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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第55話 教えることと学ぶこと

来月が来た。二年生への指導が始まる。


一年生への指導とはまったく違う——二年生は基礎はすでに学んでおり、より高度な技術を求めている。そして私と同じ学年で、年齢も近い。


教えることの難しさが予想される。


でも挑戦だ——新しい挑戦。それが私を成長させてくれる。





月曜日の朝、私は自室で準備をしていた。


今日の午後、二年生への最初の授業がある。


机の上には、私が作成した講義ノートが広げられている。腸管吻合の手順、解剖学的構造、合併症のリスク——全てを詳しく書き込んだ。


でも不安がある。


同級生に教える——それは一年生に教えるよりもずっと難しい。


一年生は私を「先生」として見てくれた。年齢差があり、経験の差も明白だった。でも二年生は違う。同じ年齢、同じ学年——なぜ私だけが教える側なのか。そう思う学生もいるだろう。


トーマスやクラウディアもいる。親しい友人たちに教える——それはどんな気持ちだろう。


鏡を見た。


十三歳の少女が映っている。小さな体、幼い顔。でもこの体には前世の知識が詰まっている。三十年以上の外科医としての経験が。


「大丈夫」


自分に言い聞かせた。


「前世の経験を活かせば、きっとうまくいく」


でも同時に思った。


教えることで、私も学べるはずだ。知識を言葉にすることで、理解が深まるはずだ。エドムント先生が言っていた——「教えることは最高の学びだ」と。


深呼吸。


窓を開けると、爽やかな風が入ってくる。


「頑張ろう」


小さく呟いて、部屋を出た。





午後二時、二年生の実技教室へ向かった。


廊下を歩きながら、心臓がドキドキしている。手が少し震える。


深呼吸——落ち着け。大丈夫。


教室のドアの前に立つ。中からざわめきが聞こえる。学生たちがすでに集まっている。


ドアノブを握る。冷たい金属の感触。


もう一度深呼吸。


そしてドアを開けた。


広い教室。実習台が並べられている。二年生がすでに集まっていた——約三十人。


トーマス、クラウディア、マティアス、私のクラスメートたちもその中にいる。


みんな少し複雑な顔をしている。同級生に教えられる——それは少しプライドが傷つくかもしれない。


視線を感じる。期待、好奇心、そして少しの懐疑。


「リーゼが本当に教えられるのか?」


そう思っている学生もいるだろう。


でも仕方がない。私は先生に頼まれた。その責任を果たさなければならない。


エドムント先生が教室の前に立っている。私を見て微笑んだ。


「リーゼ先生、準備はいいですか?」


「はい」


私ははっきりと答えた。


先生が学生たちに向き直った。


「本日から、リーゼ先生が高度な外科手技の指導をしてくれます」


先生の声が教室に響く。


「彼女は病院実習で手術の助手を経験しています。そして緊急事態への対応でも高い評価を受けています。皆さん、しっかり学んでください」


拍手が起こった。でも一年生の時より少し控えめだ。


エドムント先生が私に目配せをして、教室を出て行った。


静寂。


三十人の視線が私に集中している。


重圧。


でも、ここで引くわけにはいかない。


私は前に出た。実習台の前に立つ。


深呼吸——落ち着け、大丈夫。


「皆さん、こんにちは」


私ははっきりと言った。声が少し震えている——でも気づかれないように。


「同じ二年生として、一緒に学んでいきたいと思います」


教える立場だが、対等に——それが大切だと思った。


「私が病院実習で経験したことを共有します。そしてみんなで議論しながら、理解を深めていきましょう」


学生たちの表情が少し和らいだ。対等に扱われる——それが嬉しいのかもしれない。


