表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/106

第94話 新たな日常と迫る婚約





 改良株ストレプトマイシン量産成功から半年が経ち、私は十八歳の誕生日を迎えた。


 日々は、かつてないほど多忙になっていた。


 朝、六時——リーゼは研究室に到着し、まず各プロジェクトの進捗報告を確認する。


「改良株ストレプトマイシン工場——昨日の生産量、五十二キログラム。良好ね」と彼女は報告書にチェックを入れた。


「ペニシリン量産プロジェクト——エルヴィンのチームが順調。今週中に試験生産開始予定」と次のページをめくる。


「ワクチン研究——まだ文献調査の段階。牛痘の培養方法を確立する必要がある」


 リーゼは、予定表を開いた。


 今日のスケジュール——午前は微生物学講座の講義、午後は改良株ストレプトマイシン工場の品質検査、夕方は婚約発表準備会議。


「……忙しいわね」とリーゼは苦笑した。




 午前——王立医学アカデミー大講堂。


 リーゼは、約五十名の学生たちの前に立っていた。


「本日の講義は、『抗生物質の作用機序』についてです」と彼女は黒板にチョークで図を描いた。


「ペニシリンは細菌の細胞壁合成を阻害します。一方、ストレプトマイシンは細菌のタンパク質合成を阻害します」


 学生たちが、熱心にメモを取る。


「つまり、同じ『抗生物質』でも攻撃する標的が違うんです。だから、ペニシリンが効かない菌にも、ストレプトマイシンが効く場合があります」とリーゼは続けた。


「先生」と一人の学生が手を上げた。


「はい、どうぞ」


「では、将来的には、もっと多くの種類の抗生物質が必要になるということですか?」


 リーゼは頷いた。「その通りです。細菌は多様です。だから、抗生物質も多様でなければなりません。皆さんの中から、新しい抗生物質を発見する人が出てくるかもしれませんね」


 学生たちの目が、輝いた。




 講義の後、私は久しぶりに王都の宿舎へ帰ると——驚きの知らせが待っていた。「両親とマルタが、辺境領から王都に来ている」と。


 私は急いで、王宮の迎賓館へ向かった。そこは、貴族の家族が王都滞在時に使う施設だ。


 玄関に入ると、マルタが駆け寄ってきた。


「リーゼ様! お帰りなさいませ!」


 私の乳母であり、ずっと世話をしてくれたマルタ——五十代の優しい女性。


「マルタ、会いたかったわ。遠いところ、ありがとう」


「まあ、リーゼ様……辺境領から三日かけて参りました」とマルタが嬉しそうに微笑んだ。


「お父様とお母様、お兄様は?」


「旦那様と奥様は居間に、エーリヒ様は別の部屋にいらっしゃいます」「すぐにお呼びいたしますね」




 居間には、母アンネと父ヨハンがいた。母は刺繍をしており、父は書類に目を通していた。栗色の髪に少し白いものが混じった母と、辺境伯としての責務で逞しくなった父。でも二人とも、変わらず穏やかな笑顔で迎えてくれた。


「リーゼ!」と母が立ち上がった。


「父上、母上」と私は深々と頭を下げた。


「お母様、お父様」と私は母に抱きついた。温かくて優しい匂い——この八年間、ずっと私を支えてくれた両親。


「元気そうだな、リーゼ」と父が穏やかな声で言った。「王都の生活は大変だろう。体は大丈夫か」


「はい、お父様。お陰様で」


「わざわざ辺境領から王都まで来てくださったのは……」と私が聞くと、母が優しく微笑んだ。


「婚約のことを聞いたからよ。おめでとう、リーゼ」


 え……もう知っているの?


