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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第37話 最初の授業

朝の光が窓から差し込んできた。


ゆっくりと目を開けると、見慣れない天井——一瞬、ここがどこか分からなかったが、すぐに思い出す。

王立医学院の寮、私の新しい部屋。


「もう朝……」


小さく呟いてベッドから起き上がり、窓の外を見る。

薬草園が朝日に照らされ、露に濡れた葉がきらきらと輝いていた。

美しい。


深呼吸する。

新しい一日の始まり——そして、医学院での最初の授業。



身支度を整えて鏡を見る。

白いブラウス、紺色のスカート——昨夜部屋に用意されていた医学院の制服だ。


髪を結び、きちんと整える。

十二歳の少女が鏡の中で私を見つめている。

前世では二十八歳で死んだ。

今は十二歳。

不思議な感覚だ。


「頑張ろう」


鏡の中の自分に小さく言った。


部屋を出ると、廊下には他の学生たちが歩いていた。

みんな白いブラウスに紺色のスカートかズボンの制服を着ている。

年齢は十代後半から二十代前半まで様々だ。

その中で、私は明らかに一番幼い。


すれ違う学生たちが驚いた顔で私を見る。

好奇の目。


「あれ、子供?」


「医学院に、子供がいるのか?」


ひそひそ声が聞こえてくるが、気にしないようにして、まっすぐ前を向いて歩く。



食堂は広い部屋に長いテーブルが並び、学生たちが朝食を取っている。

賑やかな雰囲気だった。


トレイを持って列に並ぶ。


「おはよう」


配膳係の女性が笑顔で迎えてくれた。


「おはようございます」


「新入生? へえ、若いわね」


女性は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。


「頑張ってね」


「ありがとうございます」


トレイにはパン、スープ、果物が載せられる。

温かい匂いが食欲をそそる。


空いているテーブルに座り、一口スープを飲む。

美味しい。

野菜の旨みがしっかり出ている。


食事をしていると、近くのテーブルから会話が聞こえてきた。


「今日の解剖学、難しいらしいぞ」


「ヴェルナー先生は厳しいからな」


「試験も容赦ないって聞いた」


解剖学——前世でも医学部で学んだ、人体の構造を理解するための基礎中の基礎。

懐かしい。


でも、この世界の解剖学はどこまで進んでいるのだろう。

期待と不安が入り混じる。



朝食を終えて講義室へ向かった。

廊下には多くの学生が歩いている。

みんな教科書や羊皮紙の束を持ち、真剣な表情だ。


講義室に着くと、すでに多くの学生が座っていた。

階段状の座席、前方には大きな黒板。

私は後ろの方の席に座った。


周りの学生たちが私を見る。

好奇の目。

疑いの目。


「本当に子供だ……」


「なんで、こんな子が医学院に?」


「特別枠か何かか?」


ひそひそ声が四方八方から聞こえてくる。

居心地が悪いが、気にしない。

私はここに実力で来た。

実力で認めてもらう。


ノートを開き、ペンを用意した——前世の習慣だ。

授業の前に準備を整える。


「おや、珍しいな」


横から声がかけられた。

振り向くと、眼鏡をかけた二十歳前後の青年が座っていた。


「子供が医学院にいるなんて」


青年は興味深そうに私を見た。


「……特別枠ではありません」


はっきりと言った。


「推薦を受けて、入学しました」


「ほう、推薦? どんな実績があったんだ?」


「疫病の封じ込めです」


簡潔に答える。


「五百人以上の患者を診て、死亡率を大幅に下げました」


「……五百人?」


青年の目が見開かれた。


「本当か?」


「本当です」


真剣な目で答えた。


「それは……すごいな」


青年は感心したように頷いた。


「俺は、ルーカス。三年生だ」


「リーゼ・フォン・ハイムダルです。今日から、こちらで学ばせていただきます」


