表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
外伝 イグナーツ・ゼンメルワイス編 先駆者の悲劇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/217

第15話 継承者

百六十年後——


王都医学院、図書館の特別閲覧室。


   ◇


一人の少女が、古い本を手に取った。


リーゼ・フォン・ハイムダル——十二歳の医学院生。


彼女には、前世の記憶があった。


日本で救急救命医として働き、二十八歳で過労死した女性の魂が——この少女に宿っていた。


   ◇


「『微生物学概論』……」


リーゼは、ページをめくった。


古い言葉で書かれているが、内容は理解できた。


『顕微鏡の製作方法』


『微生物の観察・分類法』


『感染症の原因と予防法』


「これ……前世の知識と、同じことが書いてある……」


リーゼは、驚愕した。


「160年前に、こんな本があったの……?」


   ◇


この本は、長い間図書館の奥深くに眠っていた。


古代語で書かれていたため、誰も読めないまま放置されていた。


「異端の医師の遺品」——そう呼ばれながらも、捨てられることはなかった。


それを——リーゼが見つけた。


   ◇


リーゼは、後書きを読んだ。


『私は、イグナーツ・ゼンメルワイスという医師です——』


「ゼンメルワイス……」


リーゼは、その名前に引っかかった。


どこかで聞いたことがある。前世で——


「まさか……」


   ◇


リーゼは、本の奥付を見た。


そこに、見慣れない文字が記されていた。


この世界の文字ではない。


しかし、リーゼには——読めた。


『もし、これを読んでいる者がいるなら、あなたも私と同じ運命を辿った者だろう。


私はこの世界で理解されない。手を洗えと説いても、誰も聞き入れない。


いつか、私の知識は失われるかもしれない。


だが、もし同じ世界から来た者がこれを見つけたなら——


どうか、私の遺した知識を受け継ぎ、この世界の人々を救ってほしい。


真実は、いつか必ず認められる。


同じ故郷を持つ友へ。


イグナーツ・ゼンメルワイス』


   ◇


「……!」


リーゼは、息を呑んだ。


この文字は——前世の文字だ。


この世界の誰にも読めない文字。でも、リーゼには読めた。


前世の記憶があるから。


「この人……本当に、私と同じ……」


転生者だ。


前世の記憶を持ち、前世の文字を知っている。


著者名として前世の名前を使い——さらに、この世界の誰にも読めない文字でも残した。


同じ「記憶」を持つ者だけが気づけるように。


   ◇


涙が、ページに落ちた。


百六十年前。


彼は、未来の転生者へ向けて、この言葉を遺した。


孤独の中で、希望を信じて。


「ゼンメルワイスさん……」


リーゼは静かに呟いた。


「あなたは一人じゃなかった」


「今、私がここにいます」


「あなたの遺志を、必ず継ぎます」


   ◇


リーゼは、本を大切に胸に抱いた。


そして、窓の外を見た。


「160年前の先駆者さん……」


「あなたの知識を、この世界に広めます」


「あなたが救えなかった命を——私が救ってみせます」


「あなたがいてくれたから」


   ◇


遥か遠く——山奥の小さな村で。


古い墓石が、静かに佇んでいた。


「ルートヴィヒ・ベルク 医師 ここに眠る」


風化した文字は、もう読めないほど薄れている。


でも——その魂は、生き続けていた。


百六十年の時を超えて——


継承者に、受け継がれて。


   ◇


イグナーツ・ゼンメルワイス。


ルートヴィヒ・ベルク。


二つの名前、二つの人生。


彼の長い戦いは——ようやく、報われようとしていた。


   ◇


リーゼ・フォン・ハイムダル。


彼女こそが——真の継承者。


先駆者の知識を受け継ぎ、世界を変える者。


   ◇


「先駆者の悲劇」は——


「継承者の勝利」へと、繋がっていく。


   ◇


物語は、まだ終わらない。


リーゼの戦いは、これからだ。


でも——彼女は、一人じゃない。


百六十年前の先駆者が、共にいる。


その知識が、その想いが、その魂が——


リーゼと共に、歩み続ける。


   ◇


ルートヴィヒ・ベルク——


あなたの人生は、無駄じゃなかった。


あなたの知識は、消えなかった。


あなたの願いは、叶えられる。


   ◇


ありがとう。


そして——おやすみなさい。


   ◇


先駆者よ、安らかに眠れ。


あなたの夢は——継承者が、必ず実現する。



(外伝 先駆者の悲劇 完)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