 その時、扉が開いて兄のエーリヒが入ってきた。


「リーゼ! 久しぶりだな」


 二十六歳になった兄——背が高くがっしりした体格で、騎士として鍛えられた頼もしい姿。


「お兄様」


「父上、母上から手紙で聞いてたぞ。おめでとう」と兄が笑った。


「実は……正式に報告したくて」と私は深呼吸をした。


「アレクサンダー王子殿下から正式に求婚を受けました。来月、婚約を正式に発表します。そして春に結婚式を——」


「リーゼ」と父が優しく私の肩に手を置いた。「おめでとう。よく頑張ったな」


「お父様……」と私の目から、涙が溢れた。


「リーゼ!」と母が私を抱きしめた。涙を流しながら。


「よかった……本当によかった……」


「お母様、お父様……」


「あなたが幸せになれる相手が見つかって」と母が震える声で言った。「アレクサンダー王子は優しい方だものね。あなたの医学への情熱も、理解してくださっている」


「はい」と私も涙が出そうになった。


「殿下は、私が研究を続けることを認めてくださっています。王妃になっても、医師であり続けていいと」


「アレクサンダー王子は、優しい方だ」と父が穏やかに言った。「お前の医学への情熱も、理解してくださっている」「お前なら、立派な王妃になれる」


「お父様……」


「だが」と兄が、私の頭をポンと叩いた。「もし王子が妹を泣かせたら、俺も父上も容赦しないからな」


「お兄様、お父様!」


 父が笑った。「エーリヒの言う通りだ」「お前はずっと頑張ってきた。十歳で医学の道を志して八年間、顕微鏡を作り、ペニシリンを発見し、改良株ストレプトマイシンを量産し——王国の医療を革新してきた。その努力がこうして報われる。私は誇らしい」


 父の言葉に、涙が溢れた。


「ありがとうございます、お父様」


「泣くな、リーゼ」と兄が笑った。「今日は喜びの日だろう」


 四人で笑い合った。温かい時間——家族と過ごす、かけがえのない時間。


「マルタも呼びましょう」と母が言った。「あの子も、きっと喜ぶわ」




 マルタは、涙を流して喜んでくれた。


「リーゼ様……おめでとうございます……」


「ありがとう、マルタ」


「十歳の時、高熱で倒れて——目を覚ましたとき、別人のように賢くなっていて。医学の勉強を始めて、王都の医学院に入学して……ずっと心配でしたが、でもこんなに立派になられて……」とマルタが言った。


「マルタ……」


「私、本当に嬉しいです」


 マルタの涙を見て、私も泣いてしまった。


 転生してから八年。この人たちに、どれだけ支えられてきたか。


「結婚式には、必ず来てください」と私は家族全員に言った。「家族として、一番近くで見守っていてほしいの」


「当然だ」と父が頷いた。「私が、お前を王子殿下に託す」


「お父様……」


「その前に、俺が王子の人柄を確かめておくからな」と兄が笑った。


「お兄様!」


「冗談だって」





 迎賓館を後にして、王立医学アカデミーに戻る。


 心が軽くなっていた。家族に認めてもらえた。祝福してもらえた。それが、どれほど嬉しいか。





 アカデミーに戻ると——



「リーゼ先生」とエルヴィンが駆け寄ってきた。


「どうしたの、エルヴィン?」


「ペニシリンの試験生産ですが——」と彼は興奮気味に報告した。「予定より早く、今日から開始できそうです!」


「本当!?」とリーゼの顔が明るくなった。



「はい」とエルヴィンは頷いた。「培養設備の調整が完了しました」「青カビの培養も順調です」


「素晴らしいわ」とリーゼは、エルヴィンの肩を叩いた。「あなたのチーム、本当によくやってくれているわね」


「いえ、先生が確立してくださった製造プロセスがあるからです」とエルヴィンは謙遜した。



「では、午後の工場視察の後、ペニシリン生産施設も見に行きましょう」



「はい!」




 午後——改良株ストレプトマイシン工場。


 リーゼは、白衣とマスクを着用し、製造現場を巡回していた。


「培養槽の温度は?」


「摂氏二十八度、安定しています」と技術者が報告した。


「pH値は?」


「七・二。最適範囲内です」


「良いわ」とリーゼは、培養液のサンプルを顕微鏡で確認した。


 放線菌が健康的に増殖しており、コロニーの形状も正常だ。


「品質、問題なしね」と彼女は満足げに頷いた。


「先生」と工場長が近づいてきた。「今月の生産量ですが、目標を十パーセント上回る見込みです」


「素晴らしい」


「それから——」と工場長は続けた。「他の地方からも、工場建設の要請が来ています」


「他の地方……?」


「はい」と工場長は書類を示した。「南部地方、東部地方、北部地方——それぞれの領主が、地元に工場を建てたいと」


 リーゼは考え込んだ。


「需要が増えているのは良いことだけど……」



「問題は?」


「技術者の育成が追いついていないの」とリーゼは答えた。「微生物の培養は繊細な技術が必要で、素人がやると汚染や失敗のリスクが高い」


「なるほど……」


「まずは、ここの工場で技術者を育成しましょう」とリーゼは提案した。「研修制度を作って各地方から人を受け入れ、十分に訓練してから地元に戻って工場を立ち上げてもらう」


