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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第33話 旅立ちの日

  王都へ行くことを決めてから、一週間が過ぎた。


 出発の日が、刻一刻と近づいている。


 その日の午後、エーリヒが訓練から戻ってきた。汗をかき、少し息を切らせている。


「リーゼ、話がある」


 兄は、いつになく真剣な顔をしていた。


「何ですか、お兄様?」


 私は、手にしていた医療記録を置いた。


「俺も、王都に行く」


 その言葉に私は驚いた。


「え……?」


「お前を一人で王都に行かせるわけにはいかない」とエーリヒは力強い声で続けた。「十二歳の少女が一人で王都で暮らすなんて心配だ。俺は兄として、お前を守る。それが、俺の役目だ」


 兄の言葉に、私は胸が熱くなった。


「でも、お兄様は騎士団の訓練が……」


「王都にも騎士団はある」


 エーリヒはすでに決めているようだった。


「実は父上にも相談した。王都の近衛騎士団で修行を積むのも悪くないとのことだ。むしろ、いい機会だと」


 そう言って、兄は私の肩に手を置いた。


「リーゼ、お前は妹だが、同時に尊敬する医師でもある。お前が多くの人を救うために王都に行くなら、俺はその道を守る騎士になる」


 兄の目は真剣だった。


「お兄様……」私は涙が溢れそうになった。「ありがとうございます」


「礼を言うな」とエーリヒは照れくさそうに私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。「兄妹なんだから、当たり前だろう」





