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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第91話 量産への道と新たな障壁






 臨床試験成功から三日後——



 リーゼは、王立医学アカデミーの会議室で計画を説明していた。



「改良株ストレプトマイシンの量産には——」


 彼女は、資料を示した。


「三つの課題があります」



 会議室には、アカデミー長、エルヴィン、エリーゼ、そしてアレクサンダー王子が座っていた。



「まず、原料の確保です」


 リーゼは説明を続けた。


「放線菌を大量に培養するには、培地が必要です」

「麦芽エキス、ペプトン、寒天——これらを安定して供給できる体制を作らなければなりません」



「どれくらいの量が必要なんだ?」


 王子が尋ねた。



「現在、王都だけで結核患者は約五百名います」


 リーゼは答えた。


「一人あたり二週間の治療で、約百グラムの薬が必要です」



「つまり——」


 アカデミー長が計算した。


「五万グラム——五十キログラムか」



「はい」


 リーゼは頷いた。


「そして、これは王都だけの数字です」

「全国では、おそらく一万人以上の患者さんがいるでしょう」



 会議室に、重い沈黙が落ちた。



「一トン以上……」


 エルヴィンが呟いた。



「二つ目の課題は——」


 リーゼは続けた。


「製造設備です」



 彼女は、設計図を広げた。



「大型の培養槽、抽出装置、精製装置——」

「これらを備えた専用の工場が必要です」



「費用は?」


 王子が尋ねた。



「概算で——」


 リーゼは書類を示した。


「建設費だけで、金貨五千枚」



「五千枚……!」


 アカデミー長が驚いた。



「そして、三つ目の課題は——」


 リーゼは真剣な表情で言った。


「人材です」



「人材?」


「はい」


 リーゼは頷いた。


「製造工程を管理し、品質を保証できる技術者が必要です」

「微生物学の知識を持ち、無菌操作ができる人材——」

「現在、この国にはほとんどいません」



 会議室が、再び沈黙した。



「つまり——」


 王子がまとめた。


「原料、設備、人材——すべてをゼロから作り上げなければならないということか」



「はい」


 リーゼは答えた。


「でも——」



 彼女は、決意を込めて続けた。



「やり遂げます」

「どんなに困難でも、この薬を必要としている人々のために」



 王子は、リーゼの目を見つめた。



「分かった」


 彼は頷いた。


「資金は、王室が支援する」

「父上にも相談しよう」



「ありがとうございます、殿下」



「それから——」


 アカデミー長が言った。


「人材育成は、アカデミーが担当しましょう」

「微生物学の講座を開設し、技術者を養成します」



「お願いします」


 リーゼは深く頭を下げた。



「原料の供給については——」


 エルヴィンが提案した。


「商人組合に協力を依頼してはどうでしょうか?」



「良い案ね」


 エリーゼが頷いた。



「では——」


 リーゼは立ち上がった。


「さっそく準備を始めましょう」





 その頃——



 王宮の貴族会議室。



 三十名を超える貴族たちが、集まっていた。



「本日の議題は——」


 宮廷大臣エドゥアルト・フォン・ヴァルトシュタインが、演台に立った。


「王家の血統保護に関する法令についてです」



 貴族たちが、ざわめいた。



「近年——」


 エドゥアルトは続けた。


「王子殿下が、辺境の弱小貴族出身の小娘と親密な関係にあることは、皆様もご存知でしょう」



 リーゼ・フォン・ハイムダル——


 その名前は、誰もが知っていた。



「彼女は、確かに優秀な医師です」


 エドゥアルトは認めた。


「でも、所詮は成り上がりの娘です」



 貴族たちが、頷いた。



「もし——」


 エドゥアルトは声を低めた。


「もし、王子殿下が彼女と結婚されるようなことがあれば——」



 会議室が、静まり返った。



「王家の血統が、汚されます」



 その言葉に——


