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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第90話 臨床試験と暗躍する影




 改良株ストレプトマイシンの研究を開始してから数ヶ月が経った。

 私は十六歳になり、臨床試験を開始する日を迎えた。



 王立医学アカデミー付属病院の特別病室に立っていた。



「先生」


 エリーゼが、カルテを持ってきた。


「患者さんのプロフィールです」



 リーゼは、カルテを受け取った。



 名前——トーマス・ミュラー。年齢——三十五歳。職業——石工。診断——肺結核、末期。



「末期……」


 リーゼは、重い現実に向き合った。この患者は従来の治療では、もう助からない。だからこそ、新薬の臨床試験に同意してくれたのだ。



「リーゼ」


 アレクサンダー王子が、隣に立った。


「準備はいいか?」



「はい」


 リーゼは頷いた。



 手には、抽出した抗菌物質——改良型ストレプトマイシン。より副作用が少なく、効果的な株から抽出した抗菌物質だ。



「では、患者さんに会いましょう」





 病室——



 トーマス・ミュラーは、ベッドに横たわっていた。やせ細った体、血の気のない顔、苦しそうな呼吸——末期の結核患者の典型的な姿だった。



「トーマスさん」


 リーゼは、ベッドサイドに座った。



「先生……」


 トーマスが、弱々しく目を開けた。



「これから、新しい薬の投与を始めます」


 リーゼは優しく説明した。


「この薬は、まだ試験段階です」

「効果があるかどうか、確実ではありません」



「分かって……います……」


 トーマスが答えた。



「でも、副作用が出る可能性もあります」


 リーゼは正直に続けた。


「吐き気、めまい、発疹——」

「もし何か異常を感じたら、すぐに教えてください」



「はい……」



「それでも——」


 リーゼは、トーマスの手を握った。


「私は、全力であなたを救います」



 トーマスの目に、涙が浮かんだ。



「ありがとう……ございます……」


 彼は震える声で言った。


「先生……私を……助けてください……」



「必ず」


 リーゼは力強く答えた。



 彼女は、ストレプトマイシンの溶液を準備した。



 慎重に量を測る。動物実験で有効だった量を基準に、人体に適した投与量を計算した。



「では、注射します」


 リーゼは、トーマスの腕を消毒した。針を刺し、ゆっくりと薬液を注入する。



「……これで、完了です」



 リーゼは、注射器を片付けた。



「今日から毎日、同じ時間に投与します。そして、毎日あなたの状態を観察します」と彼女は説明した。



「はい……」



「頑張りましょう、トーマスさん」


 リーゼは微笑んだ。



「はい……先生……」



 トーマスも、かすかに微笑んだ。





 病室を出ると——



「お疲れ様、リーゼ」


 エリーゼが労った。



「ありがとう」


 リーゼは大きく息をついた。緊張で手が震えている。



「大丈夫か?」


 アレクサンダー王子が心配そうに尋ねた。



「大丈夫です」とリーゼは頷いた。「ただ……やはり緊張します」



「当然だ」


 王子は優しく言った。


「人の命を預かっているんだから」



 リーゼは、王子の言葉に少し落ち着いた。



「さあ、経過観察を始めましょう」


 彼女は前を向いた。





 その頃——



 病院の裏手。



 黒い服の男が、隠れて病院を見張っていた。



「臨床試験が始まったな……」


 男は呟いた。



 彼は——


 バルタザール神父の手下だった。



「計画を実行する時だ」



 男は、懐から小瓶を取り出した。



 中には——


 無色透明の液体。



 それは——


 致死性の毒物だった。



「これを、患者の薬に混ぜる……」


 男は冷たく微笑んだ。


「そうすれば、リーゼの新薬が患者を殺したように見える」



 彼は、病院の裏口に向かって歩き出した。





 一方——



 近衛隊の詰所。



「隊長」


 若い兵士が報告した。


「不審な人物が、病院の周辺をうろついています」



「不審な人物?」


 隊長が眉をひそめた。



「はい」と兵士は説明した。「黒い服を着た男が、病院を見張っているようでした」



「……警戒を強化しろ」


 隊長は命じた。


「リーゼ先生の臨床試験を、妨害しようとする者がいるかもしれん」



「はっ!」



 隊長は窓の外を見つめた。



(王子殿下から厳重な警備を命じられている。絶対に何も起こさせるわけにはいかない)



