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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第65話 王子との出会い

 王宮での結核診断から三日が過ぎた。


 その間、医学院は私の名前で持ちきりだった。


「リーゼ先輩、すごいです!」


「王宮で診察なんて!」


 廊下を歩くたびに、学生たちが声をかけてくる。


 嬉しいけれど、少し照れくさい。


 研究室に戻ると、また手紙の山があった。


「リーゼ、また増えてるわ」


 エリーゼが驚いた顔をしている。


「王宮診察の報道が新聞に載ったから、王国中から手紙が来てるのよ」


 一通一通読んでいく。


 診察の依頼、講演の依頼、そして研究協力の依頼。


 どれも重要そうだが、全てに応えるのは不可能だ。


「優先順位をつけないとね」


 私は手紙を分類し始めた。


 その時、ノックの音がした。





「失礼します」


 入ってきたのは、見覚えのない若い男性だった。


 二十代前半、端正な顔立ち、そして高貴な雰囲気。


 服装も立派で——貴族だと分かる。


 いや、それ以上かもしれない。


 胸につけられた紋章——それは王家の紋章だ。


 私とエリーゼはすぐに立ち上がり、深く礼をした。


「リーゼ・フォン・ハイムダル先生ですね」


 若い男性が微笑んだ。


「私はアレクサンダー。アレクサンダー・フォン・エステルハーゼ」


 エステルハーゼ——王家の名前だ。


 ということは——


「王子殿下!」


 私はすぐに膝をついた。


「お目にかかれて光栄です」


「顔を上げてください」


 アレクサンダー王子が優しく言った。


「堅苦しいのは苦手なんです」





 王子は椅子に座り、私たちにも座るよう促した。


「リーゼ先生、王宮での診察、見事でしたね」


「ありがとうございます」


「エルフリーデ様の結核を診断されたと聞きました」


 王子が言った。


「私も、その報告を受けました」


「恐れ入ります」


「実は」


 王子が微笑んだ。


「医学に興味があるので、王宮の医療報告にも目を通しているんです」


「そうだったんですか」


「あなたの診断能力——素晴らしいと侍医長から聞いています」


 王子が真剣な顔で言った。


「他の医師が三ヶ月診断できなかった病気を、すぐに見抜いたと」


「恐れ入ります」


 私は謙遜した。


 王子がなぜここに来たのか——それが気になる。





「実は、お願いがあって来ました」


 アレクサンダー王子が言った。


「私の弟、カール王子のことです」


 弟——第二王子のカール王子だ。


 確か、十歳くらいのはず。


「カールは生まれつき体が弱く、頻繁に病気になります」


 王子の顔が曇った。


「多くの医師が診ましたが、明確な原因が分かりません」


「最近では、歩くのも辛そうです」


「リーゼ先生、弟を診ていただけませんか?」


 王子が頭を下げた。


 王子が頭を下げる——それは異例のことだ。


 でも、それだけ弟思いなのだろう。


「分かりました」


 私は即答した。


「診させていただきます」


「本当ですか」


 アレクサンダー王子の顔が明るくなった。


「ありがとうございます」


「いつお伺いすればよろしいですか?」


「明日の午後、王宮へお越しいただけますか?」


「はい」


 私は頷いた。





 王子が帰った後、エリーゼが興奮気味に言った。


「リーゼ、王子様よ! 王子様が直接来たのよ!」


「驚いたわね」


 私も少し興奮していた。


「でも、第二王子の診察——責任重大だわ」


「大丈夫よ」


 エリーゼが励ましてくれた。


「あなたなら絶対できる」


 ルーカス先輩が研究室に入ってきた。


「リーゼ、今アレクサンダー王子が出ていくのを見たぞ」


「はい」


 私は事情を説明した。


「カール王子の診察か」


 先輩が真剣な顔になった。


「それは大変な仕事だな」


「でも、お前なら大丈夫だ」


 先輩が私の肩を叩いた。


「自信を持て」





 その日の夕方、ヴィルヘルム先生に報告に行った。


「リーゼ、アレクサンダー王子から依頼を受けたそうだな」


 先生はすでに知っていた。


「はい」


「カール王子の症例は、私も聞いている」


 ヴィルヘルムが説明してくれた。


「生まれつき虚弱で、頻繁に感染症にかかる。歩行困難もある」


「多くの医師が診たが、明確な診断がつかない」


「難しい症例ですね」


「ああ」


 先生が頷いた。


「でも、お前なら何か見つけられるかもしれない」


「お前の診断能力は、この国で最高レベルだからな」


「ありがとうございます」


 私は決意を新たにした。


「全力を尽くします」





 その夜、部屋で医学書を読み漁った。


 生まれつき虚弱、頻繁な感染症、歩行困難——これらの症状から考えられる疾患は?


 免疫不全症候群?


 先天性代謝異常?


 それとも筋疾患?


