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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第103話 受け継がれる意志(最終話)

 カールが生まれてから、私の日々は大きく変わった。

 朝はカールの授乳から始まる。小さな口で一生懸命にミルクを飲む姿を見ていると胸が温かくなる。

「今日も元気だね、カール」と私は優しく声をかけた。

 授乳が終わると医学校からの報告書に目を通す。産後三ヶ月が経ち、私は少しずつ医師としての業務に復帰していた。もちろん以前のように前線に立つことはできないが、後方からの指揮や研究の指導——そういった形で医学の発展に貢献することはできる。

「リーゼ様、今月の医学校の報告書です」とエリーゼが書類を持ってきてくれた。

「ありがとう……カールは大人しくしているかしら?」

「ええ、アンナさんが見ていてくださっています」

「そう……少しの間だけお願いね」と私は書類に目を通し始めた。

 学生たちの成績、研究の進捗状況、新しい治療法の提案——すべてが順調に進んでいる。

「素晴らしいわ。みんなよく頑張っているのね」

「リーゼ様のご指導のおかげです」

「いいえ、あなたたちの努力よ」と私は微笑んで答えた。





 育児と医師業務の両立は想像以上に困難だった。夜泣きで眠れない日もあれば、カールの体調が悪く仕事を休まざるを得ない日もあった。だがアレクサンダーやエリーゼ、そして侍女のアンナ——多くの人々の支えがあったからこそ、私は両方を諦めずに続けることができた。

