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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第93話 完成と新たな戦い



 一年後——十七歳になった私は、ついに夢を実現した。改良株ストレプトマイシン製造工場が、完成したのだ。


 王都郊外——三つの建物が整然と並んでいる。培養棟には大型の培養槽が並び、抽出棟には化学処理を行う設備、精製棟には最終的な純度を高める装置が設置されている。


「素晴らしい……」とリーゼは完成した工場を見上げた。彼女の夢がついに形になった。


「リーゼ先生」とエルヴィンが駆け寄ってきた。「最初の培養が、完了しました」


「本当!?」


 リーゼは、培養棟に急いだ。





 培養棟——巨大な培養槽に、放線菌が育っていた。


「これは……」とリーゼは息を呑んだ。


 培養液の量は百リットル——研究室の実験とは桁が違う。


「順調に増殖しています」とエルヴィンが報告した。「あと三日で、抽出工程に移れます」



 その横では、ヨーゼフが培養槽の温度を確認している。手つきは迷いがなく、一年前の不安定さはもうどこにもない。



「培養槽A-3、温度25.2度、湿度61%——すべて正常です」


 ヨーゼフが、てきぱきと報告する。



 抽出棟では、マルティンが配管のバルブを調整していた。



「抽出装置、圧力安定。溶媒の流量も問題ありません」



 精製棟では、アンナが精製装置の最終チェックを行っている。



「先生、精製装置も準備完了です。いつでも稼働できます」



 リーゼは一年間共に歩んできた仲間たちを見つめた。



(みんな……本当に立派な技術者になったわ)