 様々な可能性を考える。


 でも、実際に診察しないと分からない。


 明日、しっかり診察しよう。


 窓を開けると夜風が入ってくる。


 星が美しく輝いている。


「お父様、お母様、マルタさん」


 星に向かって小さく呟いた。


「明日、第二王子の診察があります」


「とても重要な診察です」


「緊張していますが、全力を尽くします」


「見守っていてください」


 星が優しく瞬いている。





 翌日の午後、王宮へ向かった。


 エリーゼも一緒に来てくれた。


「リーゼ、緊張してる?」


「少しね」


 私は正直に答えた。


「でも、やるしかないわ」


 王宮の門で、アレクサンダー王子が待っていた。


「リーゼ先生、お待ちしておりました」


「お招きいただき、ありがとうございます」


 王子が案内してくれた。


 長い廊下を歩き、奥の部屋へ。


「カールはここにいます」


 王子がドアをノックする。


「カール、リーゼ先生が来てくださったよ」


 部屋に入ると、ベッドに横たわる少年が見えた。


 十歳のカール王子——痩せていて、顔色が悪い。


 でも目は澄んでいて、知的な印象を受ける。





「カール王子、初めまして」


 私はベッドの横に座った。


「リーゼ・フォン・ハイムダルです」


「リーゼ先生……」


 カール王子が弱々しい声で言った。


「兄上から、先生のことを聞いていました。すごい先生だって」


「ありがとうございます」


 私は微笑んだ。


「今日は診察に来ました。色々質問してもいいですか?」


「はい」


 診察を始めた。


 まず問診。


「いつから体調が悪いんですか?」


「生まれた時から……だそうです」


 カール王子が答える。


「よく熱を出して、風邪もよくひきます」


「歩くのは?」


「最近、とても辛いです。すぐに疲れます」


 次に身体診察。


 脈を取る——弱く、速い。


 体温——三十七度。微熱がある。


 リンパ節を触診——頸部、腋窩、鼠径部——全て腫れている。


 関節を確認——動きに制限がある。特に膝と足首。





 筋力を確認する。


「手を握ってみてください」


 カール王子が握る——弱い。


「足を上げてみてください」


 足を上げる——すぐに下りてしまう。


 筋力低下が明らかだ。


 そして皮膚——よく見ると、細かい発疹がある。


 胸と背中に。


 症状を整理する。


 生まれつき虚弱、頻繁な感染症、リンパ節腫脹、筋力低下、発疹。


 これらの症状から考えられる疾患は——


 前世の知識を総動員する。


 そして、一つの可能性に辿り着いた。


 若年性皮膚筋炎。


 自己免疫疾患の一種で、筋肉と皮膚に炎症が起こる病気だ。


 子供に発症することがある。


 でも確証が必要だ。





 待って。


 もう一度、よく診る必要がある。


「カール王子、もう一度お顔と手を拝見させてください」


「はい……」


 カール王子が近づいてくる。


 よく見ると——まぶたに薄い紫色の発疹がある。


 ヘリオトープ疹——これは。


 そして手の指の関節を見る。


 関節の上に、盛り上がった赤い発疹がある。


 ゴットロン徴候——これも。


「背中と肩も見せていただけますか?」


 背中を確認する。


 肩から背中にかけて、ショールをかけたような形で赤い発疹が広がっている。


 ショールサイン——やはり。


 全ての所見が一致する。


 生まれつき虚弱、筋力低下、ヘリオトープ疹、ゴットロン徴候、ショールサイン。


 これは間違いない。


「診断がつきました」


 私は立ち上がった。


「カール王子の病気は、若年性皮膚筋炎です」


「皮膚筋炎?」


 アレクサンダー王子が尋ねた。


「はい」


 私は説明を始めた。


「自己免疫疾患の一種で、自分の免疫が自分の筋肉と皮膚を攻撃してしまう病気です」





「治るんですか?」


 アレクサンダー王子が不安そうに尋ねた。