「分かりました」と工場長は頷いた。「さっそく準備します」




 ペニシリン生産施設——


「これが、試験生産ラインです」とエルヴィンが、新しい建物を案内した。


 中には、改良株ストレプトマイシン工場よりは小規模だが、しっかりとした設備が整っていた。


「培養槽は、五基」とエルヴィンは説明した。「一週間で、約十キログラムのペニシリンを生産できます」


「十キログラム……」とリーゼは計算した。「約百名の患者さんを治療できるわね」


「はい」


「今は試験生産だけど——」とリーゼは続けた。「需要を見ながら、設備を拡張していきましょう」


「了解です」


 リーゼは、培養中の青カビを見つめた。


(ペニシリンも、改良株ストレプトマイシンも、軌道に乗った)と彼女は思った。


(次は、ワクチンね……)




 夕方——王宮。アレクサンダー王子の執務室。


 リーゼ、王子、そして王宮の儀典長が集まっていた。


「婚約発表の日程についてですが——」と儀典長が書類を広げた。「来月の第一土曜日、大広間で式典を行います」


「来月……」とリーゼは緊張した。


「参列者は、約三百名を予定しています」と儀典長は続けた。「国王陛下、貴族、高位聖職者、外国の使節——」


「三百名……!」とリーゼは目を見開いた。


「大丈夫か、リーゼ?」と王子が心配そうに尋ねた。


「は、はい……」とリーゼは頷いたが、顔は青ざめていた。



「それから——」と儀典長が続けた。「リーゼ様は、すでにハイムダル辺境伯家の令嬢でいらっしゃいますので」「爵位はそのままとなります」


「ただし、王子殿下の婚約者として——」と儀典長は説明した。「正式に『リーゼ・フォン・ハイムダル辺境伯令嬢』の称号で宮廷に列せられます」「婚礼の際には、この称号で紹介されることになります」


