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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第48話 重要な手術

 講習会から二週間が過ぎた。評判はさらに広がっていた。


「リーゼ先生の講習会は素晴らしい」「あの年齢であれほど教えるのが上手いとは」——王都中の医師たちの間で話題になっているらしい。


 次回の講習会には百人以上の申し込みがあり、会場をもっと大きな部屋に変更しなければならないほどだ。


 私は嬉しかった。でも、同時にプレッシャーも感じていた——期待に応えなければ、もっと良い内容を準備しなければ。





 ある朝、ヴィルヘルム先生が私を呼んだ。


「リーゼ先生、緊急の依頼が来ました」


 先生の顔は、真剣だった。


「緊急の依頼……ですか?」


「はい。王宮からです」


 私は、少し緊張した。


「王宮から……?」


「エルンスト侯爵の娘さんが、病気になられました」


 先生が、説明してくれた。


「腹部の激痛で、動けない状態です」


「王宮付きの医師たちが診ましたが、原因が分かりません」


「そこで、あなたに診てほしいと」


 私は、少し考えた。


 腹部の激痛。


 原因不明。


 可能性は、いくつかある。


 虫垂炎、胆石、腸閉塞、卵巣嚢腫……。


「分かりました。すぐに行きます」


「準備をしてください」


 先生が、言った。


「馬車を手配します」





 三十分後、私は王宮へ向かっていた。医療鞄を持って——中には必要な器具が全て入っている。メス、ピンセット、鉗子、縫合針、糸、そして薬草の軟膏や煎じ薬。全てを確認した。