 彼は責任の重さを感じていた。





 夜——



 リーゼは、トーマスの経過を記録していた。



 投与後六時間——特に異常な症状は見られない。体温は平熱、脈拍は安定、呼吸はやや改善したように見える。



「順調ね……」


 リーゼは、安堵した。



「先生」


 エリーゼが入ってきた。


「明日の投与の準備ができました」



「ありがとう、エリーゼ」



 エリーゼは、薬液の入った瓶を棚に置いた。



「今夜は、もう休んだら?」


 エリーゼが提案した。


「私が夜間の観察をするわ」



「でも——」


「大丈夫よ」


 エリーゼは微笑んだ。


「何かあったら、すぐに呼ぶから」



 リーゼは、少し迷ってから頷いた。



「分かったわ」


 彼女は立ち上がった。


「よろしくお願いね」



「任せて」



 リーゼは、宿舎に戻っていった。





 深夜——



 病院は静まり返っていた。



 エリーゼは、定期的にトーマスの様子を確認していた。



 カツ、カツ、カツ——



 廊下を歩く足音。



「看護師さんかしら……」


 エリーゼは気にせず、記録を続けた。



 でも——



 足音が、薬品保管室の前で止まった。



「……?」



 エリーゼは、違和感を覚えた。



 この時間に、薬品保管室に用があるのは誰?



 彼女は、そっと立ち上がり——


 廊下を覗いた。



 そこには——


 黒い服の男が、薬品保管室の扉を開けようとしていた。



「誰!?」


 エリーゼが叫んだ。



 男は、驚いて振り返った。



「くっ……!」



 男は、逃げ出そうとした。



「待ちなさい!」


 エリーゼが追いかける。



 でも——


 男は素早く、裏口から逃げ出した。



「待って!」



 エリーゼは、裏口まで追いかけたが——


 男は、闇に消えていった。



「くそ……」



 エリーゼは、急いで薬品保管室を確認した。



 扉は——開いていなかった。


 鍵が、しっかりかかっている。



「間に合った……」


 エリーゼは安堵した。



 でも——



「これは、報告しなければ」



 彼女は、すぐに近衛隊に知らせた。





 翌朝——



「侵入者だと!?」


 リーゼは、報告を聞いて驚いた。



「はい」


 エリーゼが説明した。


「黒い服の男が、薬品保管室に侵入しようとしていました」



「やはり……」


 アレクサンダー王子の表情が険しくなった。


「妨害工作だな」



「薬に、何か混ぜようとしたのかもしれません」


 リーゼは恐ろしい可能性を考えた。



「すぐに、すべての薬品を確認しろ」


 王子が命じた。


「汚染されているものがないか、徹底的に調べろ」



「はい!」



 リーゼとエリーゼは、薬品保管室の点検を始めた。



 一つ一つ、丁寧に確認していく。



「これは……」


 リーゼが、ある瓶を手に取った。



 ストレプトマイシンの溶液——


 明日の投与用に準備したもの。



「何か、おかしい……」


 リーゼは、瓶を光にかざした。



 わずかに——


 液体の色が、違う気がする。



「エリーゼ、これを分析して」


 リーゼは瓶を渡した。



 エリーゼは、液体を少量取り——


 簡易的な試験を行った。



(リーゼ先生が教えてくれた、化学分析の基礎……)



 エリーゼは、かつてリーゼから学んだ手順を思い出しながら——


 試験管に液体を数滴垂らした。



 そして——



 タンニン酸試薬を、慎重に加えた。



(もし重金属が含まれていたら——)



 エリーゼは固唾を飲んだ。



(紫色に変色するはず……)



