表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
外伝 エーリヒ編 騎士の誓い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/139

第4話 疫病との戦い

運命の日は、突然やってきた。


俺は15歳。リーゼは12歳になっていた。


   ◇


「隣町で、疫病が発生した」


その報せは、市場から伝わってきた。


「高熱と激しい下痢。もう何人も死んでいるらしい」


俺は、血の気が引いた。


疫病——それは、この世界で最も恐れられる災厄の一つだった。


「リーゼ……」


俺は、すぐに妹のところに行った。


リーゼは、すでに準備を始めていた。


「お兄様。私、行くわ」


「何を言っている! 疫病だぞ!」


「だからこそ、行かなきゃ」


リーゼの目は、真剣だった。


「私には、疫病と戦う知識がある。放っておけない」


「でも、危険すぎる!」


「分かってる。でも——」


リーゼが、俺を見た。


「助けを求めている人がいるの。見捨てられない」


俺は、言葉を失った。


   ◇


リーゼは、父上に直談判した。


「お父様。隣町に行かせてください」


「駄目だ。疫病の場所に、お前を行かせるわけにはいかない」


「でも、私には知識があります。人を救える知識が」


「危険すぎる。感染したらどうする」


父上の声は厳しかった。でも、その目には深い愛情があった。


俺は、二人のやり取りを見ていた。


父上の気持ちは分かる。俺だって、リーゼを危険な場所に行かせたくない。


でも——


「俺も、行きます」


俺は、口を開いた。


「エーリヒ?」


「リーゼが行くなら、俺も行きます。妹を守るのが、俺の役目ですから」


父上が、俺を見た。


「お前も行くと?」


「はい。リーゼを一人にはしません」


「……」


父上は、しばらく黙っていた。そして——


「分かった。だが、条件がある」


「条件?」


「エーリヒが同行すること。そして、絶対に無理をしないこと」


「はい!」


リーゼが、嬉しそうに頷いた。


俺も、深く頷いた。


   ◇


翌日、俺たちは隣町に向かった。


馬車に乗っているのは、リーゼ、マルタさん、そして俺。


「お兄様、ありがとう」


リーゼが、小さく言った。


「当たり前だ。お前を一人で行かせるわけがない」


「……うん」


リーゼは、窓の外を見ていた。その横顔は、緊張していた。


「怖いか?」


「……少し」


「正直だな」


俺は、リーゼの肩を叩いた。


「大丈夫だ。俺がいる」


「うん……ありがとう」


リーゼが、少しだけ微笑んだ。


   ◇


隣町に着いた時、俺は言葉を失った。


地獄だった。


通りには病人があふれている。呻き声。泣き声。そして——死臭。


「ひどい……」


俺は、思わず口を押さえた。


でも、リーゼは違った。怯むことなく、馬車を降りた。


「マルタさん、まず患者の隔離から始めましょう」


「隔離……?」


「健康な人と病人を分けるの。感染を広げないために」


リーゼの声は、落ち着いていた。まるで、何度もこういう場面を経験してきたかのように。


「お兄様」


リーゼが、俺を見た。


「お願いがあるの」


「何だ?」


「水源を確保してほしい」


「水源?」


「きれいな水が必要なの。井戸の水は汚染されているかもしれない。川の上流から、清潔な水を運んできてほしい」


俺は、頷いた。


「分かった。任せろ」


「ありがとう」


リーゼが、微笑んだ。


「お兄様がいてくれて、本当に心強い」


   ◇


俺は、町の若者たちを集めて、水源確保に向かった。


「川の上流から、水を運ぶぞ!」


「はい!」


樽を積んだ荷車を引いて、川の上流へ。


何度も、何度も往復した。


「リーゼお嬢様の指示なんですか?」


若者の一人が聞いた。


「ああ。きれいな水が必要だそうだ」


「12歳のお嬢様が、そんなことを……」


「信じられないだろうが、本当だ」


俺は、胸を張って言った。


「俺の妹は、天才だ」


   ◇


3日間、水を運び続けた。


腕は痛み、足は棒のようになった。でも、止まるわけにはいかない。


リーゼは、休む間もなく患者を診ていた。


「この人は、脱水が進んでいるわ。塩水を飲ませて」


「こっちの人は、熱が下がってきた。峠は越えたわね」


的確な指示。冷静な判断。12歳とは思えない、見事な医療。


俺は、水を運びながら、時々診療所を覗いた。


リーゼは、疲れているはずだった。でも、弱音を吐かなかった。


「お兄様、大丈夫?」


逆に、俺のことを心配してくれた。


「俺は平気だ。お前こそ、少しは休め」


「うん……でも、まだやることがあるの」


リーゼが、微笑んだ。


その笑顔を見て、俺は思った。


この子を、守らなければ。どんなことがあっても。


   ◇


1週間が過ぎた。


疫病は、終息に向かい始めていた。


「新規患者が減っている」


リーゼが、記録を見ながら言った。


「隔離と衛生管理が効いたみたい」


「良かった……」


俺は、心から安堵した。


「お兄様のおかげよ」


「俺?」


「水源確保、本当に助かった。きれいな水がなかったら、もっと多くの人が亡くなってたわ」


リーゼが、俺を見た。


「ありがとう」


「……当然のことをしただけだ」


俺は、照れくさくなって目をそらした。


でも、心の中では嬉しかった。


俺も、役に立てた。リーゼの力になれた。


騎士として、兄として。


   ◇


3週間後、疫病は完全に終息した。


死者は30人を超えた。でも、リーゼがいなければ、もっと多くの命が失われていただろう。


「本当に、ありがとうございました」


町長が、深く頭を下げた。


「リーゼお嬢様。そして、エーリヒ様。お二人のおかげで、この町は救われました」


俺は、隣に立つリーゼを見た。


12歳の少女。でも、その目には、何百人もの命を背負った者の重さがあった。


「いえ」


リーゼが、静かに答えた。


「救えなかった命もあります。それが、悔しいです」


「そんなことは……」


「でも、これからも頑張ります。一人でも多く、救えるように」


リーゼの目が、真っ直ぐに前を見ていた。


俺は、その姿を見て思った。


この子は、本物だ。


本物の医者であり、本物の救い手だ。


そして、俺はこの子を守る騎士だ。


   ◇


帰りの馬車の中。


リーゼは、疲れ果てて眠っていた。


俺は、妹の寝顔を見ながら、心の中で誓った。


守る。この子を、絶対に守る。


リーゼが安心して人を救えるように。リーゼの夢が叶うように。


俺は、強くなる。もっと、もっと強く。


15歳の俺は、その誓いを胸に刻んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