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転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~  作者: NN
転生したら十歳の幼女医師でした~前世の医学知識で異世界医療を改革します~

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第99話 誓いの日と新たな出発




 結婚式の朝——


 私は王宮の控室で、白いドレスに身を包んでいた。


 鏡の中には、見慣れない自分がいる。純白のシルクドレス、繊細なレースの刺繍、頭には小さな王冠。


 十八歳の花嫁。いや——リーゼ・フォン・ハイムダル、王立医学院首席研究員にして、今日から王家の一員となる者。


「リーゼ様、お美しいです」と侍女たちが感嘆の声を上げた。


「ありがとう」と私は微笑んだ。


 だが、心の中には不安がある。本当に、私は王妃としての務めを果たせるのだろうか。医師として、研究者としての道を歩んできた。でも、王家の一員として——国を支える立場として——何ができるのだろう。





 扉が開き、父が入ってきた。ヨハン・フォン・ハイムダル辺境伯——私の父。


「リーゼ」「お父様」「……美しいな」と父が目を潤ませた。「あの小さかった娘が、こんなに立派になって」「お父様、泣かないでください」「すまない。でも、嬉しくてな」


 父が私の手を取った。


「リーゼ、お前は本当によく頑張った」「十歳で医学の道を志し、八年間——」「改良株ストレプトマイシン、ペニシリン、ワクチン……」「数え切れないほどの命を救ってきた」「お父様……」「そして今日、王家に嫁ぐ」


 父が優しく微笑んだ。


「私は、誇らしい」


 その言葉に、涙が溢れそうになった。


「ありがとうございます」「さあ、行こう」と父が腕を差し出した。「アレクサンダー王子が、待っている」





 王宮大聖堂——そこには、三百人を超える貴族、市民代表、各国の使節が集まっていた。王国最大の祝典。


 扉が開くと、聖歌隊の歌声が響き渡った。


 私は父の腕を取り、長いバージンロードを歩き始めた。


 左右には、見守る人々。医学院の仲間たち——エリーゼ、ルーカス先輩、ヴィルヘルム先生。研究チーム——エルヴィン、マルティン、他の研究員たち。工場の労働者たち。治療した患者さんたち。みんなが、温かい眼差しで見守ってくれている。


 そして、祭壇の前には——アレクサンダー王子殿下が立っていた。白い礼服に身を包み、剣を佩いた凛々しい姿。私を見て、優しく微笑んでくれた。





 祭壇の前に立つ。


 大司教ハインリヒ・フォン・アルトブルク猊下が、厳かに宣言した。


「本日、ここに——」「アレクサンダー・フォン・エルンスト王子と」「リーゼ・フォン・ハイムダル辺境伯令嬢の」「神聖なる婚姻の儀を執り行う」


 会場が静まり返る。


「アレクサンダー王子」と大司教が王子に問う。「あなたは、リーゼ・フォン・ハイムダルを妻として迎え」「健やかなるときも、病めるときも」「喜びのときも、悲しみのときも」「富めるときも、貧しきときも」「これを愛し、敬い、慰め、助け」「その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」「誓います」と王子が力強く答えた。


 そして、大司教が私に問う。


「リーゼ・フォン・ハイムダル」「あなたは、アレクサンダー王子を夫として迎え」「健やかなるときも、病めるときも」「喜びのときも、悲しみのときも」「富めるときも、貧しきときも」「これを愛し、敬い、慰め、助け」「その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」


 私は——一瞬、ためらった。この誓いの重さ。王家の一員となる責任。


 でも——アレクサンダー王子殿下の目を見た。そこには、信頼と愛情が満ちていた。私を、ありのままに受け入れてくれた人。転生者であることも、医学に情熱を注ぐことも、すべてを認めてくれた人。


