第59話 新たな称号
医学会での発表から三日が過ぎた。その間、多くの医師から手紙が届いた。
「素晴らしい発表でした」「治療マニュアルを待っています」「私の患者にも試してみたいです」
王国中の医師が、私の研究に注目している。その期待に応えなければならない——そう思うと、少しプレッシャーを感じた。
◇
ある朝、ヴィルヘルム先生に呼ばれた。
「リーゼ先生、重要な知らせがあります」
先生の顔は、いつになく真剣だった。
「はい」
私は院長室へ向かった。そこには先生だけでなく、見知らぬ男性が立っていた——五十代くらいの威厳のある人物だ。立派な服装、医師の紋章を胸につけている。
「リーゼ先生」
ヴィルヘルムが紹介してくれた。
「こちらは王国医学協会の会長、フリードリヒ・フォン・ヴェルナー先生です」
王国医学協会の会長——医学界の最高権威だ。私は深く頭を下げた。
「リーゼ・フォン・ハイムダル、お目にかかれて光栄です」
「顔を上げてください」
会長の声は穏やかだった。
「あなたの医学会での発表、拝見しました。素晴らしかった」
◇
「全身性エリテマトーデスの研究は、画期的です」
会長が続けた。
「この病気の概念を確立し、治療法を見出した——それは医学の大きな進歩です」
「ありがとうございます」
私は謙遜した。
「でもまだまだ研究の途中です」
「その謙虚さも素晴らしい」
会長は微笑んだ。
「実は、王国医学協会から、あなたに称号を授与したいのです」
「称号……ですか?」
私は驚いた。
「はい」
ヴィルヘルムが説明してくれた。
「王国医学協会認定医師——それは王国で最も権威のある医学資格です。通常は三十歳以上、十年以上の実績がある医師にのみ与えられます」
「でも、あなたの業績は例外的です」
会長が続けた。
「十二歳という若さで、これほどの成果を上げた。それは前例がありません。だから協会は満場一致で、あなたに称号を授与することを決定しました」
◇
私は少し考えた。王国医学協会認定医師——それは大きな責任だ。でも同時にチャンスでもある。より多くの患者を救える。より多くの研究ができる。
「お受けします」
私は決意した。
「ありがとうございます」
「素晴らしい」
会長は満足そうに頷いた。
「では、授与式は来週の月曜日、王宮の大広間で行います」
「王宮……ですか?」
「はい。王国医学協会の称号授与式は、王族の臨席の下で行われます。今回は王女殿下が出席されます」
王女殿下——私は緊張した。
「準備をしておいてください」
会長は微笑んだ。
「あなたの新しい門出を、王国中が祝福するでしょう」
◇
会長が帰った後、ヴィルヘルム先生が言った。
「リーゼ、おめでとう」
「ありがとうございます」
「でもプレッシャーも大きくなるぞ」
先生は真剣な顔で言った。
「王国医学協会認定医師——それは最高の名誉だが、同時に最高の責任でもある。多くの人が、あなたに期待する。その期待に応え続けなければならない」
「分かっています」
私は頷いた。
「でも、私はそのために医師になったんです。多くの人を救うために」
「その決意を忘れないでください」
先生は優しく微笑んだ。
「あなたなら大丈夫だと思う。でも無理はしないように」
◇
授業の後、エリーゼとルーカス先輩に報告した。
「えっ、王国医学協会認定医師!?」
エリーゼが驚いた声を上げた。
「それって、最高位の資格じゃない」
「ああ」
ルーカスも驚いていた。
「普通は何十年もかかる資格だ。お前、十二歳でそれを取るのか」
「取るというか……授与されるんです」
私は照れくさそうに答えた。
「すごいわ、リーゼ」
エリーゼが抱きしめてくれた。
「私の友達が、王国医学協会認定医師になるなんて」
「でもプレッシャーもあるよ」
私は正直に言った。
「この称号に恥じないように、もっと頑張らなきゃいけない」
「お前なら大丈夫だ」
ルーカスが私の肩を叩いた。
「今まで以上に頑張れ。でも無理はするな」
◇
その夜、公爵邸を訪ねた。ソフィアの経過観察のためだ。
「リーゼ先生」
ソフィアがベッドで本を読んでいた。顔色は良く、以前の苦しそうな様子はない。
「調子はどう?」
「とても良いです」
ソフィアは微笑んだ。
「薬のおかげで、もう痛みもありません」
診察をすると、全ての症状が改善していた。肝脾腫も縮小し、発疹も消えている。治療は成功だ。
「リーゼ先生」