 多くの貴族が同意の声を上げた。



「そうだ!」

「辺境の弱小貴族との結婚など、あってはならない!」

「王家の威厳が損なわれる!」



「だからこそ——」


 エドゥアルトは、書類を掲げた。


「この法令を提案します」



 彼は、読み上げた。



「『王族の婚姻資格に関する法令』」



 貴族たちが、どよめいた。



「この法令により——」


 エドゥアルトは説明した。


「王族は、公爵家または伯爵家以上の家柄としか結婚できなくなります」


「辺境伯や子爵といった下位貴族との婚姻は——」


 彼は言葉を区切った。


「認められません」



「素晴らしい!」

「これこそ、王国の伝統を守る法だ!」

「賛成する!」



 多くの貴族が、賛同の声を上げた。



「では——」


 エドゥアルトは微笑んだ。


「採決を行います」



 挙手——


 三十名中、二十五名が賛成した。



「可決です」


 エドゥアルトは宣言した。


「この法令を、国王陛下に上奏いたします」



 会議室に、拍手が響いた。



 エドゥアルトは——


 冷たく微笑んでいた。



(これで——)



 彼は思った。



(アレクサンダー王子と、あの小娘の関係は終わりだ)





 その報告は——


 すぐに王子の耳に入った。



「何だと!?」


 アレクサンダー王子は、怒りで立ち上がった。



「はい」


 側近が報告した。


「貴族会議で可決されました」

「『王族の婚姻資格に関する法令』です」

「王族は、公爵家または伯爵家以上としか婚姻できないという内容です」



「そんな法令……!」


 王子は拳を握りしめた。



「国王陛下への上奏は、明日行われる予定です」


 側近は続けた。



「父上が、これを承認するとは思えない」


 王子は言った。



「ですが——」


 側近は心配そうに言った。


「貴族会議の総意です」

「陛下も、無視はできないかもしれません」



 王子は、窓の外を見つめた。



(リーゼ……)



 彼女のことが、頭に浮かんだ。



 もし、この法令が通れば——


 自分とリーゼの関係は、法的に認められなくなる。



(そんなこと……)



 王子は、決意した。



(絶対に、認めない)





 リーゼは——


 この法令のことを、まだ知らなかった。



 彼女は、工場建設の予定地を視察していた。



「ここが、建設予定地です」


 アカデミー長が説明した。



 王都の郊外——


 広大な空き地が広がっている。



「十分な広さがありますね」


 リーゼは頷いた。



「ええ」


 アカデミー長は続けた。


「ここに、培養棟、抽出棟、精製棟——三つの建物を建てます」



「水源は?」


「川が近くにあります」


 アカデミー長が指差した。


「清潔な水を、安定して供給できます」



「完璧です」


 リーゼは微笑んだ。



「では、さっそく建設を——」



 その時——



 ドォン!



 遠くで、爆発音が響いた。



「何!?」


 リーゼが振り返る。



 王都の方向——


 黒い煙が上がっていた。



「あれは……」


 エリーゼが呟いた。


「商業地区の方向……」



「まさか……!」



 リーゼの顔色が変わった。



 商業地区——


 そこには、麦芽エキスを供給してくれる商人の倉庫があった。



「急いで戻りましょう!」





 商業地区——



 倉庫が、炎に包まれていた。



「火事だ!」

「水を持ってこい!」

「逃げろ!」



 人々が、パニックになっている。



 リーゼたちが到着した時——


 すでに倉庫は、半分以上焼け落ちていた。



「これは……」


 リーゼは呆然と立ち尽くした。



 倉庫の主人が、顔を真っ黒にして駆け寄ってきた。



「リーゼ先生……!」


 彼は絶望的な表情で言った。


「すべて……すべて燃えてしまいました……」



「原料が……」


 リーゼは唇を噛んだ。



「麦芽エキス、ペプトン——」


 倉庫主は泣きそうな顔で続けた。


「一ヶ月分の在庫が、すべて……」



 リーゼは、燃え盛る倉庫を見つめた。



(これは……偶然じゃない……)



 彼女は、直感した。



(妨害工作だ……)