 胸が熱くなり、安堵の気持ちが込み上げてくる。「良かった……」



「先生」


 エリーゼが入ってきた。


「式典の準備ができました」



「式典……?」


「はい」とエリーゼは微笑んだ。「工場完成記念式典です。国王陛下も、ご臨席されます」



 リーゼは驚いた。



「陛下が……?」


「ええ」とエリーゼは頷いた。「それだけ、この工場が重要だということよ」





 式典当日——



 工場の前に、多くの人々が集まっていた。



 国王ハインリヒ四世、アレクサンダー王子、貴族たち、医師たち——



「本日——」と国王が演台に立った。「歴史的な瞬間に立ち会えることを、光栄に思う」


 会場が静まり返る。


「この工場は、結核という不治の病に希望をもたらすものだ」と国王は続けた。


 拍手が起こった。


「そして、この工場を実現したのは——」と国王は、リーゼを見た。「リーゼ・フォン・ハイムダル。わずか十歳で医学の道を志し、今日この偉業を成し遂げた」


 会場が、大きくどよめいた。


「リーゼ、前へ」


 リーゼは、緊張しながら演台に上がった。


「皆様」と彼女は話し始めた。「この工場は、私一人の力では実現できませんでした」


 会場が、静かに聞き入る。


「エルヴィン、エリーゼ、アカデミーの皆様——」とリーゼは続けた。「そして、アレクサンダー王子殿下、国王陛下——多くの方々の支援があって、ここまで来られました」


 彼女は深く頭を下げた。


「本当に、ありがとうございます」


 会場が、温かい拍手に包まれた。



「そして——」とリーゼは顔を上げた。「今日から、この工場で作られる薬をすべての結核患者さんに届けます」



 拍手が、さらに大きくなった。


「では——」と国王が立ち上がった。「工場の稼働を宣言する」


 リーゼが水門レバーを引く。


 ゴォォォ——


 水車が回り始め、機械が動き出す音が響いた。培養槽が回転し、ポンプが動き、工場が生き物のように動き始めた。


「成功だ……!」


 歓声が上がった。



 式典の後——リーゼは、アレクサンダー王子と二人きりになった。


「おめでとう、リーゼ」と王子は微笑んだ。



「ありがとうございます、殿下」


 リーゼも笑顔で答えた。



「これで多くの人を救える。君の夢が、また一つ叶ったな」と王子は言った。



「はい」とリーゼは頷いた。



 でも——


「殿下、私まだ不安なんです」とリーゼが真剣な表情で言った。


「不安?」


「教会の妨害——」とリーゼは続けた。「まだ、終わっていないと思うんです」


 王子の表情が、険しくなった。


「そうだな……」と彼は頷いた。「警備は、厳重にしている。でも、完全に安全とは言えない」


「もし、工場が襲われたら——」とリーゼは恐怖を感じた。


「大丈夫だ」と王子は、リーゼの肩を抱いた。「私が、必ず守る」


 リーゼは、王子の温もりに安心した。


「はい……」





 その頃——森の中の隠れ家。バルタザール神父と、黒服の男たちが集まっていた。


「ついに、工場が稼働したか……」とバルタザールは、報告を聞いて唇を噛んだ。


「はい」と男の一人が答えた。「式典には、国王陛下も出席されました」


「くそ……」とバルタザールは拳を握りしめた。


「どうなさいますか?」と別の男が尋ねた。


「最後の手段だ」とバルタザールは、冷たく微笑んだ。


「最後の手段……?」


「工場を——」とバルタザールは言い切った。「爆破する」


 男たちが、息を呑んだ。


「爆破……ですか……」


「そうだ」とバルタザールは頷いた。「もはや、中途半端な妨害では意味がない。完全に破壊する」


「ですが——」と一人の男が躊躇った。「それは、あまりにも……」


「ギースリング猊下の名誉のためだ」とバルタザールは冷たく言い放った。「犠牲は、やむを得ん」


「分かりました……」


「今夜——」とバルタザールは計画を説明した。「警備が手薄になる深夜に襲撃する。爆薬を仕掛け、工場を灰にする」


「承知しました」


「それから——」とバルタザールは続けた。「リーゼ・フォン・ハイムダルも、始末する」



「彼女も……?」


「当然だ」とバルタザールは頷いた。「工場を再建されては意味がない。源を断つ——それが確実だ」


 男たちは、顔を見合わせた。


「準備を始めろ」とバルタザールは命じた。「今夜、決着をつける」





 その夜——リーゼは、工場で最終チェックをしていた。


「明日から、本格的に生産が始まるのね……」と彼女は培養槽を見つめた。


「先生」とエルヴィンが声をかけた。「もう遅いですよ。今日は休みましょう」


「そうね……」とリーゼは頷いた。


 二人が工場を出ようとした、その時——


 ガシャン!


 窓ガラスが割れる音がした。


「何!?」


 リーゼが振り返ると、黒い服の男たちが窓から侵入してきた。


「逃げろ、エルヴィン!」とリーゼが叫んだ。


 でも、男たちは素早く出口を塞いだ。


「リーゼ・フォン・ハイムダル……」と一人の男が、冷たい声で言った。「お前の命、ここで終わりだ」


「くっ……!」


 リーゼはエルヴィンを庇うように立った。


 男の一人が剣を抜き、「さらばだ……」と呟いて剣を振り上げた——


 その瞬間——


 ガキン!