「誓います」と私は、はっきりと答えた。





「それでは、指輪の交換を」


 王子が、私の左手薬指に指輪をはめてくれた。白金の指輪——内側には、小さな文字が刻まれている。『Forever together』私も、王子の指に指輪をはめた。


「神の祝福のもとに、二人は夫婦となった」と大司教が宣言した。「アレクサンダー王子、花嫁に口づけを」


 王子が優しく私を抱き寄せた。そして——唇が触れ合った。温かくて、優しいキス。


 会場が、大きな拍手に包まれた。





 その時——


 突然、聖堂の扉が勢いよく開いた。


「待ってください!」


 会場が、どよめいた。


 扉の向こうから、一人の少年が駆け込んできた。


 十歳くらい——息を切らして、必死の形相。


「リーゼ先生! 助けてください!」


 私は驚いた。


 この少年は——


「トーマス?」


 改良株ストレプトマイシンの臨床試験で、私が治療した結核患者の一人だ。


 三年前、死の淵から救った少年。


「トーマス、どうしたの?」


「妹が……妹が高熱で倒れたんです!」


 少年が泣きながら訴えた。


「医者に診せたけど、原因がわからないって……」


「お願いです! 先生にしか、救えません!」


 会場が、ざわめいた。


 結婚式の最中に、患者の救援要請。


 前代未聞の事態。


 大司教が困惑した表情で私を見る。


 国王陛下も、厳しい顔をしている。


 貴族たちの間から、囁き声が聞こえる。


「王家の婚礼を中断するなど……」


「非常識だ」


 でも——


 私は、トーマスの目を見た。


 そこには、必死の懇願があった。


 妹を救いたい。


 その一心で、ここまで来たのだろう。





「殿下」


 私はアレクサンダー王子を見た。


「行ってもいいですか」


 王子は——微笑んだ。


「当然だろう」


「え……」


「君は医師だ」


 王子が優しく言った。


「目の前に苦しむ人がいて、助けを求められて」


「それを無視できるはずがない」


「でも、結婚式が……」


「式は、後で続きをすればいい」


 王子が私の手を取った。


「命は、待ってくれない」


 その言葉に、胸が熱くなった。


「ありがとうございます」「ただし」と王子が剣を抜いた。「僕も一緒に行く」「殿下?」「君一人で行かせるわけにはいかない」と王子が凛とした顔で言った。「僕は、君の夫になった」「君を守るのは、僕の務めだ」


 会場が、再びどよめいた。


 国王陛下が立ち上がった。


「アレクサンダー、リーゼ」「はい」「行け」と陛下が力強く言った。「お前たちは、王家の誇りだ」「困っている者を見捨てるような王家であってはならない」「はい!」


 私とアレクサンダー王子殿下は、聖堂を駆け出した。


 純白のドレスと礼服のまま——





 トーマスの家は、王都の下町にあった。小さな家——石造りの壁、狭い部屋。


 ベッドには、七歳くらいの少女が横たわっていた。


「妹のエマです……」とトーマスが泣きながら紹介した。


 私はすぐに診察を始めた。額に手を当てる——高熱。四十度近い。脈拍——速い。百二十。呼吸——浅く、速い。瞳孔——正常。首のリンパ節——腫れている。発疹——なし。喉——赤く腫れている。


「いつから熱が出たの?」


「三日前です」とトーマスの母親が答えた。「最初は軽い咳だけだったんですが……」「昨日から急に高熱になって……」


 私は喉を詳しく観察した。扁桃腺が大きく腫れている。表面には、白い膜のようなものが付着している。この症状は——


「殿下、灯りを近づけてください」


 アレクサンダー王子が、ろうそくを持ってきてくれた。白い礼服のまま、医療の補助をしている姿が、頼もしい。


 私は喉の奥をさらに観察した。白い偽膜——扁桃から咽頭にかけて広がっている。この特徴的な所見。高熱、喉の痛み、リンパ節の腫れ、そして白い偽膜。


「……ジフテリアだわ」「ジフテリア?」と王子が尋ねた。「細菌感染症の一つです」と私は説明した。「喉に偽膜ができて、呼吸困難になります」「放置すれば、窒息死する可能性があります」「治療法は?」「抗毒素血清が必要です」


 私は考えた。でも、この世界にはまだジフテリア抗毒素血清がない。開発していないのだ。では——


「気道確保と対症療法しかありません」「今すぐ、偽膜を除去する必要があります」





「トーマス、お湯を沸かして」「はい!」「殿下、私の医療鞄を馬車から持ってきてください」「わかった」


 王子が駆け出した。


 私は、エマの喉の偽膜を慎重に除去し始めた。羊腸を加工した細い管で、吸引する。白い膜が、少しずつ取れていく。でも、すぐにまた形成される。ジフテリア菌が毒素を出し続けているからだ。