 その夜——



 近衛隊の調査で、真相が明らかになった。



「放火です」


 隊長が報告した。


「倉庫の裏口に、油が撒かれた痕跡がありました」



「やはり……」


 アレクサンダー王子は唇を噛んだ。



「目撃者はいるか?」


「はい」


 隊長は続けた。


「近所の住人が、黒い服の男を見たと証言しています」



「黒い服……」


 リーゼは呟いた。


「教会の……」



「おそらく、そうでしょう」


 隊長は頷いた。



「許せん……」


 王子は怒りを抑えきれない。


「リーゼの研究を妨害するだけでなく、無関係な商人まで巻き込むとは……」



 リーゼは、静かに言った。



「殿下」


「何だ?」


「怒っても、仕方ありません」


 リーゼは続けた。


「今必要なのは、代替の原料を見つけることです」



 王子は、リーゼの冷静さに驚いた。



「君は……怒らないのか?」


「怒っています」


 リーゼは答えた。


「でも、怒りで問題は解決しません」



 彼女は、前を向いた。



「他の商人を探します」

「原料の供給ルートを、複数確保します」

「一箇所が潰されても、他で補えるように」



 王子は——


 リーゼの強さに、改めて感動した。



「分かった」


 彼は頷いた。


「私も、協力する」





 翌日——



 アレクサンダー王子は、国王に謁見していた。



「父上」


 王子は膝をついた。


「お願いがあります」



「何だ、アレクサンダー」


 国王ハインリヒ四世が尋ねた。



「貴族会議が上奏した法令——」


 王子は真剣な表情で言った。


「『王族の婚姻資格に関する法令』について」



「ああ……」


 国王は深くため息をついた。


「あの法令か」



「父上、どうかこれを——」


 王子は懇願した。


「否決してください」



「アレクサンダー」


 国王は、息子の目を見つめた。


「お前は、リーゼ・フォン・ハイムダルと——」



「はい」


 王子は即答した。


「私は、彼女を愛しています」



 国王は、長い沈黙の後——



「分かっている」


 彼は静かに言った。


「お前の気持ちは、見ていれば分かる」



「では——」


「だが」


 国王は厳しい表情で続けた。


「貴族会議の総意を無視することは、できない」



「父上……」


「王とは——」


 国王は言った。


「個人の感情だけで動いてはならない」

「国全体のバランスを、考えなければならない」



 王子は、唇を噛んだ。



「では、父上はこの法令を承認されるのですか?」



 国王は、長い沈黙の後——



「一週間、待て」


 彼は答えた。



「一週間……?」


「その間に、考えさせてくれ」


 国王は続けた。


「貴族たちとも、話し合いの場を持つ」



 王子は——


 わずかな希望を見出した。



「ありがとうございます、父上」



 王子は、深く頭を下げた。





 リーゼは——


 商人たちと交渉を続けていた。



「麦芽エキスの供給——可能でしょうか?」



「うーん……」


 商人は困った顔をした。


「正直、難しいですね」



「なぜですか?」


「最近、原料の価格が高騰しているんです」


 商人は説明した。


「それに——」



 彼は声を低めた。



「教会の圧力もあります」



「教会の……?」


「ええ」


 商人は頷いた。


「『リーゼ先生に協力する商人は、破門する』と脅されているんです」



 リーゼは、愕然とした。



(そこまで……)