 すると——



 液体が、みるみる紫色に変色した。



「これは……!」


 エリーゼの顔色が変わった。


「毒物の反応です!」



 彼女は震える声で続けた。



「タンニン酸試薬が紫色に変色しました」


「おそらく——鉛か水銀などの重金属毒です!」


「先生が教えてくださった分析法で、異物を検出できました!」



「やはり……」


 リーゼは唇を噛んだ。



 誰かが——


 彼女の薬に、毒を混ぜようとしていた。



「もし、これを投与していたら……」


 エリーゼが震える声で言った。



「トーマスさんは、死んでいた……」


 リーゼも、恐怖を感じた。



「そして——」


 アレクサンダー王子が暗い表情で続けた。


「リーゼの新薬が、患者を殺したと言われていた」



 三人は、沈黙した。



 危機一髪——


 エリーゼが侵入者を見つけたおかげで、最悪の事態は避けられた。



「警備を、さらに強化する」


 王子が決断した。


「薬品保管室には、二十四時間体制で兵士を配置する」



「はい」



「それから——」


 王子は続けた。


「犯人を見つけ出す」

「この病院内に、協力者がいる可能性もある」



 リーゼは、不安を感じた。



 内部に、敵がいる——


 それは、とても恐ろしいことだった。





 その日——



 リーゼは、新しく準備した薬でトーマスに投与した。



「トーマスさん、気分はいかがですか?」



「先生……」


 トーマスが答えた。


「少し……楽になった気がします……」



「本当ですか!?」


 リーゼの目が輝いた。



「咳が……減りました……」


 トーマスは続けた。


「呼吸も……少し楽です……」



 リーゼは、聴診器でトーマスの肺の音を聞いた。



「確かに……」


 彼女は驚いた。


「肺の雑音が、減っている……」



 たった一日——


 でも、確実に改善の兆しが見えている。



「トーマスさん」


 リーゼは、患者の手を握った。


「良かった……本当に良かった……」



 トーマスの目に、涙が浮かんだ。



「先生……ありがとう……ございます……」



「いいえ」


 リーゼは微笑んだ。


「あなたの体が、頑張っているんです」





 一週間後——



 トーマスの状態は劇的に改善していた。咳がほとんど出なくなり、呼吸も楽になり、血色も少しずつ戻ってきている。



「先生……」


 トーマスは、ベッドで上半身を起こせるようになっていた。


「私……治るんでしょうか……」



「はい」


 リーゼは力強く答えた。


「必ず治ります」



 彼女は、顕微鏡で観察したトーマスの血液を見せた。



「あなたの血液中の結核菌が減っています。薬が確実に効いています」とリーゼは説明した。



「信じられない……」


 トーマスは感動で言葉を失った。


「本当に……信じられない……」



「ただし、このまま最低でも半年間、治療を続ける必要があります」


 リーゼは続けた。


「今は症状が改善していますが、体の中にはまだ少し菌が残っています。ここでやめてしまうと、菌がぶり返して、薬が効かなくなってしまいます」



「はい……!」


 トーマスは、力強く頷いた。





 その夜——



 リーゼは、王子に報告した。



「順調です。トーマスさんの容態が、どんどん良くなっています」と彼女は嬉しそうに言った。



「素晴らしい」


 王子は微笑んだ。


「君の薬が、本物だという証明だ」



「でも——まだ油断はできません」とリーゼの表情が曇った。



「そうだな」


 王子は頷いた。


「敵は、また妨害を試みるかもしれない」



 その時——



 コンコン。


 ノックの音。



「はい?」


「失礼します」



 近衛隊長が入ってきた。



「報告があります」


 隊長は真剣な表情で言った。



「何だ?」


 王子が尋ねた。



「侵入者の身元が、判明しました」


 隊長は書類を差し出した。



 王子が読み上げる。



「マティアス・シュルツ——元聖マルティヌス修道院の修道士……」



「やはり、教会の人間か」


 王子は唇を噛んだ。



「はい」


 隊長は続けた。


「現在、行方を追っていますが——まだ見つかっていません」



「引き続き、捜索を続けろ」


 王子が命じた。



「はっ!」



 隊長が退室した後——



「リーゼ」


 王子が心配そうに言った。


「やはり、危険すぎる」



「大丈夫です」


 リーゼは答えた。


「警備も厳重になりましたし」



「でも——」


「殿下」


 リーゼは、王子の目を見つめた。


「私は、諦められません」



「分かっている……」


 王子は、リーゼの頭を撫でた。


「だから、私が守る」



 リーゼは、王子の温もりを感じた。



(殿下がいてくれるから……)



