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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第63話 王宮からの依頼

 胃腫瘍摘出手術から三日が過ぎた。


 その日の手術の成功は、瞬く間に王都中の医学界に広まった。


「リーゼ・フォン・ハイムダル先生が、難しい胃腫瘍摘出を成功させた」「十二歳で胃壁縫合を完璧に行った」「助手としての動きも見事だった」


 廊下を歩くたびに、医師たちが声をかけてくる。


 尊敬の眼差し。


 そして期待の眼差し。


 王都中央病院でも、私の名前が話題になっているらしい。





 医学院の研究室には、手紙が山積みになっていた。


「私の患者も診てください」「治療法を教えてください」「手術の助手をお願いします」


 全てが医師や患者の家族からの依頼だ。


 エリーゼが整理を手伝ってくれている。


「リーゼ、すごい数よ」


 友人が驚いた顔をしている。


「王都中から、いや、地方からも手紙が来てる」


「ありがたいけど……」


 私は少し困惑した。


「全てに応えるのは無理だわ」


「でも、これがあなたの評判よ」


 エリーゼが微笑んだ。


「王国医学協会認定医師として、みんながあなたを頼りにしてる」





 その時、研究室のドアがノックされた。


「失礼します」


 入ってきたのは、見知らぬ男性だった。


 三十代くらい、立派な服装——宮廷の紋章がついている。


 宮廷の使者だ。


 私はすぐに立ち上がった。


「リーゼ・フォン・ハイムダル先生ですね」


 使者が丁寧に礼をした。


「はい」


「王宮からの使いです。陛下の侍医長、クラウス・フォン・エーベルト先生からの伝言をお持ちしました」


 使者が封筒を差し出した。


 王家の紋章が封蝋に刻まれている。


 重要な手紙だ。





 封を開けると、美しい文字で書かれた手紙が入っていた。


『リーゼ・フォン・ハイムダル先生へ


 先日の胃腫瘍摘出手術の成功、心よりお祝い申し上げます。


 貴殿の外科技術と医学知識は、王国の宝です。


 つきましては、王宮にて重要な患者の診察をお願いしたく存じます。


 患者は王家に近い方で、病状が複雑です。


 多くの医師が診察しましたが、明確な診断がつきません。


 貴殿の見識をお借りしたいのです。


 ご多忙とは存じますが、ぜひお越しください。


 明日の午後、王宮にてお待ちしております。


              王宮侍医長

              クラウス・フォン・エーベルト』


 手紙を読み終えて、私は少し緊張した。


 王宮からの依頼。


 しかも王家に近い重要な患者。


「リーゼ、どうしたの?」


 エリーゼが心配そうに聞いた。


「王宮から……重要な患者の診察依頼が来たわ」





 使者が説明してくれた。


「患者は王妃様の侍女長、エルフリーデ様です」


 侍女長——王妃に最も近い女性だ。


「五十代の女性で、三ヶ月前から体調不良に悩まされています」


 使者が続けた。


「倦怠感、食欲不振、微熱、そして最近では呼吸困難も出てきました」


「診察した医師は?」


「王宮の侍医たち全員が診ました。でも明確な診断がつきません」


 使者は真剣な顔で言った。


「エルフリーデ様は王妃様にとって姉のような存在です。王妃様も大変心配されています」


「分かりました」


 私は決意した。


「明日、必ず伺います」


「ありがとうございます」


 使者が深く頭を下げた。





 使者が帰った後、エリーゼが言った。


「リーゼ、大丈夫?」


「正直言うと、少し不安よ」


 私は正直に答えた。


「王宮の侍医たちが診断できなかった病気——それは難しい症例だと思う」


「でもあなたなら大丈夫」


 エリーゼが私の手を握った。


「全身性エリテマトーデスも治したじゃない。胃腫瘍の手術も成功させた」


「ありがとう、エリーゼ」


 友人の言葉が、心強い。


 その時、ルーカス先輩が研究室に入ってきた。


「リーゼ、聞いたぞ。王宮から依頼が来たって」


「はい」


「さすがだな」


 先輩が微笑んだ。


「でも無理はするなよ。分からなければ正直に言え。それも医師として大切なことだ」


「はい、分かっています」





 夕方、ヴィルヘルム先生に報告に行った。


「リーゼ、王宮からの依頼を受けたそうだな」


 先生はすでに知っていた。


「はい」


「侍医長のクラウス先生は、私の古い友人だ」


 ヴィルヘルムが言った。


「彼が頼るということは、本当に難しい症例なのだろう」


「でも、だからこそお前に頼んだのだ」


 先生は真剣な顔で言った。


「お前の診断能力は、この国で最高レベルだ。自信を持ちなさい」


「ありがとうございます」


「ただし」


 先生が続けた。


「王宮での診察は、医学だけでなく、外交でもある。言葉遣いに気をつけなさい。礼儀を守りなさい」


「はい」


「そして」


 先生は微笑んだ。


「お前らしく、誠実に診察しなさい」





 その夜、部屋で明日の準備をした。


 診察道具を確認する。


 聴診器、体温計、血圧計——全てを丁寧に磨く。


 医学書も持っていこう。


 様々な疾患の症例集——もし現場で確認が必要になるかもしれない。


 窓を開けると夜風が入ってくる。


 星が美しく輝いている。


「お父様、お母様、マルタさん」


 星に向かって小さく呟いた。


「明日、王宮で重要な診察があります」


「王家に近い方の診察です」


「緊張していますが、全力を尽くします」


「見守っていてください」


 星が優しく瞬いている。


 まるで応援してくれているかのように。





 ベッドに入ったが、なかなか眠れない。


 明日の診察のことを考える。


 五十代の女性。


 倦怠感、食欲不振、微熱、呼吸困難。


 三ヶ月の経過。


 王宮の侍医たちが診断できなかった——それはどんな病気だろう?


 前世の知識を総動員する。


 様々な疾患の可能性を考える。


 感染症? 悪性腫瘍? 自己免疫疾患?