 教会は——


 あらゆる手段で、彼女を潰そうとしている。



「すみません、先生」


 商人は頭を下げた。


「私も、生活がありますので……」



「いいえ」


 リーゼは微笑んだ。


「分かります」

「無理は言いません」



 商人が去った後——



 エリーゼが心配そうに言った。



「リーゼ、どうするの?」


「他を探すわ」


 リーゼは答えた。


「諦めない」



「でも——」


「エリーゼ」


 リーゼは、親友の肩を抱いた。


「大丈夫」

「必ず、道は開ける」



 エリーゼは——


 リーゼの強さに、涙が出そうになった。



「リーゼ……」





 三日後——



 リーゼは、ついに協力者を見つけた。



 それは——


 南部地方の商人組合だった。



「私たちは、教会の圧力には屈しません」


 組合長が力強く言った。


「リーゼ先生の研究は、人々を救うものです」

「それを支援することが、私たちの誇りです」



 リーゼの目に、涙が浮かんだ。



「ありがとうございます……」



「原料は、安定して供給します」


 組合長は続けた。


「麦芽エキス、ペプトン、寒天——すべて、月に一度の定期便で届けます」



「本当に……ありがとうございます……」



 リーゼは、何度も頭を下げた。





 その夜——



 リーゼは、アレクサンダー王子に報告した。



「原料の供給ルートが、確保できました」



「本当か!」


 王子は喜んだ。


「良かった……」



「南部商人組合が、協力してくれることになりました」


 リーゼは微笑んだ。



「素晴らしい」


 王子は、リーゼの頭を撫でた。



 でも——



 王子の表情は、どこか暗かった。



「殿下……?」


 リーゼが心配そうに尋ねた。



「リーゼ」


 王子は、真剣な表情で言った。


「話がある」



「はい」



「貴族会議で——」


 王子は、法令のことを説明した。



 リーゼは——


 言葉を失った。



「王族は……公爵家または伯爵家以上としか……?」



「そうだ」


 王子は頷いた。


「お前は辺境伯の娘だから——」


「この法令が通れば、私とお前の関係を、法的に断つことになる」



 リーゼの胸が、痛んだ。



「それは……」



「父上は、まだ決断していない」


 王子は続けた。


「でも、貴族会議の圧力は強い」



 リーゼは、下を向いた。



「私のせいで……」


 彼女は震える声で言った。


「私のせいで、殿下が……」



「違う」


 王子は、リーゼの肩を抱いた。


「お前のせいじゃない」



「でも——」


「これは、古い考えに縛られた貴族たちの問題だ」


 王子は言い切った。


「お前は、何も悪くない」



 リーゼは、王子の胸に顔を埋めた。



 涙が、止まらなかった。



「殿下……」


「リーゼ」


 王子は、優しく背中をさすった。


「私は、お前を諦めない」



「でも……法律が……」


「法律は、変えられる」


 王子は力強く言った。


「そのために、私は戦う」



 リーゼは、王子を見上げた。



「殿下……」


「お前は、医学で世界を変えている」


 王子は微笑んだ。


「なら、私は政治で世界を変える」

「お前と一緒にいられる世界を、作る」



 リーゼの心が——


 温かくなった。



「ありがとうございます……殿下……」



 二人は——


 しばらく抱き合っていた。





 一週間後——



 国王ハインリヒ四世は、決断を下した。



 謁見の間——


 貴族たちが集まっていた。



「貴族会議が上奏した法令について——」


 国王が厳かに言った。


「朕は、これを否決する」



 会議室が、どよめいた。



「陛下!」


 エドゥアルト大臣が立ち上がった。


「なぜです!?」



「理由は、三つある」


 国王は答えた。



「第一に——」


 彼は続けた。


「この法令は、遡及的に既存の婚姻関係にも影響を与える」

「それは、法の公平性に反する」



 貴族たちが、顔を見合わせた。



「第二に——」


 国王は続けた。


「下位貴族からの人材登用を阻害する」

「優秀な者を、生まれた家の格だけで排除することは、国の損失だ」



「ですが——」


 エドゥアルトが食い下がった。



「第三に——」


 国王は、鋭い目でエドゥアルトを見た。


「これは、特定の個人を標的にした法令だ」



 会議室が、静まり返った。



「リーゼ・フォン・ハイムダルという、一人の少女を排除するための法令——」


 国王は言い切った。


「そのような卑劣な法を、朕は認めない」



 貴族たちが、息を呑んだ。



「以上だ」


 国王は立ち上がった。


「この件は、これで終わりとする」



 そう言い残して——


 国王は、退出していった。



 エドゥアルトは——


 拳を握りしめて、震えていた。



(くそ……くそ……!)



 彼の計画は——


 完全に潰された。





 その報告を聞いて——



 アレクサンダー王子は、安堵の表情を浮かべた。



「父上……」



 国王の決断に——


 彼は、深く感謝した。



「リーゼ」


 王子は、リーゼの手を取った。


「良かった……本当に良かった……」



「殿下……」



 リーゼも——


 涙を流していた。



 でも、それは——


 悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。



「ありがとうございます……」


 リーゼは何度も言った。


「本当に……ありがとうございます……」



「これで、堂々とお前を愛せる」


 王子は微笑んだ。



 リーゼは——


 顔を真っ赤にして、頷いた。





 それから——



 工場の建設が、本格的に始まった。



 原料の供給も安定し——


 人材育成も進んでいる。



 リーゼは——


 毎日、建設現場を訪れて、進捗を確認した。



「順調ですね」


 エルヴィンが報告した。


「あと二ヶ月で、完成します」



「そうね」


 リーゼは微笑んだ。



 でも——



 彼女の心には、まだ不安があった。



 教会の妨害——


 それは、まだ終わっていない。



 いつか、また——


 彼らは襲ってくるだろう。



(でも——)



 リーゼは決意した。



(私は負けない)



 どんな困難があっても——


 人を救うという使命を、諦めない。



 そして——


 愛する人との未来を、守り抜く。

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