 その夜、家族で夕食を囲んだ。


 テーブルには、母の作った料理が並んでいる。温かい匂いが、部屋を満たしている。


「リーゼ、エーリヒ」


 父が、グラスを持ち上げた。


「お前たちの新しい門出に、乾杯」


 私たちも、グラスを持ち上げる。


「乾杯」


 グラスが触れ合う音。


 それは、別れの音でもあり、新しい始まりの音でもあった。


「母上は、寂しくなるわ」


 母が、少し涙ぐんでいた。


「二人とも王都に行ってしまうなんて」


「でも……」


 母は、笑顔を作った。


「あなたたちの成長を見られるのは、親として嬉しいことよ。王都でたくさんのことを学んで、たくさんの経験をして、そして立派に成長してちょうだい」


 母の言葉に、私とエーリヒは深く頷いた。


「はい」


 父も優しく微笑んだ。


「時々は手紙を書くように。様子を知らせてくれ」


「もちろんです」と私は答えた。「必ず、定期的に手紙を書きます」


 その夜の食事は、いつもより長かった。


 家族四人で、たくさん話した。


 昔の思い出。これからのこと。笑い話。真面目な話。


 全てが、大切な時間だった。





 次の日、私はマルタのところへ行った。


 診療所の奥の小部屋。いつもの場所で、二人だけで向き合う。


 夏の陽光が窓から差し込み、薬草の香りが部屋に満ちている。


「マルタさん……実は、王都から正式な招待状が届きまして」


 私は、手紙を見せながら全てを話した。


 ヴィルヘルムの提案。父の言葉。エーリヒの決意。そして、私自身の決断。


 マルタは、静かに聞いていた。


 そして、優しく微笑んだ。


「やっと、決心がついたのですね」


「……はい」


「リーゼ様、あなたがここ一ヶ月、ずっと悩んでいたことは知っていました」


 マルタは、私の手を握った。


 温かい手。三十年以上の経験が刻まれた、薬草師の手。


「行きなさい」


 マルタの声は、穏やかだった。


「王都で、もっと多くのことを学んできてください」


「でも、マルタさん一人では……」


「大丈夫です」


 マルタは懐から手紙を取り出した。


「実は隣町のハインリヒ先生が協力してくれることになったんです。週に一度、こちらに来て診療を手伝ってくれるそうです」


 その手紙を見て、私は安堵した。ハインリヒ先生——あの厳しくも誠実な医師が。


「それなら……安心です」


「ええ。だから心配せずに王都へ行ってください」


 マルタの目にも、涙が光っていた。


「リーゼ様」


「はい」


「あなたは、私にとって単なる弟子ではありません」


 マルタの声が、少し震えている。


「娘のような……いえ、かけがえのない友人です」


 その言葉に、胸が熱くなった。


「この一年半、あなたと過ごした時間は」


「私の長い人生の中で、最も輝いた時間でした」


「マルタさん……」


「だからこそ、あなには羽ばたいてほしい」


 マルタは、立ち上がった。


「この小さな診療所ではなく、もっと大きな世界で」


「あなたの知識と技術は、もっと多くの人を救えるはずです」


「それを、ここだけに留めておくのは、もったいない」


 マルタは、棚から古い巻物を取り出した。


「これを、持っていってください」


 黄ばんだ羊皮紙。古い薬草の知識が、丁寧な文字で記されている。


「これは……」


「私の師匠から受け継いだものです」


 マルタは、大切そうに巻物を撫でた。


「三世代にわたって受け継がれてきた、薬草の知識」


「そして今、あなたに託します」


「四世代目の継承者として」


 私は、巻物を受け取った。


 重い。知識の重み。信頼の重み。歴史の重み。


「必ず……必ず、大切にします」


 私の声も、震えていた。


「そして、いつか……いつか戻ってきた時、もっと多くの知識を加えて、次の世代に受け継ぎます」


「ええ。それを楽しみにしています」


 マルタは私を抱きしめてくれた。温かい抱擁——母のような、師匠のような、友人のような。


 私たちはしばらくそうしていた。二人とも泣いていた。別れの涙ではなく、新しい出発への涙だった。





 数日後、村で送別会が開かれた。


 診療所の前の広場に、多くの村人たちが集まっていた。


 夕暮れの光が、皆を優しく照らしている。


 テーブルには、村人たちが持ち寄った料理が並んでいる。パン、チーズ、果物、肉料理。


「リーゼ様!」


 老人が、杖をつきながら近づいてきた。


「あの時足の怪我を治していただいて……今ではこうして歩けるようになりました」


 老人は涙を流していた。


「本当に、ありがとうございました」


「いいえ。元気になって、本当に良かったです」と私は老人の手を握った。


「リーゼ様、寂しくなります」と若い母親が子供を抱いて言った。「この子もリーゼ様に助けていただきました。高熱で苦しんでいた時……」


 母親の目も潤んでいる。


「でも王都で頑張ってください。もっと多くの人を、助けてあげてください」


「はい……必ず」


 一人、また一人と、村人たちが挨拶に来てくれた。


 みんな、感謝の言葉を述べてくれる。


 私が治療した人たち。その家族たち。


 一年半で、こんなにも多くの人と繋がっていたのだと、改めて実感した。


「皆さん!」


 私は、村人たちの前に立った。


 夕日が、私の背中を照らしている。


「本当に、ありがとうございました」


 私は、深く頭を下げた。


「この一年半、皆さんに支えられて、医師として成長することができました。一人一人との出会いが、私を強くしてくれました」


 顔を上げる。村人たちの顔が見える。みんな優しい目で私を見ている。


「私は王都に行きます」と私ははっきりと言った。「もっと学び、もっと成長するために。そしていつか必ず戻ってきます。その時はもっと立派な医師になって、皆さんだけでなく、この国の全ての人を救えるような医療を実現します」


