から守る機会を——奪おうとしているんですか?」


「守る?」と神父は冷笑した。



「天然痘から守るのは、神だ。お前のような小娘ではない」



 その時——「それは、違う」と新しい声が響いた。


 人々が振り返ると——アレクサンダー王子が、馬から降りていた。


「殿下……!」と人々が、驚いて膝をついた。


「神父」と王子は、冷たい目で神父を見た。「あなたの言うことは、間違っている」


「殿下……しかし——」


「神は、人々に知恵を与えられた」と王子は言った。「その知恵を使って、病から身を守ることは——神の意志に背くことではない」


「むしろ——」と王子は続けた。「神が与えてくださった知恵を、使わないことこそ——神への冒涜ではないか」


 神父は、言葉を失った。


「私も——」と王子は、腕をまくった。「ワクチンを受ける」


 会場が、どよめいた。


「リーゼ先生、お願いします」と王子は、テントに入った。




 リーゼは——驚きながらも、王子に接種した。


「殿下……ありがとうございます」


「当然のことだ」と王子は微笑んだ。「私は、科学を信じる。そして、お前を信じる」


 人々は——王子の姿を見て、動揺した。「王子様が、自ら接種を……」「それなら、安全なのかもしれない」「やはり、受けるべきか……」


 神父は——苦々しい顔で、その場を去った。



 王子の接種後——再び、人々が列に並び始めた。


「私も、お願いします」「家族にも受けさせたいです」


 その日——合計で百五十名が、ワクチン接種を受けた。


 夕方、テントを片付けながら——


「殿下、本当にありがとうございました」とリーゼは、王子に感謝した。


「気にするな」と王子は答えた。「でも、これで終わりではないぞ」


「え……?」


「教会は、まだ諦めていない」と王子は、真剣な表情で言った。「彼らは、別の手段で妨害してくるだろう」


「覚悟しています」とリーゼは頷いた。




 翌日——王都中に、噂が広がった。


「ワクチンを受けた子供が、高熱を出したそうだ」「危険な薬だったんじゃないか」「やはり、神父様の言う通りだ」


 リーゼは、すぐに確認に向かった。



 噂の子供の家——リーゼが訪ねると、母親が慌てて出てきた。


「先生!」


「お子さんの様子を見せてください」


 リーゼは、子供を診察した。体温——三十七度五分。接種部位——やや腫れている。


「これは——」とリーゼは説明した。「正常な反応です」


「え……?」


「ワクチン接種後、数日間は軽い発熱や腫れが出ます」とリーゼは続けた。「これは、体が免疫を作っている証拠です」


「危険ではないんですか?」


「全く危険ではありません」とリーゼは微笑んだ。「むしろ、ワクチンがちゃんと効いているという証拠です」


「良かった……」と母親は、安堵した。




 でも——噂は、どんどん広がっていった。


「ワクチンを受けた人が、次々と熱を出している」「やはり危険だ」「悪魔の薬だと言っただろう」


 教会の説教師たちが——街角で、人々を煽っていた。


 二日目の接種会——来る人の数が、大幅に減った。わずか三十名——


「くっ……」とリーゼは、悔しさを感じた。


 正しい情報を伝えても——


 恐怖と迷信の方が、勝ってしまう。


「リーゼ」とエリーゼが、励ました。「焦らないで。少しずつでも、理解してくれる人はいるわ」


「そうね……」とリーゼは頷いた。



 三日目——さらに人数が減った。わずか十五名——


「このままでは……」とルーカス先輩が、心配そうに言った。「ワクチンの普及は、失敗してしまいます」


 リーゼは——どうすればいいのか、考え込んだ。科学的な説明だけでは——人々の恐怖を取り除けない。何か、もっと説得力のあるもの——


 その時——


「リーゼ先生!」と急使が駆け込んできた。「大変です!」


「どうしたの?」


「南部地方で——」と急使は息を切らしながら言った。「天然痘が流行しています!」




 王宮——緊急会議。国王、王子、リーゼ、そして大臣たちが集まっていた。


「報告しろ」と国王が命じた。


「はい」と南部地方の使者が説明した。「三週間前から、天然痘の患者が増え始めました。現在、百名以上が発症しています」


「死者は?」


「二十三名……」


 会議室に、重い沈黙が落ちた。


「拡大の恐れは?」


「はい」と使者は頷いた。「このままでは、王都にも広がる可能性があります」


 国王は、リーゼを見た。


「リーゼ」


「はい、陛下」


「お前のワクチンは——」と国王は尋ねた。「天然痘を防げるのか?」


「はい」とリーゼは力強く答えた。「牛痘ワクチンは、天然痘に対する免疫を作ります。接種を受ければ、感染を防げます」


「では——」と国王は決断した。「南部地方に、医療チームを派遣する。リーゼ、お前が指揮を取れ」


「はい!」




 翌日——リーゼは、医療チームを率いて南部地方へ向かった。