トーマスが小さく頷いた。クラウディアも微笑んでいる。


その反応に少し勇気づけられた。


「では、始めましょう」





「今日は、腸管吻合について学びます」


私は説明を始めた。


「腸を切除した後、残った腸をつなぐ技術です。非常に重要な手技です」


黒板にチョークで図を描く。腸管の断面、粘膜層、筋層、漿膜層。


「腸管は複数の層から成り立っています」


私は丁寧に説明した。


「最も内側が粘膜層——ここは消化液や食物と接する部分です。その外側に粘膜下層、筋層、そして最も外側が漿膜層です」


学生たちが真剣にメモを取っている。


「腸管吻合では、これらの層を適切につなぐ必要があります。特に粘膜層と漿膜層——この二層をしっかり縫合することが成功の鍵です」


一人の学生が手を上げた。


「リーゼ先生、質問してもいいですか?」


「もちろん」


「なぜ二層なんですか? 一層じゃだめなんですか?」


良い質問だ。


「良い質問です」と私は答えた。「一層縫合でも可能ですが、二層の方がより確実です。理由は——」


黒板に図を描きながら説明する。


「第一層で粘膜を縫合することで、腸管内容物の漏れを防ぎます。そして第二層で漿膜を縫合することで、吻合部を補強し、腹腔への漏れを完全に防ぐんです」


「なるほど……」


学生たちが納得した顔をしている。


「では、実際にやってみましょう」


実習台の前に立つ。豚の腸管が準備されている——新鮮な腸管、人間のものとほぼ同じ大きさだ。


「まず、腸管を切開します」


メスを手に取る。慎重に、でも確実に。


刃を当てる。


ゆっくりと切開していく。


粘膜が見える。ピンク色の柔らかい組織。


「切開線は直線に」と私は説明を続けた。「斜めになると吻合が困難になります」


完全に切開した。二つの断端ができた。


「次に、断端を整えます」


ハサミで余分な組織を切除する。


「断端はきれいに整えることが重要です。不揃いだと吻合がうまくいきません」


学生たちが身を乗り出して見ている。


実習台の周りに集まって、じっと私の手元を見つめている。


緊張する。


でも、ここで失敗はできない。


前世の経験を思い出す。何百回とやった腸管吻合。手が覚えている。


「では、縫合します」


針を手に取る。吸収糸のついた湾曲針。


「まず第一層——粘膜層の縫合です」


針を刺す位置を示す。


「断端から約三ミリの位置に刺します。粘膜層だけを掬うように——筋層まで刺してはいけません」


針を刺した。


粘膜層だけを通す。慎重に、でも確実に。


針が出てくる。


「対側も同じように」


もう片方の断端に針を刺す。同じ深さ、同じ位置。


針を引き抜く。


糸を引く——でも強く引きすぎない。


「張力が重要です」と私は説明した。「強すぎると組織が虚血になります。弱すぎると隙間ができます。ちょうど良い張力——組織が白くならない程度です」


結紮する。


外科結び——前世で何千回とやった結び方。


一結び、二結び、三結び。


「三回結ぶのが基本です」と私は説明した。「一回では緩みやすく、二回では不十分。三回で確実に固定できます」


糸を切る。


「次の針」


同じ手順を繰り返す。針を刺す、通す、引く、結ぶ、切る。


リズムよく、正確に。


一針、二針、三針、四針——


学生たちが息を呑んで見ている。


私の手が動く。前世の経験が蘇る。体が覚えている動き。


十針目。


「ここで重要なのは縫合間隔です」


私は手を止めて説明した。


「間隔が広すぎると漏れのリスクがあります。狭すぎると血流が悪くなります。約五ミリ間隔が理想的です」


「なぜ五ミリなんですか?」


また質問が来た。


「経験則です」と私は答えた。「様々な研究で、五ミリ間隔が最も合併症が少ないことが分かっています。三ミリだと組織が虚血になりやすく、七ミリだと漏れのリスクが高まります」