 その言葉に、村人たちは拍手と歓声で応えてくれた。


 温かい拍手——それは別れを惜しむ拍手であり、新しい門出を祝う拍手でもあった。


 夕日がゆっくりと沈んでいく。オレンジ色の光が村全体を包んでいる。美しい。


 この景色を、この村の人々を、絶対に忘れない。そしていつか必ず戻ってくる。その時は、もっと多くの人を救える医師になって。





 出発の朝。


 空は晴れ渡り、清々しい風が吹いていた。


 屋敷の前に、立派な馬車が用意されていた。


 ヴィルヘルムが手配してくれたものだ。黒塗りの美しい馬車で、四頭の馬が準備万端で待っている。


 荷物はすでに積まれていた——私の医療記録、一年半分の貴重な記録。マルタから受け継いだ巻物。衣類や私物。そしてエーリヒの武具。


「準備はできたか?」


 父が、屋敷の玄関から出てきた。


「はい」


 私とエーリヒは、並んで答えた。


 母も、一緒に出てきた。目が少し赤い。泣いていたのだろう。


「リーゼ、エーリヒ」


 母が、私たちの前に立った。


「体を大切にしてね」


「ちゃんと食べて、ちゃんと寝て」


「無理をしすぎないように」


「はい、お母様」


 私は、母を抱きしめた。


 母の温もり。いつも私を包んでくれた、優しい温もり。


「お母様……ありがとうございました」


「いいのよ。母親なんだから」


 母も、私をぎゅっと抱きしめ返してくれた。


 エーリヒも、母を抱きしめた。


「母上、必ず立派になって帰ってきます」


「ええ、信じているわ」


 父も、私たちの前に立った。


「リーゼ、エーリヒ」


 父の声は、いつもより厳かだった。


「お前たちは、ハイムダル家の誇りだ」


「王都でも、その誇りを忘れるな」


「はい!」


 私たちは、声を揃えて答えた。


 父は、私の肩に手を置いた。


「リーゼ、お前の才能を信じている」


「多くの人を救い、多くの人に希望を与えてくれ」


「はい……必ず」


 次にエーリヒの肩に手を置いた。


「エーリヒ、妹を頼む。しかしお前自身の成長も忘れるな。王都で、立派な騎士になれ」


「任せてください、父上」


 父は少し目を潤ませていたが、すぐに表情を引き締めた。


「では、行け」


「はい」


 私たちは馬車に乗り込んだ。窓から父と母を見る。二人は手を振ってくれている。


「お父様、お母様! 行ってきます!」


 私は大きく手を振った。


「いってらっしゃい!」「気をつけて!」


 母と父の声が聞こえた。


 馬車が動き出した。ゆっくりと屋敷から離れていく。父と母の姿が小さくなっていく。でも二人は最後まで手を振り続けてくれた。私も見えなくなるまで手を振り続けた。





 馬車は村を通り過ぎていく。診療所の前を通った。マルタがそこに立っていた。


 馬車を止めてもらう。


「マルタさん!」


 窓から顔を出して叫ぶ。


「リーゼ様! お元気で!」


 マルタも手を振ってくれている。


「必ず、戻ってきます!」


「待っていますよ!」


 マルタの笑顔——最後まで、優しい笑顔だった。


 馬車はまた動き出した。村を出る。見慣れた風景が後ろへ流れていく。畑、森、小川。全てが私の大切な思い出の場所。


「……さよなら」


 小さく呟いた。でもこれは本当の別れじゃない。また戻ってくる。必ず。


 馬車の中で、エーリヒが言った。


「リーゼ、泣くな」


「……泣いてません」


「嘘だ。目が赤いぞ」


 エーリヒは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「でも、まあ……俺も少し寂しいけどな」


「お兄様も……?」


「ああ。生まれ育った場所を離れるんだ。寂しくないわけがない」


 エーリヒも窓の外を見ていた。


「でもこれは新しい始まりだ。お前も俺も、もっと成長するための第一歩」


「……はい」


 私は涙を拭いた。そして前を向いた。


 馬車は王都へ向かう街道を進んでいる。空は青く、雲は白く、風は爽やかだった。


 新しい人生が始まろうとしている。十二歳の少女医師の、新しい冒険が。


 不安もある。でもそれ以上に期待がある。王都で何を学べるのか。どんな人と出会えるのか。どんな医師になれるのか。全てが未知の世界。


 でも怖くはない。なぜなら私には家族がいる。支えてくれる人たちがいる。


 そして、前世の経験と知識がある。


「今度こそ、正しい道を歩む」


 心の中で誓った。


「仕事と人生のバランスを取りながら」


「誰も犠牲にせず」


「多くの人を救う医師になる」


 それが、私の目標。


 リーゼ・フォン・ハイムダルの、新しい人生の目標。


 馬車は、街道を進み続ける。


 王都まで、三日の旅。


 長い道のりの、始まり。


 でも、その先には……。


 きっと、素晴らしい未来が待っている。


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― 新着の感想 ―
ナーロッパの特徴ですが、単位が現在日本と同一なのですね。
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