 エリーゼ、ルーカス先輩、そして志願した若い医師たち——馬車には、大量のワクチンと医療器具が積まれていた。


「リーゼ」と出発前、アレクサンダー王子が見送りに来た。「気をつけろ」


「はい」とリーゼは微笑んだ。「必ず、成功させます」


「信じている」と王子は、リーゼの手を握った。「そして——必ず、無事に戻ってこい」


「約束します」





 南部地方——リーゼたちが到着すると、町は混乱していた。


 天然痘患者が、隔離施設に収容されている。家族は、恐怖に怯えている。


「リーゼ先生!」と町長が駆け寄ってきた。「助けてください!このままでは、町が全滅してしまいます!」


「大丈夫です」とリーゼは、落ち着いて答えた。「まず、ワクチン接種を開始します。すべての住民に、接種を行ってください」





 リーゼたちは——朝から晩まで、休まずに接種を続けた。一人、また一人——町の住民、約千名に、ワクチンを接種していく。


「これで、あなたは天然痘から守られます」とリーゼは、一人ひとりに説明しながら接種した。


 そして——すでに発症している患者たちには——


「残念ながら、ワクチンは予防薬です」とリーゼは正直に説明した。「すでに感染している方には、効果がありません」


「では……」と患者の家族が、絶望的な顔をした。


「でも——」とリーゼは続けた。「できる限りの対症療法を行います。水分補給、栄養管理、そして——」


 彼女は、別の薬を取り出した。「ペニシリンです」


「天然痘はウイルスなので、ペニシリンでは治せません。でも、二次感染を防ぐことはできます」



 三週間——リーゼたちは、南部地方に留まった。


 ワクチン接種を受けた住民たちは——誰も、天然痘を発症しなかった。すでに発症していた患者たちは——ペニシリンによる二次感染予防と、丁寧な看護により——約七割が回復した。


 死者は——追加で五名出たが、流行は完全に収束した。


「先生……本当にありがとうございました……」と町長が、涙を流しながら頭を下げた。「先生のワクチンのおかげで、町が救われました」


「いいえ」とリーゼは微笑んだ。「皆さんが、ワクチンを信じてくれたからです」



 王都に戻る馬車の中——


「リーゼ」とエリーゼが言った。「これで、ワクチンの効果が証明されたわね」


「ええ」とリーゼは頷いた。「王都に戻ったら——この結果を、広く伝えましょう」



 王都——リーゼたちが戻ると、すでに南部地方の成功は伝わっていた。


「ワクチンを受けた人は、誰も天然痘にかからなかった」「やはり、効果があるんだ」「リーゼ先生のワクチンは、本物だ」



 街中が、沸いていた。


 そして——再び公開接種会を開催すると——長蛇の列ができた。


「お願いします!」「家族全員に、接種してください!」「天然痘から守ってください!」


 人々は——今度は、恐怖ではなく希望を持って、ワクチンを求めた。



 一ヶ月後——王都の住民の約半数が、ワクチン接種を受けた。


 教会の反対運動は——結果の前に、力を失っていた。


「ワクチンは悪魔の技術だと言っていたのに……」「実際には、多くの命を救ったじゃないか」「やはり、科学の方が正しかったんだ」


 民衆の信頼は——リーゼと科学に向かっていた。




 王宮——国王が、リーゼを謁見した。


「リーゼ・フォン・ハイムダル」


「はい、陛下」


「そなたは、また一つ——」と国王は微笑んだ。「この国に、偉大な贈り物をもたらした」


「恐れ入ります」


「ワクチンの普及——」と国王は続けた。「それは、国家事業として進める」


「王立医学アカデミーに、ワクチン部門を新設せよ。そして、全国にワクチンを届ける体制を整えよ」


「はい!」とリーゼは、感激で涙が出そうになった。





 その夜——



 リーゼは、研究室で一人、安堵していた。



 長い戦いだった——



 教会の反対、民衆の恐怖、そして南部地方での流行——



 でも、すべてを乗り越えた。



 ワクチンは——


 人々に受け入れられた。



 コンコン。



 ノックの音。



「はい?」



「私だ」



 アレクサンダー王子が入ってきた。



「殿下……」



「お帰り、リーゼ」



 王子は、リーゼを抱きしめた。



「よく頑張ったな」



「殿下……」



 リーゼは、王子の胸で泣いた。



 疲れと、安堵と、喜びが——


 涙となって溢れ出た。



「もう大丈夫だ」



 王子は優しく背中をさすった。



「お前は、また多くの命を救った」



「そして——」



 王子は、リーゼの顔を見つめた。



「人々に、科学の力を示した」



「迷信よりも、理性を」


「恐怖よりも、知識を」



「それが、お前の戦いだ」



 リーゼは——



 王子の言葉に、勇気をもらった。



「はい……」



 彼女は微笑んだ。



「これからも、戦い続けます」



◇◇◇



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