前世の知識だ。この世界ではまだそこまで研究されていないかもしれない——でも確実な知識だ。


縫合を続ける。


十五針、二十針、二十五針——


第一層が完成した。


きれいな一列。均等な間隔。適度な張力。


「第一層、完了です」


学生たちから小さな拍手が起こった。


私は微笑んだ。少し緊張が和らぐ。


「次は第二層——漿膜層の縫合です」


新しい針を手に取る。


「第二層では、吻合部を完全に覆います。漿膜と筋層を一緒に縫合することで、強度を増します」


針を刺す。今度は深く——漿膜から筋層まで。


「第一層とは逆方向に縫います」と私は説明した。「こうすることで、二層が互い違いになり、より強固になります」


縫合を続ける。


第二層は第一層よりも速く進む。より大きな組織を掬うため、針の出し入れが楽だ。


十針、二十針——


そして完了。


「第二層、完了です」


完成した吻合を持ち上げて見せた。


きれいな円形。均等な縫合線。隙間なし。


学生たちから大きな拍手が起こった。


「すごい……」


「完璧だ……」


ささやき声が聞こえる。


私は少し照れくさくなった。でも嬉しい。


「では、皆さんも実習の時間です」


学生たちがそれぞれの実習台に向かった。





教室を回って一人一人を見た。


最初はトーマスのところへ。


彼は真剣な顔で縫合しているが、少し糸の張力が強い。組織が白くなっている。


「トーマス」


私は優しく声をかけた。


「ん?」


「少し張力を緩めて。組織が白くなっているのが見える?」


トーマスが自分の縫合を見た。


「あ、本当だ……」


「これは虚血のサインよ。血流が悪くなっている証拠」


私は説明した。


「虚血になると組織が壊死します。そうなると吻合が失敗する可能性が高い」


「じゃあ、どうすれば?」


「もう少し緩めに引いてみて。組織の色が戻るまで」


トーマスが糸を少し緩めた。


組織の色がピンク色に戻る。


「こう?」


「そう。その張力が良いよ」


トーマスは納得したようだった。


「ありがとう、リーゼ」


次にクラウディアのところへ行った。


彼女の手技はとても丁寧だが、少し時間がかかりすぎている。まだ五針しか縫えていない。


「クラウディア」


「あ、リーゼ」


彼女は少し焦った顔をしている。


「手技は完璧ね」と私は褒めた。「縫合間隔も張力も理想的」


「でも、遅いわ……」


「確かに少し遅いけど」私は優しく言った。「でも正確さの方が大切。速度は練習で上がる」


「本当?」


「本当よ。最初は正確に。速度は後からついてくる」


でも、と私は付け加えた。


「実際の手術では時間も重要。だから少しずつスピードを上げる練習もしてみて」


「分かったわ。試してみる」


クラウディアは安心したような顔で頷いた。


マティアスのところへ行った。


彼はすでに第一層を終えている。速い——でも正確だ。


「マティアス、すごいね」


私は感心した。


「手技が速いのに、正確だ」


「ありがとう」


マティアスは照れくさそうに微笑んだ。


「リーゼの説明が分かりやすかったから。どこに刺すか、どう引くか——全部イメージできた」


「それは嬉しいわ」


他の学生たちのところも回った。


一人の女子学生——名前はアンナ——が困っている。


「先生、針が通らないんです……」


見ると、針が組織に引っかかっている。


「少し角度を変えてみて」


私は彼女の手を取って、針の角度を調整した。


「針の湾曲に沿って回転させるの。こう——」


針がスムーズに通った。


「あ、通った!」


アンナが嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます、先生!」


別の男子学生——ハンス——が質問してきた。


「先生、結び目がすぐ緩むんですが……」


「見せて」


彼の結び目を見た。外科結びができていない。


「結び方が違うわ。外科結びを使って」


私は実演して見せた。


「最初の結びで二回巻く。こうすることで摩擦が増えて、緩みにくくなる」


「なるほど……」


ハンスが真似をする。


「できました!」


「そう、それが外科結びよ」


一人一人に時間をかけて指導した。


それぞれ違う問題がある。張力、角度、速度、結び方——全て個別に対応する。


でも教えることで、私も学んでいる。


なぜこの角度が良いのか。なぜこの張力が適切なのか。


前世では無意識にやっていたことを、言葉にして説明する。そうすることで、理論的に理解できる。


