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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第67話 古医学書の発見

 古医学書の解読を始めてから一週間が過ぎた。


 毎日、授業の後に図書館の特別閲覧室へ通う。


 エリーゼも一緒に来てくれて、二人で古代語と格闘している。


「リーゼ、この部分、何て書いてあるの?」


 友人が指さす。


 古代語の文字——複雑で読みにくい。


 でも、少しずつパターンが見えてきた。


「これは……心臓の病気についてね」


 私は慎重に翻訳していく。


「心臓の拍動が不規則になる病——不整脈のことだわ」


「すごい、百六十年前にもう不整脈の概念があったのね」


 エリーゼが驚いた。


 ページをめくっていく。


 様々な病気の記述。


 そして、その治療法。


 ある薬草の組み合わせが、心臓の病に効くという。



 その日の夕方、重要な発見があった。


 古医学書の真ん中あたりのページ。


 特別な印がついている。


 そこには——


「これは……」


 私は息を呑んだ。


「血液循環の理論が書かれているわ」


「血液循環?」


 エリーゼが尋ねた。


「うん」


 私は興奮しながら説明した。


「心臓から血液が全身に送られ、また心臓に戻ってくる——そういう仕組みよ」


「この世界では、まだその概念が確立されていないと思っていたけど」


「百六十年前には、すでに理解されていたのね」


 さらにページをめくると——もっと驚くべき記述があった。


「手術の方法……」


 私は目を見開いた。


「様々な手術についての記述があるわ」



「どんな手術?」


 エリーゼが尋ねた。


「腹部の手術、腫瘍の摘出、骨折の固定……」


 私はページをめくりながら答えた。


「全てが詳しく記述されている」


 図解もある——人体の構造、血管の配置、手術の手順。


 全てが驚くほど正確だ。


「これは……」


 私は呟いた。


「これを解読できれば、この世界の医療は大きく進歩するわ」


「すごい発見ね」


 エリーゼが興奮気味に言った。


「でも、誰がこんな高度な知識を持っていたの?」


「それが謎なのよ」


 私はページの最後を見た。


 そこには、著者の名前が書かれていた。


 古代語で綴られているが、読み方は——「イグナーツ・ゼンメルワイス」


 聞き覚えのある、異国風の名前。



 すぐにヴィルヘルム先生に報告に行った。


「先生、重大な発見がありました」


 私は興奮を抑えきれなかった。


「古医学書に、血液循環の理論と様々な外科手術の方法が記載されています」


「何だと?」


 先生が驚いた顔をした。


「血液循環の理論? それは確立されていないはずだが」


「はい。でも百六十年前には、すでに理解されていたようです」


 私は解読した内容を説明した。


 先生は真剣に聞いていた。


「イグナーツ・ゼンメルワイスか」


 先生が呟いた。


「その名前は、伝説的な医師として記録に残っている」


「百六十年前、この王国に突然現れた天才医師だったと言われている」


「若い頃から驚異的な医学知識を持ち、特に『手を洗え』と説いて回ったという」


「当時は誰も理解できず、異端視されたそうだ」


「でも、彼の著作は全て失われたと思われていた」


「それが、この医学院にあったとは」



「リーゼ」


 先生が真剣な顔で言った。


「この発見は、極めて重要だ」


「血液循環の理論を確立すれば、医学は大きく進歩する」


「そして外科手術の詳細な方法——これは革命的だ」


「お前に、この古医学書の完全な解読を任せたい」


 私は少し考えた。


 大きな責任だ。


 でも、これは千載一遇のチャンスでもある。


「分かりました」


 私は頷いた。


「やらせていただきます」


「ただし」


 先生が続けた。


「王立医学会での発表もある。両方を同時進行するのは大変だぞ」


「大丈夫です」


 私は自信を持って答えた。


「時間を有効に使います」



 その夜、研究室で王立医学会の発表原稿を最終確認していた。


 全身性エリテマトーデスの研究——ほぼ完成している。


 でも、古医学書の発見も追加したい。


 血液循環の理論を簡単に紹介できれば——