 王宮に到着すると、侯爵が出迎えてくれた。


「リーゼ先生、来ていただきありがとうございます」


 侯爵の顔は、心配で曇っていた。


「娘が……娘が苦しんでいるんです」


「すぐに診せていただきます」


 私は、はっきりと言った。


 侯爵に案内されて一つの部屋へ——豪華な寝室。


 大きなベッドに一人の少女が横たわっていた。十五歳くらいだろうか——美しい顔立ちだが、今は苦痛に歪んでいる。顔色は蒼白で、額には汗が浮かんでいる。





「こんにちは。リーゼ・フォン・ハイムダルです」


 私は、優しく声をかけた。


「これから、診察させていただきます」


「お願い……します……」


 少女の声は、弱々しい。


「お名前は?」


「シャルロッテ……です……」


「シャルロッテさん、痛いのはどこですか?」


 少女が右下腹部を指差した。


「ここ……です……」


 右下腹部——これは……。


 私は慎重に問診を始めた。


「いつから痛み始めましたか?」


「昨夜……から……」


「最初は、どこが痛みましたか?」


「お腹の真ん中……でも、だんだん右下に……」


 典型的な症状だ。


「吐き気はありますか?」


「はい……何度も……」


「熱は?」


 額に手を当てる——熱い。おそらく三十八度以上。


「食欲は?」


「全く……ありません……」


 全ての症状が一つの病気を指し示している——虫垂炎。急性虫垂炎だ。





「腹部を触診します。少し痛むかもしれませんが、我慢してください」


 私は慎重に腹部を触った。まず左上腹部から——痛みのない場所から始める。少しずつ右下腹部に近づいていく。


 右下腹部を軽く押さえる。


「痛い!」


 シャルロッテが、悲鳴を上げた。


 圧痛がある。


 次に圧迫を解除する——反跳痛を確認する。


「痛い……!」


 また悲鳴。反跳痛もある。


 これは間違いない——急性虫垂炎だ。しかも、かなり進行している。破裂の危険がある。


 私は、侯爵を見た。


「侯爵、お話があります」


「はい」


 侯爵が、緊張した顔で近づいてきた。


 私たちは、部屋の外に出た。


「診断は、急性虫垂炎です」


 私は、はっきりと言った。


「虫垂……盲腸のことですか?」


「はい。虫垂が炎症を起こしています」


「そして、かなり進行しています」


 侯爵の顔が、さらに青ざめた。


「治療法は……?」


「手術が必要です」


 私は、断言した。


「虫垂を切除しなければなりません」


「すぐに」


「手術……」


 侯爵が、震えた声で言った。


「危険では……?」


「手術をしなければ、もっと危険です」


 私は、真剣な目で侯爵を見た。


「虫垂が破裂すれば、腹膜炎を起こします」


「そうなれば、命に関わります」


 侯爵は、少し考えた。


 そして、決断した。


「分かりました。お願いします」


「任せてください」





 準備が始まった。


 王宮の一室が手術室に変えられた——清潔な部屋、大きなテーブル、十分な照明。


 私は器具を並べた。メス、ピンセット、鉗子、縫合針、糸——全てを煮沸消毒する。


 王宮付きの医師たちが助手として待機していた。みんな緊張した顔をしている。十二歳の少女が侯爵の娘を手術する——前代未聞のことだ。


 でも私には経験がある。前世の知識がある。その知識が今役立つ。


「シャルロッテさんを運んでください」


 私は、指示した。


 シャルロッテが、手術台に横たわった。


「怖い……です……」


 彼女の声は、震えている。


「大丈夫です」


 私は、優しく手を握った。


「私が、必ず治します」


「信じて……いいですか……?」


「はい。信じてください」


 私は、微笑んだ。


「すぐに、楽になりますから」





 麻酔薬を投与した。この世界の麻酔薬は薬草ベースで、完全な無痛ではないがかなり痛みを軽減できる。


 シャルロッテの意識が朦朧としてきた。


「始めます」


 私はメスを手に取った。


 右下腹部を消毒する——セージとタイムの煎じ液で。抗菌作用がある。


 深呼吸——落ち着け。前にもやったことだ。大丈夫。


 メスを皮膚に当て、一気に切開する——約八センチ。


 血が滲み出てくる。すぐに布で拭い、助手に止血を指示する。


「ここを圧迫してください」


「はい」


 助手が布で圧迫する。


 私はさらに剥離を進める——皮下組織、筋層。一つ一つ慎重に。


 腹膜を開く。内部が見えてきた——腸管、そして虫垂。


 暗赤色に腫れ上がっている。炎症がひどい。でもまだ破裂はしていない——間に合った。





「虫垂を確認しました」


 私は、助手たちに言った。


「これから切除します」


 慎重に虫垂を腹腔外へ引き出す。


 触るとぶよぶよとした感触——膿が溜まっている。危なかった。もう少し遅ければ破裂していた。


 虫垂の根部を確認する——盲腸との接続部。ここを結紮する。糸を二重に巻き、しっかりと結ぶ。血流を完全に遮断。


「鉗子で固定してください」


 助手に指示する。


「はい」


 助手が鉗子で虫垂を固定する。