 彼女は思った。



(私は、戦える)





 二週間後——



 トーマス・ミュラーの症状は劇的に改善していた。咳はほとんど消え、呼吸は楽になり、血液中の結核菌も大幅に減少していた。



 ただし、まだ完全に消えたわけではない。顕微鏡で確認すると、わずかに残存している菌が見られた。



 ただし——



「トーマスさん、副作用はいかがですか?」


 リーゼは、慎重に尋ねた。



「ええ、先生」とトーマスが答えた。「少し耳鳴りがします。時々、キーンという音が……」



「そうですか……」


 リーゼは、カルテに記録した。



(やはりわずかながら聴覚への影響が……でも、改良株にしたことで副作用は最小限に抑えられている)



 彼女は思った。



「トーマスさん」とリーゼは優しく説明した。「耳鳴りは薬の副作用です。ただし命に関わるものではありませんし、数週間で軽減する可能性もあります」



「はい……」とトーマスは頷いた。「命が助かったんです。耳鳴りくらい、何でもありません……」



 彼の目には、強い感謝の気持ちが宿っていた。



(トーマスさん……)



 リーゼは、胸が熱くなった。



(あなたの勇気が、この薬の有効性を証明してくれた)



「トーマスさん」


 リーゼは、検査の結果を伝えた。


「素晴らしい結果です」



「先生……」



「あなたの症状は——劇的に改善しました。急性期を乗り越えることができました」



 トーマスは、しばらく呆然として——



 それから、大粒の涙を流し始めた。



「ありがとう……ございます……」


 彼は何度も頭を下げた。


「先生……本当に……本当にありがとうございます……」



「いいえ」


 リーゼも、涙を流していた。


「こちらこそ、ありがとうございます」

「あなたが、信じてくれたから——」



 二人は、抱き合って泣いた。



 エリーゼも、エルヴィンも——


 その場にいた全員が、涙を流していた。





 トーマスの退院式——



 王立医学アカデミーの講堂に、多くの医師たちが集まっていた。



「本日——」


 アカデミー長が演台に立った。


「歴史的な瞬間を、皆さんと共有できることを嬉しく思います」



 会場が静まり返る。



「リーゼ・フォン・ハイムダル先生が開発した改良型ストレプトマイシンによる、臨床試験での劇的な改善例です。末期結核患者が、わずか二週間で急性期を脱しました」



 拍手が起こった。



「トーマス・ミュラーさん、どうぞ」



 トーマスが、演台に上がった。



 健康そうな顔色。


 しっかりとした足取り。



 三週間前の、やせ細った姿とは別人だった。



「皆さん」


 トーマスが話し始めた。


「三週間前、私は死を覚悟していました」



 会場が、静かに聞き入る。



「結核は、不治の病だと——」


 トーマスは続けた。


「でも、リーゼ先生が、私を救ってくれました」



 彼は、会場の隅に座っているリーゼを見た。



「先生——本当に、ありがとうございます」



 リーゼは、涙を拭いながら頷いた。



 会場が、大きな拍手に包まれた。



「リーゼ先生、どうぞ」


 アカデミー長が促した。



 リーゼは、緊張しながら演台に上がった。



「皆さん」


 彼女は話し始めた。


「ストレプトマイシンは、放線菌という土壌微生物から抽出した物質です」



 医師たちが、メモを取り始める。



「この物質は、結核菌を選択的に攻撃し、人体への害は最小限です」


 リーゼは説明を続けた。


「今回の臨床試験で、その有効性が証明されました」



 会場が、どよめいた。



「今後——」


 リーゼは力強く宣言した。


「この薬を量産し、より多くの結核患者さんを救いたいと思います」



 会場が、割れんばかりの拍手に包まれた。





 式典の後——



「リーゼ」


 アレクサンダー王子が、リーゼを抱きしめた。



「殿下……!?」


 リーゼは驚いた。



「よくやった」


 王子は、感動で声が震えていた。


「本当に、よくやった」



「殿下……」



 周りには、エリーゼ、エルヴィン、そして多くの仲間たちがいた。



 みんな、笑顔で——


 リーゼの成功を祝っていた。



「先生、おめでとうございます!」


「素晴らしい業績です!」


「結核が治る時代が来たんですね!」



 リーゼは——


 幸せだった。



 長い戦い——


 妨害、脅迫、陰謀——


 すべてを乗り越えて。



 ついに——


 結核治療薬を、完成させた。



(でも——)