 いや、現場を見なければ分からない。


 明日、しっかり診察しよう。


 深呼吸。


 落ち着け。


 大丈夫。


 準備はできている。





 翌朝、いつもより早く起きた。


 身支度を整える。


 最も清潔な服——白い医師服に、王国医学協会認定医師の勲章をつける。


 髪を丁寧に整える。


 鏡を見る。


 十二歳の少女が映っている。


 でもその目には、決意がある。


 医師としての誇りがある。


「よし」


 小さく呟いて、部屋を出た。


 廊下でエリーゼに会った。


「リーゼ、頑張って」


 友人が抱きしめてくれた。


「あなたなら絶対大丈夫」


「ありがとう」


 ルーカス先輩も見送ってくれた。


「お前の実力を見せてこい」


「はい」





 王宮へ向かう馬車の中で、もう一度医学書を読み返した。


 様々な疾患の症状。


 鑑別診断のポイント。


 全てを頭に叩き込む。


 王宮が見えてきた。


 高い塔。


 美しい城壁。


 全てが威厳に満ちている。


 門で衛兵が確認する。


「リーゼ・フォン・ハイムダル先生ですね。お待ちしておりました」


 門が開く。


 馬車が王宮の中庭に入っていく。


 美しい庭園。


 噴水。


 そして立派な建物。


 全てが圧倒的だった。





 侍医長のクラウス先生が迎えてくれた。


 六十代の威厳のある医師だ。


 白髪、深い皺、でも目は鋭い。


「リーゼ先生、ようこそ」


 侍医長が微笑んだ。


「お忙しいところ、来ていただきありがとうございます」


「いえ」


 私は深く頭を下げた。


「お呼びいただき、光栄です」


「早速ですが、患者のもとへご案内します」


 侍医長が歩き出した。


 長い廊下。


 高い天井。


 美しい絵画。


 全てが王宮らしい豪華さだ。


 三階の奥の部屋へ案内された。


「こちらです」


 侍医長がドアをノックする。


「エルフリーデ様、リーゼ先生をお連れしました」





 部屋に入ると、ベッドに横たわる女性が見えた。


 五十代のエルフリーデ——上品な顔立ち。


 でも顔色が悪く、痩せている。


 呼吸が浅い。


 ベッドの横に、若い女性が座っていた。


 三十代くらい、美しい女性——王妃だと分かった。


 服の質、装飾、そして頭につけられた小さな冠。


 私はすぐに膝をついた。


「リーゼ・フォン・ハイムダル、王妃陛下にお目にかかれて光栄です」


「顔を上げてください」


 王妃の声は優しかった。


「あなたがリーゼ先生ですね。噂は聞いています」


「ありがとうございます」


「エルフリーデを救ってください」


 王妃の目に涙が浮かんでいた。


「彼女は私の姉のような存在です。幼い頃から私を支えてくれました」


「最善を尽くします」


 私は誓った。





 診察を始めた。


 まず脈を取る——弱く、やや速い。


 次に体温——三十七度。微熱がある。


 瞳孔の反応——正常。


 でも顔色が悪く、痩せている。


 胸部を聴診する。


 呼吸音——右上肺野で粗い雑音が聞こえる。


 ラ音だ。


 深く息を吸ってもらうと、咳が出る。


 リンパ節を触診する。


 頸部のリンパ節が腫れている。


 そして——


「エルフリーデ様、咳は出ますか?」


「はい……」


 エルフリーデ様が弱々しく答えた。


「三ヶ月前から、ずっと。特に夜、咳が止まらなくて」


「痰は?」


「出ます。時々……血が混じります」


 喀血——これは。


 症状を整理する。


 倦怠感、食欲不振、微熱、呼吸困難。


 慢性的な咳、喀血、肺雑音、頸部リンパ節腫脹。


 これらの症状から考えられる疾患は——


 待って。


 もう一度、確認する必要がある。





「侍医長」


 私は振り返った。


「エルフリーデ様の痰の色は、どのようなものでしたか?」


