第5話 希望の光
リーゼと出会ってから、一ヶ月が過ぎた。
私たちは、すっかり親友になっていた。
◇
「エリーゼ、この症状が出たときは——」
「うん、分かった。メモするね」
毎日が、学びの連続だった。
リーゼの知識は、底なしに深い。
私が知らないことを、次々と教えてくれる。
「病気には、必ず原因がある」
リーゼがよく言う言葉だ。
「原因を突き止めれば、治療法も見えてくる」
その言葉が、いつも心に響いた。
◇
ある日、薬理学の授業で——
リーゼが驚くべきことを言った。
「この薬草は、血液の凝固を促進する効果があります」
私は、はっとした。
血液の凝固——
それは、弟の病気に関係する言葉だ。
「リーゼ、もう少し詳しく教えて」
「え? うん、いいよ」
リーゼは、丁寧に説明してくれた。
「血液が固まる仕組みは、とても複雑なの」
「いくつもの物質が関わっていて——」
「どれか一つが欠けると、血が止まりにくくなる」
私は、必死にメモを取った。
(これだ……)
(弟の病気に関係している)
◇
授業が終わった後、私はリーゼに聞いた。
「リーゼ、血が止まりにくい病気って、知ってる?」
「血が止まりにくい……」
リーゼは、少し考え込んだ。
「いくつか種類があるけど……」
「例えば、血友病とか」
「血友病……」
私は、その言葉を噛みしめた。
「それは、どんな病気なの?」
「血液を固める成分が、生まれつき少ない病気よ」
リーゼの目が、真剣になった。
「遺伝する病気で——」
「男性にだけ発症することが多いの」
◇
私は、動けなくなった。
(遺伝する病気……)
(男性にだけ発症する……)
それは、まさに——
弟の病気と同じだ。
「エリーゼ? どうしたの?」
リーゼが、心配そうに覗き込んできた。
「顔色が悪いよ」
「……ごめん。ちょっと、疲れたみたい」
私は、無理に笑顔を作った。
「今日は、先に休むね」
「うん。無理しないで」
◇
部屋に戻り、ベッドに座り込んだ。
「遺伝する病気……」
リーゼの言葉が、頭の中で繰り返される。
弟の病気——
それは「呪い」だと、ずっと思っていた。
でも、リーゼは「病気」だと言った。
(病気なら……)
(治療法があるかもしれない……)
希望の光が、見えた気がした。
◇
翌日から、私はリーゼにさりげなく質問を重ねた。
「遺伝って、どういう仕組みなの?」
「どうやって、親から子に伝わるの?」
「治療法はあるの?」
リーゼは、一つ一つ丁寧に答えてくれた。
「遺伝は、親から子に『設計図』が伝わること」
「その設計図に、病気の原因が含まれていることがある」
「治療法は——まだ完全なものはないけど——」
「対処法で、寿命を延ばすことは可能よ」
◇
私は、どんどん希望を感じていった。
「呪い」ではなく「病気」。
「病気」なら、医学で対処できる。
いつか、治療法が見つかるかもしれない。
(リーゼに、全部話そうか……)
何度も、そう思った。
でも、勇気が出なかった。
弟のこと、家系の「呪い」のこと——
それを話すのは、重すぎる気がして。
◇
ある日、リーゼが言った。
「エリーゼ、最近すごく熱心だね」
「え?」
「遺伝とか、血液疾患とか——」
「何か、理由があるの?」
私は、言葉に詰まった。
リーゼの目は、まっすぐ私を見ている。
見透かされているような気がした。
「……いつか、話すね」
私は、そう答えるのが精一杯だった。
「今は、まだ——」
「うん。いつでもいいよ」
リーゼは、優しく微笑んだ。
「私は、エリーゼの味方だから」
「話したくなったら、いつでも聞くね」
その言葉が、温かかった。
◇
三ヶ月が過ぎた。
私とリーゼの友情は、どんどん深まっていった。
一緒に授業を受け、一緒に実習をし、一緒に研究する。
リーゼは、私にとって——
かけがえのない存在になっていた。
「リーゼなら、分かってくれる」
そう確信するようになった。
「いつか、全部話そう」
「弟のこと、家系の病気のこと——」
「リーゼなら、きっと力になってくれる」
◇
その日は、もうすぐ来る気がした。
私が勇気を出して、全てを打ち明ける日が。
そして、リーゼの知識が——
弟を救う鍵になるかもしれない。
「希望がある」
初めて、心からそう思えた。
八年間、「呪い」だと諦めかけていた。
でも今は——
「病気」として向き合う覚悟ができていた。
◇
リーゼとの出会いは——
私に希望の光をくれた。
暗闘の中で見つけた、一筋の光。
それを手繰り寄せれば——
きっと、道は開ける。
弟を救う道が。