「辺境伯令嬢……」とリーゼは改めて実感した。


 自分が、王家の一員になる——それは、想像もしていなかったことだった。


「リーゼ」と王子が、リーゼの手を取った。


「これは、形式的なものだ」と彼は優しく言った。「お前の本質は、何も変わらない」「お前は、医師だ」「それは、どんな称号よりも尊いものだ」


 リーゼは、王子の言葉に救われた。


「はい……」



「それから——」と儀典長が別の書類を取り出した。「婚約の贈り物についてですが——」


「贈り物?」


「はい」と儀典長は説明した。「伝統的には、王子殿下からリーゼ様へ、宝石や装飾品を贈ります」


「宝石……」とリーゼは困った顔をした。「私、そういうの、あまり……」


「大丈夫だ」と王子は微笑んだ。「お前には、特別な贈り物を用意してある」


「特別な……?」


 王子は、机の引き出しから、小さな箱を取り出した。そして、それをリーゼに渡した。


「開けてみろ」


 リーゼは、緊張しながら箱を開けた。中には——


「これは……!」とリーゼは息を呑んだ。


 それは、精巧に作られた顕微鏡だった。手のひらに乗るほど小さいが、レンズは最高品質だ。


「携帯用顕微鏡だ」と王子は説明した。「王国最高の職人に作らせた」「どこへ行っても、これがあれば観察ができる」


 リーゼの目に、涙が浮かんだ。


「殿下……」


「お前にとって——」と王子は続けた。「宝石よりも、この顕微鏡の方が価値があるだろう?」


「はい……」とリーゼは、顕微鏡を大切そうに抱きしめた。「ありがとうございます……」




 その夜——リーゼは、宿舎の部屋で顕微鏡を見つめていた。


 精巧な真鍮製。レンズは透明で歪みがない。


 試しに、髪の毛を観察してみる。


「すごい……」とクリアに見える。


 この顕微鏡なら、どこでも研究ができる。


 コンコン。ノックの音。


「はい?」


「私よ」とエリーゼの声。


「入って」


 エリーゼが入ってきた。


「リーゼ、婚約発表の準備、どう?」


「……正直、緊張してるわ」とリーゼは答えた。「三百人の前で……なんて」


「大丈夫よ」とエリーゼは、親友の肩を抱いた。「あなたは、もっと大勢の前で講演したじゃない」


「でも、あれは医学の話だから……」


「婚約も、同じよ」とエリーゼは微笑んだ。「あなたが、愛する人と未来を誓う——それを、みんなに見てもらうだけ」


 リーゼは、少し落ち着いて頷いた。「そうね……」


 エリーゼは続けた。「それに——王子様、素敵な贈り物をくれたんでしょう?」


「うん、これ」とリーゼは、顕微鏡を見せた。


「わぁ……美しい……」とエリーゼは感嘆した。「王子様、本当にあなたのことを分かってるわね」


「うん……」とリーゼは頬を染めた。





 一週間後——婚約発表のニュースが、王都中に広がった。


「アレクサンダー王子殿下が、婚約されるそうだ」「相手は、あのリーゼ・フォン・ハイムダル先生だって」「結核を治した、天才医師の……」


 民衆の反応は——概ね好意的だった。「素晴らしいじゃないか」「平民出身でも、才能があれば王族と結婚できる」「これこそ、真の実力主義だ」——街角では、祝福の声が上がった。


 でも——貴族たちの反応は、異なっていた。





 貴族会議室——老貴族の一人が、怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。「平民との婚約だと!?」


「以前、婚姻禁止法を提案したではないか」別の貴族が言った。


「それを国王陛下が否決されたからといって——」



「まさか、本当に婚約するとは……」



 宮廷大臣エドゥアルトは、冷静に座っていた。



「諸君」と彼が立ち上がった。「怒っても仕方ない」



「では、どうするのです、閣下?」



「今は、静観する」とエドゥアルトは答えた。「国王陛下が承認された婚約だ」「表立って反対はできない」



「ですが——」



「だが」とエドゥアルトは、冷たく微笑んだ。「婚約と、結婚は別だ」



 貴族たちが、顔を見合わせた。



「婚約発表から、実際の結婚までには、通常一年以上かかる」とエドゥアルトは説明した。「その間に——様々なことが起こりうる」



「様々なこと……?」



「そうだ」とエドゥアルトは頷いた。「例えば——リーゼ・フォン・ハイムダルが、王族の妃としてふさわしくない行動を取る、とか」


 貴族たちの目が、険しくなった。


 エドゥアルトは続けた。「あるいは——彼女の研究に、問題が見つかる、とか」



 老貴族が頷いた。「なるほど……つまり、婚約を破談に持ち込むと」


「そういうことだ」エドゥアルトは微笑んだ。「時間は、たっぷりある。焦る必要はない」





 同じ頃——教会本部。


 新しい枢機卿——ハインリヒ・フォン・ブラウンシュヴァイクが、報告を受けていた。


「リーゼ・フォン・ハイムダルが、王子殿下と婚約……」


「はい」と側近が答えた。


 枢機卿は、顔をしかめた。「あの異端の娘が、王家に入ろうとしている」「ギースリング前枢機卿を投獄し——バルタザール神父を捕らえ——そして今、王族になろうとしている」


「許せませんな」と側近が同意した。


 枢機卿は考え込んだ。「だが——前任者たちの失敗を、繰り返してはならない」


「はい」


「直接的な暴力は、もう通用しない」と枢機卿は言った。「王子殿下と国王陛下が、彼女を守っている」


「では、どうなさいますか?」


「もっと巧妙に——」と枢機卿は微笑んだ。「彼女の評判を、内側から崩す」


「内側から……?」


「そうだ」と枢機卿は頷いた。「例えば——」「彼女の開発した薬に、副作用があったという噂を流す」


「でも、実際には副作用は——」


「事実かどうかは、関係ない」と枢機卿は冷たく言い放った。「噂が広まれば、人々は彼女を疑い始める」「そして、王族の妃としてふさわしくない、という世論が形成される」


 側近は、邪悪な計画に感心した。


「さすがです、猊下」





 リーゼは——まだ、こうした陰謀を知らなかった。


 彼女は、研究室でワクチン開発の文献を読んでいた。


「ジェンナーの牛痘接種法……」と彼女は、前世の記憶を辿る。


 天然痘——致死率三十パーセントの恐ろしい病気。前世の世界では、何億もの命を奪った。この世界でも、南部地方で時折発生すると聞く。でも、牛痘を接種すれば、天然痘に対する免疫ができる。