「黄色く、時々血が混じっていると報告されています」


 クラウス先生が答えた。


「夜間に咳が悪化し、寝汗もひどいそうです」


 夜間の咳、寝汗——これも典型的な症状だ。


「体重は減っていますか?」


「三ヶ月で五キログラム減りました」


 全ての所見が一つの病気を指している。


 微熱、倦怠感、体重減少。


 慢性的な咳、喀血、夜間の咳と寝汗。


 肺の上部にラ音、頸部リンパ節腫脹。


 そして食欲不振、るい痩。


 これは間違いない——肺結核だ。


 前世で何度も診た病気。


 抗生物質がない時代には、恐ろしい病気だった。


「分かりました」


 私は立ち上がった。


「診断がつきました」


「本当ですか」


 王妃が前に出た。


「エルフリーデの病は何ですか?」


「肺結核です」


 私は説明を始めた。


「肺を侵す感染症で、慢性的な咳と微熱が特徴です。放置すると命に関わります」


 そして、重要なことを伝えなければならない。


「王妃陛下」


 私は丁寧に、しかし明確に言った。


「恐れながら、少し下がっていただけますでしょうか」


 王妃が驚いた顔をする。


「なぜですか?」


「肺結核は、空気を通じて伝染する病です」


 私は説明を続けた。


「患者が咳をした時、目に見えない小さな粒が空気中に広がります。それを吸い込むと、病が移る可能性があります」


 王妃の顔色が変わった。


「では……私も?」


「可能性はあります」


 私は正直に答えた。


「特に、長時間同じ部屋にいると危険です」


 王妃が後ずさりする。


 侍医長も驚いた顔をしている。


「エルフリーデ様は、できるだけ他の方から離れた部屋で療養していただく必要があります」


「隔離……ということですか?」


 侍医長が尋ねた。


「はい」


 私は頷いた。


「窓を開けて、新鮮な空気を入れること。部屋の換気を良くすること。そして、看護する方も最小限にすることが大切です」


「エルフリーデを一人にしろと?」


 王妃が悲しそうに言った。


「いえ」


 私は優しく答えた。


「必要な看護はもちろん行ってください。ただし、看護の後は必ず手を洗い、清潔にすること。そして、長時間同じ部屋に留まらないこと」


「エルフリーデの咳に、直接触れないことも重要です」


 王妃が頷く。


「分かりました。エルフリーデのためにも、周りの者のためにも、そうします」





「治るんですか?」


 王妃が不安そうに尋ねた。


「完治は難しいですが、症状をコントロールすることは可能です」


 私は正直に答えた。


「適切な治療を行えば、普通の生活を送ることもできます」


「それは……」


 王妃の顔が明るくなった。


「本当ですか?」


「はい」


 私は頷いた。


「医学院で様々な疾患について学んできました」


 王妃が期待に満ちた目で私を見る。


「この症状の組み合わせは、肺結核の特徴です」


「適切な薬草の組み合わせと、生活環境の改善で、症状をコントロールできます」





 治療法を説明した。


 薬草の組み合わせ。


 生活習慣の改善。


 定期的な診察。


 全てを詳しく説明する。


 侍医長が真剣にメモを取っている。


「リーゼ先生」


 クラウス先生が言った。


「素晴らしい診断です。我々は三ヶ月、この病気を特定できませんでした」


「いえ」


 私は謙遜した。


「ただ、症状のパターンを認識できただけです」


「その謙虚さも素晴らしい」


 王妃が微笑んだ。


「リーゼ先生、ありがとうございます」


 エルフリーデも、弱々しいながらも微笑んでいた。


「ありがとう……ございます……」


「これから、しっかり治療していきましょう」


 私は優しく微笑んだ。


「必ず良くなります」





 診察を終えて、侍医長と王妃に治療計画を詳しく説明した。


 薬草の配合。


 服用のタイミング。