公爵が部屋に入ってきた。
「王国医学協会認定医師の称号授与、おめでとうございます」
「ありがとうございます。もうお聞きになったんですか?」
「ええ」
公爵は微笑んだ。
「王宮から知らせがありました。娘の命を救ってくださった方が、このような栄誉を受けられる——我が家としても誇りです」
◇
一週間後、授与式の日が来た。
王宮の大広間——広大な空間だ。高い天井、美しいステンドグラス、豪華なシャンデリア。全てが圧倒的だった。
すでに多くの医師が集まっていた。ヴィルヘルム先生、エドムント先生、フリーデリケ先生。ベルンハルト医師、フリードリヒ医師。アンネリーゼも来てくれていた。
そして王族の席に——王女殿下が座っていた。二十代前半の美しい女性で、優雅な雰囲気を持っている。
私は緊張した。
◇
式が始まった。フリードリヒ・フォン・ヴェルナー会長が演台に立った。
「本日は、王国医学協会認定医師の称号授与式を執り行います」
会長の声が広間に響く。
「今回授与される方は、リーゼ・フォン・ハイムダル先生です」
私は前に出た。数百人の視線が私に注がれる。でも落ち着いて歩く。
「リーゼ先生は、わずか十二歳という若さで、驚異的な医学的業績を上げてきました」
会長が私の経歴を読み上げた。
「実技試験満点、王宮での緊急手術の成功、全身性エリテマトーデスの研究——全てが前例のない成果です」
「そして、その知識を惜しみなく共有し、多くの医師を育て、多くの患者を救ってきました」
「この功績を讃え、王国医学協会は、リーゼ・フォン・ハイムダル先生に認定医師の称号を授与します」
◇
会長が美しい証書を手渡してくれた。金の縁取り、王国の紋章が刻まれている。そして首に、認定医師の勲章がかけられた。金色の勲章——医学の象徴であるヘビと杖が刻まれている。
「おめでとうございます、リーゼ先生」
会長が微笑んだ。
会場から大きな拍手が起こった。スタンディングオベーション——全員が立ち上がって拍手している。
その時、王女殿下が立ち上がった。
「リーゼ・フォン・ハイムダル先生」
王女の声が広間に響いた。
「あなたの功績は、王国の誇りです。これからも、多くの人々を救ってください」
「はい」
私は深く頭を下げた。
「精一杯、努力いたします」
◇
式の後、多くの医師が祝福してくれた。
「おめでとう、リーゼ先生」
「史上最年少の認定医師だ」
「これからも期待しているよ」
次々と声をかけられる。名刺を渡される。握手を求められる。全てに丁寧に対応した。
ヴィルヘルム先生も祝福してくれた。
「リーゼ、本当におめでとう」
「ありがとうございます、先生」
「これからが本当の勝負だ」
先生は真剣な顔で言った。
「称号はゴールじゃない、スタートだ。この称号に恥じないよう、さらに努力しなさい」
「はい」
私は決意を新たにした。
◇
エリーゼとルーカス先輩も会場に来てくれていた。
「リーゼ、おめでとう!」
エリーゼが涙を流していた。
「私、感動したわ」
「ありがとう、エリーゼ」
「お前、やったな」
ルーカスが笑った。
「王国医学協会認定医師——もう立派な医師だ」
「でもまだ学生です」
私は微笑んだ。
「これからも、先輩から学ばせてください」
「謙虚だな」
ルーカスは私の頭を撫でた。
「その姿勢を忘れるな」
◇
その夜、部屋で証書と勲章を見つめた。王国医学協会認定医師——私の新しい称号だ。
これは大きな名誉だが、同時に大きな責任でもある。多くの人が私に期待している。その期待に応えなければならない。
窓を開けると夜風が入ってくる。星が美しく輝いている。
「お父様、お母様、マルタさん」
星に向かって小さく呟いた。
「今日、王国医学協会認定医師の称号をいただきました」
「大きな名誉です。でも同時に大きな責任でもあります」
「これからも精一杯頑張ります」
「もっと多くの人を救います」
「見守っていてください」
星が優しく瞬いている。まるで祝福してくれているかのように。
ベッドに入り、目を閉じる。明日からまた新しい日々が始まる。でも今度は、王国医学協会認定医師として。その責任を胸に、前進していく。
「おやすみなさい」
小さく呟いて、眠りについた。
新たな称号——それは新たな始まりだ。もっと学び、もっと成長し、もっと多くの人を救う。それが私の使命だ。
少女医師の挑戦は、新しい段階へ進む。




