第08話 新しい誓い
王都に戻った。
リーゼが、駅で待っていてくれた。
◇
「おかえり、エリーゼ」
「ただいま、リーゼ」
私は、笑顔で答えた。
「故郷は、どうだった?」
「うん。良かった」
「家族に、全部話せたの」
「そう。よかったね」
リーゼも、嬉しそうに微笑んだ。
「弟さんは、元気だった?」
「うん。元気だったわ」
「それが、一番嬉しかった」
◇
寮に戻りながら、私は帰省のことを話した。
家族に「呪い」ではなく「病気」だと伝えたこと。
母が泣いて喜んでくれたこと。
父が「ありがとう」と言ってくれたこと。
弟が「待っている」と言ってくれたこと。
「みんな、喜んでくれたのね」
「うん。本当に、リーゼのおかげ」
私は、立ち止まった。
「リーゼがいなければ——私は、まだ『呪い』だと思い込んでいた」
「絶望したまま、何もできなかった」
「でも今は——希望がある」
「エリーゼ……」
「ありがとう、リーゼ」
私は、深く頭を下げた。
「本当に、ありがとう」
◇
「エリーゼ、顔を上げて」
リーゼが、私の肩に手を置いた。
「私は、何もしていないわ」
「知識を伝えただけ」
「行動したのは、エリーゼ自身よ」
「でも……」
「エリーゼが、勇気を出して話してくれたから」
「私も、協力できた」
「だから——お礼を言うのは、私の方」
リーゼは、まっすぐ私を見た。
「エリーゼが、私を信じてくれてありがとう」
◇
私は、また涙が出そうになった。
「リーゼ……」
「泣かないで」
リーゼが、私の手を握った。
「これからが、本番よ」
「遺伝の研究——一緒に頑張りましょう」
「……うん」
私は、涙を拭いた。
「頑張る」
「弟のために——そして、同じ病に苦しむ全ての人のために」
◇
新学期が始まった。
私は、以前にも増して勉強に励んだ。
リーゼと一緒に、遺伝についての研究を始めた。
「血液凝固の仕組みは——」
「この物質が欠けると——」
「対処法として、この薬草が——」
毎日が、発見の連続だった。
分からないことがあれば、リーゼに聞く。
リーゼも、私の経験から学んでくれる。
お互いに高め合う——最高のパートナーだった。
◇
ある日、研究をしていると——
リーゼが言った。
「エリーゼ、これを見て」
「何?」
「血液凝固を促進する新しい調合法」
「まだ試験段階だけど——効果がありそうなの」
私は、リーゼの資料を覗き込んだ。
詳細な図解と、緻密な計算。
「すごい……これなら——」
「弟にも、効果があるかもしれない」
「ええ。完成したら、試してみる価値はあるわ」
希望が、また一つ増えた。
◇
「リーゼ」
私は、真剣な目で言った。
「私、決めたの」
「何を?」
「卒業したら——この研究を続ける」
「遺伝の病を治す方法を、本格的に探す」
「生涯をかけて」
リーゼは、目を輝かせた。
「素晴らしい目標ね」
「私も、協力するわ」
「遺伝の研究は、医学の未来にとって重要だから」
「ありがとう、リーゼ」
私は、手を差し出した。
「一緒に——医学を変えよう」
「うん」
リーゼは、私の手を握った。
「約束よ」
◇
父との約束——二年以内に成果を出す。
その期限は、もう過ぎていた。
しかし、父から何も言われなかった。
代わりに、手紙が届いた。
『エリーゼへ
お前の成績表を見た。
常に上位、実習も優秀——立派なものだ。
約束の二年は過ぎたが——
続けなさい。
お前は、医師になれる。
私は、そう確信している。
父より』
◇
手紙を読んで——
私は、泣いた。
嬉しくて、嬉しくて——
「お父様……」
認めてくれた。
私の選んだ道を。
女性が医師になることを。
◇
「エリーゼ、どうしたの?」
リーゼが、心配そうに覗き込んできた。
「また泣いてる」
「嬉しい涙よ」
私は、手紙をリーゼに見せた。
「父が——認めてくれたの」
「……良かったね」
リーゼも、嬉しそうに微笑んだ。
「エリーゼの努力が、実を結んだのね」
「リーゼのおかげよ」
「また、それ?」
「本当のことだもの」
◇
私は、窓の外を見た。
夕日が、王都を照らしている。
「私、思うの」
「何を?」
「『呪い』は、終わらない」
「でも——『病気』は、治せる」
「いつか、必ず」
リーゼは、頷いた。
「そうね。医学は、進歩するから」
「私たちが研究を続ければ——」
「いつか、治療法が見つかるわ」
「うん」
私は、強く頷いた。
「その日まで——私は、諦めない」
◇
振り返れば、長い道のりだった。
八歳の時、弟の病気を知った。
十四歳の時、医学院を目指すことを決めた。
十五歳の時、孤独な闘いが始まった。
十六歳の時、リーゼに出会った。
そして今——
私は、希望を持っている。
◇
「リーゼ」
私は、親友の名前を呼んだ。
「何?」
「ありがとう」
「またそれ? 何度目よ」
「何度でも言うわ」
私は、笑顔で言った。
「あなたに出会えて——本当に良かった」
リーゼは、少し照れたような顔をした。
「私も……」
「エリーゼに出会えて、嬉しいわ」
「本当の友達って——こういうものなのね」
「うん」
私たちは、微笑み合った。
◇
「呪い」は、終わらない。
でも——
「病気」は、治せる。
いつか、必ず。
その日まで、私は学び続ける。
研究を続ける。
諦めない。
リーゼがいる限り——
希望の種は、枯れない。
◇
これが、私の新しい誓いだ。
弟を救う。
同じ病に苦しむ全ての人を救う。
女性医師として——
遺伝の研究者として——
私は、歩み続ける。
◇
遺伝の重荷——
それは、確かに重い。
でも、一人で背負う必要はない。
リーゼがいる。
家族がいる。
支えてくれる人たちがいる。
だから——
私は、前を向いて歩ける。
◇
夕日が沈み、星が輝き始めた。
新しい夜が来る。
そして——新しい朝が来る。
その繰り返しの中で——
私は、少しずつ前に進む。
弟を救う日を夢見て。
「呪い」を終わらせる日を信じて。
◇
リーゼと出会えたこと——
それが、私の人生を変えた。
絶望を、希望に。
「呪い」を、「病気」に。
孤独を、友情に。
全てが、変わった。
◇
だから——
私は、これからも歩み続ける。
リーゼと一緒に。
新しい医学の道を。
希望の道を。