 注意すべき副作用。


 全てを書面にまとめて渡す。


「これで治療を開始できます」


 侍医長が満足そうに頷いた。


「リーゼ先生、本当にありがとうございました」


「経過を見守らせてください」


 私は言った。


「一週間後、また診察に伺ってもよろしいですか?」


「もちろんです」


 王妃が言った。


「いつでもお越しください」





 王宮を出る時、侍医長が見送ってくれた。


「リーゼ先生」


 クラウス先生が言った。


「あなたは本物の医師です。年齢は関係ない。その知識と技術、そして患者への誠実さ——全てが素晴らしい」


「ありがとうございます」


「これからも、王宮の診療にご協力いただけませんか?」


 侍医長が尋ねた。


「もし難しい症例があれば、ご相談したいのです」


「はい」


 私は頷いた。


「お役に立てるなら、喜んで」


「頼もしい」


 侍医長が微笑んだ。





 馬車で医学院へ戻る途中、今日のことを振り返った。


 王宮での診察。


 王妃の前での診断。


 そして治療法の提案。


 全てがうまくいった。


 でも、これで終わりではない。


 エルフリーデ様の経過を見守らなければならない。


 医師としての責任は、診断だけでは終わらない。


 治療、経過観察、そして患者が回復するまで——全てが医師の仕事だ。


 医学院に着くと、エリーゼとルーカス先輩が待っていた。


「リーゼ、どうだった?」


 エリーゼが駆け寄ってきた。


「うまくいったよ」


 私は微笑んだ。


「診断もついたし、治療も始められる」


「さすがだな」


 ルーカスが私の頭を撫でた。


「お前、本当にすごいよ」





 その夜、部屋で今日のことを日記に書いた。


『王宮での診察——緊張したが、無事に診断できた。肺結核。前世で何度も診た病気だが、この世界では抗生物質がない。薬草での治療になる。これからエルフリーデ様の治療が始まる。必ず回復させる』


 ペンを置き、窓の外を見る。


 星が優しく輝いている。


「お父様、お母様、マルタさん」


 星に向かって小さく呟いた。


「今日、王宮で診察をしました」


「王妃陛下の前で、診断を述べました」


「緊張しましたが、無事に終わりました」


「これからも、もっと多くの人を救います」


 星が優しく瞬いている。


 まるで祝福してくれているかのように。


 机の上には、明日の予定表があった。


 授業、実習、研究、そしてエルフリーデ様の治療計画の詳細作成。


 全てが大切な仕事だ。


 一つ一つ、丁寧にこなしていく。





 ベッドに入り、目を閉じる。


 明日からまた新しい日々が始まる。


 王国医学協会認定医師として。


 そして王宮の診療にも協力する医師として。


 責任は大きくなったが、やりがいもある。


 多くの人を救える——それが何よりも嬉しい。


「おやすみなさい」


 小さく呟いて、眠りについた。


 王宮からの依頼——それは成功だった。


 そして私の医師としてのキャリアは、また一歩前進した。


 これからも挑戦は続く。


 もっと多くの患者。


 もっと複雑な症例。


 その全てに立ち向かっていく。


 それが、医師としての道だから。


 少女医師の挑戦は、続いていく。

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― 新着の感想 ―
他の医師が診断出来なかったのはなぜなんだろう この世界では珍しいのか 感染症ならもっと脅威として存在が知られていそうなのに
毎度の指摘で申し訳ありませんが、結核は感染症の一種なので、王族が近づくことはなるべく避けたほうがいいのではないでしょうか?感染力は弱いのであまり神経質になる必要はありませんが、患者本人の管理の他に、周…
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