 いや、それは別の機会にした方がいい。


 一度に多くの情報を詰め込むと、聴衆が混乱する。


 今回は、全身性エリテマトーデスに集中しよう。


 古医学書の内容は、後日別の発表で詳しく説明する。


「リーゼ」


 ルーカス先輩が入ってきた。


「まだ研究してるのか?」


「はい。発表まであと一週間です」


「頑張ってるな」


 先輩が微笑んだ。


「でも、無理はするなよ」


「古医学書の解読もあるんだろ?」



「はい」


 私は正直に答えた。


「重大な発見がありました」


「血液循環の理論と、外科手術の詳細な方法です」


「何だって?」


 先輩が驚いた。


「それは……すごい発見だぞ」


「でも、一度に多くのことをやろうとすると、体を壊すぞ」


「気をつけます」


 私は微笑んだ。


「でも、これは医師として、研究者として、やらなければならないことです」


「そうだな」


 先輩が頷いた。


「お前らしいよ」


 その夜、部屋で今後の計画を立てた。


 来週——王立医学会での発表。


 その後——古医学書の完全な解読。


 そして、血液循環理論の検証と、外科手術技術の研究。


 やるべきことは山積みだ。


 でも、やりがいがある。



 翌日、カール王子の診察に行った。


 王子はすっかり元気になっていた。


「リーゼ先生、見てください!」


 カール王子が走ってきた。


 走れるようになった——これは大きな進歩だ。


「素晴らしいですね」


 私は心から嬉しくなった。


「もう普通に生活できるようになりましたね」


「はい」


 王子が笑顔で答えた。


「リーゼ先生のおかげです」


 アレクサンダー王子も感謝していた。


「リーゼ先生、本当にありがとうございます」


「カールは完全に回復しました」


「これからも定期的に診察に来てください」


 私は言った。


「病気は、管理が大切ですから」


「もちろんです」


 王子が頷いた。



 医学院に戻ると、エリーゼが待っていた。


「リーゼ、すごいの!」


 友人が興奮気味に言った。


「古医学書に、あなたがいつもやっていることが書いてあったわ」


「私がやっていること?」


「感染症の予防法よ」


 エリーゼが説明した。


「手を洗うこと、器具を煮沸消毒すること——あなたが診療所でいつも実践していることが、全て体系的に書かれているの」


「本当に?」


 私は息を呑んだ。


「私がやってきたことが、古医学書に……」


「そうなの」


 エリーゼが頷いた。


「あなたが何気なくやっていた手洗いや消毒が、実は百六十年前に確立された感染予防の理論だったのよ」


「私、あなたがいつも治療前に手を洗ったり、器具を煮沸したりしているのは見ていたけど」


「まさか、それが失われた医学知識だったなんて……」


 エリーゼには、前世の知識があるとは言えない。


 でも、自分で気づいたことにすれば問題ない。


「見せてくれる?」


 図書館へ急いだ。


 エリーゼが該当のページを開く。


 確かに——私が実践してきたことと、全く同じことが書かれている。


 手洗いの重要性。


 器具の消毒方法。


 清潔な環境の維持。


 百六十年前に、誰かが同じ知識を持っていた。



「イグナーツ・ゼンメルワイス」


 この名前——どこかで聞いたことがあるような……。


 でも、思い出せない。


 異国風の、珍しい名前だ。


「彼は、百六十年前にすでに現代医学の基礎を理解していたのね」


「でも、なぜこの知識が失われたの?」


 エリーゼが尋ねた。


「分からないわ」


 私は首を横に振った。


「でも、今私たちがこれを解読して、世界に広めることができる」


「そうね」


 エリーゼが微笑んだ。


「これは、私たちの使命かもしれないわね」


 その日の夕方、ヴィルヘルム先生に再び報告した。


 感染予防の記述について。


「素晴らしい」


 先生が感嘆した。


「これを実践すれば、多くの感染症を防げる」


「手術後の感染も減らせる」


「リーゼ、お前はとんでもないものを見つけたぞ」



 その夜、部屋で日記を書いた。


『古医学書の解読——驚くべき発見の連続。血液循環の理論、外科手術の詳細な方法、感染予防の概念。全てが百六十年前に確立されていた。イグナーツ・ゼンメルワイスという天才医師の業績。彼の知識を、現代に蘇らせる。それが私の新しい使命だ』