「完治は難しいですが、症状をコントロールすることは可能です」


 私は正直に答えた。


「適切な治療を行えば、普通の生活を送ることもできます」


「本当ですか」


 カール王子が目を輝かせた。


「僕も、普通に歩けるようになりますか?」


「はい」


 私は頷いた。


「治療を続ければ、きっと歩けるようになります」


「やった!」


 カール王子が笑顔になった。


 その笑顔を見て、私も嬉しくなった。


 治療法を説明した。


 薬草の組み合わせ——抗炎症作用のある薬草と免疫調整作用のある薬草。


 全身性エリテマトーデスの治療と似ている。


 生活習慣の改善。


 そして定期的なリハビリテーション。


 アレクサンダー王子が真剣にメモを取っている。





「リーゼ先生」


 王子が言った。


「本当にありがとうございます」


 深く頭を下げた。


「多くの医師が診ても分からなかった病気を、あなたは診断してくださった」


「いえ」


 私は謙遜した。


「たまたま、似た病気を経験していただけです」


「その謙虚さも素晴らしい」


 王子が微笑んだ。


「リーゼ先生、これからもカールの治療をお願いできますか?」


「もちろんです」


 私は頷いた。


「定期的に診察に伺います」


「ありがとうございます」


 カール王子も言った。


「リーゼ先生、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 私は少年の手を握った。


「一緒に頑張りましょう」





 診察を終えて、アレクサンダー王子が見送ってくれた。


「リーゼ先生」


 王子が言った。


「あなたは本物の医師です」


「技術だけでなく、患者への優しさも持っている」


「ありがとうございます」


「今後、何か困ったことがあれば、いつでも言ってください」


 王子が真剣な顔で言った。


「私も、できる限り協力します」


「恐れ入ります」


 私は深く礼をした。


 王宮を出る時、エリーゼが興奮気味に言った。


「リーゼ、すごかったわ!」


「王子様、すごく感謝してたわよ」


「でも、まだ治療は始まったばかりよ」


 私は窓の外を見た。


「これから、しっかりカール王子を治さないと」





 医学院に戻ると、ヴィルヘルム先生が待っていた。


「リーゼ、どうだった?」


「診断がつきました」


 私は報告した。


「若年性皮膚筋炎です」


「なるほど」


 先生が頷いた。


「その診断、正しいと思う。他の医師たちが気づかなかったのは、この病気がまだあまり知られていないからだ」


「でもお前は、前の症例の経験から類推できた」


「はい」


「素晴らしい」


 先生が微笑んだ。


「これで、王家との信頼関係もさらに深まるだろう」


 その夜、部屋で今日のことを振り返った。


 アレクサンダー王子との出会い。


 カール王子の診察。


 そして新たな治療の開始。


 全てが順調に進んでいる。





 窓を開けると夜風が入ってくる。


 星が美しく輝いている。


「お父様、お母様、マルタさん」


 星に向かって小さく呟いた。


「今日、第二王子の診察をしました」


「若年性皮膚筋炎と診断しました」


「アレクサンダー王子にも感謝されました」


「これからカール王子の治療が始まります」


「必ず治します」


 星が優しく瞬いている。


 まるで祝福してくれているかのように。


 机の上には、明日の予定表があった。


 授業、実習、研究、そしてカール王子の治療計画作成。


 全てが大切な仕事だ。


「おやすみなさい」


 小さく呟いて、ベッドに入った。


 王子との出会い——それは予想外の展開だった。


 でも、これも医師としての大切な経験だ。


 身分に関わらず、全ての患者に誠実に向き合う。


 それが医師の使命だから。


 少女医師の挑戦は、続いていく。

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