「ハイムダル……地方貴族の家だな。よろしく、リーゼ」


ルーカスは手を差し出してくれた。


その手を握る。


「よろしくお願いします、ルーカス先輩」



その時、講義室の扉が開いた。

一人の男性が入ってきた——五十代くらいだろうか、白髪混じりの髪に厳しい目つき、威厳のある雰囲気。


学生たちが一斉に静かになった。


「おはよう」


男性が黒板の前に立った。


「私は、ヴェルナー。解剖学を担当している」


ヴェルナー先生——噂に聞いていた厳しい教授だ。


「今日は、新学期最初の授業だ」


ヴェルナー先生は教室を見渡した。

その目が私に止まった。


「……君は?」


教室中の視線が私に集まる。

緊張するが、しっかりと答える。


「リーゼ・フォン・ハイムダルです」


立ち上がって、礼をした。


「今日から、こちらで学ばせていただきます」


「ハイムダル……ああ、ヴィルヘルム院長代理から聞いている」


ヴェルナー先生は頷いた。


「疫病を封じ込めた、若き医師だな」


「はい」


「実績は認める」


ヴェルナー先生は厳しい目で私を見た。


「しかし、ここは王立医学院だ。実績があろうと、基礎知識がなければ通用しない」


「理解しています」


はっきりと答えた。


「だから、ここで学びに来ました」


「良い心構えだ」


ヴェルナー先生は満足そうに頷いた。


「では、授業を始める」



ヴェルナー先生が黒板に図を描き始めた。

人体の骨格図——頭蓋骨、脊椎、肋骨、骨盤、四肢の骨。

詳細で正確だ。


「人体には、二百六個の骨がある」


ヴェルナー先生が説明を始めた。


「これらの骨は、全て名前と機能を持っている。今日は、その基礎を学ぶ」


ノートに書き込みながら聞き、前世の知識と照らし合わせる。

骨の数は正しい。

名称もラテン語系で似ている。

この世界の解剖学は、かなり正確だ。


「大腿骨は、人体で最も長く、最も強い骨だ」


ヴェルナー先生が図を指差した。


「体重を支え、歩行を可能にする。損傷すれば、致命的になることもある」


手を挙げた。


「はい、リーゼ君」


「大腿骨骨折の場合、内出血が大量に起こる可能性があります」


前世の知識を元に言った。


「特に、骨折部位が大腿骨の中央部や近位部の場合、骨髄腔からの出血と、周辺筋肉の損傷による出血で、一リットル以上の血液が失われることもあります」


教室が静まり返った。

みんな驚いた顔で私を見ている。

ヴェルナー先生も少し驚いたようだった。


「……その通りだ」


先生は頷いた。


「よく知っているな」


「実際に、大腿骨骨折の患者を診たことがあります」


答えた。


「農作業中の事故で、骨折した農夫でした。幸い、早期に発見できたので、命は助かりました」


「なるほど……」


ヴェルナー先生は興味深そうに私を見た。


「実践経験があるのか。それは、大きな強みだ」


周りの学生たちが、ざわついた。


「本当に、実力があるのか……」


「子供だと思ってたけど……」


少し、雰囲気が変わった気がする。


そのとき——


「質問があります」


後方から声が響いた。

振り返ると、昨日診療所で出会ったアルベルト・フォン・ケーニッヒが立っていた。


「はい、アルベルト君」


ヴェルナー先生が応じる。


「リーゼ君の言う『一リットル以上の出血』ですが」


アルベルトは冷たい目で私を見つめた。


「それは理論値に過ぎません。実際の臨床では、患者の体格、年齢、合併症の有無によって出血量は大きく変わります」


「その通りだ」


ヴェルナー先生が頷く。


「では、リーゼ君。実際に診た患者はどの程度の出血だったのかね?」


全員の視線が私に集まる。

アルベルトの挑戦的な視線。

他の学生たちの好奇の目。


これは——試されているのだ。


「約八百ミリリットルでした」


冷静に答えた。


「患者は四十二歳の男性、体重約七十キログラム。受傷から治療開始まで三時間。意識レベルの低下と血圧の下降を認めましたが、輸液と安静により安定しました」


