第90話 臨床試験と暗躍する影
◇
改良株ストレプトマイシンの研究を開始してから数ヶ月が経った。
私は十六歳になり、臨床試験を開始する日を迎えた。
王立医学アカデミー付属病院の特別病室に立っていた。
「先生」
エリーゼが、カルテを持ってきた。
「患者さんのプロフィールです」
リーゼは、カルテを受け取った。
名前——トーマス・ミュラー。年齢——三十五歳。職業——石工。診断——肺結核、末期。
「末期……」
リーゼは、重い現実に向き合った。この患者は従来の治療では、もう助からない。だからこそ、新薬の臨床試験に同意してくれたのだ。
「リーゼ」
アレクサンダー王子が、隣に立った。
「準備はいいか?」
「はい」
リーゼは頷いた。
手には、抽出した抗菌物質——改良型ストレプトマイシン。より副作用が少なく、効果的な株から抽出した抗菌物質だ。
「では、患者さんに会いましょう」
◇
病室——
トーマス・ミュラーは、ベッドに横たわっていた。やせ細った体、血の気のない顔、苦しそうな呼吸——末期の結核患者の典型的な姿だった。
「トーマスさん」
リーゼは、ベッドサイドに座った。
「先生……」
トーマスが、弱々しく目を開けた。
「これから、新しい薬の投与を始めます」
リーゼは優しく説明した。
「この薬は、まだ試験段階です」
「効果があるかどうか、確実ではありません」
「分かって……います……」
トーマスが答えた。
「でも、副作用が出る可能性もあります」
リーゼは正直に続けた。
「吐き気、めまい、発疹——」
「もし何か異常を感じたら、すぐに教えてください」
「はい……」
「それでも——」
リーゼは、トーマスの手を握った。
「私は、全力であなたを救います」
トーマスの目に、涙が浮かんだ。
「ありがとう……ございます……」
彼は震える声で言った。
「先生……私を……助けてください……」
「必ず」
リーゼは力強く答えた。
彼女は、ストレプトマイシンの溶液を準備した。
慎重に量を測る。動物実験で有効だった量を基準に、人体に適した投与量を計算した。
「では、注射します」
リーゼは、トーマスの腕を消毒した。針を刺し、ゆっくりと薬液を注入する。
「……これで、完了です」
リーゼは、注射器を片付けた。
「今日から毎日、同じ時間に投与します。そして、毎日あなたの状態を観察します」と彼女は説明した。
「はい……」
「頑張りましょう、トーマスさん」
リーゼは微笑んだ。
「はい……先生……」
トーマスも、かすかに微笑んだ。
◇
病室を出ると——
「お疲れ様、リーゼ」
エリーゼが労った。
「ありがとう」
リーゼは大きく息をついた。緊張で手が震えている。
「大丈夫か?」
アレクサンダー王子が心配そうに尋ねた。
「大丈夫です」とリーゼは頷いた。「ただ……やはり緊張します」
「当然だ」
王子は優しく言った。
「人の命を預かっているんだから」
リーゼは、王子の言葉に少し落ち着いた。
「さあ、経過観察を始めましょう」
彼女は前を向いた。
◇
その頃——
病院の裏手。
黒い服の男が、隠れて病院を見張っていた。
「臨床試験が始まったな……」
男は呟いた。
彼は——
バルタザール神父の手下だった。
「計画を実行する時だ」
男は、懐から小瓶を取り出した。
中には——
無色透明の液体。
それは——
致死性の毒物だった。
「これを、患者の薬に混ぜる……」
男は冷たく微笑んだ。
「そうすれば、リーゼの新薬が患者を殺したように見える」
彼は、病院の裏口に向かって歩き出した。
◇
一方——
近衛隊の詰所。
「隊長」
若い兵士が報告した。
「不審な人物が、病院の周辺をうろついています」
「不審な人物?」
隊長が眉をひそめた。
「はい」と兵士は説明した。「黒い服を着た男が、病院を見張っているようでした」
「……警戒を強化しろ」
隊長は命じた。