「リーゼ、無理はするなよ」とアレクサンダーはいつも私を気遣ってくれた。

「大丈夫。少しずつペースを掴んできたわ」

「それならいいが……カールもお前を必要としている」

「わかっているわ。だからバランスを大切にするの」と私はそう答えた。

 母親として、王妃として、そして医師として——すべての役割を大切にしていきたい。



***



 それから五年の月日が流れた。


 カールは五歳になった。好奇心旺盛な元気な男の子に育っている。

「お母様、これは何?」とカールが私の医学書を指差した。

「それは人の身体について書かれた本よ」

「すごい! 僕も読みたい!」

「もう少し大きくなったら教えてあげるわ」と私は微笑んで答えた。

 カールは医学に興味を示している。もしかしたら将来は医師になるかもしれない。だが——それは彼自身が選ぶ道だ。私は強制するつもりはない。



***



 医学校は今や王国最大の医療教育機関となっていた。毎年百人以上の学生が入学し、その中から優秀な医師たちが巣立っていく。

「リーゼ様、今年の卒業生の中に特に優秀な者が三名います」とエリーゼが嬉しそうに報告してくれた。


「それは素晴らしいわ。三人とも、どこで働くことになるの?」


「一人は王都の病院、一人は地方都市の診療所、そして一人は——辺境領の村です」


「辺境領……」


私は、故郷を思い出した。


「その人は、自ら希望したの?」


「はい。『医療が届いていない場所にこそ、医師が必要だ』と」


「……素晴らしい志ね」


私の目に、涙が浮かんだ。


医学校を作った目的——

それは、まさにこのためだった。


すべての人々に、平等な医療を届けるために。





***





ある日——


アルブレヒトが、私の元を訪れた。


「リーゼ先生、お話があります」


「何かしら?」


「私……結婚することになりました」


「本当! おめでとう、アルブレヒト!」


私は、心から喜んだ。


「お相手は、医学校の教師をしているハンナです」


「ハンナさん……ああ、薬学の先生ね。素敵な方じゃない」


「はい……彼女と出会えたのも、リーゼ先生のおかげです」


「私は、何もしていないわよ」


「いえ、リーゼ先生が医学校を作ってくださったからこそ——僕たちは出会えたんです」


アルブレヒトは、照れくさそうに笑った。


かつて、冷徹な外科医だった彼が——

今では、こんなに穏やかな表情を見せるようになった。


人は、変われるのだ。





***





そして——


医療制度も、大きく変わっていった。


王国全土に、診療所が設置され——

貧しい人々も、無償で治療を受けられるようになった。


「リーゼの提案した『国民医療制度』が、ついに実現したな」


アレクサンダーが、満足そうに言った。


「ええ……でも、まだ完璧ではないわ」


「何が足りないんだ?」


「医師の数よ。まだ、地方には医師が足りていない」


「だからこそ、医学校を拡張する必要があるんだ」


「拡張……?」


「ああ。王都だけでなく、地方都市にも医学校の分校を作る計画だ」


アレクサンダーは、地図を広げた。


「ここと、ここと、ここに——合計五つの分校を作る」


「それは……素晴らしいわ!」


私は、目を輝かせた。


「お前の夢が、少しずつ実現しているんだ、リーゼ」


「……ありがとう、アレクサンダー」


私は、彼の手を握った。


彼の支えがなければ——

ここまで来ることはできなかった。





***





ある夏の日——


私は、故郷の辺境領を訪れた。


五年ぶりの故郷は——

大きく変わっていた。


「リーゼお嬢様! お帰りなさいませ!」


村人たちが、温かく迎えてくれた。


「ただいま」


私は、涙を流しながら、そう言った。


村には、新しい診療所ができていた。

そこで働いているのは——医学校の卒業生だった。


「リーゼ先生! お会いできて光栄です!」


若い医師が、目を輝かせて挨拶してくれた。


「あなたが、ここで働いてくれているのね」


「はい! 私も、辺境の村の出身なんです」


「だから、同じような環境の人々を助けたいと思って——」


「……ありがとう」


私は、深く頭を下げた。


私の夢が——

こうして、若い世代に受け継がれている。


それが、何よりも嬉しかった。





***





その夜——


私は、実家で両親と話をした。


「リーゼ、立派になったな」


父ヨハンが、嬉しそうに言った。


「父様、母様のおかげです」


「いや、お前自身の努力の賜物だ」


「でも……まだ、やることはたくさんあります」


「そうか……お前は、本当に医師が好きなんだな」


「はい。医師であることが——私の生きがいです」


母アンネも、優しく微笑んでくれた。


「あなたは、私たちの誇りよ、リーゼ」





***





翌日——


私は、マルタの墓を訪れた。


マルタは、二年前に亡くなっていた。

老衰だった。


「マルタ……」


私は、墓前に花を供えた。


「あなたが教えてくれたこと——私は、忘れていません」


「『人を助けることの喜び』を、あなたから学びました」


「だから、私は医師になったんです」


「そして、これからも——医師であり続けます」


風が、優しく吹いていた。


まるで、マルタが答えてくれているかのように。





***





王都に戻ると——


新たな知らせが待っていた。


「リーゼ様、『王立医学協会』の設立が承認されました!」


エリーゼが、興奮気味に報告してくれた。


「本当!」


「はい! これで、医学研究の推進と、医師たちの地位向上が——正式に認められます!」


王立医学協会——


それは、私が長年提案してきた組織だった。


医学研究を推進し、医師たちの教育と地位向上を図る——

そのための、公式な機関。


「初代会長には、リーゼ様が就任される予定です」


「……私が?」


「もちろんです! リーゼ様以外に、誰がふさわしいでしょうか!」


アルブレヒトも、力強く頷いた。





***





数ヶ月後——


王立医学協会の設立式典が、盛大に執り行われた。


「本日、ここに『王立医学協会』の設立を宣言する!」


国王陛下の声が、会場に響き渡った。


多くの医師たち、学者たち、そして貴族たちが——

この歴史的な瞬間を見守っている。


「初代会長として——リーゼ・フォン・アーレンスベルク王妃を任命する!」


拍手が、会場を包んだ。


私は、壇上に立ち——

集まったすべての人々に、語りかけた。


「皆様——」


「私は、かつて小さな村の少女でした」


「医学の知識もなく、ただ人を助けたいという思いだけで——この道を歩み始めました」


「だが、多くの方々の支えがあったからこそ——今の私があります」


「そして、今日——王立医学協会が設立されました」


「これは、私一人の功績ではありません」


「医学の発展に尽力してくださった、すべての方々の——共同の成果です」


私は、会場を見渡した。