教室がしんと静まった。


「診断根拠は?」


アルベルトがさらに追及してくる。


「臨床症状、バイタルサイン、そして——」


少し躊躇したが、言うことにした。


「失血量の計算式を用いました。体重×失血率で概算値を求め、臨床症状と照らし合わせて判断しました」


「失血量の計算式?」


ヴェルナー先生が興味深そうに身を乗り出した。


「どのような式だ?」


これは——前世の医学知識だ。

この世界にはまだない概念かもしれない。


でも、患者を救うためなら。


「体重七十キログラムの成人男性の場合、循環血液量は約五リットル。失血による症状は、循環血液量の十五パーセント以上で顕著になります」


黒板に立って、計算式を書き始めた。


「循環血液量=体重×七十ミリリットル毎キログラム。ショック症状=循環血液量×十五パーセント以上の失血」


教室がざわめいた。

学生たちが興味深そうに身を乗り出している。


「興味深い」


ヴェルナー先生が唸った。


「その計算式は、どこで学んだのかね?」


「師匠から教わりました」


嘘ではない。

前世の師匠たちから教わったのだから。


アルベルトの表情が変わった。

驚きと、少しの悔しさが混じっている。


「なるほど……」


ヴェルナー先生は感心したように頷いた。


「実に論理的で実用的だ。これは他の学生にも参考になる」


私は席に戻ったが、教室の雰囲気は完全に変わっていた。

もう、私を単なる「子供」として見る目はない。

医師として、対等に見る目に変わっていた。



授業は二時間続いた。

骨格の基礎、筋肉の構造、関節の仕組み——ヴェルナー先生の説明は明快で詳細だった。


ノートにびっしりと書き込み、前世の知識とこの世界の知識を比較しながら学んだ。

多くは共通していたが、いくつか違いもある。


例えば、魔法医療の影響。

この世界では治癒魔法が存在するため、骨折の治療法が少し違う。

魔法で骨を接合することができるらしいが、完全に魔法に頼るわけではない。

基本的な固定と安静は必要だ。

興味深い。


「では、今日の授業はここまでだ」


ヴェルナー先生が黒板を消した。


「次回は、筋肉系の詳細を学ぶ。予習しておくように」


学生たちが立ち上がり始める。

ノートを閉じた。


「リーゼ君」


ヴェルナー先生が私を呼んだ。


「はい」


教壇に近づく。


「素晴らしい発表だった」


先生は真剣な目で言った。


「あの計算式は、ぜひ他の教授陣にも紹介したい。許可をもらえるかね?」


「はい、もちろんです」


深く頭を下げた。


「ただし——」


先生の表情が引き締まった。


「実践経験があることは素晴らしい。しかし、それに甘えるな。基礎をしっかりと学び、理論と実践を融合させることが重要だ」


「はい。肝に銘じます」


「期待しているぞ」


ヴェルナー先生は優しく微笑んだ。

厳しいと聞いていたが、実は温かい人なのかもしれない。



講義室を出ると、ルーカス先輩が待っていた。


「すごかったな、リーゼ」


「え?」


「あの発表。ヴェルナー先生があそこまで感心するなんて、滅多にないぞ」


ルーカスは感心したように言った。


「そうなんですか?」


「ああ。それに、アルベルトを黙らせるなんて……」


ルーカスは少し楽しそうだった。


「あいつ、いつも偉そうにしてるからな。いい薬になったかもしれない」


廊下を歩いていると、他の学生たちも話しかけてきた。


「さっきの計算式、すごかったね」


女性の学生が笑顔で言った。


「私、エリーゼ。二年生よ」


「リーゼです。よろしくお願いします」


「こんなに若いのに、もう実践経験があるなんて。どこで医療を学んだの?」


エリーゼは興味深そうに私を見た。


「地方の診療所で、薬師に師事しました。そして、疫病の時に多くの患者を診ました」


「へえ……それは貴重な経験ね」


エリーゼは感心したように頷いた。


「私たちはまだ実習の段階。本物の患者を診るのは、これからよ」