「リーゼ先生の臨床試験を、妨害しようとする者がいるかもしれん」
「はっ!」
隊長は窓の外を見つめた。
(王子殿下から厳重な警備を命じられている。絶対に何も起こさせるわけにはいかない)
彼は責任の重さを感じていた。
◇
夜——
リーゼは、トーマスの経過を記録していた。
投与後六時間——特に異常な症状は見られない。体温は平熱、脈拍は安定、呼吸はやや改善したように見える。
「順調ね……」
リーゼは、安堵した。
「先生」
エリーゼが入ってきた。
「明日の投与の準備ができました」
「ありがとう、エリーゼ」
エリーゼは、薬液の入った瓶を棚に置いた。
「今夜は、もう休んだら?」
エリーゼが提案した。
「私が夜間の観察をするわ」
「でも——」
「大丈夫よ」
エリーゼは微笑んだ。
「何かあったら、すぐに呼ぶから」
リーゼは、少し迷ってから頷いた。
「分かったわ」
彼女は立ち上がった。
「よろしくお願いね」
「任せて」
リーゼは、宿舎に戻っていった。
◇
深夜——
病院は静まり返っていた。
エリーゼは、定期的にトーマスの様子を確認していた。
カツ、カツ、カツ——
廊下を歩く足音。
「看護師さんかしら……」
エリーゼは気にせず、記録を続けた。
でも——
足音が、薬品保管室の前で止まった。
「……?」
エリーゼは、違和感を覚えた。
この時間に、薬品保管室に用があるのは誰?
彼女は、そっと立ち上がり——
廊下を覗いた。
そこには——
黒い服の男が、薬品保管室の扉を開けようとしていた。
「誰!?」
エリーゼが叫んだ。
男は、驚いて振り返った。
「くっ……!」
男は、逃げ出そうとした。
「待ちなさい!」
エリーゼが追いかける。
でも——
男は素早く、裏口から逃げ出した。
「待って!」
エリーゼは、裏口まで追いかけたが——
男は、闇に消えていった。
「くそ……」
エリーゼは、急いで薬品保管室を確認した。
扉は——開いていなかった。
鍵が、しっかりかかっている。
「間に合った……」
エリーゼは安堵した。
でも——
「これは、報告しなければ」
彼女は、すぐに近衛隊に知らせた。
◇
翌朝——
「侵入者だと!?」
リーゼは、報告を聞いて驚いた。
「はい」
エリーゼが説明した。
「黒い服の男が、薬品保管室に侵入しようとしていました」
「やはり……」
アレクサンダー王子の表情が険しくなった。
「妨害工作だな」
「薬に、何か混ぜようとしたのかもしれません」
リーゼは恐ろしい可能性を考えた。
「すぐに、すべての薬品を確認しろ」
王子が命じた。
「汚染されているものがないか、徹底的に調べろ」
「はい!」
リーゼとエリーゼは、薬品保管室の点検を始めた。
一つ一つ、丁寧に確認していく。
「これは……」
リーゼが、ある瓶を手に取った。
ストレプトマイシンの溶液——
明日の投与用に準備したもの。
「何か、おかしい……」
リーゼは、瓶を光にかざした。
わずかに——
液体の色が、違う気がする。
「エリーゼ、これを分析して」
リーゼは瓶を渡した。
エリーゼは、液体を少量取り——
簡易的な試験を行った。
(リーゼ先生が教えてくれた、化学分析の基礎……)
エリーゼは、かつてリーゼから学んだ手順を思い出しながら——
試験管に液体を数滴垂らした。
そして——
タンニン酸試薬を、慎重に加えた。
(もし重金属が含まれていたら——)
エリーゼは固唾を飲んだ。
(紫色に変色するはず……)
すると——
液体が、みるみる紫色に変色した。
「これは……!」
エリーゼの顔色が変わった。
「毒物の反応です!」
彼女は震える声で続けた。
「タンニン酸試薬が紫色に変色しました」
「おそらく——鉛か水銀などの重金属毒です!」
「先生が教えてくださった分析法で、異物を検出できました!」
「やはり……」
リーゼは唇を噛んだ。
誰かが——
彼女の薬に、毒を混ぜようとしていた。
