表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
外伝 ヴィルヘルム・フォン・シュタイナー編 改革者の孤独

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/153

第4話 卒業の誓い

22歳の春——私は、医学院を卒業した。


晴れ渡った空。桜が、満開だった。


母が亡くなってから、七年。あの日の誓いを胸に、ここまで歩いてきた。


   ◇


卒業式は、医学院の大講堂で行われた。


古い石造りの建物。高い天井。ステンドグラスから、春の光が差し込んでいる。


教授たちが壇上に並び、卒業生たちが整列している。


「諸君は、今日から医師となる」


学長の挨拶が始まった。


「命を預かる責任を、忘れるな」


「患者のために、全力を尽くせ」


厳かな空気の中、一人一人の名前が呼ばれていく。


そして——


「ヴィルヘルム・フォン・シュタイナー」


私の名前が呼ばれた。


「首席」


周囲から、拍手が起こった。大きな拍手。四年間の努力が、認められた瞬間だった。


私は、壇上に上がり、卒業証書を受け取った。


「おめでとう」


老教授が、微笑んだ。その目には、期待の色が浮かんでいた。


「ありがとうございます」


私は、深く頭を下げた。


——お母様。私は、やりました。


   ◇


「さすがだな、ヴィルヘルム」


式の後、フランツが声をかけてきた。


中庭の桜の下。四年間、何度もここで語り合った場所だ。


「首席卒業か。俺は中の上がやっとだったのに」


「成績は関係ない。大事なのは、患者を救えるかどうかだ」


「相変わらず真面目だな」


フランツが、笑った。


「お前も、よく頑張った」


私は、友人の肩を叩いた。


「これからが、本番だ」


「ああ。俺は地方の診療所に行くことになった」


「そうか。どこだ?」


「南部の村だ。田舎だが、医者が足りなくて困っているらしい」


「お前らしい選択だ」


「そうか?」


「困っている人のところに行く。それが医者だろう」


フランツが、照れくさそうに頭をかいた。


「お前は、王都に残るんだろ?」


「ああ。王都中央病院で働く」


「出世コースだな」


「そういうわけじゃない」


   ◇


フランツが、私を見た。その目が、真剣になった。


「お前、まだ諦めてないんだな」


「何を?」


「医学を変えるってこと。ゼンメルワイスの理論を証明するってこと」


「……」


私は、黙った。


フランツは、私の考えを知っている。四年間、ずっと見てきた。


「気をつけろよ。教会に睨まれたら、終わりだ」


「分かっている」


「真実を語って潰された奴は、ゼンメルワイスだけじゃない」


「分かっている」


「でも、やるんだろ?」


「……ああ」


私は、頷いた。


「やらなければならない。母のためにも、救えなかった患者たちのためにも」


フランツが、ため息をついた。


「本当に、お前は頑固だな」


「悪い癖だ」


「でも——」


フランツが、微笑んだ。


「そこが、お前らしい。応援してる」


「ありがとう、フランツ」


私たちは、固く握手を交わした。


   ◇


卒業式の後、教授室に呼ばれた。


「ヴィルヘルム、来なさい」


指導教授が、私を待っていた。


「はい」


「座りなさい」


私は、椅子に座った。


教授は、窓の外を見つめていた。


「お前は、優秀な学生だった」


「ありがとうございます」


「しかし——」


教授が、振り返った。


「危うさも、感じていた」


   ◇


「危うさ……ですか」


「ああ。お前は、現状に満足していない」


教授の目が、鋭かった。


「今の医学を、変えたいと思っている」


「……」


「図書館で、禁書を読んでいたことも知っている」


私は、息を呑んだ。


「ゼンメルワイスか。あの男は、正しいことを言ったが、時代に受け入れられなかった」


「……」


「同じ轍を、踏むなよ」


   ◇


教授の言葉は、忠告だった。


「私は、お前の才能を惜しんでいる」


「教授……」


「だから、言っておく」


教授が、私を見た。


「今は、動くな。力を蓄えろ」


「力を……」


「臨床経験を積み、人脈を作り、信頼を得ろ」


「そして、機が熟したら——」


教授は、微笑んだ。


「お前の志を、実現しろ」


「……」


「それまでは、耐えろ。静かに、耐えろ」


   ◇


私は、教授の言葉を心に刻んだ。


「ありがとうございます」


「これからが、本番だ」


教授が、立ち上がった。


「医師になることは、始まりに過ぎない」


「患者を救い、後進を育て、医学を発展させる——それが、医師の使命だ」


「はい」


「期待している、ヴィルヘルム」


私は、深く頭を下げた。


   ◇


医学院を出る時、振り返った。


古い石造りの建物。


四年間、学んだ場所。


「いつか、必ずここに戻る」


私は、誓った。


「教授として、この場所を変えるために」


   ◇


父が、王都に来ていた。


医学院の門の前で、私を待っていた。母が亡くなってから、髪は白くなり、顔には皺が刻まれていた。


「卒業おめでとう、ヴィルヘルム」


「ありがとうございます、父上。わざわざ王都まで……」


「息子の晴れ姿を見逃すわけにはいかん」


父が、微笑んだ。


「首席だと聞いた。誇りに思う」


「父上のおかげです。学費を出していただいて……」


「いや、お前の努力だ」


父の目に、涙が浮かんでいた。


「お母様も、きっと喜んでいるだろう」


「……はい」


私も、涙が出そうになった。


「あの子は、いつもお前のことを話していた」


「お母様が?」


「ああ。『ヴィルヘルムは、きっと立派な人になる』って」


「……」


「その通りになった。首席で医師になった」


父が、私の肩を握った。


「お母様のために、頑張ります」


「ああ。立派な医師になれ」


「でも——」


父が、真剣な目をした。


「無理はするな。お前が倒れたら、意味がない」


「はい」


「お母様も、お前の健康を一番願っていた」


その言葉が、胸に染みた。


「分かりました、父上」


私たちは、母の墓参りに行くことにした。この報告は、真っ先に母にしなければならない。


   ◇


その夜、一人で夜空を見上げた。


父と別れた後、王都の宿に戻った。窓を開けると、春の夜風が吹き込んでくる。


「お母様……」


呟いた。


「私は、医師になりました」


「首席で卒業しました」


墓前で報告したことを、もう一度繰り返した。


「これから、たくさんの人を救います」


「お母様のような人を、二度と出さないために」


「そして、いつか——」


私は、拳を握りしめた。


「この国の医学を、変えてみせます」


「目に見えない生き物の存在を、証明してみせます」


「誰もが、救われる世界を作ってみせます」


星が、静かに瞬いていた。


母がいる場所から、見守っているように。


   ◇


翌朝。


私は、医学院を後にした。


四年間通った道。見慣れた石畳。図書館。講義室。すべてが、懐かしかった。


「さようなら」


振り返って、一礼した。


「でも、きっと戻ってきます」


教授として。改革者として。


   ◇


22歳。


私の医師としての人生が、始まった。


希望に満ちていた。


教授の言葉を胸に。フランツとの友情を胸に。父と母の愛を胸に。


しかし、現実は——


厳しいものだと、すぐに知ることになる。


それでも、私は歩み続ける。


母との約束を、果たすために。


ゼンメルワイスの意志を、継ぐために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