第8話 騎士として
近衛騎士団に入って、数ヶ月が過ぎた。
俺は16歳になり、見習い騎士として日々訓練に励んでいた。
◇
「エーリヒ、動きが良くなってきたな」
先輩騎士が、声をかけてくれた。
「ありがとうございます」
「入団した時は、正直どうなることかと思ったが」
「……すみません」
「いや、褒めているんだ。お前は、努力家だ」
先輩は、微笑んだ。
「このまま続ければ、立派な騎士になれる」
「はい。精進します」
俺は、深く頭を下げた。
◇
訓練の後、リーゼの様子を見に行った。
医学院の近くで待っていると、リーゼが出てきた。
「お兄様!」
リーゼが、駆け寄ってきた。
「今日も迎えに来てくれたの?」
「ああ。訓練が早く終わったからな」
「ありがとう」
リーゼが、嬉しそうに微笑んだ。
俺たちは、並んで歩き始めた。
「医学院はどうだ?」
「うん、楽しいよ。みんな、最初は私のこと子供扱いしてたけど……」
「今は?」
「認めてくれる人が増えてきた」
リーゼの目が、輝いていた。
「エリーゼっていう友達もできたの。すごく優しい人で」
「そうか。良かったな」
「お兄様は? 騎士団はどう?」
「まあ、大変だが……やりがいはある」
「そっか」
リーゼが、微笑んだ。
「お兄様、頑張ってるんだね」
「お前もな」
二人で、笑い合った。
◇
でも、すべてが順調なわけではなかった。
リーゼは、医学院で問題を起こすこともあった。
「12歳の子供が、教授に意見するなんて……」
「生意気だ」
「あの子は、何様のつもりなんだ」
そんな噂が、俺の耳にも入ってきた。
ある日、俺はリーゼに聞いた。
「医学院で、何かあったのか?」
「……少しね」
リーゼは、困ったような顔をした。
「授業で、先生の言ってることが間違ってたから、指摘したの」
「それで?」
「先生、怒っちゃって……」
俺は、溜息をついた。
「お前らしいな」
「ごめんね。でも、間違いを放っておけなかったの」
「分かってる」
俺は、リーゼの頭を撫でた。
「お前は、正しいことをした。でも、言い方には気をつけろ」
「うん……」
「敵を作りすぎると、動きにくくなる。味方を増やす方法も、考えろ」
リーゼが、俺を見上げた。
「お兄様、大人になったね」
「……そうか?」
「うん。すごく頼りになる」
リーゼが、微笑んだ。
俺は、少し照れくさくなった。
◇
ある夜、リーゼの部屋で話をしていた。
「お兄様。私、怖いことがあるの」
「怖いこと?」
「私の知識が、この世界の常識とぶつかること」
リーゼの目が、少し曇った。
「教会の人たちは、私のやり方を『異端』って言うかもしれない」
「……」
「もし、そうなったら……」
俺は、リーゼの手を握った。
「俺が守る」
「お兄様……」
「教会が何を言おうと、俺はお前の味方だ」
俺の声は、力強かった。
「お前は、人を救っている。それは、絶対に間違っていない」
「……」
「だから、怖がるな。俺がいる」
リーゼの目に、涙が浮かんだ。
「ありがとう、お兄様」
「泣くな」
「泣いてない」
リーゼが、涙を拭いて笑った。
俺も、微笑んだ。
◇
数週間後。
俺は、ある任務を言い渡された。
「エーリヒ。お前に、特別任務を与える」
副団長が、俺を呼んだ。
「特別任務……ですか?」
「医学院のリーゼ・フォン・ハイムダルの護衛だ」
俺は、目を見開いた。
「リーゼの……護衛?」
「ああ。最近、医学院の周辺で不審な動きがあるとの報告がある」
「不審な動き……」
「詳細は分からん。だが、リーゼ嬢は重要人物だ。彼女の医術は、王国の宝になる可能性がある」
副団長が、俺を見た。
「お前は、彼女の兄だろう? 適任だと判断した」
「はい……! ありがとうございます!」
俺は、深く頭を下げた。
公式に、リーゼを守る任務を与えられた。
これ以上、嬉しいことはなかった。
◇
その日から、俺は正式にリーゼの護衛になった。
「お兄様が、私の護衛?」
リーゼが、驚いた顔をした。
「ああ。近衛騎士団からの任務だ」
「すごい……」
「だから、これからは堂々と傍にいられる」
俺は、胸を張った。
「安心しろ。絶対に守る」
リーゼが、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、お兄様」
「礼はいらない。これが、俺の仕事だからな」
俺たちは、並んで歩き出した。
王都の街並みが、夕日に染まっている。
「お兄様」
「何だ?」
「私、王都に来て良かった」
「……俺もだ」
「お兄様がいてくれるから、頑張れる」
「俺もだ。お前がいるから、強くなれる」
リーゼが、俺の手を握った。
小さくて、温かい手。でも、その手は何千人もの命を救う力を持っている。
俺は、その手を守る。
騎士として。兄として。
◇
15歳の俺は、近衛騎士団の見習い騎士。
12歳の妹は、王立医学院の学生。
まだまだ、未熟だ。まだまだ、成長の途中だ。
でも、俺たちは一緒に歩いている。
リーゼが人を救う道を、俺はその傍で守り続ける。
いつか、リーゼが王国一の医師になる日まで。
いつか、俺が王国一の騎士になる日まで。
二人で、歩いていく。
◇
俺は、剣を握りしめた。
この剣は、リーゼを守るためにある。
12歳の時、俺は誓った。妹を守る騎士になると。
あれから3年。俺は、その誓いを果たしつつある。
まだ道半ばだ。まだまだ先は長い。
でも、俺は諦めない。止まらない。
リーゼが笑っていられるように。リーゼが安心して人を救えるように。
俺は、剣を振り続ける。
騎士の誓い。
それは、一生続く。
(外伝 騎士の誓い 完)