「もし、これを投与していたら……」
エリーゼが震える声で言った。
「トーマスさんは、死んでいた……」
リーゼも、恐怖を感じた。
「そして——」
アレクサンダー王子が暗い表情で続けた。
「リーゼの新薬が、患者を殺したと言われていた」
三人は、沈黙した。
危機一髪——
エリーゼが侵入者を見つけたおかげで、最悪の事態は避けられた。
「警備を、さらに強化する」
王子が決断した。
「薬品保管室には、二十四時間体制で兵士を配置する」
「はい」
「それから——」
王子は続けた。
「犯人を見つけ出す」
「この病院内に、協力者がいる可能性もある」
リーゼは、不安を感じた。
内部に、敵がいる——
それは、とても恐ろしいことだった。
◇
その日——
リーゼは、新しく準備した薬でトーマスに投与した。
「トーマスさん、気分はいかがですか?」
「先生……」
トーマスが答えた。
「少し……楽になった気がします……」
「本当ですか!?」
リーゼの目が輝いた。
「咳が……減りました……」
トーマスは続けた。
「呼吸も……少し楽です……」
リーゼは、聴診器でトーマスの肺の音を聞いた。
「確かに……」
彼女は驚いた。
「肺の雑音が、減っている……」
たった一日——
でも、確実に改善の兆しが見えている。
「トーマスさん」
リーゼは、患者の手を握った。
「良かった……本当に良かった……」
トーマスの目に、涙が浮かんだ。
「先生……ありがとう……ございます……」
「いいえ」
リーゼは微笑んだ。
「あなたの体が、頑張っているんです」
◇
一週間後——
トーマスの状態は劇的に改善していた。咳がほとんど出なくなり、呼吸も楽になり、血色も少しずつ戻ってきている。
「先生……」
トーマスは、ベッドで上半身を起こせるようになっていた。
「私……治るんでしょうか……」
「はい」
リーゼは力強く答えた。
「必ず治ります」
彼女は、顕微鏡で観察したトーマスの血液を見せた。
「あなたの血液中の結核菌が減っています。薬が確実に効いています」とリーゼは説明した。
「信じられない……」
トーマスは感動で言葉を失った。
「本当に……信じられない……」
「ただし、このまま最低でも半年間、治療を続ける必要があります」
リーゼは続けた。
「今は症状が改善していますが、体の中にはまだ少し菌が残っています。ここでやめてしまうと、菌がぶり返して、薬が効かなくなってしまいます」
「はい……!」
トーマスは、力強く頷いた。
◇
その夜——
リーゼは、王子に報告した。
「順調です。トーマスさんの容態が、どんどん良くなっています」と彼女は嬉しそうに言った。
「素晴らしい」
王子は微笑んだ。
「君の薬が、本物だという証明だ」
「でも——まだ油断はできません」とリーゼの表情が曇った。
「そうだな」
王子は頷いた。
「敵は、また妨害を試みるかもしれない」
その時——
コンコン。
ノックの音。
「はい?」
「失礼します」
近衛隊長が入ってきた。
「報告があります」
隊長は真剣な表情で言った。
「何だ?」
王子が尋ねた。
「侵入者の身元が、判明しました」
隊長は書類を差し出した。
王子が読み上げる。
「マティアス・シュルツ——元聖マルティヌス修道院の修道士……」
「やはり、教会の人間か」
王子は唇を噛んだ。
「はい」
隊長は続けた。
「現在、行方を追っていますが——まだ見つかっていません」
「引き続き、捜索を続けろ」
王子が命じた。
「はっ!」
隊長が退室した後——
「リーゼ」
王子が心配そうに言った。
「やはり、危険すぎる」
「大丈夫です」
リーゼは答えた。
「警備も厳重になりましたし」
「でも——」
「殿下」
リーゼは、王子の目を見つめた。
「私は、諦められません」
「分かっている……」
王子は、リーゼの頭を撫でた。
「だから、私が守る」
リーゼは、王子の温もりを感じた。