教えることは学ぶことでもある——それを実感した。





二時間後、授業が終わった。


「本日は、お疲れ様でした」


私は深く頭を下げた。


拍手が起こった。今回は最初より大きい——学生たちが満足している証拠だ。


学生たちが近づいてきた。


「リーゼ、とても勉強になったよ」


トーマスが言った。


「君の説明は本当に分かりやすい。理論だけじゃなくて、実践的なコツも教えてくれる」


「ありがとう」


私は微笑んだ。


「でも私も勉強になったわ。教えることで、自分の理解も深まった。だから私もみんなに感謝してる」


クラウディアも近づいてきた。


「リーゼ、一つ質問してもいい?」


「もちろん」


「腸管吻合で、漏れを防ぐための他の方法はあるの?」


その質問に私は少し考えた。前世の知識を思い出す。


「あるわ」


私は答えた。


「吻合部を補強する方法。大網——胃から垂れ下がっている脂肪組織——を使って吻合部を覆うの」


「大網?」


「そう。大網は血流が豊富で、治癒を促進する。そして万が一漏れても、腹腔内への拡散を防げる」


「なるほど……」


クラウディアは真剣にメモを取った。


「あと、吻合部にドレーンを置く方法もあるわ」


「ドレーン?」


「管を入れて、漏れた液体を外に出す。こうすることで、腹腔内に液体が溜まるのを防げる」


他の学生たちも集まってきた。


質問が次々と出る。


「縫合糸の太さは?」


「細すぎると切れやすく、太すぎると組織を傷める。中程度の太さが理想的」


「吸収糸と非吸収糸、どちらが良い?」


「腸管吻合では吸収糸が一般的。非吸収糸だと長期的に異物反応を起こす可能性がある」


「吻合にかかる時間は?」


「熟練すれば二十分から三十分。でも最初は一時間くらいかかるわ」


一つ一つ丁寧に答えた。


時間をかけて、質問に向き合う。


質問に答えることで、私自身も学んでいる。知識を整理している。そして新しい視点を得ている。


三十分後、やっと学生たちが帰り始めた。


「また来週お願いします」


「ありがとうございました」


みんな満足そうな顔をしている。


教室が静かになった。


私は一人、片付けをした。


実習台を拭き、器具を洗い、部屋を整える。


疲れた——でも充実している。


教えることの難しさ、でも喜び。


学生が理解する瞬間の顔——それを見るのが何よりも嬉しい。





授業の後、エドムント先生が声をかけてきた。


「リーゼ先生、素晴らしかったです」


「ありがとうございます」


「私、見学していました」


先生が微笑んだ。


「あなたの教え方——丁寧で、分かりやすく、そして学生一人一人に向き合っている。理想的な教師です」


「いえ、まだまだです……」


私は謙遜した。


「二年生への指導も、とてもうまくいきました」


先生は満足そうに言った。


「学生たちも満足していました。そしてあなた自身も成長しているように見えます」


「はい」


私は頷いた。


「教えることで、自分も学んでいます」


「それが教師の特権です」


先生は微笑んだ。


「教えることと学ぶことは表裏一体。良い教師は常に学び続けます」


その言葉が心に響いた。


教師として、でも同時に学生として——両方の立場を経験している。それが私を成長させてくれる。


「これからも頑張ってください」


先生が私の肩に手を置いた。


「あなたは医学院の宝です。多くの学生が、あなたから学びたいと思っています」


「精一杯、努力します」


私は誓った。





夕方、部屋に戻ると疲れがどっと出た。


ベッドに横になる。


天井を見つめる。


今日の授業——うまくいった。学生たちは満足していた。でも本当にこれで良かったのか。


もっと分かりやすく説明できたのでは。


もっと丁寧に指導できたのでは。


反省点がいくつも浮かぶ。


でも、と思った。


完璧を求めすぎてはいけない。大切なのは学生が成長すること。そして私も成長すること。


ノックの音。


「はい」


ドアが開いて、トーマスとクラウディアが入ってきた。


「リーゼ、少し話してもいい?」


「もちろん」


私は起き上がって、二人を部屋に招いた。


簡単な椅子に座ってもらう。


「今日の授業、本当に良かった」


クラウディアが言った。


「分かりやすくて、丁寧で——本当に勉強になったわ」


「でも一つ気になることがあるの」


「何?」


クラウディアが真剣な顔で聞いてきた。


「リーゼはどうやってそんなに技術を身につけたの? 私たち、同じ二年生なのに、あなたの技術はまるでベテラン医師のようだわ」