エリーゼ、アルブレヒト——そして、多くの医師たち。


皆、真剣な眼差しで、私を見つめている。


「これからも——私たちは、医学の発展のために努力し続けます」


「すべての人々に、平等な医療を届けるために——」


「そして、未来の医師たちに——この志を受け継いでいくために——」


「皆様、どうか——私と共に、この道を歩んでください!」


会場が、大きな拍手に包まれた。





***





その夜——


私は、アレクサンダーと二人で、王宮のバルコニーに立っていた。


星空が、美しく輝いている。


「リーゼ、お前の夢が——少しずつ、形になっているな」


「ええ……でも、まだ終わりではないわ」


「終わりのない道か……」


「そうよ。医学は、常に進歩し続けるもの」


「だから、私たちも——止まることはできないの」


アレクサンダーは、優しく微笑んだ。


「お前らしいな」


「……あなたは、こんな私でもいいの?」


「もちろんだ。お前が医師であることも、王妃であることも——そして、母親であることも——すべて含めて、俺はお前を愛している」


「……ありがとう」


私は、彼の胸に顔を埋めた。


「これからも——よろしくね、アレクサンダー」


「ああ、こちらこそ」





***





数年後——



カールは、十歳になっていた。


「お母様、僕——医師になりたい!」


ある日、カールがそう言った。


「本当に?」


「うん! お母様みたいに、人を助けたいんだ!」


「でも、医師になるのは、とても大変よ?」


「わかってる! でも、僕——頑張るよ!」


カールの目は、真剣だった。


「……わかったわ。なら、お母様が特別に教えてあげる」


「本当! ありがとう、お母様!」


カールは、嬉しそうに飛び跳ねた。





それから——


私は、カールに医学の基礎を教え始めた。


解剖学、生理学、薬学——


カールは、熱心に学んでいく。


「お母様、人の身体って、すごく複雑なんだね!」


「そうよ。だからこそ、医師は常に学び続けなければならないの」


「僕も、お母様みたいに——たくさん勉強する!」


カールの成長を見守りながら——


私は、未来への希望を感じていた。


次の世代が——

この志を、受け継いでくれる。


それが、何よりも嬉しかった。





***





ある日——


私は、医学校の図書館で——

一冊の古い本を見つけた。


それは、私が最初に書いた『基礎医学概論』だった。


ページをめくると——

若き日の私の文字が、そこにあった。


稚拙で、不完全な内容。


だが——

そこには、確かに情熱があった。


「リーゼ先生、それは……」


エリーゼが、本を見て驚いた。


「懐かしいでしょう? これが、すべての始まりだったのよ」


「今では、この本も古典として——教材に使われていますよ」


「そう……時が経つのは、早いわね」


私は、本を閉じた。


あれから、どれだけの時間が経ったのだろうか。


だが——

私の志は、変わっていない。


すべての人々に、平等な医療を——


その夢は、今も私の心に、強く燃えている。





***





その夜——


私は、日記に書いた。



『私の人生は、決して平坦ではなかった。


多くの困難があり、多くの試練があった。


だが、私は諦めなかった。


医師として——

王妃として——

そして、母親として——


私は、自分の道を歩み続けた。


これからも——

この志を、胸に抱いて——


私は、前に進み続けるだろう。


そして、いつか——

この志が、すべての人々に届く日を信じて——


私は、今日も戦い続ける。


医師リーゼ・フォン・ハイムダル——

いや——

リーゼ・フォン・アーレンスベルク王妃として——


私の物語は、これからも続いていく——』





私は、ペンを置いた。


窓の外では、夜明けの光が差し始めている。


新しい一日が、始まろうとしていた。





***





【エピローグ】



それから、さらに時が流れ——



リーゼ・フォン・アーレンスベルク王妃は——

七十歳まで、医師として働き続けた。


彼女が設立した医学校は——

王国全土に広がり、数千人の医師を輩出した。


彼女が提案した国民医療制度は——

周辺諸国にも広がり、多くの人々の命を救った。


彼女の息子カールは——

優秀な医師となり、母の志を受け継いだ。


そして——


彼女の名前は——

「近代医学の母」として——

歴史に刻まれることとなった。





だが、彼女自身は——

決して、そのような称号を望んではいなかった。


彼女が望んだのは——

ただ一つ。


「すべての人々に、平等な医療を」


その夢が、実現すること——


それだけだった。





そして、その夢は——

今も、多くの医師たちの心に——

受け継がれている。





***





ある老医師が、若い医学生に語った。


「リーゼ・フォン・アーレンスベルク王妃——彼女を知っているか?」


「はい! 医学校の創設者ですよね!」


「そうだ。だが、彼女の本当の偉大さは——それだけではない」


「彼女は、身分や貧富に関係なく——すべての人々を、平等に診た」


「王族も、貧民も——彼女にとっては、同じ『患者』だった」


「それが、彼女の信念だった」


若い医学生は、真剣な表情で頷いた。


「私も——そんな医師になりたいです」


「ならば、彼女の言葉を覚えておけ」


老医師は、静かに言った。


「『医師とは——ただ病を治すだけではない。患者の心に寄り添い、希望を与えるのが——真の医師である』」


「これが、リーゼ王妃の遺した言葉だ」


若い医学生は——

その言葉を、胸に刻んだ。





そして——


リーゼの志は——

これからも、永遠に——

受け継がれていくのだった。





***





【完】





――異世界幼女医師物語――



小さな村の少女が——

運命に導かれ、医師となり——

やがて王妃となり——


そして、一つの国の医療を変えた。


それは、決して一人の力ではなく——

多くの人々の支えと、協力があったからこそ——

成し遂げられたこと。


だが、その中心には——

常に、彼女の揺るぎない志があった。


「すべての人々に、平等な医療を」


その志は——

今も、未来へと——

受け継がれている。





――物語は終わり、そして新たな物語が始まる――





【転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~完結】

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うわぁああ終わってしまった(;O;) 毎日楽しみにしていた物語楽しく拝読させていただきました。 作者様にとっては外伝などにつながる区切りや 本作品のブラッシュアップ作業等なるかと思いますが、 本物語が…
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