 リーゼは思った。



(これで終わりじゃない)



 彼女の目標は、もっと大きい。



 ペニシリン、ワクチン、外科手術——


 まだまだ、やるべきことがある。



(私の戦いは、まだ続く)



 でも、今はこの喜びを仲間たちと分かち合いたい。



 リーゼは笑顔でみんなと抱き合った。





 その頃——



 教会本部の地下室。



「くそ……くそ……!」


 バルタザール神父が、怒りで机を叩いた。



「臨床試験が成功しただと!?」



「はい……」


 黒服の男が、恐る恐る報告した。


「患者の症状が劇的に改善し、式典が開かれました」



「あの小娘……!」


 バルタザールは、憎悪に顔を歪めた。



「次の手は……?」


 別の男が尋ねた。



「次は——」


 バルタザールは、冷たく微笑んだ。


「もっと大規模な妨害だ」



「大規模な……?」


「そうだ」とバルタザールは頷いた。「薬の量産を阻止する。原料の供給を断ち、製造設備を破壊する」



 男たちが、顔を見合わせた。



「それは……かなりの規模になりますが……」


「構わん」とバルタザールは言い切った。「ギースリング猊下の名誉のためだ。何が何でも、あの娘を止める」



 部屋に、不穏な空気が漂った。





 一方——



 宮廷大臣エドゥアルトの執務室。



「臨床試験が成功したか……」


 エドゥアルトは、報告書を読んでいた。



「はい、閣下」


 貴族が答えた。


「リーゼ・フォン・ハイムダルの評判が、ますます高まっています」



「ふむ……」


 エドゥアルトは考え込んだ。



「では、計画を実行するときだな」



「計画……?」


「そうだ」


 エドゥアルトは、書類を取り出した。


「貴族会議で、正式に提案する」

「『王子殿下と身分不相応な者との交際を禁止する法令』をな」



「なるほど……」


 貴族が頷いた。


「しかし、リーゼ・フォン・ハイムダルは国民の支持も高く——」



「構わん」


 エドゥアルトは手を振った。


「我々は、個人を攻撃するのではない」



 彼は、書類を広げた。



「あくまで——」


「王国の伝統と秩序を守るための、法令だ」



「なるほど……」


 貴族が感心した。



「そうだ」


 エドゥアルトは続けた。


「王家の血統は、この国の根幹だ」


「それを守ることは——」


「国の安定と繁栄のために、不可欠なのだ」



 彼の言葉には、一見すると正当性があった。



「リーゼ・フォン・ハイムダルがどれだけ優秀でも——」


 エドゥアルトは冷たく微笑んだ。


「辺境の弱小貴族は、所詮は格下だ」


「王家の血統に、混ざることは許されない」


「これは、差別ではない」


「王国を守るための——必然なのだ」



「さすがです、閣下」


 貴族が深く頷いた。


「大義名分が完璧です」



 エドゥアルトは、窓の外を見つめた。



(アレクサンダー王子——)



 彼は思った。



(あなたには、もっとふさわしい相手がいる)



 彼の目には——


 冷たい野心が宿っていた。





 リーゼの部屋——



 彼女は、ベッドに横になっていた。



 今日一日の出来事を振り返る。



 トーマスさんの劇的な回復、式典での祝福、みんなの笑顔——



(幸せだった……)



 リーゼは微笑んだ。



 でも、心の片隅に不安もあった。教会の陰謀はまだ終わっていないし、貴族たちの反対も続いている。



(でも、負けない)



 リーゼは決意した。



 どんな困難があっても、人を救うという使命を諦めない。そしてアレクサンダー王子との絆を守り抜く。



(私は、戦い続ける)



 窓の外、月が静かに輝いていた。その光はリーゼの道を照らしているようだった。



◇◇◇


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ふさわしい相手、て自分の身内やろw
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