その質問に私は少し考えた。


前世の経験——それをどう説明するか。


「たくさん練習したの」


私は慎重に答えた。


「毎日、縫合の練習をした。朝も夜も。休みの日も。そして常に改善を考えた。どうすればもっと速く、もっと正確にできるか——それをずっと考え続けた」


「そうか……」


トーマスは納得したような顔をした。


「やっぱり、努力なんだね。天才じゃなくて、努力の人なんだ」


「天才……そんなことないわ」


私は首を横に振った。


「私はただ人より多く練習しただけ。誰でもできることよ」


でも心の中では思った。


前世の経験がなければ、ここまでできなかったかもしれない。


転生者としての利点——それは認めなければならない。


でもそれを公言することはできない。


「リーゼ」


トーマスが真剣な顔で言った。


「俺も、もっと練習する。お前みたいになりたい」


「私も」


クラウディアも頷いた。


「リーゼを目標に、頑張るわ」


その言葉が嬉しかった。


私の努力が、他の人を励ましている。それが何よりも嬉しい。


「一緒に頑張ろう」


私は二人に微笑んだ。


「私もまだまだ学ぶことがたくさんあるから」





二人が帰った後、部屋で一人考えた。


教えることと学ぶこと、その関係。


教師として学生を育てる。でも同時に学生として学び続ける。


両方が大切だ——どちらか一方では不十分だ。


教えるだけでは成長が止まる。


学ぶだけでは知識が活用されない。


両方をバランスよく——それが理想的だ。


窓を開けると夜風が入ってくる。星が美しく輝いている。


「お父様、お母様、マルタさん」


星に向かって小さく呟いた。


「教えることの難しさを知りました。でも同時に喜びも知りました」


星が優しく瞬いている。


「学生が成長する姿を見る——それが何よりも嬉しいです」


まるで応援してくれているかのように。


「これからも、精一杯頑張ります」


星に誓った。





翌週の木曜日、病院実習があった。


今回もフリードリヒ医師の下で学ぶ。


午前中は外来診療。


様々な患者を診た。腹痛、発熱、外傷——それぞれに丁寧に対応する医師の姿を見た。


診察の手順、質問の仕方、診断の過程——全てが学びだ。


そして午後、手術の助手。


今回の手術は胆嚢摘出だった——前世でも何度も経験した手術だが、この世界では初めてだ。


患者は四十代の女性。胆石による胆嚢炎。


手術室に入る。


消毒、手洗い、ガウンを着る——全ての準備を完璧に。


患者が手術台に横たわっている。


麻酔医が麻酔をかける。患者の意識が落ちる。


フリードリヒ医師が執刀する。


「リーゼさん、準備はいいですか?」


「はい」


私は助手の位置に立った。


医師が皮膚を切開する。


右上腹部、肋骨の下——約十センチの切開。


皮膚、皮下組織、筋膜——層ごとに切開していく。


「鉤」


医師が言う。


私は創を開く鉤を渡した。


視野が開ける。


腹腔内が見える。


肝臓の下に、胆嚢がある——腫れて、充血している。


「胆嚢炎ですね」


医師が呟いた。


「炎症が強い。慎重に剥離しないと」


医師が胆嚢を掴む。


周囲組織から剥離していく。


慎重に、一層ずつ。


私は視野を確保する。鉤で肝臓を持ち上げ、ガーゼで出血を抑える。


前世の経験が蘇る。


胆嚢摘出——何百回とやった手術。


術野を見ていると、次に何をするか分かる。


医師が総胆管を確認する。


「ここが総胆管」


医師が私に教えてくれる。


「胆嚢管と合流する部分。ここを傷つけないように注意しないと」


「はい」


私は頷いた。


医師が胆嚢管を結紮する。


二重に糸をかけて、その間を切離する。


次に胆嚢動脈を結紮する。


同じように二重結紮して切離。


「さあ、胆嚢を摘出します」


医師が肝臓から胆嚢を剥離していく。


癒着が強い——炎症のせいだ。


慎重に、少しずつ。


出血する。


「ガーゼ」


私はすぐにガーゼを渡す。


医師が止血する。


剥離を続ける。


十分後、胆嚢が完全に遊離した。


「摘出完了」


医師が胆嚢を取り出した。


腫れて、赤黒い——重症の胆嚢炎だ。


「洗浄します」


医師が腹腔内を洗浄する。


生理食塩水で何度も洗い流す。


「ドレーン」


私はドレーンを渡した。


医師が胆嚢窩にドレーンを留置する。


「閉腹します」


筋膜を縫合する。


私は針を渡しながら、医師の手技を観察した。


縫合の間隔、糸の張力——全てが完璧だ。