 金属音が響き、アレクサンダー王子が剣で刺客の攻撃を防いでいた。


「殿下……!」とリーゼが叫んだ。


「リーゼ、下がっていろ!」と王子が叫んだ。


 彼の剣が閃光のように動き、刺客の剣を弾いて反撃の一撃を叩き込む。


「ぐあっ!」


 刺客の一人が、倒れた。


「近衛隊!」と王子が叫ぶ。


 すぐに——近衛兵たちが駆けつけてきた。


「全員、捕らえろ!」


 刺客たちは、抵抗したが——訓練された近衛兵に、次々と取り押さえられた。





 戦いが終わった後——


「大丈夫か、リーゼ?」と王子がリーゼに駆け寄った。


「はい……」とリーゼは震えながら答えた。「怖かった……」


 王子はリーゼを抱きしめ、優しく言った。「もう大丈夫だ。私がいる」


 リーゼは、王子の胸で泣いた。


「ありがとうございます……殿下……」



「エルヴィンも無事か?」と王子が尋ねた。


「は、はい……」とエルヴィンは震えながら答えた。


「良かった……」


 近衛隊長が報告に来た。


「殿下、刺客は全員捕らえました」


「尋問しろ。背後にいる者を吐かせろ」と王子が命じた。


「はっ!」





 翌朝——尋問の結果が、報告された。


「バルタザール神父——元ギースリング枢機卿の側近です。彼が一連の妨害工作を指揮していました」と隊長が説明した。


「バルタザール……」と王子は唇を噛んだ。


「現在、行方を追っていますが、森の隠れ家から逃走したようです」と隊長は続けた。


「引き続き、捜索を続けろ」と王子が命じた。


「はっ!」


「それから——」と隊長が別の報告をした。「工場に、爆薬が仕掛けられていました」


「爆薬!?」とリーゼが驚いた。


「はい」と隊長は頷いた。「精製棟の地下に、大量の火薬が——もし爆発していたら、工場全体が吹き飛んでいたでしょう」


 リーゼは、背筋が凍った。


「処理は?」と王子が尋ねた。


「すでに除去しました」と隊長は答えた。「工場は、無事です」


「どうやって持ち込まれたのだ?」と王子が鋭く尋ねた。


「建設作業員に紛れ込んでいた者がいたようです」と隊長は苦々しく答えた。「教会の協力者——おそらく狂信者でしょう。資材搬入時に、火薬を少しずつ運び込んでいたと思われます」


 王子の表情が険しくなった。


「今後は、作業員全員の身元確認を徹底させる。そして、定期的に施設内を巡回し、不審物がないか確認するように」


「はっ!」と隊長が敬礼した。


「良かった……」とリーゼは安堵した。





 数日後——バルタザール神父が、国境近くで捕らえられた。


 王宮の牢獄——アレクサンダー王子は、バルタザールと対面した。


「バルタザール神父」と王子が冷たく言った。


「アレクサンダー王子……」とバルタザールは、檻の中から睨みつけた。


「なぜ、こんなことをした?」と王子が尋ねた。



「ギースリング猊下の名誉のためだ」とバルタザールは答えた。「あの小娘のせいで、猊下は投獄された。その復讐だ」


「復讐……」と王子は呆れた。「お前たちは、何も分かっていない」


「何だと……?」


「リーゼは、人を救おうとしているだけだ」と王子は言い切った。「それを妨害するお前たちこそ、悪だ」


「黙れ!」とバルタザールが叫んだ。「あの娘は、神の教えに背く異端だ!」


「神の教え?」と王子は冷たく笑った。「神が、人を救うことを禁じているとでも言うのか?」


 バルタザールは、言葉に詰まった。


「お前の裁判は来週だ。その罪を償え」


 そう言い残して、王子は牢獄を後にした。





 工場——最初の製造バッチが、完成した。


「これが……」とリーゼは、瓶に入った改良株ストレプトマイシンを手に取った。


 透明な液体——でも、その中には無数の命を救う力が宿っている。


「先生」とエリーゼが報告した。「最初のバッチで、五十キログラム生産できました」


「五十キログラム……」とリーゼは感動した。「これで、約五百人の患者さんを治療できるわ……」


「配布の準備も整っています。王都の病院に順次届けます」とエルヴィンが言った。


「お願いね」


 リーゼは、瓶を大切そうに抱きしめた。


(ついに……ついにここまで来た……)