 私はメスで切断する——結紮部のすぐ上を。


 切れた。虫垂が分離された。


 断端から少し内容物が漏れる。すぐに清潔な布で拭う——腹腔内への汚染を最小限に。


「切除完了です」


 私は、言った。


 助手たちが、安堵の息をついた。


 でもまだ終わりではない。


 断端を処理する。糸でもう一度結紮し、断端を盲腸壁内に埋没させる——巾着縫合。前世で学んだ技法。


 腹腔内を観察する——他の臓器に異常はないか、出血はないか。全てを確認する。


 問題ない。


「洗浄します」


 薬草を煎じた液体を腹腔内に注入する——抗菌作用のあるセージとタイムの煮出し液。


 清潔な布で腹腔内を優しく拭う。血液、滲出液、薬草液——全てを吸い取る。可能な限り清潔に、感染のリスクを最小限に。





「閉腹します」


 私は縫合を始めた。


 腹膜を縫合する——薄い膜を細い針で丁寧に。筋層を縫合する——外腹斜筋、内腹斜筋を元の位置に戻す。皮下組織を縫合する。そして最後に皮膚。


 一針一針丁寧に——正確な間隔、適切な張力。美しい縫合。


 最後の糸を結ぶ。


「手術、完了です」


 私は、大きく息をついた。


 助手たちが、拍手した。


 小さな拍手だが、心からの拍手。


「お疲れ様でした、リーゼ先生」


「ありがとうございました」


 私は、シャルロッテを見た。


 彼女は、まだ眠っている。


 でも、顔色は少し良くなった気がする。


 呼吸も、安定している。


「術後管理を始めます」


 私は、指示した。


「別室に移して、安静にさせてください」


「感染症を防ぐため、抗菌薬を投与します」


「そして、経過を観察してください」


「はい」


 助手たちが、シャルロッテを別室に運んだ。





 手術室を出ると、侯爵が待っていた。


「リーゼ先生、どうでしたか?」


 侯爵の顔は、不安で一杯だった。


「手術は成功しました」


 私は、はっきりと言った。


「虫垂を切除しました」


「破裂は、していませんでした」


「本当ですか!」


 侯爵の顔が、明るくなった。


「ありがとうございます、リーゼ先生」


「まだ、安心はできません」


 私は、真剣な顔で言った。


「これから数日間が、重要です」


「感染症を起こさないよう、管理します」


「分かりました。お願いします」


 その日から私は王宮に泊まり込んだ——シャルロッテの経過を見守るために。


 二時間おきに創部を確認する——発赤は? 腫脹は? 滲出液は? 感染の兆候を見逃さないように。


 体温も測定する——熱が出ていないか。


 薬草の投与も続ける。抗菌作用のあるセージ、タイム、エキナセア——二時間おきに煎じて飲ませる。


 一日目の夜——少し熱が出た。でも予想の範囲内だ。術後の発熱はよくあること。


 薬草の投与を続け、治癒魔法も使う。創部に手を当てて集中する。


「癒しの光よ、傷を癒したまえ」


 手のひらから温かな光が溢れる。


 二日目——熱が下がり始めた。創部も順調に治癒している。


 三日目。


 シャルロッテが、目を覚ました。


「リーゼ……先生……?」


「はい。私です」


 私は、微笑んだ。


「手術は成功しました」


「もう、大丈夫ですよ」


「ありがとう……ございます……」


 シャルロッテの目に、涙が浮かんだ。


 侯爵も、涙を流していた。


「リーゼ先生、本当にありがとうございました」


「娘を……娘を救ってくださって……」


「いえ、当然のことをしただけです」


 私は、謙遜した。


 一週間後——シャルロッテは完全に回復した。もう歩けるようになり、食欲も戻ってきた。傷跡も綺麗に治っている。


「リーゼ先生、本当にありがとうございました」


 シャルロッテが、深く頭を下げた。


「あなたのおかげで、私は生きています」


「元気になって、良かったです」


 私は、微笑んだ。


 侯爵も、感謝の言葉を述べた。


「リーゼ先生、あなたは我が家の恩人です」


「何か、お礼をさせてください」


「いえ、必要ありません」


 私は、首を振った。


「患者さんが元気になること」


「それが、医師にとって最大の報酬です」


 侯爵は、感動したように私を見た。


「あなたは、本当に素晴らしい医師です」





 医学院に戻ると、エリーゼとルーカス先輩が待っていた。


「リーゼ、お疲れ様!」


 エリーゼが、抱きしめてくれた。


「一週間も王宮にいたのよね」


「はい。でも、無事に終わりました」


「さすがだな」


 ルーカスが、満足そうに言った。


「侯爵の娘を救うなんて」


「お前の評判は、さらに上がるぞ」


 その夜、部屋で窓から星空を見上げた。美しい星。


「お父様、お母様、マルタさん」


 小さく呟いた。


「私、侯爵の娘さんを救いました。手術は成功しました。これからも頑張ります」


 星が優しく瞬いている——まるで祝福してくれているかのように。


 重要な手術——成功だった。そして私の評判はさらに広がっていく。


 少女医師の挑戦は続く。


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