 リーゼは考えた。「いつか流行が起きる前に——ワクチン技術を確立しておくべきだわ」


 コンコン——ノックの音。


「はい?」


「私だ」とアレクサンダー王子の声。


「殿下、どうぞ」と王子が入ってきた。


「リーゼ、少し話がある」


「はい」


 王子は真剣な表情で言った。「婚約発表について——反対派がいることを、知っておいてほしい」


 リーゼは頷いた。「分かっています」


 王子は続けた。「彼らは、お前を王家から遠ざけようとするだろう。噂を流したり、評判を落とそうとしたり——あらゆる手段を使ってくる」


「覚悟しています」とリーゼは答えた。


 彼女は微笑んだ。「でも、私には——医師としての仕事があります。人を救うという、使命があります。それが、私の本質です」


 王子は、リーゼの強さに感動した。


「そうだな……」と彼は、リーゼの手を取った。「だから、私はお前を愛している」


「殿下……」


「どんな困難があっても——」と王子は誓った。「私は、お前を守る」「そして、共に未来を築く」


 リーゼは、王子の手を握り返した。


「はい」


 二人は、見つめ合った。


 窓の外——夕日が、王都を照らしていた。


 オレンジ色の光が——二人の未来を、祝福するかのように輝いていた。





 翌日——リーゼは、研究室で新しいプロジェクトを立ち上げた。


「ワクチン開発チーム、発足です」


 集まったのは——エリーゼ、ルーカス先輩、そして新たに配属された若い研究者たち。


 リーゼは説明した。「まず、牛痘の培養から始めます。牛の膿疱から、ウイルスを採取します。それを培養し、安全に接種できる形にする」


 若い研究者の一人が、顔をしかめた。「牛の膿疱……」


 リーゼは微笑んだ。「はい。抗生物質は、腐ったパンと土から作りました。ワクチンは、牛の膿疱から作ります」


 彼女は続けた。「医学は——時に、汚いものから生まれるんです」



 研究者たちは、納得した顔で頷いた。


「では、さっそく準備を始めましょう」



 一ヶ月後——リーゼの日々は、さらに多忙になっていた。朝はワクチン研究、昼は微生物学講座の講義、午後は工場の視察と品質管理、夕方は婚約式典の準備、夜は論文執筆。


 エリーゼが心配そうに言った。「リーゼ、休まないと倒れるわよ」


 リーゼは笑った。「大丈夫よ。やりたいことが、たくさんあるの。時間が足りないくらいよ」


「でも——」


 リーゼは、親友の手を取った。「エリーゼ、私、幸せよ」


「え……?」


 リーゼは続けた。「好きな研究ができて——愛する人がいて——信頼できる仲間がいて——こんなに恵まれた環境で、医学に取り組める。これ以上の幸せは、ないわ」


 エリーゼは、親友の笑顔を見て、涙が出そうになった。彼女も微笑んだ。「そうね……あなたは、本当に強いわ」





 婚約発表まで——あと二週間。王都は、祝祭ムードに包まれていた。


 でも——その裏では、陰謀が渦巻いている。リーゼは、まだ知らない。彼女を陥れようとする者たちが——着実に、罠を仕掛け始めていることを。


 でも、リーゼには——信頼できる仲間たちがいる。そして、何よりも——人を救うという、揺るぎない使命がある。その使命が、どんな困難も、乗り越える力を与えてくれる。


 リーゼの物語は、新たな章へと進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なるほど!それは楽しみですね!ライブ感のある物語のIFや歴史を見れたような気がしてとてもワクワクします!ほぼ毎日更新主人公のように作者様もお体の管理には気を付けて。外伝楽しみです。
いつも更新ありがとうございます!マルタさんは主人公の故郷の近隣の村の薬師さんでしたよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