 彼女の目に、涙が浮かんだ。





 一週間後——王都の病院で、改良株ストレプトマイシンの投与が始まった。


 結核患者たち——これまで死を待つだけだった人々。


「本当に……治るんですか……?」と患者の一人が、震える声で尋ねた。


「はい。必ず治ります」とリーゼは微笑んだ。


 彼女は、患者に改良株ストレプトマイシンを注射した。


「これで、あなたの体が結核と戦います」とリーゼは説明した。


「二週間、治療を続けましょう」



「はい……先生……」


 患者の目に、希望の光が宿った。





 二週間後——最初の患者たちが、次々と回復していった。


 咳が止まり——呼吸が楽になり——血色が戻ってくる。


「先生……ありがとうございます……!」「本当に……本当にありがとうございます……!」


 患者たちの感謝の言葉が——リーゼの心を、温かく満たした。


「いいえ」とリーゼは微笑んだ。「こちらこそ、信じてくださってありがとうございます」





 ある日——リーゼは、工場の屋上に立っていた。


 眼下には——稼働する工場。行き交う人々。希望に満ちた光景。


「リーゼ」とアレクサンダー王子が、隣に立った。


「殿下……」


「感慨深いか?」と王子が尋ねた。


「はい」とリーゼは頷いた。「こんな日が来るなんて……夢のようです」


「夢じゃない」と王子は微笑んだ。「これは、君が作り上げた現実だ」


 リーゼは、王子を見上げた。


「殿下がいてくださったから……」と彼女は言った。「私、ここまで来られました」


「私も、君がいたから——」と王子は、リーゼの手を取った。「前に進めた」


 二人は、手を繋いだまま——景色を見つめた。



「リーゼ」と王子が静かに言った。


「はい」


「君は、まだ若い」と王子は続けた。「でも、いつか大人になったら——」


 彼は、リーゼの目を見つめた。


「私の妃に、なってくれるか?」


 リーゼの心臓が——大きく跳ねた。


「殿下……それは……」


「今、答えなくていい」と王子は優しく言った。「ゆっくり考えてくれ」


「でも——」とリーゼは涙を浮かべた。「私の答えは、決まっています」


「リーゼ……」


「はい」とリーゼは微笑んだ。「喜んで、殿下の妃になります」


 王子は——驚きと喜びで、言葉を失った。


「本当に……?」


「はい」とリーゼは頷いた。「殿下と一緒なら、どんな困難も乗り越えられます」


 王子は、リーゼを抱きしめた。


「ありがとう……リーゼ……」


 二人は——長い間、抱き合っていた。





 夕日が——工場を、オレンジ色に染めていた。


 煙突から立ち上る煙——それは、希望の証。


 多くの命を救う——その使命を果たすために、工場は動き続ける。



 リーゼは——この景色を、決して忘れないだろう。


 苦難を乗り越え——夢を実現した、この瞬間を。


 そして——愛する人と、未来を約束した、この日を。




 一ヶ月後——改良株ストレプトマイシンは、全国に配布された。


 結核患者の治癒率——九十パーセント以上。


 かつて不治の病だった結核が——治る病気になった。


 人々は、リーゼを讃えた。


「結核を征服した少女医師」「奇跡の薬を作った天才」「希望の光」


 でも、リーゼ自身は——ただ一人の医師として、患者と向き合い続けた。




 研究室——リーゼは、机の上に広げられた複数の研究計画書を見つめていた。


 改良株ストレプトマイシン工場——稼働中。ペニシリン量産——エルヴィンのチームが順調に進行中。


 でも、それで終わりではない。


「次は……ワクチンね」と彼女は呟いた。


 天然痘、狂犬病——まだまだ、治せない病気がある。まだまだ、救えない命がある。


 そして——机の端には、婚約発表の準備書類も置かれていた。


(私の戦いは、まだ続く)


 リーゼは決意した。


 主任研究員として——複数のプロジェクトを動かし、この世界の医学を前に進める。


 そして——愛する人と共に、未来を築いていく。


 彼女の物語は——まだまだ、続いていく。




 その頃——宮廷大臣エドゥアルトの執務室。


「バルタザール神父が捕らえられたそうですな」と貴族の一人が報告した。


「ふむ……」とエドゥアルトは、書類から目を上げた。「愚かな男だ」


「愚か……ですか?」


「暴力に訴えれば必ず証拠が残る。教会の過激派は、いつもそれが分からない」とエドゥアルトは冷たく言った。


「では、閣下は——」


「私は違う」とエドゥアルトは微笑んだ。「もっと優雅に、もっと合法的に——あの小娘を追い詰める」


 貴族が固唾を呑んだ。


「婚約発表が近いと聞きました」とエドゥアルトは窓の外を見つめた。「辺境の弱小貴族が王妃になる——そんなことを、上級貴族たちが許すと思うか?」


「しかし、国王陛下が認められているのでは……」


「今はな」とエドゥアルトは答えた。「だが、貴族会議の圧力は——いずれ国王にも無視できなくなる」


 彼は、グラスのワインを口に含んだ。


「焦る必要はない。じっくりと世論を形成していけばいい。『格下の弱小貴族を王妃にするなど、王国の恥』とな」


 エドゥアルトの目には冷たい計算が宿っていた。



◇◇◇

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