 ペンを置き、窓の外を見る。


 星が美しく輝いている。


「お父様、お母様、マルタさん」


 星に向かって小さく呟いた。


「古医学書から、驚くべき発見がありました」


「百六十年前の医師の知識が、現代でも通用します」


「いや、現代よりも進んでいる部分もあります」


「この知識を解読して、世界に広めます」


「そして、もっと多くの人を救います」


 星が優しく瞬いている。



 机の上には、明日の予定表があった。


 授業、実習、古医学書の解読、王立医学会の発表準備。


 そして、感染予防の実践計画の立案。


 全てが重要な仕事だ。


 忙しいが、充実している。


 王立医学会の発表まで、あと一週間。


 その後は、古医学書の完全な解読に専念する。


 そして、その知識を実践に移す。


 やるべきことは山積みだが、一歩ずつ進んでいこう。


「おやすみなさい」


 小さく呟いて、ベッドに入った。


 古医学書の発見——それは予想以上の宝物だった。


 百六十年前の天才医師の知識。


 それを現代に蘇らせる。


 大きな責任だが、やりがいがある。



 翌朝、いつもより早く起きた。


 今日も充実した一日が始まる。


 図書館へ向かう途中、トーマスとクラウディアに会った。


「リーゼ、古医学書の解読、順調?」


 トーマスが尋ねた。


「うん。驚くべき発見があったの」


 私は興奮しながら説明した。


 血液循環の理論、外科手術の方法、感染予防——全てを話した。


「すごいじゃないか!」


 トーマスが目を輝かせた。


「それは医学の革命だぞ」


「リーゼ、あなた本当にすごいわ」


 クラウディアも感心していた。


「百六十年前の知識を蘇らせるなんて」


「まだ解読途中よ」


 私は謙遜した。


「でも、全力を尽くすわ」



 図書館の特別閲覧室で、エリーゼと一緒に解読を続ける。


 一文字ずつ、丁寧に。


 古代語から現代語へ。


 そして、医学用語に変換する。


 時間がかかる作業だが、やりがいがある。


 新しいページを開くたびに、新しい発見がある。


 薬草の効能。


 手術の技術。


 診断の方法。


 全てが貴重な知識だ。


「リーゼ、これ見て」


 エリーゼが別のページを指さした。


「麻酔の方法が書いてあるわ」


「麻酔?」


 私は息を呑んだ。


「この世界で使える麻酔の配合が……!」


 前世では当たり前だった麻酔。


 でも、この世界ではまだ確立されていない。


 これまで使ってきた薬草麻酔——マンドレイクとケシの実の煎じ液。


 確かに痛みは軽減できるが、完全な無痛ではない。


 患者は手術中も意識があり、苦痛に耐えなければならない。


 投与量も経験則に頼るしかなく、効果が不安定だった。


 そのページを読む。


 確かに——手術時の麻酔方法が詳しく書かれている。


 マンドレイク、ケシの実、ベラドンナ、ヘンベインの四種類の配合。


 それぞれの比率——一対二対一対半分。


 煎じ液の濃度——患者の体重一キログラムあたり、何ミリリットル。


 ただし——重要な注意書きがある。


 『生薬は産地、時期、保存状態により薬効成分の含有量が大きく異なる。必ず調製した煎じ液を少量味見し、苦味の強さで濃度を推定せよ。初回投与は基準量の半分とし、効果を確認しながら慎重に増量すること』


 投与のタイミング——手術開始の三十分前。


 注意事項——呼吸の確認方法、意識レベルの判定基準、過量投与時の対処法。


 全てが詳細に記されている。


 これは……これまでの麻酔とは比較にならない。


「これよ……」


 私は興奮した。


「これがあれば、もっと複雑な手術ができる」


「麻酔なしでは不可能だった手術が、可能になる」



 その日の午後、ヴィルヘルム先生の前で中間報告をした。


 これまでに解読した内容を、全て説明する。


 血液循環、外科手術の技術、感染予防、そして麻酔。


 先生は真剣に聞いていた。


「リーゼ、素晴らしい成果だ」


 先生が言った。


「これは、王国の医学を百年進歩させる内容だぞ」


「ありがとうございます」


「ただし」


 先生が続けた。


「これを実践に移すには、慎重さが必要だ」


「特に外科手術と麻酔——これらは危険を伴う」


「十分な検証が必要だ」


「理解しています」


 私は頷いた。


「まず理論を完全に理解してから、動物実験、そして最終的に人間への適用」


「段階を踏んで進めます」


「よし」


 先生が満足そうに頷いた。



 その夜、部屋で明日の発表原稿を最後に確認した。


 王立医学会——あと六日。


 全身性エリテマトーデスの研究。


 症例分析、診断方法、治療法。


 全てが完璧に準備できている。


 でも、古医学書の発見も少しだけ触れたい。


 最後に、今後の研究方向として——


 発表原稿に一段落追加した。


『今後は、古医学書の解読を通じて、失われた医学知識の復興にも取り組んでいく所存です』


 これで完璧だ。


 ふと、机の隅に置いた古医学書に目が留まった。


 イグナーツ・ゼンメルワイス——百六十年前の天才医師。


 彼の遺した知識を、明日の発表で紹介する。


 感謝の気持ちを込めて、もう一度手に取ってみよう。


 古医学書を開き、ページをめくっていく。


 血液循環の理論、外科手術の方法、感染予防……


 そして——ページをめくり続けて、最後のページに辿り着いた時。


 そこに、見慣れた文字があった。


 地球の文字。


 ラテン文字で書かれた、短い一節。


 この世界の誰も読めない、前世の言葉。


 私の手が震えた。


『もし、これを読んでいる者がいるなら、あなたも私と同じ運命を辿った者だろう。


私はこの世界で理解されない。手を洗えと説いても、誰も聞き入れない。


いつか、私の知識は失われるかもしれない。


だが、もし同じ世界から来た者がこれを見つけたなら——


どうか、私の遺した知識を受け継ぎ、この世界の人々を救ってほしい。


真実は、いつか必ず認められる。


同じ故郷を持つ友へ。

イグナーツ・ゼンメルワイス』


 涙が、ページに落ちた。


 百六十年前。


 彼は、未来の転生者へ向けて、この言葉を遺した。


 孤独の中で、希望を信じて。


「ゼンメルワイス先生……」


 私は静かに呟いた。


「あなたは一人じゃなかった」


「今、私がここにいます」


「あなたの遺志を、必ず継ぎます」


 窓を開けると夜風が入ってくる。


 星が美しく輝いている。


 明日もまた、新しい挑戦が待っている。


 でも怖くはない。


 準備はできている。


 仲間がいる。


 そして使命がある。


 少女医師の挑戦は、続いていく。

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― 新着の感想 ―
更新、ありがとうございます。いつも思うのですが、生薬は一つ一つ薬効成分の含有量が異なります。それを機械的に投与量を決めるのは乱暴ではないでしょうか?漢方薬は、現在では主たる成分が、製薬会社によって量を…
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