(殿下がいてくれるから……)
彼女は思った。
(私は、戦える)
◇
二週間後——
トーマス・ミュラーの症状は劇的に改善していた。咳はほとんど消え、呼吸は楽になり、血液中の結核菌も大幅に減少していた。
ただし、まだ完全に消えたわけではない。顕微鏡で確認すると、わずかに残存している菌が見られた。
ただし——
「トーマスさん、副作用はいかがですか?」
リーゼは、慎重に尋ねた。
「ええ、先生」とトーマスが答えた。「少し耳鳴りがします。時々、キーンという音が……」
「そうですか……」
リーゼは、カルテに記録した。
(やはりわずかながら聴覚への影響が……でも、改良株にしたことで副作用は最小限に抑えられている)
彼女は思った。
「トーマスさん」とリーゼは優しく説明した。「耳鳴りは薬の副作用です。ただし命に関わるものではありませんし、数週間で軽減する可能性もあります」
「はい……」とトーマスは頷いた。「命が助かったんです。耳鳴りくらい、何でもありません……」
彼の目には、強い感謝の気持ちが宿っていた。
(トーマスさん……)
リーゼは、胸が熱くなった。
(あなたの勇気が、この薬の有効性を証明してくれた)
「トーマスさん」
リーゼは、検査の結果を伝えた。
「素晴らしい結果です」
「先生……」
「あなたの症状は——劇的に改善しました。急性期を乗り越えることができました」
トーマスは、しばらく呆然として——
それから、大粒の涙を流し始めた。
「ありがとう……ございます……」
彼は何度も頭を下げた。
「先生……本当に……本当にありがとうございます……」
「いいえ」
リーゼも、涙を流していた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
「あなたが、信じてくれたから——」
二人は、抱き合って泣いた。
エリーゼも、エルヴィンも——
その場にいた全員が、涙を流していた。
◇
トーマスの退院式——
王立医学アカデミーの講堂に、多くの医師たちが集まっていた。
「本日——」
アカデミー長が演台に立った。
「歴史的な瞬間を、皆さんと共有できることを嬉しく思います」
会場が静まり返る。
「リーゼ・フォン・ハイムダル先生が開発した改良型ストレプトマイシンによる、臨床試験での劇的な改善例です。末期結核患者が、わずか二週間で急性期を脱しました」
拍手が起こった。
「トーマス・ミュラーさん、どうぞ」
トーマスが、演台に上がった。
健康そうな顔色。
しっかりとした足取り。
三週間前の、やせ細った姿とは別人だった。
「皆さん」
トーマスが話し始めた。
「三週間前、私は死を覚悟していました」
会場が、静かに聞き入る。
「結核は、不治の病だと——」
トーマスは続けた。
「でも、リーゼ先生が、私を救ってくれました」
彼は、会場の隅に座っているリーゼを見た。
「先生——本当に、ありがとうございます」
リーゼは、涙を拭いながら頷いた。
会場が、大きな拍手に包まれた。
「リーゼ先生、どうぞ」
アカデミー長が促した。
リーゼは、緊張しながら演台に上がった。
「皆さん」
彼女は話し始めた。
「ストレプトマイシンは、放線菌という土壌微生物から抽出した物質です」
医師たちが、メモを取り始める。
「この物質は、結核菌を選択的に攻撃し、人体への害は最小限です」
リーゼは説明を続けた。
「今回の臨床試験で、その有効性が証明されました」
会場が、どよめいた。
「今後——」
リーゼは力強く宣言した。
「この薬を量産し、より多くの結核患者さんを救いたいと思います」
会場が、割れんばかりの拍手に包まれた。
◇
式典の後——
「リーゼ」
アレクサンダー王子が、リーゼを抱きしめた。
「殿下……!?」
リーゼは驚いた。
「よくやった」
王子は、感動で声が震えていた。
「本当に、よくやった」