「でも、ここの診療所で実習できますよね?」


「ええ。でも、最初は見学だけ」


「実際に診察するのは、かなり勉強してからよ」


なるほど。

段階的な教育システムなのだ。



昼食の時間になった。


食堂に行くと、またルーカス先輩とエリーゼに会った。


「一緒に食べよう」


二人が誘ってくれた。


「ありがとうございます」


私たちはテーブルに座った。

昼食は魚のグリル、野菜のサラダ、パン。

美味しそうだ。


「いただきます」


一口食べる。

美味しい。

魚は新鮮で、野菜もシャキシャキしている。


「リーゼは、どこから来たの?」


エリーゼが聞いてきた。


「ハイムダル領です」


「ああ、北部の領地ね」


「ええ。小さな領地ですが、自然豊かで良いところです」


「家族は?」


「父は領主、母は貴族の娘、兄は騎士見習いです」


「騎士見習い?」


ルーカスが興味を示した。


「ああ、兄は王都の近衛騎士団に入団しました」


「へえ、近衛騎士団か」


ルーカスは感心したように言った。


「あそこは、王国最強の騎士団だぞ」


「はい。兄は、そこで頑張っています」


「兄妹揃って、優秀なんだな」


エリーゼが笑顔で言った。


少し照れくさいが、嬉しい。

ここで友達ができた。

同じ志を持った仲間たちと一緒に学べる——これが王都に来た理由の一つだ。



午後は実習室での授業だった。

広い部屋に白い台が並び、その上には動物の遺体——豚のようだ。


「今日は、基本的な解剖実習を行う」


担当の教師が説明した。


「二人一組になって、豚の解剖を行いなさい」


学生たちがペアを作り始める。


私は、どうしようかと迷っていた。


「リーゼ、一緒にやろう」


エリーゼが声をかけてくれた。


「いいんですか?」


「もちろん。一緒に学びましょう」


私たちは一つの台の前に立った。

豚の遺体が横たわっている。

前世でも同じような実習をした——医学部一年生の時。

最初は少し抵抗があったが、すぐに慣れた。

これは学びのため、患者を救うための必要な過程。


「では、始めなさい」


教師の指示で、実習が始まった。


私はメスを手に取った。

冷たい金属の感触。

慎重に皮膚を切開していく——正確な線、無駄のない動き。

前世の経験が体に染み付いている。


「すごい……」


エリーゼが小さく呟いた。


「リーゼ、手つきが完璧よ」


「ありがとうございます」


私はさらに切開を進める。

皮膚、脂肪層、筋肉層。

一つ一つを、丁寧に観察しながら。


「ここが、腹直筋です」


私はエリーゼに説明した。


「この筋肉は、体幹を支える重要な筋肉です」


「人体でも、同じ構造を持っています」


「なるほど……」


エリーゼは真剣にノートに書き込んでいる。


私たちは協力して解剖を進め、内臓を露出させる。

心臓、肺、肝臓、胃、腸——全てが整然と配置されている。

生命の神秘だ。


「素晴らしい」


教師が私たちの台に近づいてきた。


「非常に丁寧な解剖だ」


「ありがとうございます」


「リーゼ君、君は以前にも解剖実習を?」


「いえ、人体や豚の解剖実習は初めてです」


正直に答えた。


「ただ、小動物の解剖は経験があります」


「薬草の効果を調べるために、病気のネズミなどを解剖しました」


「なるほど……それでも、この技術は見事だ」


教師は満足そうに頷いた。


実習が終わる頃には、私たちの台は最も綺麗に解剖されていた。



夕方、部屋に戻った。

疲れていたが、充実した疲れだ。

今日はたくさんのことを学んだ——解剖学の講義、実習、そして新しい友人たち。


ベッドに座り、今日のノートを見返す。

びっしりと書き込まれた文字、図表、注釈、自分の考察。

全てが貴重な学びだ。


窓を開けると、夕暮れの空が広がっていた。

オレンジ色の空に、星が一つ二つと現れ始めている。


「今日も、一日頑張った」


小さく呟く。

故郷ではマルタさんが薬草の手入れをしているだろうか。