前世の自分と同じレベル——いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。


この世界の医師も、確かな技術を持っている。


皮膚を縫合して、手術終了。


「お疲れ様でした」


医師が私に言った。


「リーゼさん、今日も完璧でした。視野の確保、器具の受け渡し——全てがスムーズでした」


「ありがとうございます」


「君は本当に優秀な助手だ」


医師が微笑んだ。


「いつか、術者として手術をしてみたいと思わないか?」


その言葉に私の心が高鳴った。


術者——自分で手術を執刀する。


それは外科医の夢だ。


「はい」


私ははっきりと答えた。


「いつか、必ず」


「その日を楽しみにしているよ」


医師が私の肩を叩いた。


「君なら、きっと素晴らしい外科医になれる」





病院実習の後、医学院に戻った。


廊下を歩いていると、ルーカス先輩が待っていた。


「リーゼ」


「先輩」


「少し話してもいいか?」


「はい」


私たちは図書館の静かな一角へ行った。


窓際の席に座る。


「お前、最近すごく忙しそうだな」


ルーカスが心配そうに言った。


「授業、実習、指導——全部やってて、大丈夫か?」


「大丈夫です」


私は微笑んだ。


「忙しいですけど、充実してます」


「でも、無理はするなよ」


ルーカスは真剣な顔で言った。


「前にも言ったけど、自分の体調管理も医師の責任だ。患者を治すには、まず自分が健康でなければならない」


「分かってます」


私は約束した。


「ちゃんと、休む時は休んでます。睡眠も食事も、しっかり取ってます」


「それなら、いいけど」


ルーカスは少し安心したような顔をした。


「お前は医学院の希望だからな。倒れられたら、みんな困る」


「希望……」


私は少し照れくさくなった。


「そんな、大げさな」


「いや、本当だ」


ルーカスは断言した。


「お前を見ていると、みんな励まされる。もっと頑張ろうって思える。それがお前の存在意義だ」


「先輩……」


「だから、無理はするな。長く続けることが大切だ」


ルーカスが私の頭を撫でた。


「分かった?」


「はい」


私は素直に頷いた。





その夜、部屋で日記を書いた。


『教えることと学ぶことの両立』


ペンを走らせる。


『一年生への指導、二年生への指導、病院実習——全てが私を成長させてくれる』


『忙しいが充実している。毎日新しいことを学んでいる』


『そして学生たちも成長している——それが嬉しい』


ペンを置いた。


窓を開けると夜風が入ってくる。


星が美しく輝いている。


「これからも、頑張ります」


星に向かって誓った。


医師として、教師として、学生として——全ての役割を果たしていく。


ベッドに入り、目を閉じる。


明日からまた新しい日々が始まる。


挑戦、成長、充実——全てが私を前に進ませる。


「おやすみなさい」


小さく呟いて、眠りについた。


教えることと学ぶこと、その両方を大切にしていく——それが私の道だ。


少女医師の挑戦は、続いていく。





翌週の月曜日、二年生の授業が再びあった。


今回は前回よりもスムーズに進んだ。


学生たちも私に慣れ、質問も活発になった。


授業の後、一人の学生が残った。


マティアスだ。


「リーゼ、ちょっといい?」


「もちろん」


「俺、外科医になりたいんだ」


マティアスが真剣な顔で言った。


「リーゼみたいな外科医に」


「マティアスなら、きっとなれるわ」


私は微笑んだ。


「君は手技が正確で、理解も早い。素質がある」


「本当?」


「本当よ」


「じゃあ、教えてほしいんだ」


マティアスが頭を下げた。


「もっと高度な技術を。個人的に指導してもらえないか?」


その申し出に私は少し驚いた。


でも嬉しかった。


「いいわ」


私は頷いた。


「時間を作って、個別に指導するわ」


「ありがとう!」


マティアスが嬉しそうに笑った。


教えることの輪が広がっていく。


それが私の使命なのかもしれない。


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― 新着の感想 ―
吸収糸と非吸収糸まで使い分ける技術はいつ頃確立したのですか?中世ヨーロッパと言っても、前期と後期では相当技術が異なると思いますが、いったいいつ頃を想定しているのですか?登場する技術がちぐはぐな気がしま…
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