「殿下……」
周りには、エリーゼ、エルヴィン、そして多くの仲間たちがいた。
みんな、笑顔で——
リーゼの成功を祝っていた。
「先生、おめでとうございます!」
「素晴らしい業績です!」
「結核が治る時代が来たんですね!」
リーゼは——
幸せだった。
長い戦い——
妨害、脅迫、陰謀——
すべてを乗り越えて。
ついに——
結核治療薬を、完成させた。
(でも——)
リーゼは思った。
(これで終わりじゃない)
彼女の目標は、もっと大きい。
ペニシリン、ワクチン、外科手術——
まだまだ、やるべきことがある。
(私の戦いは、まだ続く)
でも、今はこの喜びを仲間たちと分かち合いたい。
リーゼは笑顔でみんなと抱き合った。
◇
その頃——
教会本部の地下室。
「くそ……くそ……!」
バルタザール神父が、怒りで机を叩いた。
「臨床試験が成功しただと!?」
「はい……」
黒服の男が、恐る恐る報告した。
「患者の症状が劇的に改善し、式典が開かれました」
「あの小娘……!」
バルタザールは、憎悪に顔を歪めた。
「次の手は……?」
別の男が尋ねた。
「次は——」
バルタザールは、冷たく微笑んだ。
「もっと大規模な妨害だ」
「大規模な……?」
「そうだ」とバルタザールは頷いた。「薬の量産を阻止する。原料の供給を断ち、製造設備を破壊する」
男たちが、顔を見合わせた。
「それは……かなりの規模になりますが……」
「構わん」とバルタザールは言い切った。「ギースリング猊下の名誉のためだ。何が何でも、あの娘を止める」
部屋に、不穏な空気が漂った。
◇
一方——
宮廷大臣エドゥアルトの執務室。
「臨床試験が成功したか……」
エドゥアルトは、報告書を読んでいた。
「はい、閣下」
貴族が答えた。
「リーゼ・フォン・ハイムダルの評判が、ますます高まっています」
「ふむ……」
エドゥアルトは考え込んだ。
「では、計画を実行するときだな」
「計画……?」
「そうだ」
エドゥアルトは、書類を取り出した。
「貴族会議で、正式に提案する」
「『王子殿下と身分不相応な者との交際を禁止する法令』をな」
「なるほど……」
貴族が頷いた。
「しかし、リーゼ・フォン・ハイムダルは国民の支持も高く——」
「構わん」
エドゥアルトは手を振った。
「我々は、個人を攻撃するのではない」
彼は、書類を広げた。
「あくまで——」
「王国の伝統と秩序を守るための、法令だ」
「なるほど……」
貴族が感心した。
「そうだ」
エドゥアルトは続けた。
「王家の血統は、この国の根幹だ」
「それを守ることは——」
「国の安定と繁栄のために、不可欠なのだ」
彼の言葉には、一見すると正当性があった。
「リーゼ・フォン・ハイムダルがどれだけ優秀でも——」
エドゥアルトは冷たく微笑んだ。
「辺境の弱小貴族は、所詮は格下だ」
「王家の血統に、混ざることは許されない」
「これは、差別ではない」
「王国を守るための——必然なのだ」
「さすがです、閣下」
貴族が深く頷いた。
「大義名分が完璧です」
エドゥアルトは、窓の外を見つめた。
(アレクサンダー王子——)
彼は思った。
(あなたには、もっとふさわしい相手がいる)
彼の目には——
冷たい野心が宿っていた。
◇
リーゼの部屋——
彼女は、ベッドに横になっていた。
今日一日の出来事を振り返る。
トーマスさんの劇的な回復、式典での祝福、みんなの笑顔——
(幸せだった……)
リーゼは微笑んだ。
でも、心の片隅に不安もあった。教会の陰謀はまだ終わっていないし、貴族たちの反対も続いている。
(でも、負けない)
リーゼは決意した。
どんな困難があっても、人を救うという使命を諦めない。そしてアレクサンダー王子との絆を守り抜く。
(私は、戦い続ける)
窓の外、月が静かに輝いていた。その光はリーゼの道を照らしているようだった。
◇◇◇