父と母は夕食の準備をしているだろうか。

エーリヒは騎士団の訓練を終えただろうか。

みんな元気だろうか。


「見守っていてください。私、頑張りますから」


星に向かって小さく呟いた。

星が優しく瞬いている——まるで答えてくれているかのように。



夕食の時間。


食堂に行くと、ルーカス先輩とエリーゼが手を振ってくれた。


「リーゼ、こっち!」


私は二人のテーブルに座った。


「今日は、どうだった?」


ルーカスが聞いてきた。


「充実していました」


正直に答えた。


「解剖学の講義も、実習も、とても勉強になりました」


「そうか。良かったな」


ルーカスは満足そうに頷いた。


「明日は、薬理学の授業があるぞ」


「薬理学……」


興味を持った。


「薬草や薬物の効果を学ぶ授業ですか?」


「ああ。フリーデリケ先生が担当している」


「彼女は、王国一の薬理学者だ」


「楽しみです」


期待に胸を膨らませた。

薬理学は、マルタから学んだ分野だ。

でも、王都ではもっと深い知識があるはずだ。

学びたい。

もっと、もっと学びたい。


「リーゼは、本当に勉強熱心ね」


エリーゼが笑顔で言った。


「見習わなきゃ」


「いえ、私もまだまだです」


謙遜した。


「ここには、私より優秀な人がたくさんいます」


「その人たちから、たくさん学びたいです」


「その謙虚さが、お前の強みだな」


ルーカスが私の頭を軽く叩いた。


「これから、よろしく頼むぞ、リーゼ」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」



夕食を終えて部屋に戻り、机に向かって明日の予習を始める。

薬理学の教科書——分厚い本だ。


ページをめくる。

薬草の分類、効能、調合法、副作用。

マルタから学んだこともたくさん書かれているが、知らないことも多い。

新しい発見がある。


例えば、魔力を使った薬効の増幅法——この世界独自の技術だ。

興味深い。


いくつかノートに書き込む。

気づけば二時間が過ぎていた。

時計を見ると、もう夜九時。


「そろそろ休もう」


ベッドに入り、目を閉じる。

今日一日が走馬灯のように蘇る——最初の授業、ヴェルナー先生、ルーカス先輩、エリーゼ、解剖実習。

全てが新鮮で刺激的だった。


そして明日も新しい一日が始まる。

新しい学び、新しい出会い。

期待に胸が高鳴る。


「おやすみなさい」


小さく呟いて、眠りについた。

王都での二日目の夜、医学院での最初の一日が終わった。


これからどんな日々が待っているのだろう。

どんなことを学ぶのだろう。

誰と出会うのだろう。

全てが楽しみだ。


少女医師の新しい挑戦はまだ始まったばかり。

でも確かな一歩を踏み出した。

その一歩がやがて大きな道となり、多くの人を救う力となる——それはまだ誰も知らない。

未来はこれから作られる。



昼食後、図書室で予習をしていると、アルベルトが近づいてきた。


「リーゼ・フォン・ハイムダル」


振り返ると、アルベルトが真剣な顔で立っていた。


「先ほどは……見事だった」


意外な言葉だった。


「あの計算式は、確かに実用的だ。私の負けを認めよう」


アルベルトは少し苦笑いを浮かべた。


「ただし——」


彼の目に、再び闘志が宿る。


「これで終わりだと思うな。私は四年間、この学院で学んできた。次は負けない」


「……こちらこそ、よろしくお願いします」


立ち上がって頭を下げた。


アルベルトは少し驚いたような顔をしたが、すぐに頷いて去っていった。


ライバル——そう呼べる相手ができたのかもしれない。

切磋琢磨できる相手がいることは、悪いことではない。

むしろ、成長の糧になるだろう。


窓の外では、夕日が医学院の庭を照らしている。

最初の一日が終わろうとしている。

明日からも、新しい学びが待っている。

私は、この場所で必ず成長してみせる。

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