「エマ、頑張って」と私は少女に語りかけた。「すぐに楽にしてあげるから」


 アレクサンダー王子が、医療鞄を持って戻ってきた。中には、ペニシリンの粉末がある。ジフテリアには、抗生物質が有効だ。


 私はペニシリンを生理食塩水に溶かし、注射器で吸い上げた。そして、エマの腕に注射した。


「これで、細菌の増殖は止まります」「あとは、体力との勝負です」





 私は一晩中、エマの看病を続けた。純白のウェディングドレスのまま——


 アレクサンダー王子も、礼服のまま、ずっと傍にいてくれた。水を運び、冷たい布で額を冷やし、私を支えてくれた。


「殿下、お疲れでしょう。休んでください」「君が起きているのに、僕だけ休めるか」と王子が微笑んだ。「僕たちは、夫婦になったんだ」「一緒に戦おう」


 その言葉が、どれほど心強かったか。


 夜明け——


 エマの熱が、下がり始めた。


 呼吸も、楽になってきた。


 偽膜の形成も、止まっている。


「……よかった」


 私は、安堵の息を吐いた。


「助かったわ」


 トーマスと母親が、泣き崩れた。


「ありがとうございます……ありがとうございます……」


「いいえ」


 私は微笑んだ。


「私は医師ですから」





 王宮に戻ると、朝日が昇っていた。


 私たちは、ウェディングドレスと礼服が汚れ、髪も乱れていた。


 でも——


 大聖堂には、まだ多くの人々が待っていた。


 医学院の仲間たち、研究チーム、市民代表。


 誰も帰らずに、待っていてくれたのだ。


「リーゼ!」


 エリーゼが駆け寄ってきた。


「患者さんは?」


「助かったわ」


「よかった……!」


 大司教が、優しく微笑んだ。


「では、続きをしましょうか」


「え……?」


「婚礼の儀は、まだ完了していません」


 大司教が私たちを祭壇に導いた。


「王家の婚礼は、国民の幸福を願うもの」


「そして、二人は今夜、その願いを体現しました」


「命を救うために、婚礼を中断した」


「これほど素晴らしいことがあるでしょうか」


 会場が、温かい拍手に包まれた。





「それでは——」


 大司教が宣言した。


「神の祝福のもとに」


「アレクサンダー王子とリーゼ妃殿下の婚姻を」


「ここに正式に成立させます」


 私は——リーゼ妃殿下となった。


 十八歳。


 医師として、研究者として、そして今、王妃として。


「殿下」


「リーゼ」


 アレクサンダー王子——いや、夫が私を抱きしめた。


「これからも、一緒に」


「はい」


 私は微笑んだ。


「人々を救い続けましょう」





 披露宴——


 大広間には、豪華な料理が並んでいた。


 貴族たち、市民代表、各国の使節が祝福の言葉を述べる。


 そして、国王陛下が立ち上がった。


「皆、聞いてくれ」


 会場が静まる。


「本日、アレクサンダーとリーゼが婚姻した」


「これは、王家にとって大きな喜びだ」


「そして——」


 国王が私を見た。


「リーゼ妃殿下には、新たな役割を授ける」「王立医学院の総裁に任命する」


 会場が、どよめいた。


「総裁……?」「そうだ」と国王が頷いた。「お前は、この国の医療を革新してきた」「改良株ストレプトマイシン、ペニシリン、ワクチン」「そして今夜、ジフテリアの患者を救った」「お前には、この国の医療を統括する資格がある」「王立医学院総裁として、医師の育成と医療の発展を導いてほしい」


 私は——感動で言葉が出なかった。


「陛下……光栄です」「頼んだぞ、リーゼ」





 披露宴が終わり、私たちは王宮の新居に案内された。広い部屋——研究用の書斎も用意されていた。


「殿下、この部屋は……」「君の研究室だよ」とアレクサンダーが微笑んだ。「君は医師であり、研究者だ」「それを辞める必要はない」「でも、王妃として……」「王妃だからこそ、医療を発展させるべきだ」と夫が優しく言った。「君は、これからも人々を救い続ける」「僕は、それを支える」


 涙が溢れた。


「ありがとうございます」「泣くな」と夫が私を抱きしめた。「これから、二人で新しい未来を作ろう」





 その夜——私は書斎で、新しいプロジェクトの計画を立てていた。


 ジフテリア抗毒素血清の開発。今日のような患者を、一人でも多く救うために。


 窓の外には、満月が輝いている。


 十八歳の私。十歳で転生してから、八年が経った。医師として、研究者として、そして王妃として——新たな人生が始まる。


 前世で救えなかった命への償い。この世界で、一人でも多くの人を救うために。


 私は、ペンを走らせた。『ジフテリア抗毒素血清開発計画』


 まだまだ、やるべきことはたくさんある。でも、もう一人じゃない。夫がいる。仲間がいる。そして、この国の人々がいる。


「リーゼ、まだ起きてるのか」と夫が部屋に入ってきた。「はい。新しい研究計画を……」「それは明日でいいだろう」と夫が優しく笑った。「今日は、僕たちの結婚式だ」「もう少し、二人の時間を楽しもう」


 私は微笑んで、ペンを置いた。


「そうですね」


 夫の手を取る。温かい手。これから、ずっと一緒に歩いていく人。


「アレクサンダー」「リーゼ」


 二人は——未来へと歩き出した。


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